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第12話 オリヴィア

ミラはオリヴィアの車いすへ視線を落とす。
座っている姿は、ある意味イメージ通りの美しさではあった。
だが、美しく立っている姿を勝手に想像していたので、実際の姿に少し驚いてしまった。

「オリヴィア、久しぶりね」

リリアが挨拶をして、他の三人を紹介する。

「リリアさん、お久しぶりです。皆さんも、よろしくお願いいたします」

オリヴィアは、座ったまま丁寧なお辞儀をする。

「それにしても、オリヴィアの足のこと知らなかったわ。言ってくれたらこちらから伺ったのに」

リリアは車いすの後ろに回ろうとするが、その前にオリヴィアに手で静止される。

「いいえ、リリアさん。私は自分で移動できます。私を非力な女にしないでください」

オリヴィアは車輪を軽く押す。

「立ち話をしに来たわけでもありません。まずは、皆さんが今作っているものを全て見せていただきましょう」

そう言って先に前へ進む。

最初の一押しだけだったはずなのに、車いすは滑らかに進み続ける。
手を車輪にかざすだけで魔法のように方向を変え、速度を調整する。
まるで車いすが自らの意思でオリヴィアに従っているかのようだ。

四人は慌てて後を追い、舞台や設備について説明する。

★

ミラが空中に跳びあがる。
横に回ったり、宙返りをしてみたり。

「これは新しいですね」

ステージ全体を見終わり、今はミラが跳躍床をオリヴィアにお披露目しているところだ。
ついでに、今日初めて見るリリアも拍手しながら喜んでいる。

「どうでしょうか!?合格ですか!?」

ミラがステージから降りてくる。

オリヴィアは少し考える。

「素直に言えば、技術的な目新しさは、かなりあります。ただ――」

オリヴィアは一拍置く。

「三カ月では無理ですね。今のままだと不合格です」

四人は期待とは違う反応に肩を落とす。
リリアは、その厳しさに昔を思い出しているようだ。
オリヴィアは続ける。

「このままだと、灯火祭ではおままごとのような余興をすることになります。発表会としてはいいかもしれませんが、事業としてのショーにはなりません。将来、お金と時間に見合うレベルになる見込みが立っていない」

冷静に、現実を突きつける。

だめだったか、とミラは直感する。

「いいですか、あと三カ月切っているのですよ。あなたたちが楽しいだけではだめです。早急にショーの詳細を決めて、技のレベルをこれでもかというくらい磨かないと。新しい技術なんてのは、模倣されたら終わりです。技術自体を魅せるのではありません。技術は道具です。その道具を使って、あなたたち自身の技を魅せるのです」

プロとしての本気の指摘に、ミラは何も言えない。
悔しいが、オリヴィアの指摘の通りだと思った。
このままだと、ただの跳ねるステージのお披露目になってしまう。
それでは、だめなのだ。
それでは、世界一のショーにはならないのだ。

「オリヴィアさん、ありがとうございました。冷静に現状を見ることができました」

ミラはオリヴィアに頭を下げる。

「あなた......何を言って――」

「頑張って練習するので、もし次に見ていただく機会があれば、ぜひご意見をください」

今この人に協力してもらうのは、あきらめよう。
無理にお願いしても、きっと困らせてしまう。
今は自分たちの力でできるとこまでやるしかない。
いつか認めてもらえるくらい、頑張らないとな。
ミラがそう思い、頭を上げると――。

オリヴィアは、先ほどとは違う目でミラをまっすぐ見ていた。

「ミラさん。あなたは――このステージをどうしたいのですか」

オリヴィアが問う。
むしろ怒っているというレベルの表情だ。

「それは......世界一のショーにしたいです」

「それはなぜ」

「いろんな人が輝く場所を作って、人にわくわくや感動を伝えたいから」

ミラが答える。
どうしてこんなに怒らせているのか、わからない。

「本気の想いですか」

「はい、絶対に叶えたいです」

ミラは、はっきりとオリヴィアに宣言する。

「だったら――簡単にあきらめてどうするのです」

オリヴィアが静かな怒りの声をだす。

ミラはその声に驚く。

「私が、協力しないと言いましたか」

「......え?」

「今のままでは不合格だと、たった一度言われたくらいで、あなたはこのチャンスを自分で捨てかけました。どうして、最後まで食い下がらないのですか」

オリヴィアは真剣なまなざしだ。

「夢は、あきらめてはなりません。あなたが、スターフェスティアを始めたんでしょう。あなたが、描いたんでしょう!だったら、他の誰があきらめても、周りからどれだけ無理だと言われても、あなただけは簡単にあきらめてはなりません」

