第8話 病弱ってイメージつけられたくないから!
4月2日の午後、緋那は優の入院している病院まで来ていた。午前中に気を利かせてくれた優の母親から面会許可が出た事と、病室の番号がメッセージで送られてきた。
午後に寄らせてもらうと返事をし、近くの花屋でお見舞い用の花を買う。
そして病院に着くと聞いていた病棟のフロアまで行き、ナースステーション内にいる看護師に一応声をかける。病室の番号と先程検査が終わって部屋にいると情報を聞き、お礼をして聞いた病室に向かう。
そして、病室の番号とネームプレートを確認してから扉をノックする。個人部屋だと聞いている為、ここを訪れても他人に迷惑をかける事はない。それに安心感を抱いた。
「はーい、開いてるよー」
中からいつもと変わらない元気な優の声が聞こえる。扉を開けるとベッドの上で体を起こし、テレビを見ている優がいた。
優は緋那の顔を見るとぱぁーと顔を明るくさせた。窓からは太陽の光が降り注いでおり、一段と優の顔が輝いて見える。
「何!? ひなた、もしかしてフルーツの盛り合わせ持ってきてくれたの!?」
「そんなわけないだろ、小遣いでそんなの買えるかっ。花束もギリギリまで迷ったんだよ!!」
普段と変わらない優の様子に緋那もいつも通りに返答していた。そして持ってきた花束を優に渡す。
花を受け取った優は花束に鼻を近づけ匂いをかく。鼻腔を花のいい匂いが通過した。それを見て、緋那は無意識に詰めていた息を吐く。
「うーん、花も綺麗で好きだけど、フルーツが良かった。高級フルーツ......」
花を受け取りながらも残念そうに呟く優。あまりにも昨日倒れたとは思えない様子に緋那は眩暈がした。優は文句を言いながらも嬉しそうに花束に顔を近づけ、花の匂いを楽しむ。
「いやぁー、昨日今日と消毒の匂いばっかりだったから癒されるかも、そう考えるとひなたでかした!」
「舌の根も乾かないうちに、そうなるのか、お前は......」
病室に緋那が入ってまだそんなに経過していないが既に優が昨日倒れて検査入院中の病人だというのを緋那は忘れかけた。
それぐらい優は普段と変わらない。どこまでも文月優だった。安心感を感じながらも、倒れたと聞いた日に感じた底知れぬ恐怖を思い出す。
「体は大丈夫なのか?」
しばらく変わらぬ優の様子に呆れていたが、自分がここに来た理由を思い出し、今更ながら質問した。
すると優は花束を机の上に置き、両手をそれぞれピースの形にして緋那の方に向ける。
「だいじょーブイ」
そして変わらない笑顔で答えた。その様子にため息と共に無意識に込めていたらしい体の力も一緒に抜けていく。
それを見て優が安心させるように笑う。
「原因はわかんなかったんだけど、検査して全部異常なし! 明日には退院できるよ。高校の入学式に間に合うね! やったー」
楽しそうに話す優に緋那も笑顔を見せる。優の左腕に固定されている点滴がどこか元気な優を見ているとアンバランスに見える。
「検査して異常がなかったのは良かったけど、でも原因わからないのは少し怖いな」
「まぁ、定期的に通院する事になったから、そんなに深刻に心配しなくても大丈夫だよ。ひなたは他に私が入院した事言ったりした?」
「言うわけないだろ、個人情報だ」
「だよね! 流石ひなた。高校入学しても皆んなに秘密にしてね。これで病弱ってイメージつけられたくないから!」
胸を張って言う優に、その性格と言動で病院に行ってるからって病弱だと思う奴ほとんどいないと思ったが緋那はそれを口にするのは堪える。心では異常がなかった事に安堵し、一緒にこれまで通りに高校も通える事に喜んでいた。
「言わないよ。別にわざわざ言うことでもないし、聞かれる事もないだろうしな。春休みずっと入院してたならまだしも、検査入院の2泊なんてさ」
そして自分の嘘偽りない思いを言葉にする。すると優は嬉しそうに微笑む。
「流石ひなた! 私の第3の保護者! ひゅーひゅー」
「その言い方、オカンの次にやめろっていつも言ってんだろ!?」
聞き捨てならない発言に緋那は思わず大声を出す。そして個室とは言え病室だと思い出し、慌てる。病院で大声はダメだろうと軽く落ち込む。
しかしそんな緋那の落ち込みなど気づかない優は怒鳴られても笑いながら口笛を吹く。
「......優、ここ病院だからな? 他の人の迷惑になるんだから大声を出させる事は言うな? わかるな?」
「ひなたが大声を出さなければいい話じゃん。私、入院してる病人だよ? なんで、ひなたに気を使わないといけないの?」
「おい、こら。さっきは病弱に思われたくない言ってただろ?」
「えっ、そんなこと言った?」
「おい、入学式でこいつ数日前に入院してたから気にかけてくれって言ってやろうか」
「酷い! ひなたは私を脅すの!?」
「だから、病院だから大声出すなよ」
泣き真似をしながら喚く優に緋那は頭を抱えた。いつも通り会話を噛み合わせる気のない優にもう呆れるしかない。これで高校生になって大丈夫なのか? 改めて心配になってくる。
「ひなた、明日退院祝いにケーキ買ってきてね」
「この流れでなんで頼めると思ったんだよ......」
いつも通りの言葉の応酬をしているといつの間にか面会時間の終わりが近づいてきていた。徐々に窓の外から見える風景が赤く染まってきている。お別れの時間が近づいている事に気づいた。
「そろそろ帰るな。大人しくして、看護師さんたちに迷惑かけるなよ」
「はーい、ひなた母さんわかりました!」
「お前は俺を怒らせたいのか?」
ニヤニヤと笑いながら言う優の頭を思わず癖で叩きそうになり、慌てて左手を止める。それを見て、今なら叩かれない!? と優は嬉しそうに言う為、額にデコピンをお見舞いする。
「痛い! ひなた酷い」
「酷くないだろ」
そんな会話を交わし、そろそろ本当に時間がやばいと緋那は優の病室を後にした。