ホーム不条識な狼の理(下)♗77
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♗77

♗77
 材料は揃った。あたしたちが本当にやるべき事がここで決まる。
「この創られた3.5次元世界のシステム。わたしたちが本来いた3次元世界大和国。そして二場三命。全てを救う願い事を考えました。結論から言うと、一人のクリアだと最低限しか救えません。」

第一の願い
【こちらの3.5次元上で死亡した、全ての魂は3次元世界へと還り、元あった肉体に戻る】

「もともと、問題になっていたのが、こちらで死んだ魂は永遠に3次元世界に戻らず、3次元世界のわたしたちの肉体は植物人間のままという話でした。きっと佐竹がこちらの世界を繁栄させる為にあとから書き換えたのでしょう。こちらの世界で生きる事に執着するように。一番重要なのは個々の願い事ではないです。如何に元の世界に戻れる世界を創るかです。」
「なるほど、考えたな。『死亡した全ての魂』と明言することによって、過去に死んだ魂も、歩も元の世界に帰れるってわけだ。」
「その通りです。ヒカミさん。ただ、一つだけ問題があります。これは先ほど重大なのは願い事ではないと言った手前、変なんですが、二人目の願い事以降は、完全に願い事となります。なぜなら、一人目の願いだけでは、」
 キアラは、一呼吸おいて。ウイスキーで口を湿らせてから語り出した。
「今、ここで話しているわたしたち。全員この世界での記憶を失います。」
 へ?なんで?
「そうか。そういう事か。」
 ヒカミはやっぱり一瞬で理解したようだった。あたしは分からない。
「賢いですね。ヒカミさん。
 樫山さん。先ほど、こちらの世界で死んだら、この魂が元の世界の肉体に戻るって話でしたよね。
 つまり、わたしたちは今こちらの世界では異形ですが、元の3次元世界には元の人間の肉体があります。」
『うん。だからあたしは狼じゃなくて人間に戻れるってことでしょ。』
「その通りです。ですが、記憶って〔脳〕に記憶されるんですよ。」
 つまりそれは。
「多分、わたしの身体は、自室で寝ていて、起きた時には、そういえば招待状とか変な紙を貰って、気が付いたら寝ていたなぁと思いながら、普通に夕食を食べてまた原稿を進めると思います。
 田中ヒカミさん。樫山さくらさん。余村歩さん。このロッカンバーテンズ。
 そして、京香さんと過ごした掛け替えの無い日々は、元の3次元世界のわたしの肉体に入ってる〔脳〕には無い記憶となります。」
『忘れちゃうの......?みんなで猪食べに行こうって約束したことも、歩が貴志さんと再会出来た事も。
 辛くて怖くて、嫌なこといっぱいあったけど、全部忘れて卒業式出席するの?そんなの嫌だよ。』
 あたしは月並みの言葉。薄っぺらい言葉しか並べることが出来なかったけど。今目の前にいるキアラの事も、この絶望的ながらも信じて強くなった日々、ヒカミとハクスイへの信頼。この一年一ヶ月を忘れてしまうという事実がただただ怖かった。
「それはわたしも同じです。樫山さん。わたしもそれが一番辛いんですよ。」

