③船上の攻防
俺は腰に差した二本の刀、その上の一本の柄を軽く握り、抜刀の構えを取る。
船はさらに揺れる。しかし、転覆するほどの揺れではない。
(わざわざ餌をちらつかせて、俺を誘き出そうとするあたり、船を転覆させる力はないのか?)
その瞬間、俺の真下から三又の刃が、船底を突き破ってきた。
俺は紙一重で、後方へ飛び退いた。そして、その三又の武器は突き刺さったまま、今度は水かきのついた手が海面から伸びてきた。そして、異形な姿が船によじ登ってくる。
ひどく痩せた人間のような体格をしたその妖怪は、全身が薄く青い鱗のような肌質で、身体中に、体毛のように海藻が生えている。
俺はその姿を確認すると同時に、船が傾くほど強く踏み込み、妖怪に迫る。
そして、その勢いを殺さない速度で、低い姿勢のまま抜刀し、斬り込む。
妖怪は飛び退いて避けようとしたが、俺の居合の方が速い。首を狙ったその斬撃は、船の傾きのせいでわずかに逸れ、妖怪の左目を斬り裂く。
(...浅いか)
左目を押さえながら、俺を睨みつける妖怪に怯む様子はない。しかし、残った右目からは激しい怒りを滲ませている。
「...貴様、ただの人間ではないな?」
「ただの人間だ」
俺は答える。
「ただの貴様より強い人間だ」
妖怪は海へ飛び込む。そして、刺さっていた三又の刃も海中へ消える。
その穴からは海水が流れ込んでくる。俺は縄で縛っていた後ろの小舟に飛び乗る。そして、あらかじめ船に乗せておいた袋を持つ。この袋は、俺と同程度の重さになるよう砂利を詰めている。
その袋を、さらに後ろに繋いである船へ投げ込む。
そして、すぐに砂利を投げ込んだ船が、先ほどの武器で何度も貫かれる。
俺は辺りを警戒しながら、静かにその船を見続ける。
やがて、さっきの妖怪がまた船に乗り込もうと這い上がってくる。今度は、反撃を警戒したように慎重な動きだ。
そして、俺は右手に刀を握り、その妖怪がのぞいている船に飛び乗る。さらに着地する瞬間、その妖怪を斬りつける。
妖怪の左腕が船に転がる。
(まだ浅いか。しかし、今度は逃がさん)
俺はすかさず、妖怪の心臓に狙いを定め、刀で突く。
しかしその瞬間、突然刀を弾かれる。横から曲刀のような刃で、俺の刀を止めた。そして同時に、さらにもう一本の曲刀が、俺に振り下ろされている。
俺はとっさに後ろへ飛び、船の後方へと距離をとる。
「...二体いたのか」
左手を失って苦しんでいる妖怪の前に、少しだけ、鱗の色が紫がかった同じ姿の妖怪が立ち塞がっている。その妖怪は二本の曲刀を構えている。
「おいおい、どうした、蒼鱗よ。やられているではないか」
「ああ、油断した。まさか船を飛び移ったと思わせてくるとは...。紫鱗、こいつなかなかやるぞ」
蒼鱗と呼ばれた妖怪は、残った右腕で、さっきまで船を突き刺していた三又の槍を拾い上げて、俺を見る。
左腕の出血は塞がりつつある。
「ちょうど良い。俺の名は明智駒之助忠康。貴様ら、城龍という妖怪について、知っていることがあれば話せ」
妖怪たちは少し驚いたように反応する。
「知ってどうする?」
「貴様らには関係ない」
「おい紫鱗よ、こいつあの明智じゃないか?」
妖怪たちは俺のことをじっと見つめる。
「なるほど、十年近く我ら妖怪を付け狙い、殺す者。明智か」
俺はこの近くで妖怪を殺したことはない。つまり、上級妖怪はなんらかの手段で遠方と情報共有をしている。
俺はそのことに驚いた。
「...!貴様ら妖怪は独自の連絡手段があるのか」
俺は腰に差したままのもう一刀を抜き、二刀での構えを取る。
「つまり、貴様らから城龍について聞き出せるかもしれないということか」
二体の妖怪は薄い膜の張った目を細め、大きな口を歪ませた。
静かに笑ったその口には鮫のように不揃いな牙が大量に見える。