第十四話:ボクの名前はちーちゃん! 聖剣と魔王が川を救う
「チーフ、この子に名前は付けないんですか? 」
ロイドは、チビドラゴンのプニプニした頬を指でツンツンして遊んでいる。
「キュッ! ......! ギュピッ!!! 」
(やめて! やめてってば!! )
ボワッ!!
「あっつ!! 」
ジタバタと暴れ出し、火を吹くチビドラゴン。
羽の傷は治ってきているが、毎日ルルに包帯をぐるぐる巻きにされている。
ロイドは朝から爆発アフロになり、泣いていた。
「うっ......ドラゴンさん、ごめんなさい......」
ルルはその光景をみながら、腕を組み考えていた。
いつかは親の元へ返さなくてはならない......。
名前を安易に付けるのはどうかと、前から悩んでいたのだ。
【君の名前は?】
『☆×。△※+』
機械音のような声で聞き取れない。首を傾げながらさらに悩む。
(うーん、竜語なのかな?分からないや)
【ここにいる間、違う名前で呼んでもいい? 】
「キュッ! 」
(いいよ! )
「はい!ということで、チビドラゴンちゃんの名前を皆で決めましょう!」
施設長に事情を話したルル達は、体操が終わった皆を部屋に呼び
相談することにした。
「聖獣様を名付ける名誉は、このワシが頂く!ファングはどうじゃ?」
「可愛くないわ!天使の羽で......。てんちゃんとか、どうかしら? 」
皆は、配られた紙に思い思いの名前を書き箱へと入れていく。
ルルは、白い紙に『ちーちゃん』と書いて、そっと箱に入れた。
(チーズをあげたら、喜んでたから。響き似てるよね? )
ロイドは紙を箱から取り出し、読み上げていく。
施設長がホワイトボードへ候補の名前を書きだしていた。
「それでは!チビドラゴンちゃんに決めてもらいましょう! ルルちゃんお願いね」
ルルは、ゆっくり床にチビドラゴンを下した。
【好きな名前の紙を選んでね】
「キュッ! 」
『わかった!』
四足歩行でゆっくり歩いてく姿を、まるで赤ちゃんを見るかのような目で一同は見守っていた。
「なんて可愛らしいのかしら」
「聖獣様が選ぶ名前が気になるが、孫が赤子の頃を思い出してきたぞ」
ペチッ!
「キュッ!! 」
『これがいい! 』
チビドラゴンが選んだ紙の上に座り、一鳴きする。
「はい! 決まりました! 今日から、『ちーちゃん』です! 」
パチパチッ――!
部屋いっぱいに拍手が起きる。
「あら、可愛いじゃない!」
「可愛い名と見せかけて、『万物全ての血を支配』するという意味だな! 」
「キュッキュィィ! 」
(みんな、ありがとう)
「あ!忘れてた。最近、川に釣り人を襲う魔物が出ると報告がありました!
皆さん、危ないので絶対に川には近づかないようにね~
魔物は――」
施設長が説明している間、たまに川へ釣りに行く人達は首を傾げていた。
「ワシらは一度も見かけたことないな」
「昨日も行ったけど、時間帯が違うとか? 」
(皆、それ全部無断外出なの気づいているかな? )
「川、魔物――。以前、会った事があったような――」
目を細めたベルゼは腕を組みながら唸っている。
フォードは、その小さい異変に気付き肘でベルゼを突く。
二人は見つめ合うと、同時に深く頷き気配を消して部屋を出て行った。
◆
森を高速で駆け抜ける2つの影は、川へと向かっていた。
「フハハッ! 今日はお前と気が合うな! 我の配下になるか? 」
「馬鹿を言うでない! 今日だけじゃぞ?
マスターの手を煩わせる前に、決着をつけてやろうではないか」
ザザッ――
「ここじゃな」
「ああ。不穏な魔力が揺らいでいる」
王国の銘水30に入る川は、透き通って魚が泳いでいるのに一部だけ深い緑色をしていた。
ベルゼ(元魔王)とフォード(元剣聖)が、揃って釣り竿を背中に担ぎ
川岸に立つ。
「......ふん。あの『川の主』を釣り上げてやろう。
あれを釣れば、我の釣り師としての名声も盤石というもの」
「ハッ! 何を言う、魔王よ。魔物の詳細が分からぬのだ。
ヌシが魚じゃない場合もあるじゃろう?」
「ほう~。さてはフォード釣りは苦手か?」
「くっ!なんじゃと?!野営で何度も釣ったんじゃ。馬鹿にするでない!」
ギャーギャー言い合っている二人の後ろで、魔力の歪みが突然起きる。
ブクブクッ――
バシャァッ――!!