第二の願い
【ゴールした者は、記憶を継承したまま魂は3次元世界へと還り、元あった肉体に戻る】

「なるほど。第一希望は世界の平和。第二希望が私たちの平和ってことね。これが通れば、実質失うものってのは、私の最初の一ヶ月の記憶だけってことになるね。」
 ハクスイがそう言ったけど、あたしのポカン顔を見越して、ヒカミが説明してくれた。
「現状ハクスイは対価の影響で、ここ一年間しか記憶が無いだろ。しかし、元の世界の肉体の脳味噌にはもちろんおれたちの学生生活の記憶が入っているわけだ。そして、今の記憶を継承したまま、元の肉体に戻るってなると。」
『そっか。ここ一年の記憶は願い事特典で持って帰れるけど、こっちの世界で一度、消された、15年分に関しては、元の肉体に残っている記憶までしか無い。つまり最初のキアラとの出会いとか迷路でミノタウロスを倒した記憶だけは戻って来ないって事。』
「正解です。京香さんがそれで納得出来ればの話ですが。」
「問題無いよ。ちょっと惜しい気もするけど。元の世界で全員再会したら、全員の証言まとめて、あなたが漫画化してくれれば良い。」
 漫画化って......まあキアラはそういう活動していたわけだし。
 しかし、キアラの返事は快いものだった。
「お安い御用ですよ。初対面で、酷い下ネタしか喋らなかったのを後悔しますからね。」
 ああそう。確か初対面から、ハクスイはキアラに対して諸々のセクハラ発言があったわ。
「記憶の保持をクリアした人のみにするのは、3,5次元世界と二場さんへの配慮です。これがもしこっちの世界で死んで3次元世界に戻る魂全てに記憶の保持が適応されたら、多分こっちの世界が佐竹実権下以上に、崩壊スピードが早まるだけだと思うので。」
『どうして?』
「記憶を保持して還るってことは情報が向こうに出る。
 出れば出るほど、攻略法が出回り、馬鹿が増えるだろ。
 つまりこっちで全員のクリア難易度が下がり、3次元世界で大金持ちになりたいとか、兵器が欲しいとかそういう頭悪い願いの奴が湧きやすくなるんだよ。誰もがおれらみたいに良い奴じゃない。
 その辺は一筋縄じゃクリア出来ないように、創られているこの3.5次元世界は、せっかく馬鹿をふるいにかけて、選ばれし者しか願い事を叶えられないようにしているのに、本末転倒だ。」
「その通りです。もしそうなってしまったら今度こそ、この3.5次元世界全てを壊すように二場さんが動くと思います。せっかく両方の世界の魂を救済しようとしている願いなので。」
 なるほど。でも二場動けないんじゃないの?

第三の願い
【こちらの3.5次元世界の観測者のAI化。現在管理観測を行っている二場三命の魂を再現したAIが3.5次元世界システム管理を行い二場三命の魂を解放する】

