ホーム不条識な狼の理(下)♗54
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♗54

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 そこから暫く問題なく進んだ。
 緩やかな勾配で降って行き、だんだん地面の湿り具合が割合を増していく。

「歩はさ。入り口近辺にしか、人はいないって推理だったけど。多分それで正解かもな。
 こんなに地面がぬかるんでるのに、足跡が全然ないし、この更に行ったところで、その雨雲マシンがあるんだろ。数時間の雨でここまで冠水しているからマジで二、三ヶ月も雨降ったら、機械ごと沈みそうだな。」
「そうなんだ。だから、機械ごと最終的には沈ませるつもりで一人で入ってスイッチを入れたら海岸洞窟から脱出。冠水する頃には充分火山にエネルギーの供給は済んでいる。」
「なあだとしたら、本当は君一人で十分だったんじゃねえの?なんだか、君の性格上。他の人は巻き込みたくないって一人で処理しそうな気もするんだが。」
「おいおい。アタイはそんな優秀じゃねえよ。怖い所にはやはり仲間と行った方が心強い。」
 訝しげに、ヒカミは歩の顔を覗き込んでいる。
 確かに、歩ってこんな人だったっけ?母になったことにより少し小心したのか。
「貴志さん一人に任せるって選択はなかったのか?夫婦で来るの場合は、息子の件があるから無理だろうとして。」
「それはないよ。機械をぶっ壊す過程で、アタイの左腕が必要になる可能性が高いんだ。アタイはメンツから外せない。」
 歩が機械の腕を掲げる。
 手袋をしていたら、生身の腕となんら遜色のない精巧な動きの腕。
「なあ。その腕、何で動いているんだ?」
「動力源か?後で解体の時に教えてやるよ。」
 しかし。ヒカミは本当に鋭いし賢い。

「歩。なんかおれたちに隠してねえか?」

 ヒカミの言葉と同時に。歩は止まった。
 歩に続いて、全員が立ち止まる。
「あとで説明する。今は察してくれ。」
 下を向く歩に対し、ヒカミは歩の肩を掴む。
「駄目だ。今説明しろ。君は何を考えている?」
 見る人によっては脅しているように見えるけど、あたしにはわかる。ヒカミが、歩のことを心配するが故にこんな強い口調になっているのを。
「言えない。察してくれ。」
「おい。ふざけんなよ。ぶん殴ってでも聞きだすぞ。」
 ヒカミも今回は本気だ。歩の胸ぐらを掴んで、あたしに持ってろと言わんばかりに松明を渡して来た。
「言えないもんは、言えねえんだよ。
 でも、これだけは信じてくれ。これはアタイが弱いせいで、アタイの甘えでお前らに一緒についてきてもらった。お前らのことが本当に大好きだから。その時が来たら必ず説明するから。」
「だからこそだよ。その、君が事実を伝える時はもう後戻り出来ねえ時なんじゃねえか?今ならまだ。何か方法があるかもしれない。君がどんな重大なもの抱えているのか知らねえけど。辛いよお前。その面。」
 すると、二人の間に、ハクスイが身を挟んで、ヒカミの手を取った。
「その辺にしときな。ヒカミ。
 歩。気付いてないだろうけど。貴方、泣いてるよ。」
 ハクスイの言葉を聞いて、歩は驚いたように、自らの顔を手で擦った。
「本当だ。恥ずいな。泣いていたのか。ダセエな。」
「ここで私からの妥協案だけど、今はまだ私たちに隠している事実を言わなくて良い。ただ、何故言えないのかを説明して欲しい。その様子じゃ、私たちを心配して言えないだけじゃないと思うの。」
 確かに。
 というか、あたし以外も気付いていたのか。歩の違和感に。でも明らかに度を超えた違和感。ただならぬ理由。言えない理由。
「わかった。説明する。確かに、お前らの心理的負担は少なからず、あるから言えないのはある。ただ、確定した訳じゃない。他の手段も試す。この言えない手段は最後の手段だからそれを選ばないといけない時に言うから、今は言わせないでくれ。」
 歩は、義手を指差した。
 今日の計画は歩の義手がないと成立しない。
 しかし、あたしたちに隠している何かは今言いたくない......願掛けだろうか?
「その腕の中身は高圧電流か?それで機械ごと壊す作戦か?」
 ヒカミは相変わらず回転が早い。
「約束通り。そういう事情だからアタイの口からまだ言えない。向こうに着いてからにしようぜ。
 なあせめて、向こうに着くまでの間。楽しい話がしてえんだ。」
 歩は、あたしたちを置いて先に暗闇へと歩き出した。
 松明を持っているのがあたしなので、あたしは急いで歩を追いかける。