「な、なんじゃ?! 」
「お前達、危険人物。川から離れろ――」
川の底から水柱を上げ現れたのは、とぐろを巻いた青い龍。
施設長が言っていた釣り人を襲う魔物の特徴に似ていた。
フォードは腰に掛けた剣を引き抜き、静かに構える。
「ペント!! 」
「ま、魔王様?! え、なぜここに?! 」
パァァアッ――
魔王だと分かったペントは、全身が青く輝き始め人間の姿になる。
金色の瞳に深い青緑の髪をなびかせ、ベルゼの方へ走り出すペント。
「おぬしら、知り合いじゃったのか? 」
フォードは目を大きく見開きながら、交互に2人を見ていた。
「ああ。たまに酒を酌み交わした仲だ。久しいな」
「はい。まさか、ここでお会いできるなんて――」
それから、ペントとベルゼが酔っ払って他の大陸へ海を渡り
魔物を密輸入しようとした海賊を殲滅した話をしていた。
「魔王様は、優しいんですよ。本当は人間と仲良く生きたいと――」
「や、やめろ! 何を言っている! 酔いで言ったことだ! 」
「ほぅ~」
ニヤリと笑みを浮かべたフォードは、ガバッとベルゼの肩を引き寄せた。
「別に恥じる事ではないだろ? 」
「フ、フンッ! うるさい! 」
バッとフォードの手を払ったベルゼは、頭に手を置きながらペントへ視線を戻した。
「事情を聞かせてくれ、温厚なお前がどうして――」
ベルゼは数歩前に進み、語りかけるとペントは俯き暫く沈黙が続いた。
パシャッ――
水面に魚が飛び跳ねるのを見たペントは、顔を上げ重い口を開いた。
「実は――」
――同時刻の施設内。
バンッ!!
「チーフ!! 大変です! 」
ダダダッ――
見当たらない2人の捜索に外へ出ると、
丁度コッコちゃんが散歩から家へ帰る所に出くわした。
「コッコ、コケェ~ッ」
『いい散歩だったわ、お昼寝でもしようかな~』
ダダダダダッ――!!
「? コケッ? 」
「慌ててどうしたの? 」
【この持ち主の元へ行きたいの】
ルルは、ベルゼおじいちゃんのタオルをコッコちゃんへ嗅がせると
コッコちゃんは体勢をクルッと反対へ変える。
「コケェッ! ココッ!」
『向こう! 乗せてあげる! 』
ロイドは燃えることを恐れ、足が動かなかった。
すると、コッコちゃんはロイドの足元へ行きフワフワの羽をこすりつける。
「コッ、コココッ......」
『大丈夫よ。安心して』
「あれ、燃えない――。それに、なんですか......。
こ、この滑らかで柔らかいこの高級感あふれるモフモフは――! 」
(分かるよ。この素晴らしい羽毛、でも今は早く背中に乗って欲しいな)
「コケェッ!! 」
『早くしなさい!! 』
【早く! 】
「す、すみません――」
バサッ――
アヒルの大きさから元の体長5mの大きさに戻ったコッコちゃんは、
ルルとロイドを背に乗せ空へと飛びあがった。
「落とさないでください――ねぇ! ぇぇえ!? 」
あっという間に白銀輝の施設が小さくなっていく。
「ぎやぁぁああ!!早いよぉぉ!!!」
「コッ、コケェェェェッ? 」
『チッ。やはり、この坊やは乗せなければよかったかしら? 』
ピュッ―――
山の方へ爆速で飛んでいき現場に着くと、すでに川の光景は変貌していた。
川の一部が氷の壁に覆われ、半分は水。もう半分は干上がり瓦礫や木の家具がなぜかゴロゴロある状態だった。
コッコちゃんは、近くにいたフォードおじいちゃんの近くにフワッと舞い降りた。
「あー! もう! 二人とも何をしてるんですか!!
釣りって言ったら、もっと静かに糸を垂らすものでしょう!? 」
【ロイド君、そこじゃない】
(あれ、見たことが無い人が居る。誰だろう? )
青緑の髪をした若い男が、ゆっくりとルル達の方へ歩み出した。
その目は、ギロリと睨みつけている。
「貴様ら、何者だ」
ブワッ――
川の水が突然水しぶきを上げ、大きな竜の形に変化しルル達を見つめ始めた。
「お、落ち着いて下さい! 私達は、ただ――」
ロイドが慌てて両手を前に出すと、男はロイドが魔法を放つと思ったのかパチンッと指を鳴らした。
「この川に、なんの用があるのかと聞いている!! 」
ゴゴゴゴッ―――!
「ヒッ! プロテクション!! う、うわぁぁぁあああ!! 」
「マ、マスター! 」
フォードの叫びがロイドの叫びと重なる。
その時。
ダッ――
バサッ――!
「コケッ! 」
『遅い!』
コッコちゃんは、瞬時にルルを背に乗せロイドをクチバシで掴み空へ舞上がった。
だが、竜はコッコちゃんを追いかける。
「ッチ! 取り逃がしたか」
「ペント! やめんか! この方は、我々のマスターなのだ! 」
「え? 魔王様よりも強いのですか――? 」
ベルゼは、目を細め空の水竜へ手をかざすと黒紫の光を放った。
シュゥゥウ――パンッ!!