「世界を救って、わたしたちを救って。あとは二場さんを救う手立てがこの願いです。二場さんがどういった仕掛けで観測しか出来ない立場に囚われたのかは分かりませんが、今の二場さんの魂本体を、別のAIか何かで代替できる願いを言えば、二場さんの魂は解放してもらえるでしょう。多分落合さんはこの答えまで辿りつけそうな人として、わたしに招待状を託したのだと思います。
 以上三つの願いを、ゴール出来た人から、叶えてもらう。これが現状一番良い案なのかと。」
 なるほど、二場の魂が解放されれば、きっと二場も動けるし、落合さんの希望も叶えられる。ん?でも、
『待って。四人いるのに三つなの?』
「ええ。それに、三人がクリア出来る確率だって高いものではないです。最低一人のみクリアの場合、願い事は最初の死んだ魂を戻すというこの願いのみです。」
『じゃあ記憶は......』
 キアラは、また冷静さの取り戻す動作のように、グラスにウイスキーを半分注ぎ。また一気飲みした。
 この人お酒強すぎじゃない?
「なぜ、わたしが一度しか会っていない落合さんを助けようと思った理由がこのバーです。〔塔下街〕にはバーがこの一軒しかありません。何故だと思います?最初にここにバーを立てた、クレハさんという人が、この街にはバーはこの一軒のみ。と決めたらしいです。」
 クレハ?落合さん?
「落合さんに招待状を渡された日?毎日酒飲むかとか、飲み歩きはするかとか聞かれたのは、それも選考基準に入っていたらからなんですよね。
 わたしは、この世界。ここのバーにわたしの記憶につながるヒントをこっそり残そうかと考えています。
 このゴール地点バベルの塔に一番近いこの〔塔下街〕のバーに、酒好きのわたしが入らないと思います?
 3次元世界で、再度招待状をもらう可能性が最も高いのは二場マニアのこのわたしです。一度ここで死んで、魂が向こうに戻っても、またこっちに来る可能性が最も高いのはわたしです。
 わたしはこの3.5次元世界に二度目の挑戦を挑み。そしてこのバーにわたしが一周目の記憶がどれほど尊いものだったのか、伝える手立てを残し。
 クリアした暁には【一周目の今この記憶の返還】を望みます。」
 すごい。頭良い。二場マニアだし、自分だったら絶対に酒飲みに入るって、もうここまで酒飲みじゃないと約束できない行動パターンだ。普通なら不確定要素だけど、キアラは本当にこのバーに入るんだろう。
 だって、もう既に、いくらハクスイと飲んでいるとはいえ、どうしてウイスキーの瓶がもう半分になっているのかって。
 しかも出勤前でしょあなた?
「なあ。キアラさん。君はおれたちとゴールしない気だろ。」
 また空気を凍らせたのは、ヒカミだった。
「ええ。もちろんそのつもりです。だからわたしは、今回の周回でちゃんと願い事が三つ通せたとしても、記憶は引き継げずに元の世界に戻ります。」
 なんで?どうして、キアラだけクリアできないの?
「これは、歩さんとの会話の上で生まれた仮定の話です。
 わたしは確かに、この世界のクリア率は高かったかもしれません。でも正直言って、今回の周回では、多分器ではないのかと。
 佐竹は、趣味の為に、なるべくこの世界をクリアさせないように、動いています。二場さんは選ばれし者はクリアできるように作ったはずです。
 それでいくと、多分最も選ばれた側がヒカミさん。あなたです。」
 ヒカミを見ると、ポーカーフェイスであるはずのヒカミの顔が強張っているのがすぐにわかった。
「おれが......?」
「あなたが、この中で唯一。転生回数の多い古い赤い魂だからです。二場さんと同じ赤い魂です。最も二場さんに近いのがあなただからです。」
 ハクスイがまた煙草に火を灯した。
 その煙草を、キアラが受けとり、一口だけ吸ってまたハクスイに返す。
「わたしが、最初に二場さんに託された、あの死神の本は、誰かが、目の前で死んだ時に開くという指示でした。
 現にヒカミさんが目の前で死んで、わたしはヒカミさんを生き返らせる為の契約を、交わしました。
 二場さんはこの世界に干渉できない代わりに、この世界を変えられるだけの力を持った誰かにそれを託すしかなかったのです。
 わたしと二場さんの数少ない情報交換で察したことです。わたしは、わたしの魂と引き換えに二場さんの意志を継いで。そして託しました。わたしだけじゃないです。歩さんもです。
 歩さんが元の3次元世界の情報や、あの迷路でわたしたちを導いた、その鍵をわたしに託して、わたしはその鍵を解いて、今その答えという形で最後の三つの願いをあなた方三人に託しました。
 ええもちろん。わたしの魂と引き換えに引っ張りだしたヒカミさんを筆頭に。
 なので、どんなことがあっても、ヒカミさん。あなたは一つ目の願いをゴールまで届けてください。
 わたしは、この対価の呪いで、ここでドロップアウトです。近いうちに、シキは必ずわたしを殺しに来ます。わたしもシキ殺して救い上げ。またいつか元の3次元世界で皆で会いましょう。」

 そうか。そういうことだったのか。
 やっと馬鹿なあたしでもわかった。キアラは魂を支払う契約。そして、シキの呪いを受けている。となると、シキと共に死ぬしか選択肢がなかったから......
 ハクスイのことをもう愛してないって。愛していただけだって......

