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①旅の剣士

 最近は夜遅くの外出は控えるようになっていた。町全体の空気がそれを許さなかった。最近、朝方に斬り殺された死体がいくつか見つかる事件が起きていたせいだ。

「最近は鬼が出るんじゃ。」

斜め向かいに住んでる婆さんは、この頃そればかり言う。鬼だの妖怪だの、そんな迷信めいたことばかり気にする町の老人たちが、俺は昔から気に食わなかった。
この町はここ数年で人口も増えてきたために、得体の知れないゴロツキのような浪人崩れが増えてきた。そんな連中の辻斬り行為だろうと、俺は思っていた。

「親父のやつが新政府の連中にヘコヘコしてるから、こんな物騒な奴らが来たんだよ」

俺は町長である親父への不満が溢れるようになっていた。

「佐吉!はよう来い!」

声の方を見ると、家の玄関から親父が俺を呼ぶ姿が見えた。

「佐吉、今日は新政府さんからお使いの方が来るから、早く帰ってこいと言っておっただろう」

「そんなこと俺に関係あるか!もてなしたいなら勝手にしてろよ」

「お気になさらず」

俺は突然会話に入ってきた低い声に驚いた。親父の後ろの戸から大男が出てきて、声をかけてきたのだ。

「お侍さん、申し訳ねえです。息子の佐吉です。お見苦しいところを—」

親父が話している男は随分と上背があり、顔の方は、見上げなければ見えそうになかった。
それ以上に目についたものは、そんな大男の身の丈と同等ほどの大きな刀を背負っていることだった。左肩からは大きな刀の柄が、突き出していた。その横から、凶悪な顔がこちらを見下ろしていた。

「鈴村佐吉さんですね。新政府から依頼されまして、こちらの町の治安調査に来ました我羅奇一がらきいちと申します」

俺は意外にも丁寧な言動をしたその男の迫力に押されて、へぇと情けない相槌を打つだけだった。

「さて町長殿。では早速、私は調査の方に行って参ります。何かあればまた相談に参ります」

我羅と名乗った男は、静かに頭を下げると去っていった。

「あれが新政府の役人?ゴロツキにしか見えなかったぞ」

親父はそう言った俺を諌めたが、否定はしなかった。

 親父は俺にこの町の案内を頼みたかったようだが、我羅と名乗ったあの男は、有無を言わせぬ迫力で一人通りの方へ行ったようなので、俺は暇になってしまった。
俺としても、あんなおっかない男と一緒に歩くのは勘弁だったのでちょうどよかった。そして俺は、親父の小言から逃げるように通りの食事処に行くことにした。

「大将いつもの」

昼から酒が飲めるこの店は、俺の行きつけだ。早速酒と肴を注文した。
その時昼時を過ごしすぎていた店内は、客が少なく俺ともう一人、隅の方に座っている男がいた。最近町に増えた浪人の一人だろうと思った。ただ、他の浪人とはどこか違って見えた。
汚れでくすんだ袴をきたその男は腰に2本の刀を差していたからだ。2本も帯刀するのは少し珍しく感じた。

(それにしても...随分と酷い顔だな)

男の顔は傷だらけで、ザンバラ髪からチラリと見える眼光はとても鋭かった。一瞬俺の方を睨んでいるのかと思い、すぐに目を逸らしたがそういうわけではなさそうで、内心ほっとしていた。
俺の席に酒と肴が来たが、その男に目をつけられないように静かに飲むことにした。
その時、その男のことがどうも気になった理由がわかった。俺は町長の息子であり、それなりに質の良い着物を仕立てているからわかったのだが、男のその薄汚れた袴は上等な素材のように感じた。薄汚い浪人のような男が素材の良い袴を着ているのが少し不思議だった。

(まさか追い剥ぎや山賊の類じゃないだろうな)

もうその男を無闇に見るのをやめて、自分の酒に集中することにした。

「店主、勘定」

いつのまに席を立っていたのか。恐ろしく静かな、その男は、金を置いて店を出た。男のいた席の方を見ると、定食を食べていたようだ。とても綺麗な魚の骨が残った食器があった。
先ほど家であった我羅という男といい、この男といい変な奴らがこの町に増えていることに不安と苛立ちを覚えた俺は、酒はそこそこにして、散歩に出ることにした。

 夕暮れ時の通りを歩きながら、俺は今日見かけた二人の奇妙な男のことを考えていた。どう見てもゴロツキにしか見えない二人の男だったが、妙に品のようなものを感じたからだ。