「なあ。サク。お前たち三人いつからそんなに仲良しなんだ?」
 これが歩の言う、楽しい話なんだろうか?
「ごめん。それ私も聞きたい。」
 確かに、ハクスイは記憶が無いから、あたしたち三人の仲良くなった経緯とか気になるんだろう。

 まず、あたしとヒカミが仲良くなったのは、小学校一年生の時かな。
 こっちの世界に来てからは全く視えないんだけど、あたし元の世界にいた時はさ、超視える人でさ。生きている人と幽霊の区別がつかなくて喋っているから、友達全然出来なくて。でもヒカミだけは、あたしが何か違うものと会話しているのを興味持って話しかけてくれたんだ。
 それから、毎日、ヒカミと過ごすのが当たり前になってさ。ヒカミとは小一からずっと同じクラスなんだ。
 多分ね、あたしが昔幽霊と話していたから、不思議ちゃん過ぎて、クラス替えの問題児指定に入れられていたと思うんだよね。だから、ヒカミとくっつけておかないとイジメが起きるとかそういう問題を危惧されて......じゃなかったら九年間同じクラスってすごい確率だと思う。
 ハクスイはね。小学校二年生の時同じクラスで、記憶無いところ、申し訳ないけど。ハクスイのお母さん、その年の夏前ぐらいかな。病気で亡くなって。
 結局ハクスイ学校来たの二、三週間後なんだけどさ。子供ながらに憔悴しきってるのが分かって、誰も話しかけられる空気じゃなくて、ハクスイ孤立しちゃってさ。
 その時はぶっちゃけ、あたしもヒカミもハクスイと全然喋った事なかったんだけど、ほらあたし幽霊視えるのはさ、人の強い感情とかも煙みたくなって視えるんだ。だからハクスイの気持ちが視えたから、周りのみんなより話しかけやすくてさ。あたしが話すからヒカミも話すようになる。
 その時にヒカミがハクスイってあだ名を付けたんだよね。なんかハクスイって、学年で一番背高いし、子供なのに顔も整っていて大人っぽいから、みんな〔さん〕付けで呼ぶ空気でさ。誰も京香ちゃんって呼ばないんだよ。みんなシラミズさんか、京香さんって呼んでいるから、そんな距離のある呼び方が悪いんだよ、ってヒカミが言い出して、最初ね。ヒカミは、京香って呼びつけで呼ぶんだけど「これじゃあダメだ。まるでおれの女みたいだ」って言うからさ。その言葉がめっちゃ面白くて三人でめちゃくちゃ笑って、じゃあ、あだ名を作ろうってなって、最終的にヒカミ案のハクスイが採用になったんだよね。
 それからさ、なにかと三人でいつも会ってさ。
 あっ、そうそう。小四の時にさ、三人で帰り道に、子犬が溺れているの見つけてさ。当時のあたしは体力ないし、ヒカミは体力はあるけど、泳げないからさ。
 ハクスイが一人で泳いで、犬を助けたんだよね。その犬さ。ヒカミが飼っててボンジロウって名前で。
 それまではあたしが朝、ヒカミを起こしにいくことが多かったんだけど、あたしの代わりにボンジロウが起こしてくれることが多くなったから、前は週一だったけど、起こす回数は月一に減ったよ。
 そうそう。ヒカミがカラクリ忍者村でバイトするキッカケになったのも、ボンジロウの散歩中に、バク宙の練習始めて習得した事から。この特技バク宙で、二次面接免除即採用だったんだよね。
 どうしても、忍者ショーの人数足りない日があって、ハクスイがピンチヒッターの侍役で出演したこともあったよ。
 ああ。そう。ヒカミに一ヶ月だけ彼氏がいたのも、このカラクリ村のバイトのお陰で。