こんな情熱を持っている人だったのか、とミラは驚く。

「いいですか。私もまだ、どこかで踊れるのではないかと、そういう方法はないかと日々自分を磨いています。夢とはそういうものです。私の協力を仰ぐくらいで、簡単にあきらめてはなりません。誰かに『今のままだと不合格』と言われようとも、誰に否定されようとも、自分で可能性を閉じることは絶対に許されない」

ミラは、心が震えている。
それはオリヴィアのプロ意識であり、彼女自身が今も追いかけている夢でもあった。

「それって......協力してくれるんですか?」

オリヴィアは頷く。

「今のままでは終わらせない。そのお手伝いをしましょう」

四人が歓喜の表情に変わる。
ミラたちが声を出すより前に、オリヴィアはさっとミラを指さす。

「喜ぶのは後にしましょう。ミラさん。あなたは今から毎日跳躍床で跳びながら声を届ける練習です。朝から晩まで、食事休憩を除いてそれだけをやってください。もちろん倒れる前には休むこと。六日やったら一日は休憩日にします。練習中は、さっきの声を伝える魔法は常に自分にかけつづけなさい」

ミラの返事を待たず、続いてレイナを指さす。

「レイナさん、あなたは軍人としての基礎があります。ミラさんはこれだけ練習して、三カ月で脇役レベルになるのがやっとでしょう。世界を目指すならあなたが今回は主役を張りなさい。軍の訓練時間以外は、ミラと共に毎日跳ぶこと。歌も大切だけど、まずはあなたの力で、空中で舞うというものを卓越させなさい」

命令とすら感じる本気の課題に、レイナはクセで敬礼をしてしまう。

「ミラさん、主役は今回はレイナさんで進めるけれど、それでもレイナさんと二人でステージを基本的には作ることになります。あなたのステージですから、あなたにしか作れない部分があります。準主役と思って、しっかりお願いしますね」

ミラは、尊敬するレイナと一緒にステージを作る決意をする。
それは、少しだけ悔しい気持ちに折り合いをつけることでもあった。

「リリアさん。あなたの歌と魔法は、旅芸人だったころから一流だと知っています。あなたも腐らせておく余裕はないと思ってください。歌とピアノと魔法で演出に入りましょう。基本は二人の歌の指導をしながら、本番用の歌を考えてください」

リリアは、うなづく。

「そして、リグ」

オリヴィアは、リグをまっすぐ見る。

「あなた、魔法は?」

「影魔法です。あまり役に立たない、暗くするだけの魔法ですね」

リグは、自信なさげだ。

「そう。今使ってみてください。最大で」

「今ですか......」

リグは乗り気ではないが、しぶしぶ魔法を展開する。

ステージ全体が暗くなる。
徐々にその暗さは増し、まだ昼過ぎだというのに夜くらいの暗さになった。

「いいでしょう。どれくらい維持できますか?」

「あまり時間はわからないです」

リグは魔法の維持に神経を使う。

「まずは他のことをしながら。公演時間いっぱい維持できるようになりなさい。いいですかリグ。あなたは演者としての成長は次の公演には間に合わないでしょう。ただ魔法の相性は演出に向いていると感じます。どんな手を使ってもいいです。二カ月以内に、あなたの魔法を使って、舞台を演出する方法を考えなさい。あなたは演者と同じくらい重要な、裏方を担ってもらいます」

「僕が......演出。わかりました」

リグは、自分の性格的にも裏方で演出を見るのは合っていると感じた。
そのため、オリヴィアの提案を素直に受け入れる。

「毎日昼食時、特に理由がない限りは全員でここに集合しましょう。そこで毎日話し合いをします。ここまでで何か、質問はありますか?」

四人はお互いを見合わせる。

「ないようですね。私が協力するからには、絶対に本番までにプロのレベルに仕上げてもらいます。いいですね」

スターフェスティアに、五人目のメンバーが加わった。
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スターフェスティア~魔法のショーは、悪魔と共に~作者:藍川鈴
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第12話 オリヴィア