「おっと、そろそろ日が暮れるな」

辻斬りなんぞに斬られるなんて最悪の死に方だからな。帰路につこうした時、呼び止められた。

「ちょっとお兄さん。この町の人だよね?聞きたいことがあるんだけど」

そう声をかけてきたのは、煙管を咥えた、随分と洒落た着物を着流している女のような顔の、若い男だった。声を聞かなければ女かと思うところだった。そして、女物のような桃の花を模したガラス細工の髪飾りがそれをより引き立てていた。

「はぁ、何か用で?」

「この辺りで美味しい甘味処はないか、知らないかな?できれば雑貨屋なんかも教えてほしいな」

そう言うと、花飾りの男は何かに気づいたように俺のことをじっと見た。

「お兄さん、良い着物着てるね。それ、高いんじゃない?でも最近は、男でもお洒落してなんぼだよね」

人懐っこそうな笑顔でそう捲し立てられ、少し面食らってしまった。

「まあ、それなりに金はあるからな。ところで甘味処と雑貨屋かい?それならどっちもあっちの方に良い店があるよ」

俺は帰り道の方にある店の方向へ、指を指してみせた。

「ちょうどそっちの通りに行く予定だから、案内してやろうか?」

花飾りの男は嬉しそうに頷いた。

「それは助かる。そうだ。よかったら一緒に甘味を食べていくかい?なに、お金持ちだからって、たかろうってわけじゃないよ」

そう笑いかける花飾りの男に、俺はこう言った。

「せっかくの誘いだがもう日が暮れる。この町は最近物騒でね。夜はあまり出歩かないほうが良いよ。店だって、最近は随分と早く店じまいするものさ」

「それは怖いね。そうか、それならもう店は閉まっているかもしれないね。なら明日の明るい時間にまた行こうかな。君ともまた会えたら嬉しいね」

「俺佐吉ってんだ。あんたは?」

俺はすっかりその明るい男に毒気を抜かれてしまって、そう尋ねた。

「犬神魅羅衣いぬがみみらいだ。また会えたなら今度は遊びに行こうね」

そういうと花飾りの男は、反対方向へと歩いていった。その時、犬神の気さくな雰囲気や長い肩がけの羽織で今まで気づかなかったが、男の腰には一本の刀が挿さっていた。

「あんなナリなのに剣士なのか」

おそらく犬神は浪人か何かだったのだろうが、他の浪人との雰囲気の違いに、俺は少し驚いた。
俺は、その日出会った3人の不思議な剣士のことを考えながら帰路についた。
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②山での調査
臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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①旅の剣士

 最近は夜遅くの外出は控えるようになっていた。町全体の空気がそれを許さなかった。最近、朝方に斬り殺された死体がいくつか見つかる事件が起きていたせいだ。

「最近は鬼が出るんじゃ。」

斜め向かいに住んでる婆さんは、この頃そればかり言う。鬼だの妖怪だの、そんな迷信めいたことばかり気にする町の老人たちが、俺は昔から気に食わなかった。
この町はここ数年で人口も増えてきたために、得体の知れないゴロツキのような浪人崩れが増えてきた。そんな連中の辻斬り行為だろうと、俺は思っていた。

「親父のやつが新政府の連中にヘコヘコしてるから、こんな物騒な奴らが来たんだよ」

俺は町長である親父への不満が溢れるようになっていた。

「佐吉!はよう来い!」

声の方を見ると、家の玄関から親父が俺を呼ぶ姿が見えた。

「佐吉、今日は新政府さんからお使いの方が来るから、早く帰ってこいと言っておっただろう」

「そんなこと俺に関係あるか!もてなしたいなら勝手にしてろよ」

「お気になさらず」

俺は突然会話に入ってきた低い声に驚いた。親父の後ろの戸から大男が出てきて、声をかけてきたのだ。

「お侍さん、申し訳ねえです。息子の佐吉です。お見苦しいところを—」

親父が話している男は随分と上背があり、顔の方は、見上げなければ見えそうになかった。
それ以上に目についたものは、そんな大男の身の丈と同等ほどの大きな刀を背負っていることだった。左肩からは大きな刀の柄が、突き出していた。その横から、凶悪な顔がこちらを見下ろしていた。

「鈴村佐吉さんですね。新政府から依頼されまして、こちらの町の治安調査に来ました我羅奇一がらきいちと申します」

俺は意外にも丁寧な言動をしたその男の迫力に押されて、へぇと情けない相槌を打つだけだった。

「さて町長殿。では早速、私は調査の方に行って参ります。何かあればまた相談に参ります」

我羅と名乗った男は、静かに頭を下げると去っていった。

「あれが新政府の役人?ゴロツキにしか見えなかったぞ」

親父はそう言った俺を諌めたが、否定はしなかった。

 親父は俺にこの町の案内を頼みたかったようだが、我羅と名乗ったあの男は、有無を言わせぬ迫力で一人通りの方へ行ったようなので、俺は暇になってしまった。
俺としても、あんなおっかない男と一緒に歩くのは勘弁だったのでちょうどよかった。そして俺は、親父の小言から逃げるように通りの食事処に行くことにした。