「おい。そこは黙れ。」
 すかさず、ヒカミのストップが入った。
「いや。サク話すんだ。アタイはその話すげえ気になる。」
「凄い今更だけど、なんで彼氏いたの気付いたんだよ。おれサクにばれたら嫉妬されると思って、隠していたんだけど。」
『ああ。あれ?いつも雑にしか剃ってないのに、ヒカミのムダ毛が奇跡的に綺麗に剃られている日があったから、もしやと思って。』
 光源はこの松明一つしかないのに、ヒカミが耳まで真っ赤なのがわかる。
「君さ。わりかし鈍いキャラのはずなのに、その辺だけは鋭いよな。」
『まーね。そこはヒカミの親友としてね。で?なんで一ヶ月で別れたの?』
「それ言わないと駄目か?」
「記憶のない私としては、大変興味があるね。記憶がない分、何でも良いから知りたいもの。」
 横槍を入れてきたハクスイのことをヒカミは意味深に見つめて......
「君に寝取られたんだよ!」
 酷いことを言った。いや、ヒカミが酷いんじゃなくて、内容が。
 歩は、うわ。と小さく呻いてから、ハクスイを軽蔑の眼で見る。
「ああどうせ。おれは下手だよ。なあ!下手くそだよ。色気もねえよ。くそ。」
 あたしから見たヒカミは男でも女でもなくヒカミはヒカミって感じだったけど。こんなにも乙女であった事を知り、驚いている。
 そして、ハクスイの下衆さにも驚いている。え?大丈夫?今後もあたしたち親友でやっていける?
「え......あ。なんかごめん。記憶ないけどごめん。代わりに、今後どんな男も落とせるように、床指導しようか?手取り足取り腰取り。」
 ハクスイ。それって謝っているの?まあ記憶ないから仕方ないだろうけど。
「うるさいなあ。もう。どうせおれだけじゃなくて、誰だって君には敵わないからもういいよ。この話終わり。」
「そんなこと言ったら、ヒカミ一生右固定だよ。」
「黙れゴルァ!!!!」
 凄い剣幕で、ヒカミはハクスイを黙らせたけど、このハクスイの言った右固定とはどういう意味なんだろうとあたしにはわからなかったけど、後日ハクスイに右固定の意味を聞いて、凄く納得した。ヒカミごめん。
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不条識な狼の理(下)作者:駿河鵬命
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 そこから暫く問題なく進んだ。
 緩やかな勾配で降って行き、だんだん地面の湿り具合が割合を増していく。

「歩はさ。入り口近辺にしか、人はいないって推理だったけど。多分それで正解かもな。
 こんなに地面がぬかるんでるのに、足跡が全然ないし、この更に行ったところで、その雨雲マシンがあるんだろ。数時間の雨でここまで冠水しているからマジで二、三ヶ月も雨降ったら、機械ごと沈みそうだな。」
「そうなんだ。だから、機械ごと最終的には沈ませるつもりで一人で入ってスイッチを入れたら海岸洞窟から脱出。冠水する頃には充分火山にエネルギーの供給は済んでいる。」
「なあだとしたら、本当は君一人で十分だったんじゃねえの?なんだか、君の性格上。他の人は巻き込みたくないって一人で処理しそうな気もするんだが。」
「おいおい。アタイはそんな優秀じゃねえよ。怖い所にはやはり仲間と行った方が心強い。」
 訝しげに、ヒカミは歩の顔を覗き込んでいる。
 確かに、歩ってこんな人だったっけ?母になったことにより少し小心したのか。
「貴志さん一人に任せるって選択はなかったのか?夫婦で来るの場合は、息子の件があるから無理だろうとして。」
「それはないよ。機械をぶっ壊す過程で、アタイの左腕が必要になる可能性が高いんだ。アタイはメンツから外せない。」
 歩が機械の腕を掲げる。
 手袋をしていたら、生身の腕となんら遜色のない精巧な動きの腕。
「なあ。その腕、何で動いているんだ?」
「動力源か?後で解体の時に教えてやるよ。」
 しかし。ヒカミは本当に鋭いし賢い。