「第四の願い!!」
 突然、ヒカミが大声で叫んだ。
「シキの呪いがチャラになりますように。」
 高らかに宣言する、ヒカミを、あたしもハクスイもキアラも黙って見つめた。
「ったくよ。セコイよ。確かに生き返らせてもらった恩はあるけどよ。おればっか背負いすぎだし、なんかこうおればっか格好良すぎじゃね?主人公かよ。おれ。へへへ。
 なあ、キアラさん。寂しいこと言うなよ。君が二場リスペクトで条理には逆らえないってそういう発想なのも知っているけどさ。もう少し、足掻こうぜ。一緒に行こうぜ。」
 そう言って、ヒカミはニカッと笑って見せた。
 一年一ヶ月前、あの迷路であたしが狼に襲われ絶望的なあの時にヒカミはあたしを助けて今みたいな笑顔を見せてくれた。あの時と同じ希望に満ちた安心するあの笑顔。

「この世界の条理は絶対です。この一年でいろんなものを見てきました。でも......でも......ありがとうございます。」
 片目しかない目で、キアラは泣いていた。その泣いているキアラの肩をハクスイが抱く。
「四人でゴールを目指すにあたり、その前にシキの襲撃があったら、その時は責任取ってわたしがシキの呪いを受け止めます。シキを愛してシキに殺されます。
 でももし、ちゃんと四人でゴールすることが出来たら。」
 キアラはハクスイの方見て、何かを言いかけて......
「いいえ。無事にゴール出来た時に伝えます。」

 泣きながら、そう伝えたキアラにはさっきの壊れた怖さはどこにもなかった。
 もちろんハクスイもいつものハクスイの雰囲気に戻っていたのも言うまでもない。
 希望が無い、決められた呪いってどれ程絶望的だったのだろう。
 それを変えたヒカミも......いや、変えた。変わった。ヒカミも変わったんだ。頼りがいのある凄く良い奴だけど、冷徹だった。でもそうじゃなくなった。良くなった気がする。
 あたしも良い方に変われたのかな?霊感だけに頼った人付き合いじゃなくて、張り詰めた空気から始まった話合いを視る力無しで、良い方に着地させた。
 多分みんな良くなっている。成長している。
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不条識な狼の理(下)作者:駿河鵬命
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 材料は揃った。あたしたちが本当にやるべき事がここで決まる。
「この創られた3.5次元世界のシステム。わたしたちが本来いた3次元世界大和国。そして二場三命。全てを救う願い事を考えました。結論から言うと、一人のクリアだと最低限しか救えません。」

第一の願い
【こちらの3.5次元上で死亡した、全ての魂は3次元世界へと還り、元あった肉体に戻る】

「もともと、問題になっていたのが、こちらで死んだ魂は永遠に3次元世界に戻らず、3次元世界のわたしたちの肉体は植物人間のままという話でした。きっと佐竹がこちらの世界を繁栄させる為にあとから書き換えたのでしょう。こちらの世界で生きる事に執着するように。一番重要なのは個々の願い事ではないです。如何に元の世界に戻れる世界を創るかです。」
「なるほど、考えたな。『死亡した全ての魂』と明言することによって、過去に死んだ魂も、歩も元の世界に帰れるってわけだ。」
「その通りです。ヒカミさん。ただ、一つだけ問題があります。これは先ほど重大なのは願い事ではないと言った手前、変なんですが、二人目の願い事以降は、完全に願い事となります。なぜなら、一人目の願いだけでは、」
 キアラは、一呼吸おいて。ウイスキーで口を湿らせてから語り出した。
「今、ここで話しているわたしたち。全員この世界での記憶を失います。」
 へ?なんで?
「そうか。そういう事か。」
 ヒカミはやっぱり一瞬で理解したようだった。あたしは分からない。
「賢いですね。ヒカミさん。
 樫山さん。先ほど、こちらの世界で死んだら、この魂が元の世界の肉体に戻るって話でしたよね。
 つまり、わたしたちは今こちらの世界では異形ですが、元の3次元世界には元の人間の肉体があります。」
『うん。だからあたしは狼じゃなくて人間に戻れるってことでしょ。』
「その通りです。ですが、記憶って〔脳〕に記憶されるんですよ。」
 つまりそれは。
「多分、わたしの身体は、自室で寝ていて、起きた時には、そういえば招待状とか変な紙を貰って、気が付いたら寝ていたなぁと思いながら、普通に夕食を食べてまた原稿を進めると思います。
 田中ヒカミさん。樫山さくらさん。余村歩さん。このロッカンバーテンズ。
 そして、京香さんと過ごした掛け替えの無い日々は、元の3次元世界のわたしの肉体に入ってる〔脳〕には無い記憶となります。」
『忘れちゃうの......?みんなで猪食べに行こうって約束したことも、歩が貴志さんと再会出来た事も。
 辛くて怖くて、嫌なこといっぱいあったけど、全部忘れて卒業式出席するの?そんなの嫌だよ。』
 あたしは月並みの言葉。薄っぺらい言葉しか並べることが出来なかったけど。今目の前にいるキアラの事も、この絶望的ながらも信じて強くなった日々、ヒカミとハクスイへの信頼。この一年一ヶ月を忘れてしまうという事実がただただ怖かった。
「それはわたしも同じです。樫山さん。わたしもそれが一番辛いんですよ。」

