第十二話:秋の香りと、大賢者が立ちあがった日
ゴトッ
木の箱に、皆が使うスコップや農具を風魔法で運んでいたロイドが施設長へ駆け寄った。
「施設長終わりました! 」
「ご苦労様。今日いい天気でよかったよ」
「はい。この間まで雨の日が続きましたからね」
施設の裏庭の一角は、見事なサツマイモ畑へと成長し収穫を待つばかりだった。
秋の心地よい風が二人の麦わら帽子の紐を揺らしている。
ザッザッ――
ルルを先頭に、皆が軍手や麻の袋を持ち歩いて来た。
事前に紙に書いてある畑毎のリストを見ながら、
ロイドやルルは、皆をそれぞれの列に案内させると施設長に向けて手を上げる。
「うん、うん! 皆、揃ったようだね。じゃあ、はじめようか! 」
ルルは、畑の中央に立って、スケッチブックをバッと掲げた。
【大きなお芋をたくさん掘りましょう】
「ふむ......。土の底に眠る大地の恵みを、我が魔力で全て引きずり出せばよいのだな――」
ベルゼおじいちゃんが、ニヤリと土を見ながら笑みを浮かべる。
禍々しい闇の黒いオーラをまとわせながら地面へ手をかざそうとすると、横から腕を掴む手に阻まれた。
「お前の大雑把な力では芋が潰れる。ここは我が剣技で、土だけを音速で切り裂くのが正解だ」
フォードおじいちゃんが、首を横に振り地面を見つめた。
(うん、どちらも大不正解だよ)
ルルは2人を後ろで見つめながら溜息をついていると、
足元にポチがやって来た。その後ろでルシアンおじいちゃんが遅れてやってくる。
ポチは、飼いやすいように大型犬の大きさで暮らしているのにもう慣れたようだ。
「ハァ、ハァ。ポチ~やっと追いついたわい」
「ガウゥッ! ガゥウ! 」
『我達も参戦するぞ! 』
ルルがしゃがんでポチを撫でると、尻尾が左右に揺れる。
ルシアンおじいちゃんが首を傾げながら話しかけた。
「マスター、採れた芋はどうするのじゃ? 」
【炊き込みご飯、蜂蜜漬け芋、あとはデザートにします】
「皆! この文字を見ろ! 」
大きな声に反応するように、一斉にルルのスケッチブックへ視線が集まる。
ダンッ!
「これは、遊びじゃない。本気で収穫するよ!! 」
マーサおばあちゃんは、片足を木の箱に勢いよく踏みしめ空へ麻袋を突き出した。
「うおおおおおぉぉぉ!! 」
「ガウウウウッ!! 」
『芋のご飯!! 』
そんな中、車椅子に揺られながら、銀髪をなびかせたおばあちゃんが微笑んでいた。
「もう少し、皆の側に行きたいわ」
「はい」
ロイドが車椅子をゆっくり押し出し、畑に近づけた。
「私も皆と参加して手伝いたかったけど、この足じゃ――」
「一緒の場所に居るのですから、気にしないで下さい。
あ! あとでデザートを一緒に作りましょうよ! 」
「フフッ。あなたは、優しいのね。ええ。ぜひ作りましょうね」
彼女の名前は、ターニャおばあちゃん(1500歳)。
普段は、温室でハーブを育てて皆へ振る舞うのが好きな穏やかなおばあちゃん。
その正体はかつて世界樹と契約し、大陸すべての植物を操ったと歴史の図鑑に名を残している
エルフの国、元・最高指導者(大賢者)である。
「いくつになっても、形を変えて誰かの役に立ちたいと思うとは――」
小さく呟き、そっと目を閉じたターニャおばあちゃん。
ロイドは何と返答していいのか分からず、ただ風に吹かれながら畑を見つめていた。
フワッと白い花びらが風に乗って、ターニャさんの手の甲へ落ちた。
その瞬間、目を大きく見開いたターニャおばあちゃんは
魂が全盛期の「大賢者」へと巻き戻りを開始する。
「フフフ......。私の力で、皆に美味しいお芋をあげるわ!
