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⑤月明かりの決着

 紫鱗はすっかり暗くなった町にいる。額から血を流しながらも、その傷はすでに塞がりつつある。

「明智め、出し抜いてやったぞ。貴様はせいぜい何もいない海と睨めっこでもしてるんだな」

紫鱗と蒼鱗は、異能で魚をある程度操作することができる。それを使い、明智を海に釘付けにした上で、陸上からの逃走を図っていた。
陸上での活動も可能な妖怪であることを隠すことが、紫鱗と蒼鱗の擬態行動の一つだった。

「今は逃げるしかないが、必ず明智の左目と左腕はもらう。そしてその命も全て、蒼鱗のために喰らい尽くしてやる」

長期戦の不得意な紫鱗は、額の傷も癒しながら体力を回復させている。そして、人混みを避けるため、建物の屋根へ登り、ゆっくりと町から離れつつある。
その時、紫鱗は突然吹き飛ぶ。
何が起こったのかわからない紫鱗は、激しい痛みで自身の腹を見る。
そして、異変に気づく。

「こ、これは、明智の...刀?」

見覚えのある一本の刀が紫鱗の腹に突き刺さっている。

「待て。俺はまだ、お前から情報と命をもらってないぞ」

紫鱗の目の前には、ずぶ濡れの明智が月明かりに照らされている。


「貴様、何で...ここに?」

急所を外れた投擲で、絶命を免れた曲刀の妖怪は俺にそう問う。
俺は息切れをしながら答える。

「貴様が陸上活動可能なのは最初からわかっていた」

「なん...だと?」

「被害者が船乗りだけではなく、海沿いに住む一般人もいたからだ。海に出ることのない赤子や老人も失踪していたことから、ある程度は陸上も動けるとは思っていた」

「...そうか」

曲刀の妖怪は腹に突き刺さった俺の刀を抜き、屋根の下へ落とす。そして、二本の曲刀を構えて、俺を見る。

「どうやってここまできた?櫂かいは切り裂いたはず」

そう言うと、一気に俺へ距離を詰めて左右から曲刀を振り下ろす。
俺は残った一刀を妖怪の心臓を狙い、突きを放つ。
妖怪は心臓を貫かれたが、振り下ろされた曲刀は止まることなく、俺の両肩へ食い込む。

「...っぐ」

俺は折れた櫂かいを両肩へ防具として仕込んでいた。だが、妖怪の渾身の一撃を完全には防げず、両肩から流血する。
俺は左右の手のひらを握ってみる。とりあえず、神経は繋がっているようだと安心する。

「どうやってここまで来たか、だったな。泳いだ」

死にかけの妖怪は少し驚いた顔をする。
しかし、心臓を貫いたことで、吐血する妖怪は満足に返事はできない。

「質問には答えた。今度は貴様が答えろ。城龍について知っていることを言え」

血まみれの口をわずかに歪ませ、妖怪は笑う。

「...知っていることなど、ない。...ただ最強の妖怪との...噂はあるがな」

妖怪はさらに吐血し、苦しそうに笑みを浮かべる。

「貴様は...いつか、城龍に...殺される...だろう。...蒼鱗...と、あの世から見ていてやる」

「そうか」

俺は妖怪の首を刎ねた。


「おい、我羅」

俺は夜の町を調査している我羅を見つけ、声をかけた。

「明智?お、お前どうしたんだ、その傷!それに、何でずぶ濡れなんだ?」

簡単な止血しかしていない両肩からは、まだ血が滲んでいる。それに、両袖も少し破れている。

「ああ、とりあえず調査は終わっていい。両肩の治療に付き合え」

俺は我羅と宿へ戻る。その道すがらこれまでの経緯を説明する。

「上級が二体も?」

宿に着いて、治療を始めた我羅がそう驚く。

「それに遠方との連絡手段もあると?」

「ああ、それが何かは聞き出せなかったが、この頃、俺の名をやたらと知っている妖怪が多い理由は腑に落ちた」

我羅は驚きながら答える。

「つまり、一部の妖怪が持つ異能の力によるものの可能性があるということか」

「人間のように飛脚がいるだけかもしれんが、まあ、異能によるものだと考えた方がしっくりくる」

俺はそう答える。
そして、我羅はじっと考え込む。

「妖怪の異能は殺戮能力を特化させるための習性ではないのか...」

そう言い終えると同時に、ちょうど俺の治療を終えた我羅は、悩みながら黙って腕を組む。
俺も同じように驚いている。異能を持つ妖怪は今まで全て、殺すことにつながる能力だったからだ。

「実は今まで殺した妖怪にも、戦闘で使えないだけで、何かの異能を持つ者もいたのかもしれんな」

我羅はそう納得した様子だった。

「ところで犬神は?」

「ああ、今日は夜まで飲むと言っていた」

それを聞いた俺は、我羅をじっと見る。
この男は犬神の習性を知っていて、それでも自由に行動させている。
犬神がどんなことをしようと、最後には自分自身で責任を取ると考えているのだろうか。

(この男には敵わんな)

俺はその言葉を口に出すことは決してないが、少しこの不器用で真っ直ぐな男を羨ましく思う。

「この町の妖怪は退治したが、明日出発するとは言うなよ。傷がまだ痛む」

我羅は「わかったよ」と言うと、自分の部屋へ戻った。

(犬神のやつがこの傷を見たら、馬鹿にしそうだな)

俺は眠りにつく。

 翌朝、俺は手入れしたばかりの刀が海水でびしょ濡れだったことを思い出す。
今日もまた、俺は刀の手入れを始める。


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臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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⑤月明かりの決着

