ホーム不条識な狼の理(下)♗67
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♗67

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 偵察から戻ってきたヒカミが天井の通気口から降りてきた。服を叩くと、埃が広がる。
「二人と一人に分かれて行動って感じだな。」
 場所が場所、廃劇場なだけあって、通気口から舞台上の照明設備まで行けるというヒカミの予想は正しかったみたいだ。
 持ち前の身軽さと小さい身体で、通気口に入り込み、構造と状況を見てきたヒカミは作戦を語る。
「まずハクスイは舞台上だ。手を後ろに縛られて、だいぶボコられてるな。命に別条は無いが、自力で逃げられるかといえば多分無理だ。縛られているわけだし。そこでの敵は一人。まあ女を舞台上にあげて暴行加える奴だから、話し合いでの解決は多分厳しそうだ。
 んで、舞台袖側の楽屋に五人。多分あいつらは小物だな。雇われのゴロツキ。
 ハクスイが吐くだけ吐いたら、あとはハクスイの事好きにして良いって約束らしくて待っているんだとよ。」
 うっわ。趣味悪い。本当にそういう世界があるんだ。
「だから、楽屋側に二人で攻める。二対五であんまし血生臭い事はしたくないが、とりあえず、多少暴力的でも、五人を止める。正直言って複数対決だから難易度はまあ高いと思う。
 そして、もう一人はハクスイを助けに行く。一対一だから一見簡単そうに見えるが、あの状況下でもハクスイの事殴り続ける男だから多分ロクな神経してねえ。結構本気で戦う事になると思う。結局、どっちに分かれても難易度は同じくらいだ。
 ただ、ハクスイを助けに行く側に至っては、おれかキアラさんに限定されるな。
 多分サクの身体の大きさだと、ギリギリ、通気口を通れない。理想は通気口を通って、舞台上照明の梁を通って、そこから、一番不意打ちをかけれる所から降りれば良い。」
『じゃあ、あたしは有無を言わず、楽屋で喧嘩してくれば良いのね。』
 なんか今までそんなことなかったから、怖いとか通り越して、ハイになって楽しんでいる自分がいるのは確か。
「おいおい楽しそうだな。サク。新しい斧を試したい気持ちはわかるが、殺すなよ。それは対人間に対しては脅す用だからな。
 問題は、キアラさん。理想論でいえば、今のサクならそれなり頼りになるし、キアラさんが楽屋、俺が舞台側の方が、安全牌だ。でもまあ、選びなよ。ハクスイを助けに行きたいかどうか。」
 予想外だった。いつだって冷静で一番成功率が高いものを選択していく筈のヒカミが、キアラの感情論を察して、選択を促している。
「質問です。京香さんの縛られているというのは、本当に手だけですよね。足は縛られていないですよね。」
「ああ、足は無事だった。どこか刺された感じもしない、殴られまくっているだけだから、手の縄さえ切ってやれれば、あいつは自力で何とでもなる。」
「でしたら、わたしが出来るだけ、舞台照明の通路の、なるべく京香さんに近い位置から降りて、京香さんが縄を切るまで、その男から京香さんを護り切ればミッションクリアってことですよね?」
「そうだな。一対一で戦い続けるより、とっととハクスイを解放して二対一に持ち込む方が安全だな。あれだけボコられていたら、動きは鈍いだろうが。あのおっかねえ女が殴られて黙っている奴ではないのは確かだ。」
 確かに、嘗て学校でも大問題になった集団リンチ事件での時のハクスイの鬼人っぷりはなかった。この世のものとは思えない猛攻だったからね。あれ全部ヒカミがやった事にしてヒカミだけ停学になったんだけど......やっぱり功利主義のヒカミにしては何か変だ。
「でしたら。すみません。ヒカミさんが行く方が確実というのを頭ではわかっているんですが、わたしに京香さんを助けさせてもらえないですか?」
 言葉だけ聞いたら頼りない感じがするが、実際キアラの顔を見ながら言われると、確固たる強い意思を感じた。今までのキアラにはなかった姿だ。
「そう言うと思って、聞いたんだ。下手こくなよ。」