第二の願い
【ゴールした者は、記憶を継承したまま魂は3次元世界へと還り、元あった肉体に戻る】

「なるほど。第一希望は世界の平和。第二希望が私たちの平和ってことね。これが通れば、実質失うものってのは、私の最初の一ヶ月の記憶だけってことになるね。」
 ハクスイがそう言ったけど、あたしのポカン顔を見越して、ヒカミが説明してくれた。
「現状ハクスイは対価の影響で、ここ一年間しか記憶が無いだろ。しかし、元の世界の肉体の脳味噌にはもちろんおれたちの学生生活の記憶が入っているわけだ。そして、今の記憶を継承したまま、元の肉体に戻るってなると。」
『そっか。ここ一年の記憶は願い事特典で持って帰れるけど、こっちの世界で一度、消された、15年分に関しては、元の肉体に残っている記憶までしか無い。つまり最初のキアラとの出会いとか迷路でミノタウロスを倒した記憶だけは戻って来ないって事。』
「正解です。京香さんがそれで納得出来ればの話ですが。」
「問題無いよ。ちょっと惜しい気もするけど。元の世界で全員再会したら、全員の証言まとめて、あなたが漫画化してくれれば良い。」
 漫画化って......まあキアラはそういう活動していたわけだし。
 しかし、キアラの返事は快いものだった。
「お安い御用ですよ。初対面で、酷い下ネタしか喋らなかったのを後悔しますからね。」
 ああそう。確か初対面から、ハクスイはキアラに対して諸々のセクハラ発言があったわ。
「記憶の保持をクリアした人のみにするのは、3,5次元世界と二場さんへの配慮です。これがもしこっちの世界で死んで3次元世界に戻る魂全てに記憶の保持が適応されたら、多分こっちの世界が佐竹実権下以上に、崩壊スピードが早まるだけだと思うので。」
『どうして?』
「記憶を保持して還るってことは情報が向こうに出る。
 出れば出るほど、攻略法が出回り、馬鹿が増えるだろ。
 つまりこっちで全員のクリア難易度が下がり、3次元世界で大金持ちになりたいとか、兵器が欲しいとかそういう頭悪い願いの奴が湧きやすくなるんだよ。誰もがおれらみたいに良い奴じゃない。
 その辺は一筋縄じゃクリア出来ないように、創られているこの3.5次元世界は、せっかく馬鹿をふるいにかけて、選ばれし者しか願い事を叶えられないようにしているのに、本末転倒だ。」
「その通りです。もしそうなってしまったら今度こそ、この3.5次元世界全てを壊すように二場さんが動くと思います。せっかく両方の世界の魂を救済しようとしている願いなので。」
 なるほど。でも二場動けないんじゃないの?