「歩。なんかおれたちに隠してねえか?」

 ヒカミの言葉と同時に。歩は止まった。
 歩に続いて、全員が立ち止まる。
「あとで説明する。今は察してくれ。」
 下を向く歩に対し、ヒカミは歩の肩を掴む。
「駄目だ。今説明しろ。君は何を考えている?」
 見る人によっては脅しているように見えるけど、あたしにはわかる。ヒカミが、歩のことを心配するが故にこんな強い口調になっているのを。
「言えない。察してくれ。」
「おい。ふざけんなよ。ぶん殴ってでも聞きだすぞ。」
 ヒカミも今回は本気だ。歩の胸ぐらを掴んで、あたしに持ってろと言わんばかりに松明を渡して来た。
「言えないもんは、言えねえんだよ。
 でも、これだけは信じてくれ。これはアタイが弱いせいで、アタイの甘えでお前らに一緒についてきてもらった。お前らのことが本当に大好きだから。その時が来たら必ず説明するから。」
「だからこそだよ。その、君が事実を伝える時はもう後戻り出来ねえ時なんじゃねえか?今ならまだ。何か方法があるかもしれない。君がどんな重大なもの抱えているのか知らねえけど。辛いよお前。その面。」
 すると、二人の間に、ハクスイが身を挟んで、ヒカミの手を取った。
「その辺にしときな。ヒカミ。
 歩。気付いてないだろうけど。貴方、泣いてるよ。」
 ハクスイの言葉を聞いて、歩は驚いたように、自らの顔を手で擦った。
「本当だ。恥ずいな。泣いていたのか。ダセエな。」
「ここで私からの妥協案だけど、今はまだ私たちに隠している事実を言わなくて良い。ただ、何故言えないのかを説明して欲しい。その様子じゃ、私たちを心配して言えないだけじゃないと思うの。」
 確かに。
 というか、あたし以外も気付いていたのか。歩の違和感に。でも明らかに度を超えた違和感。ただならぬ理由。言えない理由。
「わかった。説明する。確かに、お前らの心理的負担は少なからず、あるから言えないのはある。ただ、確定した訳じゃない。他の手段も試す。この言えない手段は最後の手段だからそれを選ばないといけない時に言うから、今は言わせないでくれ。」
 歩は、義手を指差した。
 今日の計画は歩の義手がないと成立しない。
 しかし、あたしたちに隠している何かは今言いたくない......願掛けだろうか?
「その腕の中身は高圧電流か?それで機械ごと壊す作戦か?」
 ヒカミは相変わらず回転が早い。
「約束通り。そういう事情だからアタイの口からまだ言えない。向こうに着いてからにしようぜ。
 なあせめて、向こうに着くまでの間。楽しい話がしてえんだ。」
 歩は、あたしたちを置いて先に暗闇へと歩き出した。
 松明を持っているのがあたしなので、あたしは急いで歩を追いかける。

「なあ。サク。お前たち三人いつからそんなに仲良しなんだ?」
 これが歩の言う、楽しい話なんだろうか?
「ごめん。それ私も聞きたい。」
 確かに、ハクスイは記憶が無いから、あたしたち三人の仲良くなった経緯とか気になるんだろう。

