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「気になるのは理由だよな。そんな身構えないでラフに聞いてくれ。ただの役回り、ほら、アイツの言葉を借りればあれだ。条理ってやつだよ。そうあるべき事柄。流れ。
まず、此処の情報を全て知っていた理由から説明しよう。なぜアタイらEOAがノア教の雨ふらし計画や、この雨降らしマシンがここにあり、出口は別の海岸洞窟じゃないと出られないこの洞窟内部の構造を知っていたかの話だが。
実はノア教の中にも平和主義者がいてね。世界を雨で包んでノア教以外の人類を滅ぼそうという計画に反対だった者もいるんだ。
そのノア教の中でも、計画反対側の者達は中立派とEOAに情報提供をしてくれた。それで、今回この地下洞窟のノア教の雨ふらしマシンのぶっ壊し作戦が出来たわけだ。
さて、EOAと中立派の関係だが、元々は中立派とEOAは別組織なんだ。
元々あったのが、ノア教にもムハ教にも属さないで権力を持つ、名も無き中立派という立場だったが、名も無きと言うだけあって、本当にこの二つの宗派に反対意見を持った人々の自主的な集まりであり組織系統なんてものは無かった。
その名も無き中立派がEOAと密接になったきっかけが一年前のアタイが左腕を対価で持ってかれた時だ。
アタイは砂漠で出血大量で、生きるか死ぬかの時を、中立派に拾われ、この義手をもらう代わりに、ノア教ムハ教で大きなテロがあった時に、アタイの義手は力を発揮するという契約を交わし。命拾いした。
その時にアタイの身柄引き取り人として現れたのがEOAだったんだ。もちろんアタイは元の世界にいた時は、EOAの頭を張っているからね。頭のアタイを助けた中立派をEOAは放っておくはずがない。借りだからね。
あとは意気投合ってのもあったかな。どの道、ノア教とムハ教はどんどん拡大して、組織も戦力も大きくなる。これは放ってはおけないと、中立派とEOAの関係はより密接になり、今の三権力目としてこの世界で確立した。
さあ、それだけの話で済めば。戦争が起こるたびに、アタイが凄腕の傭兵として、この義手で戦って勝って帰って来れば何も問題ない。勝てば良い。元の世界にいた時と何ら変わりない。勝てばいい。勝てば生きられる。
しかし、今回ばっかりはアタイに課せられた使命は、ここの機械を壊すと同時に、死ぬことだ。」
歩はすらすらと語った。自分の話なのに、まるで他人の話をしているようだった。
「歩。計画にはその義手が必要って言っていたよな。爆弾かなんか積んであるのか?だったら、腕だけ外して、一緒に脱出できないのか?」
「そう出来たら、そうしたいのだが。出来ないからこんな状況なんだよな。
アタイはこっちの世界でタカと再会できたし、子供もできた。こっちの世界で幸せを見つけたし、アタイ以外のEOAのメンツもこっちではそれなりに幸せに生きている。だからこっちの世界の平和の為にも、この機械を壊して。存在してはいけないこの義手ごとアタイは消えるしかない。」
「存在してはいけない。義手。いや、その義手の中身......」
やっぱりヒカミは歩の義手の秘密に気付いているようだ。
こればっかりは無理だと、壁に倒れかかって項垂れた。その様子を、見てハクスイは露骨に頭を掻き毟る。ハクスイもきっと気付いてしまった。歩の腕の秘密に。
この世界に存在してはいけないものって一体......いやそれは元の世界には存在した何かだって事だよね。二人がこうも露骨に反応するってのは。元の世界で存在してはいけなかったものって......?