第三の願い
【こちらの3.5次元世界の観測者のAI化。現在管理観測を行っている二場三命の魂を再現したAIが3.5次元世界システム管理を行い二場三命の魂を解放する】

「世界を救って、わたしたちを救って。あとは二場さんを救う手立てがこの願いです。二場さんがどういった仕掛けで観測しか出来ない立場に囚われたのかは分かりませんが、今の二場さんの魂本体を、別のAIか何かで代替できる願いを言えば、二場さんの魂は解放してもらえるでしょう。多分落合さんはこの答えまで辿りつけそうな人として、わたしに招待状を託したのだと思います。
 以上三つの願いを、ゴール出来た人から、叶えてもらう。これが現状一番良い案なのかと。」
 なるほど、二場の魂が解放されれば、きっと二場も動けるし、落合さんの希望も叶えられる。ん?でも、
『待って。四人いるのに三つなの?』
「ええ。それに、三人がクリア出来る確率だって高いものではないです。最低一人のみクリアの場合、願い事は最初の死んだ魂を戻すというこの願いのみです。」
『じゃあ記憶は......』
 キアラは、また冷静さの取り戻す動作のように、グラスにウイスキーを半分注ぎ。また一気飲みした。
 この人お酒強すぎじゃない?
「なぜ、わたしが一度しか会っていない落合さんを助けようと思った理由がこのバーです。〔塔下街〕にはバーがこの一軒しかありません。何故だと思います?最初にここにバーを立てた、クレハさんという人が、この街にはバーはこの一軒のみ。と決めたらしいです。」
 クレハ?落合さん?
「落合さんに招待状を渡された日?毎日酒飲むかとか、飲み歩きはするかとか聞かれたのは、それも選考基準に入っていたらからなんですよね。
 わたしは、この世界。ここのバーにわたしの記憶につながるヒントをこっそり残そうかと考えています。
 このゴール地点バベルの塔に一番近いこの〔塔下街〕のバーに、酒好きのわたしが入らないと思います?
 3次元世界で、再度招待状をもらう可能性が最も高いのは二場マニアのこのわたしです。一度ここで死んで、魂が向こうに戻っても、またこっちに来る可能性が最も高いのはわたしです。
 わたしはこの3.5次元世界に二度目の挑戦を挑み。そしてこのバーにわたしが一周目の記憶がどれほど尊いものだったのか、伝える手立てを残し。
 クリアした暁には【一周目の今この記憶の返還】を望みます。」
 すごい。頭良い。二場マニアだし、自分だったら絶対に酒飲みに入るって、もうここまで酒飲みじゃないと約束できない行動パターンだ。普通なら不確定要素だけど、キアラは本当にこのバーに入るんだろう。
 だって、もう既に、いくらハクスイと飲んでいるとはいえ、どうしてウイスキーの瓶がもう半分になっているのかって。
 しかも出勤前でしょあなた?
「なあ。キアラさん。君はおれたちとゴールしない気だろ。」
 また空気を凍らせたのは、ヒカミだった。
「ええ。もちろんそのつもりです。だからわたしは、今回の周回でちゃんと願い事が三つ通せたとしても、記憶は引き継げずに元の世界に戻ります。」
 なんで?どうして、キアラだけクリアできないの?
「これは、歩さんとの会話の上で生まれた仮定の話です。
 わたしは確かに、この世界のクリア率は高かったかもしれません。でも正直言って、今回の周回では、多分器ではないのかと。
 佐竹は、趣味の為に、なるべくこの世界をクリアさせないように、動いています。二場さんは選ばれし者はクリアできるように作ったはずです。
 それでいくと、多分最も選ばれた側がヒカミさん。あなたです。」
 ヒカミを見ると、ポーカーフェイスであるはずのヒカミの顔が強張っているのがすぐにわかった。
「おれが......?」
「あなたが、この中で唯一。転生回数の多い古い赤い魂だからです。二場さんと同じ赤い魂です。最も二場さんに近いのがあなただからです。」
 ハクスイがまた煙草に火を灯した。
 その煙草を、キアラが受けとり、一口だけ吸ってまたハクスイに返す。
「わたしが、最初に二場さんに託された、あの死神の本は、誰かが、目の前で死んだ時に開くという指示でした。
 現にヒカミさんが目の前で死んで、わたしはヒカミさんを生き返らせる為の契約を、交わしました。
 二場さんはこの世界に干渉できない代わりに、この世界を変えられるだけの力を持った誰かにそれを託すしかなかったのです。
 わたしと二場さんの数少ない情報交換で察したことです。わたしは、わたしの魂と引き換えに二場さんの意志を継いで。そして託しました。わたしだけじゃないです。歩さんもです。
 歩さんが元の3次元世界の情報や、あの迷路でわたしたちを導いた、その鍵をわたしに託して、わたしはその鍵を解いて、今その答えという形で最後の三つの願いをあなた方三人に託しました。
 ええもちろん。わたしの魂と引き換えに引っ張りだしたヒカミさんを筆頭に。
 なので、どんなことがあっても、ヒカミさん。あなたは一つ目の願いをゴールまで届けてください。
 わたしは、この対価の呪いで、ここでドロップアウトです。近いうちに、シキは必ずわたしを殺しに来ます。わたしもシキ殺して救い上げ。またいつか元の3次元世界で皆で会いましょう。」

