コミケで頭痛がするような状況 2
014
「えっと......コスプレ、すごくいいですね......」
突然、お客さんの前に割り込んできた男がいた。見た目は普通の高校生くらいだったが......
「あの......少し待ってもらえますか......今、お客さんの対応中なので」
「はい......」
そいつは列の後ろへ戻った。まあ......よくいる非常識なタイプだろう。
「悠太......列を整理してくれないか......終わったら俺とアキラちゃんの横に来てくれ」
「はい......」
やれやれ......こういう変な人間にはイベントで何度か遭遇してきたが、また会うたびに何をしてきたのかと思ってしまう。
その男の番が来た。
「えっと......何冊買いますか?」
「その......買わないんですけど......コスプレがすごく好きで......写真を撮っていいですか?」
「ああ......いいですよ!」
写真を撮った。まあ、ちゃんと列に並んでくれたから文句はない。
「入場料って高いですよね......千円もするし」
「それはそうでしょう......東京の真ん中ですし......このクラスのイベントともなれば」
「そうですか......」そしてまた列に戻っていった。
「あの......僕、お金がないんで......本、ちょっと高くないですか?」
「そりゃ制作費がかかってるんで......四百冊ですし......」
「でも他のところは安いですよ......表紙の見た目からしても、二百円で売れると思うんですが」
何を言ってるんだこいつ......
「お前、自分で売ったことあるか?」
「ないですけど......でも好きな作家さんに聞いたら、その値段で売ってたって」
「じゃあ、いくらなら買う?言ってみろ......値引きするから」
「やっぱり高いんで......タダでもらえないですか?」
は......この中二病め......
「できない......他の人は買ってるんだから......タダにしたら全員タダにしないといけなくなる」
「じゃあいらないです......」
そしていなくなった。しかしすぐに戻ってきた。
「値引きしてもらえますか?」
「......350円にするよ」
「いらないです......タダでもらえますか?......入場料が無料なら買ったんですけど......コミケが千円取るのが悪いんです。今は一円も持ってないんで」
本気で聞きたい......こいつは他の人みたいに普通に買うという選択肢がないのか?
「じゃあ先に持っていって後で振り込んでもらえますか?」
「それはできない......そんなことをしたら全員にそうしないといけなくなる......ダメダメ」
「わかりました......次の方どうぞ......」
そいつはスタッフみたいに立ち続けた。
「おい......そこにいると邪魔なんだが」
「はい......」
しばらくしてまた話しかけてきた。
「じゃあサインしてもらえますか?」
「いいよ......何にサインすればいい?」
「服にしてもらえますか......売りに出しても怒りませんか?」
「お前が何に使おうと勝手だよ......でも先に本にサインさせてくれ」
「僕の方が先に来たんですけど......」
「本にサインするのが先だって言ってるんだ......」
「はい......」
すると突然、高校生の女の子が一人、そいつに声をかけた。
「友達を連れてきたよ......本を買いに来たから......五百円どうぞ」
ちょっと待て......これはいったい......さっき一円も持ってないって言ってたのに。
「その子が連れてきてくれたから、五百円払ってもらったんです」
「じゃあ......友達に払わなくてよかったんじゃないのか?」
「いいです......少なくとも写真が撮れたし......」
俺はその子の友達の方に話しかけた。
「じゃあ、おまけしてあげる......名前は何?......サキちゃんだよな?......サインも入れて......箱もつけるよ......本来は三冊以上買った人にしか箱はつけないけど......いいよな?」
「えっと......じゃあ僕のは......一冊か二冊くれませんか、コミッション代として」
「ありません」
「ひどいですね......」
俺はペンを置いた。
「お前はどうしたい......」
「いや......冗談です......ただからかっただけで......暑いし......飲み物でも飲みますか?」
悠太が肩を叩いて、耳元で囁いた。
「絶対に手を出したらダメですよ......ニュースになったらアキトさんは確実にまずい立場になります」
そうだな......もし素行を掘り起こされたら、知り合いたちに迷惑がかかる。
「ああ......わかった」
「どこへでも行けばいい......お前の顔は見たくない」
そいつはいなくなった。
「はあ............またこういうのに会わないといけないのか」
周りのお客さんたちが大丈夫かと声をかけてくれた。
「大丈夫ですよ......こういう人には慣れてますから......みなさん、引き続きどうぞ......」
俺は頭を抱えながらスマホを開いた。マナーモードにしていたせいで、ハルからの着信に気づいていなかった。
「菅原の方が無事だといいんだが......」