大地よ、世界樹の息吹よ! 私に力を貸してちょうだい――」
ポワッ――
緑に輝いた魔法陣から、一筋の光が地面へと放たれた。
「うぁああ! 皆! 気を付けてぇぇえ! 」
ロイドの叫び声が畑に響き、一斉にロイドへ視線を移した皆は首を傾げた。
シーン――
「あら? いつもなら、すぐ反応するのにおかしいわね? 」
「よ、良かった――」
ロイドがホッと息を吐きだしたその時。
畑の地面全体が緑の光で輝き始め、緩やかに脈打ち始めた。
ゴゴゴゴゴ......!!
「なっ、なんじゃ?! 」
「皆さん! 畑から離れて――! 」
「アハハッ! 楽しいわ」
ロイドは、笑い声が聞こえる方へ視線を移すと、
魔法の乗り物でも乗ったかのように皆は笑って楽しんでいた。
すると、誰も居ない中央の地面から2回目の地鳴りが始まる。
ゴゴゴッ・・・
ドゴォォォォォン!!!
ボコッボコボコッ......
地割れと共に土煙が舞い上がり、畑の底から現れたのは、ただのサツマイモではなかった。
ターニャおばあちゃんの魔力を吸い上げ、変異を遂げた
巨大・魔サツマイモちゃん(3m)が6体出現した。
「キュキュゥゥゥゥーーーッ!! 」
『こーんにちはーーー! 』
「ヒッ! なんか巨大な芋が鳴いてる――!! 」
「キュッ! キュッ! 」
『怖がらないで! 仲よくしよう! 』
サツマイモちゃんは、ドシンッドシンッと数歩前に出た後でロイドへ芋のツルを放った。
ロイドくんが必死に防御結界を張るが、魔導サツマイモの巨大なツルは難なく貫通していく。
「へっ?! うわぁぁぁあ!! 」
シュルシュルッ――ギュッ
巨大な芋に抱きかかえられるロイドは全身を震わせた。
「あらあら、ちょっと魔力を込めすぎちゃったかしら?
お芋ちゃん、その子を離してあげて? 」
ターニャおばあちゃんは、のんきに首を傾げているが魔法の制御は効いていない。
―可愛いけど、許さない―
ルルは、ロイドが捕獲されていることではなく
今日のおやつのメニューが、この掘りたてのお芋を使った
『スイートポテト』を邪魔された怒りが瞳に宿る。
―おやつの邪魔をするものは、全員敵! ―
ルルは、目を細めて背中に背負っているスケッチブックを体の前に移動させる。
そのままペンを凄い速さで走らせた。
ロイドを捕えて離さない魔サツマイモの顔面(らしき部分)に、バッと力強く掲げた。
【大人しく縮みなさい! それ以上動いたら、すり潰すから】
ルルの睨みつける視線と、殴り書きの文字が放つ
「おやつのクオリティを妥協したくない執念」。
その後ろには笑顔で雑草用の除草剤の大きな瓶を握りしめ、ゆらゆらと揺らして芋へ見せる施設長の姿があった。
「キュッ!? 」
『え!? 』
魔サツマイモは、その場で硬直してターニャさんを見つめる。
植物としての本能が、生存本能が警報を鳴らしていた。
(スリツブス......ってどういう意味なの?
この人間達を怒らせたら、根こそぎ除草剤で消されるのは確実......!! )
シュルシュルシュル......。
さっきまで施設を破壊せんばかりだった巨大魔サツマイモ達は、光に包まれ急速に縮小していく。
ドサッ
「イタタタッ......。た、助かったああぁ」
ロイドは地面に落とされ、腰を摩りながら芋を見つめた。
最終的に、丸々と太った非の打ち所がない「スイートポテト用サツマイモ(適正サイズ)」へと姿を変え、
ルルの足元にゴロゴロと自ら収穫されに転がってきた。
それを見たターニャおばあちゃんは、大きく口を開け車椅子からガタッと勢いよく立ち上がる。
「ほえぇぇ?! ターニャさんが立ってる!? 」
ロイドくんが、大声で叫ぶと一斉にターニャおばあちゃんへ皆の視線が集まった。
「まぁまぁ! ターニャさん凄いわ! 」
「治ったのか?! これはまさに、奇跡じゃ!! 」
ターニャおばあちゃんを囲んで、他のおじいちゃんおばあちゃんが拍手をし始めた。
「ま、まさか......。世界樹の魔力を得て暴走した大地の精霊(サツマイモ)が
文字と、あの眼光だけで完全に姿を変化させたなんて!
