コミケで頭痛がするような状況
013
着替えが済んだ俺たちは、それぞれのブースへ向かった。悠太たちはちょうど売り台の準備を終えたところだった。
「すごい......まるで別人みたいだな」
「本当に......生地の縫製も綺麗だし......さすがアキラちゃんだな」
着替え終わった女の子たちがブースに集まって話していた。すでに何人かのコスプレイヤーがコスエリアへ向かい始め、作家さんたちも台の準備を始めていた。俺はヒナコちゃんコスの菅原とペアで琴雪くんをコスし、まゆりは『フェイト サムライレムナント』の由井正雪に扮していた。
「三人とも和風テーマだな」
悠太が俺たちの写真を撮りながら言った。
「難しいかと思ったけど、着るのは思ったより簡単だったな」
「ところで......そのピアス、つけたままなんですか」
ハルくんが指摘した。たしかにキャラクターはピアスをしていないが......ピアスが多いので外すのが面倒くさい。
「このままでいいよ......外すのが大変なんだから」
「あの、みなさん......そろそろ始まりますよ......」
アキラちゃんが台を整えながら言った。それを聞いた菅原とまゆりはそれぞれ離れていった。
「写真を撮りに行かないんですか?」
「二人に台を任せっぱなしにするわけにはいかないだろ......どちらか二人についていてやれ」
「えっと......じゃあハルくん......二人の付き添いに行こう......」
「いいよ......写真も撮ってきてあげるよ」
「頼む......」
本当に仲が良い......これが青春の友情というものか。
俺も持ってきた本を台に並べた。アキラちゃんも同じように並べていた。
「ところで......お前ってBL系が好きなのか?」
「えっと......はい......その......好きなんです......」
女装するのが好きな子だから、それとなくはわかっていたが。
俺は二人にしか聞こえないよう、小声で話しかけた。
「お前......男が好きなんだな......」
彼はうつむいたまま顔を真っ赤にした。かわいい。しばらくして、小さくうなずいた。
「そうか......いいじゃないか」
「え?......」
「正直に言うと......お前はかっこいいと思うよ......女装してるのも、同性が好きだからなんだろ......俺が学生だった頃は、あまりオープンにしてる人はいなかったからな」
「......はい......」
「まあ......とにかく、今日は一緒に頑張ろうか」
「はい!!」
そして会場が始まった。男女を問わず来場者が途切れることなく押し寄せてくる。まるで人の波だ。
「あ!......これって双葉城コスじゃないですか......自分で描いたんですか?」
ペンネームをどうするかわからなかったので、表紙に「いもうとさん......」と書いておいた。センスのかけらもない名前だ。
「はい......妹が描いたものなんですよ......来られなかったので、代わりに売りに来て......」
「あ......では失礼して......」
女性のお客さんがその場で読みながら、楽しそうな様子だった。
そこで初めて気づいた......妹の線画は、本当に丁寧で細かい。比べるなら、六道先生(ペルソナ5 メメントスミッションの漫画家、ペルソナシリーズの一部公式アートも担当)の線画に匹敵するくらいかもしれない。
ただ彼女の強みは線の細部を徹底的に丁寧に描くことで......主人公と明智のシーンも、読んでいて熱くなるほど鮮やかに描かれていた。
なぜ途中で描くのをやめてしまったんだろうと、ふと思う。
「あ......二冊ください!!!」
二冊も。まあ、普通は一冊以上買うものだけどな。
「千円になります......」
こうして最初の千円が手に入った。
「変わらないな、本当に......」
その間も、女性のお客さんが何人も俺たちのところへ買いに来てくれた。
「琴雪くんのコスですよね? 写真を撮ってもいいですか?」
「どうぞ......」
同人誌を売りながら、写真撮影を求められることも多かった。
「炭酸飲料どうぞ......」
「あ......ありがとう......」
「ありがとう......」
一時間も経たないうちに、アキラちゃんの同人誌は完売した。佐藤くんと皇くんのカプ、人気があるな。売り切れた後は彼が俺の手伝いに来てくれた。悠太もブースの整理を懸命にやってくれていた。そしてついに......面倒なことが起きた。
コスプレ撮影エリアにて。オタクたちが集まる中。
「二人ともかわいいな......特に菅原さんは......アキトさんって羨ましすぎる......」
まゆりと菅原の付き添いとして来ていたハルは、今二人の写真を撮っていた。アキトに頼まれた仕事だ、菅原の可愛い写真を撮ってくれ、手当は出すと言われたのでこの夏のコミケに来ることにしたわけだ。
去年までは、女の子たちは先輩コスプレイヤーの近くに立って変な人に絡まれないようにしていた。
「それにしても......初めて知ったけど......コスプレイヤーって、みんないい人ばかりだな」
ハルは次の撮影の準備をしていた。三十分が経ったころ、冷たい飲み物を持っていくことにした。八月の真昼はもはや溶岩の中にいるようなものだから。
「ちょっとしんどいな......」
「うん......しんどいね、ハルくん......」
三十分ごとに立ち止まって水を飲み、汗を拭く。
「高田さん(まゆり)、汗がすごいですよ......制汗スプレー使いますか?」
「うん......」
「はあ......よりによって夏に来てしまった......」
少し休んでからまた撮影に戻った。女の子たちは普通に立っていたのだが......ある男が一人、二人の近くに来てこそこそと話しかけ始めた。
準備をしていたハルがそれを見た。助けに行こうとしたが、まゆりが目で止めた。
どうすればいいかわからなくなったハルは、アキトに電話することにした。
同人誌販売ブースにて。
「えっと......コスプレ、すごくいいですね......」
「あ......はい......」
両者とも、それぞれ変な人物と向き合っていた。