ミラはオリヴィアの車いすへ視線を落とす。
座っている姿は、ある意味イメージ通りの美しさではあった。
だが、美しく立っている姿を勝手に想像していたので、実際の姿に少し驚いてしまった。

「オリヴィア、久しぶりね」

リリアが挨拶をして、他の三人を紹介する。

「リリアさん、お久しぶりです。皆さんも、よろしくお願いいたします」

オリヴィアは、座ったまま丁寧なお辞儀をする。

「それにしても、オリヴィアの足のこと知らなかったわ。言ってくれたらこちらから伺ったのに」

リリアは車いすの後ろに回ろうとするが、その前にオリヴィアに手で静止される。

「いいえ、リリアさん。私は自分で移動できます。私を非力な女にしないでください」

オリヴィアは車輪を軽く押す。

「立ち話をしに来たわけでもありません。まずは、皆さんが今作っているものを全て見せていただきましょう」

そう言って先に前へ進む。

最初の一押しだけだったはずなのに、車いすは滑らかに進み続ける。
手を車輪にかざすだけで魔法のように方向を変え、速度を調整する。
まるで車いすが自らの意思でオリヴィアに従っているかのようだ。

四人は慌てて後を追い、舞台や設備について説明する。

★

ミラが空中に跳びあがる。
横に回ったり、宙返りをしてみたり。

「これは新しいですね」

ステージ全体を見終わり、今はミラが跳躍床をオリヴィアにお披露目しているところだ。
ついでに、今日初めて見るリリアも拍手しながら喜んでいる。

「どうでしょうか!?合格ですか!?」

ミラがステージから降りてくる。

オリヴィアは少し考える。

「素直に言えば、技術的な目新しさは、かなりあります。ただ――」

オリヴィアは一拍置く。

「三カ月では無理ですね。今のままだと不合格です」

四人は期待とは違う反応に肩を落とす。
リリアは、その厳しさに昔を思い出しているようだ。
オリヴィアは続ける。

「このままだと、灯火祭ではおままごとのような余興をすることになります。発表会としてはいいかもしれませんが、事業としてのショーにはなりません。将来、お金と時間に見合うレベルになる見込みが立っていない」

冷静に、現実を突きつける。

だめだったか、とミラは直感する。

「いいですか、あと三カ月切っているのですよ。あなたたちが楽しいだけではだめです。早急にショーの詳細を決めて、技のレベルをこれでもかというくらい磨かないと。新しい技術なんてのは、模倣されたら終わりです。技術自体を魅せるのではありません。技術は道具です。その道具を使って、あなたたち自身の技を魅せるのです」

プロとしての本気の指摘に、ミラは何も言えない。
悔しいが、オリヴィアの指摘の通りだと思った。
このままだと、ただの跳ねるステージのお披露目になってしまう。
それでは、だめなのだ。
それでは、世界一のショーにはならないのだ。

「オリヴィアさん、ありがとうございました。冷静に現状を見ることができました」

ミラはオリヴィアに頭を下げる。

「あなた......何を言って――」

「頑張って練習するので、もし次に見ていただく機会があれば、ぜひご意見をください」

今この人に協力してもらうのは、あきらめよう。
無理にお願いしても、きっと困らせてしまう。
今は自分たちの力でできるとこまでやるしかない。
いつか認めてもらえるくらい、頑張らないとな。
ミラがそう思い、頭を上げると――。

オリヴィアは、先ほどとは違う目でミラをまっすぐ見ていた。

「ミラさん。あなたは――このステージをどうしたいのですか」

オリヴィアが問う。
むしろ怒っているというレベルの表情だ。

「それは......世界一のショーにしたいです」

「それはなぜ」

「いろんな人が輝く場所を作って、人にわくわくや感動を伝えたいから」

ミラが答える。
どうしてこんなに怒らせているのか、わからない。

「本気の想いですか」

「はい、絶対に叶えたいです」

ミラは、はっきりとオリヴィアに宣言する。

「だったら――簡単にあきらめてどうするのです」

オリヴィアが静かな怒りの声をだす。

ミラはその声に驚く。

「私が、協力しないと言いましたか」

「......え?」

「今のままでは不合格だと、たった一度言われたくらいで、あなたはこのチャンスを自分で捨てかけました。どうして、最後まで食い下がらないのですか」

オリヴィアは真剣なまなざしだ。

「夢は、あきらめてはなりません。あなたが、スターフェスティアを始めたんでしょう。あなたが、描いたんでしょう!だったら、他の誰があきらめても、周りからどれだけ無理だと言われても、あなただけは簡単にあきらめてはなりません」