「察しが良いなあ、二人とも。この状況下でもまだわからないのが、流石はサクだよな。お前のそういうところ好きだよ。いや馬鹿にしてないって、そのなんていうかな。抜けたキャラなところ。」
そう言われてしまっても。
『ごめん。本当にあたしわからないや。ごめん馬鹿で。』
「良いんだよ。ここで四人で辛気臭い面するより、一人だけでもこんな奴が居ることによってアタイも救われるよ。」
「なあ。歩。どうにかして、腕だけ取れねえのかよ。」
「それが、出来ないんだよ。神経ごとつないで、腕の中では常に、分裂を繰り返しエネルギーを生み出している。
発動条件は、アタイの死か、神経とこの腕が切断された時。この二つの場合は即時作動するけど、もう一つの発動条件が、アタイが【とあるワード】をアタイの声で発音した時、一時間後に作動する。」
「そうか。腕を切ったらその時点で巻き込まれるのか。」
分裂を繰り返してエネルギー......?
「そういう事だ。だから、ここで、さよならするしかないんだ。」
その中身が何なのか、あたしにはまだ分からないけど、ヒカミとハクスイの反応から察するに、きっと避けようのない残酷な現実なんだろう。
歩が項垂れるヒカミを抱きしめた。
「ヒカミ。お前に会えてよかった。一年前初めて会った時、狼程度で大怪我してんなよ。ダセぇとか思ったりしたけど、よくよく考えたら、自分の大切な友人も、自分の命と同じぐらい大事だもんな。迂闊に攻撃できねえよ。
あの時、アタイが助けに行くまで気張ってくれてありがとな。おかげで誰も死なずに合流できて、ミノタウロスもお前の活躍で勝てたよ。
そして、いろいろあったけど、またこうして出会ってくれてありがとな。」
「馬鹿言ってんなよ。そもそも、おれは君に、二回も命を救われている。はは。今から三回目も救われちまうな。歩アホだろ。お人好し過ぎるぜ。
ありがとな。君からはもらい過ぎたよ。出会えて良かった。」
次に歩は、あたしを抱きしめてくれた。
「サク。お前は本当に面白いやつだよな。お前の力に固執して、お前を利用してやろうって、最初はそういう魂胆だったから、お前という人間性とかどうでも良かったんだ最初。
でもさ、話せば話すほど、お前アホ過ぎて面白くてさ。人一倍アホな分、人一倍良い奴でさ。めちゃくちゃ頭の良い、ヒカミとシラミズがお前のこと損得勘定じゃなくて、本当に親友として家族のように傍にいる理由がお前の人間性にあるんだなと気付いて、なんかそれが羨ましくってさ。
お前。アタイに持ってないものめっちゃ持っているんだ。これからもそれを失うなよ。出会えて良かった。」
『褒められてんのか、貶されているのか分かんないよ。
あたし。弱虫でダメダメだったけど、歩のお陰で強くなれた。歩の背中が憧れだった。ありがとう。』
次に歩はハクスイのところへ
「お前には言いたいこと、沢山あったんだけどなぁ。記憶無いんじゃ何て喋ったら良いかわかんねえよ。とりあえず、男遊びは大概にしろよ。一人を選んで、子供が生まれる人生もまた楽しいぜ。そうは言っても、アタイは息子の成長を最後まで見届けられないのが物凄い心残りなんだけどな。
そうか。もし、お前らがキアラの救済案でこの世界をゴールできたら、お前も記憶を取り戻して、元の世界に戻ってくるのかな?よくわかんねえが、もしお前が記憶を取り戻して、あの日常に戻れたら、連絡くれよ。番号変えてねえから。」
「わかった。必ずクリアする。そのキアラの救済案というのを今はまだわからないけど、全部取り返せたら、必ず連絡する。私には記憶はないけど、あなたが間違いなく仲間であったことは、しっかりわかった。それくらい、説得力強いってか。あなたの背中は大きいのよ。
ありがとう。」
なんで、こんな特攻隊みたいな挨拶なんだろ。本当にこれしかないの?