サァァ――っと空から水滴が落ちて虹が現れる。
ガクッと膝から地面へ崩れ落ちるように座ったペントは、カタカタと震えていた。
「俺は魔王様のマスターに、なんてことを――」
それから、コッコちゃんはベルゼとフォードの合図で地上へ再び降り立ちペントの事情を聞くことになる。
元々は綺麗だった川に、いつしか釣り人の恰好をした人物達が
ゴミを不法投棄するようになった。
秋に海から川へと産卵のため帰って来る魚を守るため、威嚇を繰り返していたそうだ。
「俺は、この川のヌシに最近なったばかりなのだ」
「おお、出世したんだな! 」
「人間は好きだ。でも、悪い奴らもいる。威嚇してもキリがない――」
ペントが俯いている。
ルルは川をもう一度、横目で見つめた。
(理由もなく、人を襲っていた訳じゃなかったんだね。)
ルルは、ペントの肩にトンッと手を置くと、ビクッと体を跳ねさせた後、顔を上げた。
【皆で川をキレイにしましょう】
「え? でもキリがないと思うぞ? 」
【私が、王へ手紙を書きます】
その瞬間、ペントは地面にガバッっと平伏した。
「こ、この少女は......国王までも支配しているというのか!!
さき程の無礼の数々、大変申し訳ございません!! 俺もマスターと呼ばせて下さい!! 」
(あ、違うよ。王様は優しい人だから、相談して何とかしてもらえないか聞くだけで――)
「フンッ、ペントよ。これで分かっただろ?
マスターは我々だけを配下に置くだけに留まらず、この国の頂点すらも網羅するお方なのだ! 」
「そうじゃ! 優しく、強いお方なのだ! 」
ペントは、それからベルゼとフォードにルルが今まで支配してきた数々を日が暮れるまで聞かせていた。
――数日後
カンッカンッ!
「放て!! 」
パァアアアッ――
川から緑と金色の光が森の半分まで瞬時に広がる。
王に手紙を送ったルルは、手紙が到着した翌日
国からこの大きな看板と、魔導師10人が送られてきた。
「だ、大規模ですね......」
ロイドが呆然とその作業を見つめている。その横でルルは数回頷いた。
看板には、『国の管轄の元、汚す者は理由も問わず処分する』と
震えた王の文字で記載がされている。
(なんか文字が、不気味だけど......。まぁ、いいか。ありがとう王様)
【お疲れ様です。これ、どうぞ】
暫くして、ルルとロイドは魔導師や大工のドワーフ達へ飲み物の差し入れをした。
「ありがとう」
「お手伝いか? 偉いぞ~」
魔導師やドワーフ達は、ルルがまさか王へ手紙を送った人物だと気づかず
笑顔で感謝を伝え、頭を優しく撫でていた。
(皆、お疲れ様。これで川が守られたらいいな)
ルルは、撫でられながら川を見つめ心の中で願っていた。
――その日の夕方。
ビチッビチッ!!
玄関の前には、大きな木箱が2つ置かれていた。
その中には、立派な大きさの魚が箱一杯に入れられている。
木箱の横には、『マスター、ありがとう』の文字が彫られている。
ジュッ――
パチパチッ......。
施設の裏庭で、大きな焚火の上で銀色の網がかけられた。
その日の夕飯は、賑やかな魚焼きパーティーが開かれた。
ロイドが疲れた顔をしながら、魔法で宙に浮かせた魚を捌き
『ちーちゃん』は火を吹きながら焚火の管理をしている。
ベルゼとフォードは、二人で一緒に魚の塩焼きの準備を始めた。
「魔王、そこはもっと弱火の所で焼かんか! 」
「分かっておる! 今、移動させようとしてたのじゃ! 」
(なんだかんだ言って、この2人は仲良しだね)
ルルはゆっくり頷くと、スケッチブックに文字を書きだし
焼きあがると皆の前でバッと掲げた。
【今日の魚はペントさんからです! 】
「せーの! 全ての命に感謝を! いただきまーす! 」
「お!これは美味い!」
「フワフワの身に、いい塩加減! 」
焚火周りに座り、焼き魚とスープを飲む皆の賑やかな声は森へと響いていた。
パシャッ――
「おじちゃん、ただいまー!! 」
「おお! おかえり」
その頃、森の川には海から帰って来た魚達がペントの周りを囲み
今まで過ごした海の話を始めていた。
ふと、魚達が周りを見渡す。
「なんだか、前に居た時より綺麗になってるね? 」
「ああ。良い人間、いや。マスターのお陰だ」
「マスター? 」
「人間も、まだ捨てたもんじゃないってことさ」
魚達は、不思議そうにペントを見つめていた。
ペントは、川底から水面を見上げながら優しく微笑んでいた。