こんな情熱を持っている人だったのか、とミラは驚く。

「いいですか。私もまだ、どこかで踊れるのではないかと、そういう方法はないかと日々自分を磨いています。夢とはそういうものです。私の協力を仰ぐくらいで、簡単にあきらめてはなりません。誰かに『今のままだと不合格』と言われようとも、誰に否定されようとも、自分で可能性を閉じることは絶対に許されない」

ミラは、心が震えている。
それはオリヴィアのプロ意識であり、彼女自身が今も追いかけている夢でもあった。

「それって......協力してくれるんですか?」

オリヴィアは頷く。

「今のままでは終わらせない。そのお手伝いをしましょう」

四人が歓喜の表情に変わる。
ミラたちが声を出すより前に、オリヴィアはさっとミラを指さす。

「喜ぶのは後にしましょう。ミラさん。あなたは今から毎日跳躍床で跳びながら声を届ける練習です。朝から晩まで、食事休憩を除いてそれだけをやってください。もちろん倒れる前には休むこと。六日やったら一日は休憩日にします。練習中は、さっきの声を伝える魔法は常に自分にかけつづけなさい」

ミラの返事を待たず、続いてレイナを指さす。

「レイナさん、あなたは軍人としての基礎があります。ミラさんはこれだけ練習して、三カ月で脇役レベルになるのがやっとでしょう。世界を目指すならあなたが今回は主役を張りなさい。軍の訓練時間以外は、ミラと共に毎日跳ぶこと。歌も大切だけど、まずはあなたの力で、空中で舞うというものを卓越させなさい」

命令とすら感じる本気の課題に、レイナはクセで敬礼をしてしまう。

「ミラさん、主役は今回はレイナさんで進めるけれど、それでもレイナさんと二人でステージを基本的には作ることになります。あなたのステージですから、あなたにしか作れない部分があります。準主役と思って、しっかりお願いしますね」

ミラは、尊敬するレイナと一緒にステージを作る決意をする。
それは、少しだけ悔しい気持ちに折り合いをつけることでもあった。

「リリアさん。あなたの歌と魔法は、旅芸人だったころから一流だと知っています。あなたも腐らせておく余裕はないと思ってください。歌とピアノと魔法で演出に入りましょう。基本は二人の歌の指導をしながら、本番用の歌を考えてください」

リリアは、うなづく。

「そして、リグ」

オリヴィアは、リグをまっすぐ見る。

「あなた、魔法は?」

「影魔法です。あまり役に立たない、暗くするだけの魔法ですね」

リグは、自信なさげだ。

「そう。今使ってみてください。最大で」

「今ですか......」

リグは乗り気ではないが、しぶしぶ魔法を展開する。

ステージ全体が暗くなる。
徐々にその暗さは増し、まだ昼過ぎだというのに夜くらいの暗さになった。

「いいでしょう。どれくらい維持できますか?」

「あまり時間はわからないです」

リグは魔法の維持に神経を使う。

「まずは他のことをしながら。公演時間いっぱい維持できるようになりなさい。いいですかリグ。あなたは演者としての成長は次の公演には間に合わないでしょう。ただ魔法の相性は演出に向いていると感じます。どんな手を使ってもいいです。二カ月以内に、あなたの魔法を使って、舞台を演出する方法を考えなさい。あなたは演者と同じくらい重要な、裏方を担ってもらいます」

「僕が......演出。わかりました」

リグは、自分の性格的にも裏方で演出を見るのは合っていると感じた。
そのため、オリヴィアの提案を素直に受け入れる。

「毎日昼食時、特に理由がない限りは全員でここに集合しましょう。そこで毎日話し合いをします。ここまでで何か、質問はありますか?」

四人はお互いを見合わせる。

「ないようですね。私が協力するからには、絶対に本番までにプロのレベルに仕上げてもらいます。いいですね」

スターフェスティアに、五人目のメンバーが加わった。
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スターフェスティア~魔法のショーは、悪魔と共に~作者:藍川鈴
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