まだ、よく分かっていないあたしの言葉を代弁するように、ヒカミが切り出した。
「なんとか、ならねえのか?明日、雨で沈む訳じゃない。一度脱出して、四人掛かりなら、別の小型の炉を持ち込むぐらい可能だろ。歩の腕サイズを作る技術力があるんだから。」
それでも、歩は首を振る。
「言ったろ。役回り、条理だ。そうじゃなくても、この腕。見ての通りメンテナンスが出来ないから、耐用も3年持つかどうかだからどの道、都合の良い場所で破棄しないといけないんだ。そういう約束で取り付けた腕だ。」
「あと三年あれば、息子が歩いて喋る所まで見られるだろ。」
「失った事を理解する時期まで傍に方が残酷だろ。」
「ああなんだよ!くそが!」
ヒカミが頭を掻きむしる。分からないけど、どうしても歩が命を差し出すしかない。なんだろうこの感じ。一回目じゃない多分、
ああそう。あの日のキアラだ。あの本を開いた時のキアラだ。全てを受け入れた諦念と、託す感じ。これが自分に与えられた役で、
条理だ。って、
「奇跡ってのは絶対に起こらないから、いつだって取捨選択だ。全て自分で起こす事。そう信じて生きてきた。
きっと奢り過ぎたんだなあ。強者として振舞えは自分は安全で、強者であれば誰だって守れると。先に奪えは自分は奪われる事は無いと。
だから見失っていた。本来の役割を。この役割に気付いた時には、ちょっとやり過ぎていたからな。アタイは人の幸せを奪い過ぎた。だからこうやって支払う形で終わらせてもらうんだ。
ごめんな。一人でここに死に来るの怖かったんだ。
最後にこうやった思い出作りたかった。巻き込んですまねえ。そして付き合ってくれてありがとう。これで心おきなく死ねる。
アタイの生きた証をちゃんとお前らに託せる。」
歩は。少し、離れてから、あたしたち人一人の顔を見て。
「ありがとな。さあ、もう行ってくれ、後一時間で、ここは全部吹っ飛ぶ。早く、この出口から、ずっと真っ直ぐ進んで海岸洞窟を目指してくれ。」
真っ直ぐ進んで。そう言った歩の目は今まで見たことない涙で溢れていた。
「さあ。行けよ。今から、その言葉を言う。多分最後の答え合わせで使う言葉だ。この世界の根本的な仕掛けに関わる。覚えておけよ!
二場三命の一人娘の名前【オチアイクレハ】だ。」
カチッ
歩の義手からは何かのギミックが動く音がした。
「大丈夫さ。条理が導く。お前らは絶対辿り着ける。」
歩は、あたしたちの背中を三人とも一人ずつ押した。
こうして、あたしたちは歩と別れて、出口の海岸洞窟を目指して、早歩きで進み始めた。
あたしたち三人は、誰も言葉発しなかった。ただそれぞれの思いを胸に。黙って進む。
(奪って生きてきたなら、最後は奪われて当然......か。)
多分。あたしの聴力だからこそ聞き取れたのだと思う。
(全てが自分の努力と自分の選択の上として、ゴミ溜めに生まれた事を恨まないで生きてきたけど......それは他者を侵害する理由にはならなかったな。自分の見たものしか受け入れなかった。生かされている事に気付こうとともしなかった。これが対価か、これが条理か......)
ここまでしか聞こえなかった。多分その後も独り言は続いたと思うけど、前に進まないといけない以上、もう続きを聞く事が出来ない。
あたしはもう歩の声を聞く事が出来ない。
誰かが死なないと、成立しない状況......一体あたし達は何処に向かっているのだろう。あたしもヒカミも殆ど人間の身体も失って......ハクスイは身体こそあるけど、記憶を失って、これ以上何が?
ヒカミにも色々聞こうとは思うけど、今のあたしの中ではキアラの存在がチラついた。多分キアラは何かを知っている。あの日、本を開いて、ヒカミの魂を取り返した。歩も昨日、キアラに会いに行っている。二場三命が言っていたキアラの覚悟とは?キアラを探して彷徨うシキは?そして、二場三命の一人娘、オチアイクレハ。
何も分からないけど、頭と心の中を気持ち悪くぞわっと触られるように、これらの話が全部ひとまとめになる気がする。
ねえ、歩。絶対救い出すから。少しの間だけ待っていてね。