-1 Prologue
何度目か分からない嘔吐だった。
後輩は空になった胃袋から、血の混じったわずかな胃液だけを吐き出している。
震える背中へ手を伸ばしかけ――
止めた。
先日遺体を運んだ時に、布の下で皮膚がずるりと滑った感触を、指が覚えていた。
代わりに、ペンを握り直し手帳に書き込んでいく。
震えの間隔。
吐瀉物の色。
瞳孔反応。
体温上昇。
研究記録のように並ぶ文字だけが、辛うじて自分を保たせていた。
「......あたま、痛......きっと、もう......」
続かなかった言葉ごと、後輩は血で汚れたベッドへ倒れ込んだ。焦点の合わない目が、天井をゆっくり追っていた。
「......そうだ。あの人の最期の言葉、伝えときます」
天井をみつめたまま、後輩が口を開いた。
「青い太陽。――いや、光、か。とても、美しい......って」
ひび割れた唇が、わずかに歪んだ。
「......バカですよね。でも、あの人らしいや」
クツ、クツ、と短い呼気が漏れた。
笑ったのかもしれない。
それから後輩はゆっくりと首を動かし、そして真っ直ぐ、こちらを見た。
「記録、取ってくださいね。
途中でやめたら――俺、化けて出ますから」
以降、言葉として記録できるものは、何も残らなかった。