「ありがとうございます。絶対護ります。」
『ヒカミにしては珍しいね。』
「あーなんつーのかな。ちょっと色々考え事があってさ、今までずっと何度経験した人生でもずっと上手くいかなかったのって、周りの意見聞かなかったせいなのかなって考えていて。おれはいつも残酷な判断ばかりしてしまうんだ。その場にある駒と前例とで最善の判断をって。当事者の感情を考える事なんてなかった。
 捨て駒1を殺して、99を救えるならそれが最善って。
 それでも、多少は妥協して、3を負傷で97を救うってのも場合によってはありなのかなって。
 キアラさんが、おれにそうしてくれたように。」

 あたしも電話の盗み聞きでしか知らないけど、結局キアラが死神二場と交わした契約というのが、あたしとハクスイと歩の三人で魂一つ分に値する対価。キアラは自らの魂を対価として支払う。そんな話だった。この辺の事情はまだよく分からないんだけど、キアラは訳あって支払いが後回しになっているからまだ生きている。らしい。
 その事があっての事で、ヒカミはこんならしくない態度なんだろうか。
 だって多分。あたしとヒカミの方がどう考えても強い。それなのに、ここでキアラに行かせるという選択は、キアラの負傷覚悟ってことでの選択だと思う。
 それでも、キアラを行かせても良いというヒカミの判断。キアラも自分で行くより、ヒカミに行かせた方が確実に成功率は高いってわかっているのに。キアラが自分の意思で行きたいって言うのは......
『キアラ。ハクスイの事好きなの?』
 今聞くべき質問では無かったんだろうけど、あたしは思わず聞いてしまった。
 しかし、キアラの返答は予想外に、あたしの知っている一年前のキアラと同じ答えだった。
「何を言っているんですか?わたしは白水京香様のファンなだけですよ。ファンとして、助けに行けるチャンスはもう二度とないかもしれないですからね。美味しいクジをひいただけです。」
 そうやって冗談っぽく笑うのだ。
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不条識な狼の理(下)作者:駿河鵬命
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 偵察から戻ってきたヒカミが天井の通気口から降りてきた。服を叩くと、埃が広がる。
「二人と一人に分かれて行動って感じだな。」
 場所が場所、廃劇場なだけあって、通気口から舞台上の照明設備まで行けるというヒカミの予想は正しかったみたいだ。
 持ち前の身軽さと小さい身体で、通気口に入り込み、構造と状況を見てきたヒカミは作戦を語る。
「まずハクスイは舞台上だ。手を後ろに縛られて、だいぶボコられてるな。命に別条は無いが、自力で逃げられるかといえば多分無理だ。縛られているわけだし。そこでの敵は一人。まあ女を舞台上にあげて暴行加える奴だから、話し合いでの解決は多分厳しそうだ。
 んで、舞台袖側の楽屋に五人。多分あいつらは小物だな。雇われのゴロツキ。
 ハクスイが吐くだけ吐いたら、あとはハクスイの事好きにして良いって約束らしくて待っているんだとよ。」
 うっわ。趣味悪い。本当にそういう世界があるんだ。
「だから、楽屋側に二人で攻める。二対五であんまし血生臭い事はしたくないが、とりあえず、多少暴力的でも、五人を止める。正直言って複数対決だから難易度はまあ高いと思う。
 そして、もう一人はハクスイを助けに行く。一対一だから一見簡単そうに見えるが、あの状況下でもハクスイの事殴り続ける男だから多分ロクな神経してねえ。結構本気で戦う事になると思う。結局、どっちに分かれても難易度は同じくらいだ。
 ただ、ハクスイを助けに行く側に至っては、おれかキアラさんに限定されるな。
 多分サクの身体の大きさだと、ギリギリ、通気口を通れない。理想は通気口を通って、舞台上照明の梁を通って、そこから、一番不意打ちをかけれる所から降りれば良い。」
『じゃあ、あたしは有無を言わず、楽屋で喧嘩してくれば良いのね。』