マスターは、植物さえも従えさせられるのね!! 」
ブツブツ言いながら、ルルの方へ震えながら視線を移した
ターニャおばあちゃんは深く息を吐くと一歩ずつルルへ歩み出した。
「私、歩けるようになったわ。マスター、ありがとう」
おばあちゃんは静かに涙を流し、両手でルルの手を握りしめる。
ルルは数回、静かに頷いた。
(私、何もしてないんだけど......。でも、歩けるようになって良かったね)
横では、お芋の安全を爪でツンツンして確認しているベルゼおじいちゃんたちがいた。
「流石は我が主(マスター)、植物の魂まで支配するとは......素晴らしい」
腕を組み、深く頷きながらルルを見つめる。
「あ、あの! 誰か、体のツルを取ってぇぇぇえ」
手足にツルが絡まったままのロイドは、ジタバタと体を動かしながら叫ぶ。
(いや、美味しいお芋のためなんだけどな。......。
ロイド君、ツルをハサミで切るからジッとしててね? )
パチンッ
「ふぅ。チーフありがとうございます。助かりました」
ルルは、一旦施設に戻り大きいハサミでロイドに絡みついていたツルを切った。
【とりあえず、お片付けしましょう】
「そうですね、この大きいツルも焼却炉に持っていきましょう」
ルルとロイドは、皆と一緒に集めたツルや葉などを台車へ積み焼却炉へ辿り着くと
銀の魔法紙に芋を包んでいる施設長の姿が視界に入った。
「施設長! も、もしかして独り占めしようと――」
「ご、誤解だよ~。ルルちゃんもその目やめて? 」
施設長は苦笑いをしながら、足元にある木箱を見せた。
そこには、人数分の芋が入っている。
ルルとロイドはお互いに目を合わせ、頷くと施設長へ頭を下げた。
「すみません」
(疑っちゃってごめんなさい。)
「いいよ、いいよ。二人とも気にしないで!
私も何か皆に出来ないかなって思ってさ、よく子供の頃食べてたんだよね~焼き芋」
ルルとロイドは一緒に銀色の魔法紙を巻いた後、
ロイドの火魔法を使い一瞬で焼き芋を完成させた。
ドサッ――
木の箱に入った焼き芋を風魔法でロイドが置くと、施設長は手を叩いた。
パンッ、パンッ!
「はい! 皆さん今日はお疲れさまでした!
おやつまで時間があるので焼き芋を作りましたよ~」
「うぉぉぉおお!! 」
皆は、笑顔になり一斉に施設長へ拍手を送った。
「熱いから、この新しい軍手をつけて食べてください」
ロイドは声かけをしながら新しい軍手を配り、
その後ろからルルが軍手をはめ直した手へと焼き芋を渡していく。
パカッと2つに割ると、黄金の実と甘い匂いと共に湯気が立ち上る。
「おい! ずるいぞ! 我のより、芋がデカいではないか! 」
「ふふふ。いいじゃない。その分2本食べれば」
皆、ハフハフ言いながら美味しそうに食べては笑顔になっていく。
こうして、その日に収穫されたサツマイモたちは
15時のおやつの時間になると、ルルやロイド、仕上げの蜜を塗る作業はターニャさん
3人の手によって絶品のスイートポテトへと調理された
【今日はターニャさんが手伝ってくれました】
パラリッとスケッチブックの二枚目をめくるルル。
【皆さん、収穫お疲れさまでした! 】
「せーの! いただきまーす! 」
施設長の号令で、一斉に食べ始める。
「うんまぁい!! 甘い! いくらでも食べれるぞ! 」
「美味しいわね~! 紅茶にも合うわ~」
「ターニャさん、後でレシピ教えて頂戴よ! 」
「私も! 」
ターニャさんは嬉しそうに微笑みながら頷く。
(皆、今日もいい笑顔。良かった)
ルルは夕飯のお芋ご飯の仕込みに調理場へと戻った。
外では、手伝ってくれたポチと留守番だったコッコちゃんのお皿には
焼き芋とスィートポテトが置かれていた。