 紫鱗はすっかり暗くなった町にいる。額から血を流しながらも、その傷はすでに塞がりつつある。

「明智め、出し抜いてやったぞ。貴様はせいぜい何もいない海と睨めっこでもしてるんだな」

紫鱗と蒼鱗は、異能で魚をある程度操作することができる。それを使い、明智を海に釘付けにした上で、陸上からの逃走を図っていた。
陸上での活動も可能な妖怪であることを隠すことが、紫鱗と蒼鱗の擬態行動の一つだった。

「今は逃げるしかないが、必ず明智の左目と左腕はもらう。そしてその命も全て、蒼鱗のために喰らい尽くしてやる」

長期戦の不得意な紫鱗は、額の傷も癒しながら体力を回復させている。そして、人混みを避けるため、建物の屋根へ登り、ゆっくりと町から離れつつある。
その時、紫鱗は突然吹き飛ぶ。
何が起こったのかわからない紫鱗は、激しい痛みで自身の腹を見る。
そして、異変に気づく。

「こ、これは、明智の...刀?」

見覚えのある一本の刀が紫鱗の腹に突き刺さっている。

「待て。俺はまだ、お前から情報と命をもらってないぞ」

紫鱗の目の前には、ずぶ濡れの明智が月明かりに照らされている。


「貴様、何で...ここに?」

急所を外れた投擲で、絶命を免れた曲刀の妖怪は俺にそう問う。
俺は息切れをしながら答える。

「貴様が陸上活動可能なのは最初からわかっていた」

「なん...だと?」

「被害者が船乗りだけではなく、海沿いに住む一般人もいたからだ。海に出ることのない赤子や老人も失踪していたことから、ある程度は陸上も動けるとは思っていた」

「...そうか」

曲刀の妖怪は腹に突き刺さった俺の刀を抜き、屋根の下へ落とす。そして、二本の曲刀を構えて、俺を見る。

「どうやってここまできた?櫂かいは切り裂いたはず」

そう言うと、一気に俺へ距離を詰めて左右から曲刀を振り下ろす。
俺は残った一刀を妖怪の心臓を狙い、突きを放つ。
妖怪は心臓を貫かれたが、振り下ろされた曲刀は止まることなく、俺の両肩へ食い込む。

「...っぐ」

俺は折れた櫂かいを両肩へ防具として仕込んでいた。だが、妖怪の渾身の一撃を完全には防げず、両肩から流血する。
俺は左右の手のひらを握ってみる。とりあえず、神経は繋がっているようだと安心する。

「どうやってここまで来たか、だったな。泳いだ」

死にかけの妖怪は少し驚いた顔をする。
しかし、心臓を貫いたことで、吐血する妖怪は満足に返事はできない。

「質問には答えた。今度は貴様が答えろ。城龍について知っていることを言え」

血まみれの口をわずかに歪ませ、妖怪は笑う。

「...知っていることなど、ない。...ただ最強の妖怪との...噂はあるがな」

妖怪はさらに吐血し、苦しそうに笑みを浮かべる。

「貴様は...いつか、城龍に...殺される...だろう。...蒼鱗...と、あの世から見ていてやる」

「そうか」

俺は妖怪の首を刎ねた。


「おい、我羅」

俺は夜の町を調査している我羅を見つけ、声をかけた。

「明智?お、お前どうしたんだ、その傷!それに、何でずぶ濡れなんだ?」

簡単な止血しかしていない両肩からは、まだ血が滲んでいる。それに、両袖も少し破れている。

「ああ、とりあえず調査は終わっていい。両肩の治療に付き合え」

俺は我羅と宿へ戻る。その道すがらこれまでの経緯を説明する。

「上級が二体も?」

宿に着いて、治療を始めた我羅がそう驚く。

「それに遠方との連絡手段もあると?」

「ああ、それが何かは聞き出せなかったが、この頃、俺の名をやたらと知っている妖怪が多い理由は腑に落ちた」

我羅は驚きながら答える。

「つまり、一部の妖怪が持つ異能の力によるものの可能性があるということか」

「人間のように飛脚がいるだけかもしれんが、まあ、異能によるものだと考えた方がしっくりくる」

俺はそう答える。
そして、我羅はじっと考え込む。

「妖怪の異能は殺戮能力を特化させるための習性ではないのか...」

そう言い終えると同時に、ちょうど俺の治療を終えた我羅は、悩みながら黙って腕を組む。
俺も同じように驚いている。異能を持つ妖怪は今まで全て、殺すことにつながる能力だったからだ。

「実は今まで殺した妖怪にも、戦闘で使えないだけで、何かの異能を持つ者もいたのかもしれんな」

我羅はそう納得した様子だった。

「ところで犬神は?」

「ああ、今日は夜まで飲むと言っていた」

それを聞いた俺は、我羅をじっと見る。
この男は犬神の習性を知っていて、それでも自由に行動させている。
犬神がどんなことをしようと、最後には自分自身で責任を取ると考えているのだろうか。

(この男には敵わんな)

俺はその言葉を口に出すことは決してないが、少しこの不器用で真っ直ぐな男を羨ましく思う。

「この町の妖怪は退治したが、明日出発するとは言うなよ。傷がまだ痛む」

我羅は「わかったよ」と言うと、自分の部屋へ戻った。

(犬神のやつがこの傷を見たら、馬鹿にしそうだな)

俺は眠りにつく。

 翌朝、俺は手入れしたばかりの刀が海水でびしょ濡れだったことを思い出す。
今日もまた、俺は刀の手入れを始める。


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臥竜の剣―妖討滅道中記―作者:水原 天敵
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