 なんか今までそんなことなかったから、怖いとか通り越して、ハイになって楽しんでいる自分がいるのは確か。
「おいおい楽しそうだな。サク。新しい斧を試したい気持ちはわかるが、殺すなよ。それは対人間に対しては脅す用だからな。
 問題は、キアラさん。理想論でいえば、今のサクならそれなり頼りになるし、キアラさんが楽屋、俺が舞台側の方が、安全牌だ。でもまあ、選びなよ。ハクスイを助けに行きたいかどうか。」
 予想外だった。いつだって冷静で一番成功率が高いものを選択していく筈のヒカミが、キアラの感情論を察して、選択を促している。
「質問です。京香さんの縛られているというのは、本当に手だけですよね。足は縛られていないですよね。」
「ああ、足は無事だった。どこか刺された感じもしない、殴られまくっているだけだから、手の縄さえ切ってやれれば、あいつは自力で何とでもなる。」
「でしたら、わたしが出来るだけ、舞台照明の通路の、なるべく京香さんに近い位置から降りて、京香さんが縄を切るまで、その男から京香さんを護り切ればミッションクリアってことですよね?」
「そうだな。一対一で戦い続けるより、とっととハクスイを解放して二対一に持ち込む方が安全だな。あれだけボコられていたら、動きは鈍いだろうが。あのおっかねえ女が殴られて黙っている奴ではないのは確かだ。」
 確かに、嘗て学校でも大問題になった集団リンチ事件での時のハクスイの鬼人っぷりはなかった。この世のものとは思えない猛攻だったからね。あれ全部ヒカミがやった事にしてヒカミだけ停学になったんだけど......やっぱり功利主義のヒカミにしては何か変だ。
「でしたら。すみません。ヒカミさんが行く方が確実というのを頭ではわかっているんですが、わたしに京香さんを助けさせてもらえないですか?」
 言葉だけ聞いたら頼りない感じがするが、実際キアラの顔を見ながら言われると、確固たる強い意思を感じた。今までのキアラにはなかった姿だ。
「そう言うと思って、聞いたんだ。下手こくなよ。」
「ありがとうございます。絶対護ります。」
『ヒカミにしては珍しいね。』
「あーなんつーのかな。ちょっと色々考え事があってさ、今までずっと何度経験した人生でもずっと上手くいかなかったのって、周りの意見聞かなかったせいなのかなって考えていて。おれはいつも残酷な判断ばかりしてしまうんだ。その場にある駒と前例とで最善の判断をって。当事者の感情を考える事なんてなかった。
 捨て駒1を殺して、99を救えるならそれが最善って。
 それでも、多少は妥協して、3を負傷で97を救うってのも場合によってはありなのかなって。
 キアラさんが、おれにそうしてくれたように。」

 あたしも電話の盗み聞きでしか知らないけど、結局キアラが死神二場と交わした契約というのが、あたしとハクスイと歩の三人で魂一つ分に値する対価。キアラは自らの魂を対価として支払う。そんな話だった。この辺の事情はまだよく分からないんだけど、キアラは訳あって支払いが後回しになっているからまだ生きている。らしい。
 その事があっての事で、ヒカミはこんならしくない態度なんだろうか。
 だって多分。あたしとヒカミの方がどう考えても強い。それなのに、ここでキアラに行かせるという選択は、キアラの負傷覚悟ってことでの選択だと思う。
 それでも、キアラを行かせても良いというヒカミの判断。キアラも自分で行くより、ヒカミに行かせた方が確実に成功率は高いってわかっているのに。キアラが自分の意思で行きたいって言うのは......
『キアラ。ハクスイの事好きなの?』
 今聞くべき質問では無かったんだろうけど、あたしは思わず聞いてしまった。
 しかし、キアラの返答は予想外に、あたしの知っている一年前のキアラと同じ答えだった。
「何を言っているんですか?わたしは白水京香様のファンなだけですよ。ファンとして、助けに行けるチャンスはもう二度とないかもしれないですからね。美味しいクジをひいただけです。」
 そうやって冗談っぽく笑うのだ。
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