 まず、あたしとヒカミが仲良くなったのは、小学校一年生の時かな。
 こっちの世界に来てからは全く視えないんだけど、あたし元の世界にいた時はさ、超視える人でさ。生きている人と幽霊の区別がつかなくて喋っているから、友達全然出来なくて。でもヒカミだけは、あたしが何か違うものと会話しているのを興味持って話しかけてくれたんだ。
 それから、毎日、ヒカミと過ごすのが当たり前になってさ。ヒカミとは小一からずっと同じクラスなんだ。
 多分ね、あたしが昔幽霊と話していたから、不思議ちゃん過ぎて、クラス替えの問題児指定に入れられていたと思うんだよね。だから、ヒカミとくっつけておかないとイジメが起きるとかそういう問題を危惧されて......じゃなかったら九年間同じクラスってすごい確率だと思う。
 ハクスイはね。小学校二年生の時同じクラスで、記憶無いところ、申し訳ないけど。ハクスイのお母さん、その年の夏前ぐらいかな。病気で亡くなって。
 結局ハクスイ学校来たの二、三週間後なんだけどさ。子供ながらに憔悴しきってるのが分かって、誰も話しかけられる空気じゃなくて、ハクスイ孤立しちゃってさ。
 その時はぶっちゃけ、あたしもヒカミもハクスイと全然喋った事なかったんだけど、ほらあたし幽霊視えるのはさ、人の強い感情とかも煙みたくなって視えるんだ。だからハクスイの気持ちが視えたから、周りのみんなより話しかけやすくてさ。あたしが話すからヒカミも話すようになる。
 その時にヒカミがハクスイってあだ名を付けたんだよね。なんかハクスイって、学年で一番背高いし、子供なのに顔も整っていて大人っぽいから、みんな〔さん〕付けで呼ぶ空気でさ。誰も京香ちゃんって呼ばないんだよ。みんなシラミズさんか、京香さんって呼んでいるから、そんな距離のある呼び方が悪いんだよ、ってヒカミが言い出して、最初ね。ヒカミは、京香って呼びつけで呼ぶんだけど「これじゃあダメだ。まるでおれの女みたいだ」って言うからさ。その言葉がめっちゃ面白くて三人でめちゃくちゃ笑って、じゃあ、あだ名を作ろうってなって、最終的にヒカミ案のハクスイが採用になったんだよね。
 それからさ、なにかと三人でいつも会ってさ。
 あっ、そうそう。小四の時にさ、三人で帰り道に、子犬が溺れているの見つけてさ。当時のあたしは体力ないし、ヒカミは体力はあるけど、泳げないからさ。
 ハクスイが一人で泳いで、犬を助けたんだよね。その犬さ。ヒカミが飼っててボンジロウって名前で。
 それまではあたしが朝、ヒカミを起こしにいくことが多かったんだけど、あたしの代わりにボンジロウが起こしてくれることが多くなったから、前は週一だったけど、起こす回数は月一に減ったよ。
 そうそう。ヒカミがカラクリ忍者村でバイトするキッカケになったのも、ボンジロウの散歩中に、バク宙の練習始めて習得した事から。この特技バク宙で、二次面接免除即採用だったんだよね。
 どうしても、忍者ショーの人数足りない日があって、ハクスイがピンチヒッターの侍役で出演したこともあったよ。
 ああ。そう。ヒカミに一ヶ月だけ彼氏がいたのも、このカラクリ村のバイトのお陰で。

「おい。そこは黙れ。」
 すかさず、ヒカミのストップが入った。
「いや。サク話すんだ。アタイはその話すげえ気になる。」
「凄い今更だけど、なんで彼氏いたの気付いたんだよ。おれサクにばれたら嫉妬されると思って、隠していたんだけど。」
『ああ。あれ?いつも雑にしか剃ってないのに、ヒカミのムダ毛が奇跡的に綺麗に剃られている日があったから、もしやと思って。』
 光源はこの松明一つしかないのに、ヒカミが耳まで真っ赤なのがわかる。
「君さ。わりかし鈍いキャラのはずなのに、その辺だけは鋭いよな。」
『まーね。そこはヒカミの親友としてね。で?なんで一ヶ月で別れたの?』
「それ言わないと駄目か?」
「記憶のない私としては、大変興味があるね。記憶がない分、何でも良いから知りたいもの。」
 横槍を入れてきたハクスイのことをヒカミは意味深に見つめて......
「君に寝取られたんだよ!」
 酷いことを言った。いや、ヒカミが酷いんじゃなくて、内容が。
 歩は、うわ。と小さく呻いてから、ハクスイを軽蔑の眼で見る。
「ああどうせ。おれは下手だよ。なあ!下手くそだよ。色気もねえよ。くそ。」
 あたしから見たヒカミは男でも女でもなくヒカミはヒカミって感じだったけど。こんなにも乙女であった事を知り、驚いている。
 そして、ハクスイの下衆さにも驚いている。え?大丈夫?今後もあたしたち親友でやっていける?
「え......あ。なんかごめん。記憶ないけどごめん。代わりに、今後どんな男も落とせるように、床指導しようか?手取り足取り腰取り。」
 ハクスイ。それって謝っているの?まあ記憶ないから仕方ないだろうけど。
「うるさいなあ。もう。どうせおれだけじゃなくて、誰だって君には敵わないからもういいよ。この話終わり。」
「そんなこと言ったら、ヒカミ一生右固定だよ。」
「黙れゴルァ!!!!」
 凄い剣幕で、ヒカミはハクスイを黙らせたけど、このハクスイの言った右固定とはどういう意味なんだろうとあたしにはわからなかったけど、後日ハクスイに右固定の意味を聞いて、凄く納得した。ヒカミごめん。
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