 そうか。そういうことだったのか。
 やっと馬鹿なあたしでもわかった。キアラは魂を支払う契約。そして、シキの呪いを受けている。となると、シキと共に死ぬしか選択肢がなかったから......
 ハクスイのことをもう愛してないって。愛していただけだって......

「第四の願い!!」
 突然、ヒカミが大声で叫んだ。
「シキの呪いがチャラになりますように。」
 高らかに宣言する、ヒカミを、あたしもハクスイもキアラも黙って見つめた。
「ったくよ。セコイよ。確かに生き返らせてもらった恩はあるけどよ。おればっか背負いすぎだし、なんかこうおればっか格好良すぎじゃね?主人公かよ。おれ。へへへ。
 なあ、キアラさん。寂しいこと言うなよ。君が二場リスペクトで条理には逆らえないってそういう発想なのも知っているけどさ。もう少し、足掻こうぜ。一緒に行こうぜ。」
 そう言って、ヒカミはニカッと笑って見せた。
 一年一ヶ月前、あの迷路であたしが狼に襲われ絶望的なあの時にヒカミはあたしを助けて今みたいな笑顔を見せてくれた。あの時と同じ希望に満ちた安心するあの笑顔。

「この世界の条理は絶対です。この一年でいろんなものを見てきました。でも......でも......ありがとうございます。」
 片目しかない目で、キアラは泣いていた。その泣いているキアラの肩をハクスイが抱く。
「四人でゴールを目指すにあたり、その前にシキの襲撃があったら、その時は責任取ってわたしがシキの呪いを受け止めます。シキを愛してシキに殺されます。
 でももし、ちゃんと四人でゴールすることが出来たら。」
 キアラはハクスイの方見て、何かを言いかけて......
「いいえ。無事にゴール出来た時に伝えます。」

 泣きながら、そう伝えたキアラにはさっきの壊れた怖さはどこにもなかった。
 もちろんハクスイもいつものハクスイの雰囲気に戻っていたのも言うまでもない。
 希望が無い、決められた呪いってどれ程絶望的だったのだろう。
 それを変えたヒカミも......いや、変えた。変わった。ヒカミも変わったんだ。頼りがいのある凄く良い奴だけど、冷徹だった。でもそうじゃなくなった。良くなった気がする。
 あたしも良い方に変われたのかな?霊感だけに頼った人付き合いじゃなくて、張り詰めた空気から始まった話合いを視る力無しで、良い方に着地させた。
 多分みんな良くなっている。成長している。
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