これが私の春休み
「......寒い、寒すぎる」
発熱してから、もう何日がたったのだろう。
少なくとも、1週間は経った。
だって、処方された薬はもう飲み切ってしまったから。
今日の体温は――38度5分。あれから、まだ1日も平熱に戻ったことはない。
さすがにやばいと思って、俺はもう一度病院に行った。
「あ~ まぁ、少し長引いてるけど風邪だぁね。じゃあまた同じお薬だしておくかねぇ」
だけど――診断結果は同じ。
もちろん――薬も同じ。
俺ってもう、長く生きられないのかなあ......
もうすぐ高校生になると言うのに、余命宣告を受けた訳じゃないのに、ついそんなことを考えてしまう。
ただの風邪だと言われているのに、あんまり信じられなかった。
「どんどん、お家が汚れていく......」
ふと家の中を見渡すと、床には飲み干したペットボトルと洗濯物の数々。
着替えて、水分補給して、寝る。
それが、ここ最近のルーティン。
未だに、まともにご飯を食べられていない――寝たきり生活である。
「もうすぐ学校が始まるけど......俺、学校行けるのかな......?」
ついこの間、父さんと母さんには連絡をした。
もちろん、体調をすごく心配してくれたけど......すぐに帰ってこれるような簡単な仕事じゃないことは俺もわかってる。
頼りに出来るような親戚も、近くにはいない。
だから、なんとかひとりで乗り切らないと......
そう言えば、不幸中の幸いだったことがある。
それは――この春休みに、何の予定もなかったこと。
みんな、春休みを利用して東京ウィズリーリゾートとかラウンドツーとか、カラオケに行ったりしてる......多分。
こういうのって、大体SNSのチャットで誘われたりするでしょ?
俺だって一応、クラスのSNSグループには入ってるけど......
あれ、もしかして......今、不幸中の不幸......?
そんなこんなで、もう春休みも最終日になってしまった。
明日から、いよいよ高校生。薬を飲んで、早く寝よう。
入学式には登校しないと......
――入学式当日――
チュンチュンチュンと、鳥が気持ちよく鳴く声がする。
待ちに待った新年度だ。
気持ちのいい朝――じゃなかった。
まだ熱は測ってないけど、もう分かってる。
だるい。
寒い。
気持ちが悪い。
諦めて、熱を測ると――38度2分。
しょうがないから、学校に電話しよう。
ただでさえコミュ障なのに、超絶体調不良。
もう、苦行でしかないよ......
「はい、大樹寺学園です」
電話の向こうから聞こえるのは、若い女性の声。
「あっ、あの1年......生のふ、吹上...空良です...」
考えてみたら、クラスが分からない。そう言えば、今日発表だから分かる訳なかった。
「ね...熱が......出てまして...登校でき、できません......」
すると――とても驚いていた。
でも――とても優しかった。
”お大事に”と言われて、電話を切る。
あ~緊張した......
これで、入学式の欠席が決まった。
友達を作る最大のチャンスなのに......
みんな、ちゃんと自己紹介するんだろうなぁ......
だけど――誰のせいにも出来ない。
早く治したい。
早く学校に行きたい。
今日も今日とて、早く寝よう。
明日こそ、学校に行くんだ......
――次の日――
え~と......全く良くなりません!!
ず~っと38度代。
俺の平熱って、38度になっちゃったの......?
「き...今日も......熱が......出てて...休みます......」
2日続けての欠席。同じ先生が電話に出てくれたから、すぐに分かってくれた。
明日は、こんな電話しない――なんて、思ってました......
次の日からも――
「まだ......熱が......下がらなくて......」
「今日も......まだ......」
「今も、38度で......」
「未だに下がらないです......」
「ずっと......熱が出続けてて......」
あの先生に、休みの連絡をするのが当たり前になっちゃった......
学校が始まってから、もう1週間。
新入生オリエンテーションに健康診断、部活動紹介や新入生歓迎イベント。
楽しみだったイベントが、どんどんなくなっていく。
どうせ、明日も......
元気にはなりたいのに、もう半分諦めてる。
だって......何をやっても、体調が変わらないんだもん。
もう、どうしようも出来ないじゃん......
だけどある日、ようやく体調に変化があった。
――深夜――
頑張っても、寝られない。
物凄く高速で震え続ける身体に、滝のように湧き出る冷や汗。
布団を何重にも重ねてるけど......全く効果が無い。
解熱剤を飲んだり、冷却シートももちろん貼っているけど、それも気休めにしかならない。
水を飲んでも、のどはマグマのようになっている。
熱は――41度5分。
なんで...ここに来て、また上がるの......
もう、明日なんて言ってられない。
今を生きるのに、精いっぱいだ。
救急車を呼びたいけど、もうそんな元気も残ってない。
辛い...辛すぎる......
「父さん、母さん、助けて――」
目の前が歪んでいく中で、父さんと母さんの姿が見えた。
こういう時って――やっぱ、そう言うの見えるんだ......
もし神様が居るのなら、一度聞いてみたい。
俺って......何かしましたか......?
何をしても110キロのおデブだし、いつまでたっても治らないし......
目から涙が止まらない。
そのまま、生きたいと願いながら居たけれど、午前5時を回った頃にとうとう意識が落ちた。