「大将いつもの」

昼から酒が飲めるこの店は、俺の行きつけだ。早速酒と肴を注文した。
その時昼時を過ごしすぎていた店内は、客が少なく俺ともう一人、隅の方に座っている男がいた。最近町に増えた浪人の一人だろうと思った。ただ、他の浪人とはどこか違って見えた。
汚れでくすんだ袴をきたその男は腰に2本の刀を差していたからだ。2本も帯刀するのは少し珍しく感じた。

(それにしても...随分と酷い顔だな)

男の顔は傷だらけで、ザンバラ髪からチラリと見える眼光はとても鋭かった。一瞬俺の方を睨んでいるのかと思い、すぐに目を逸らしたがそういうわけではなさそうで、内心ほっとしていた。
俺の席に酒と肴が来たが、その男に目をつけられないように静かに飲むことにした。
その時、その男のことがどうも気になった理由がわかった。俺は町長の息子であり、それなりに質の良い着物を仕立てているからわかったのだが、男のその薄汚れた袴は上等な素材のように感じた。薄汚い浪人のような男が素材の良い袴を着ているのが少し不思議だった。

(まさか追い剥ぎや山賊の類じゃないだろうな)

もうその男を無闇に見るのをやめて、自分の酒に集中することにした。

「店主、勘定」

いつのまに席を立っていたのか。恐ろしく静かな、その男は、金を置いて店を出た。男のいた席の方を見ると、定食を食べていたようだ。とても綺麗な魚の骨が残った食器があった。
先ほど家であった我羅という男といい、この男といい変な奴らがこの町に増えていることに不安と苛立ちを覚えた俺は、酒はそこそこにして、散歩に出ることにした。

 夕暮れ時の通りを歩きながら、俺は今日見かけた二人の奇妙な男のことを考えていた。どう見てもゴロツキにしか見えない二人の男だったが、妙に品のようなものを感じたからだ。

「おっと、そろそろ日が暮れるな」

辻斬りなんぞに斬られるなんて最悪の死に方だからな。帰路につこうした時、呼び止められた。

「ちょっとお兄さん。この町の人だよね?聞きたいことがあるんだけど」

そう声をかけてきたのは、煙管を咥えた、随分と洒落た着物を着流している女のような顔の、若い男だった。声を聞かなければ女かと思うところだった。そして、女物のような桃の花を模したガラス細工の髪飾りがそれをより引き立てていた。

「はぁ、何か用で?」

「この辺りで美味しい甘味処はないか、知らないかな?できれば雑貨屋なんかも教えてほしいな」

そう言うと、花飾りの男は何かに気づいたように俺のことをじっと見た。

「お兄さん、良い着物着てるね。それ、高いんじゃない?でも最近は、男でもお洒落してなんぼだよね」

人懐っこそうな笑顔でそう捲し立てられ、少し面食らってしまった。

「まあ、それなりに金はあるからな。ところで甘味処と雑貨屋かい?それならどっちもあっちの方に良い店があるよ」

俺は帰り道の方にある店の方向へ、指を指してみせた。

「ちょうどそっちの通りに行く予定だから、案内してやろうか?」

花飾りの男は嬉しそうに頷いた。

「それは助かる。そうだ。よかったら一緒に甘味を食べていくかい?なに、お金持ちだからって、たかろうってわけじゃないよ」

そう笑いかける花飾りの男に、俺はこう言った。

「せっかくの誘いだがもう日が暮れる。この町は最近物騒でね。夜はあまり出歩かないほうが良いよ。店だって、最近は随分と早く店じまいするものさ」

「それは怖いね。そうか、それならもう店は閉まっているかもしれないね。なら明日の明るい時間にまた行こうかな。君ともまた会えたら嬉しいね」

「俺佐吉ってんだ。あんたは?」

俺はすっかりその明るい男に毒気を抜かれてしまって、そう尋ねた。

「犬神魅羅衣いぬがみみらいだ。また会えたなら今度は遊びに行こうね」

そういうと花飾りの男は、反対方向へと歩いていった。その時、犬神の気さくな雰囲気や長い肩がけの羽織で今まで気づかなかったが、男の腰には一本の刀が挿さっていた。

「あんなナリなのに剣士なのか」

おそらく犬神は浪人か何かだったのだろうが、他の浪人との雰囲気の違いに、俺は少し驚いた。
俺は、その日出会った3人の不思議な剣士のことを考えながら帰路についた。
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②山での調査
臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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