⑦ 準備
照和48年4月某日。
父の職業変更による家族の転居に伴い、雪子は、もと居た東郷小学校から転校し、名古屋市立猪高小学校の三年生になった。
相変わらずこっそり物理と英語の勉強を続けていたが、それ以外にも級友や先生に内緒でやっていることがあった。
一つは株式の売買である。
小学生に株は買えないので、取引は父に手伝ってもらっていた。
例のチカラを使って、どの銘柄が値上がりするか検討がつくので、それはもう、儲け放題であった。
もちろんそれが「禁じ手」だという自覚はあったが、将来の夢のためには、背に腹は代えられないのであった。
「大義のためだ。許せ、雪村君」
通帳に記入された金額にほくそ笑みながら、雪子は心の中で手を合わせた。
「亡くなったご先祖様みたいな扱いはイヤだなあ」
突然、雪子の部屋に雪村が現れた。
「ボクはまだ元気でピンピンしてるのに」
笑顔の雪村君。
「その現れ方、心臓に悪いんですけど」
セリフとは裏腹に、さほど驚いた様子もない雪子。
「ああ、なんか可愛くないなあ。ボクはもっと驚いたよう?」
なぜか不満げな雪村君。
「何ですか。また、お説教しに来たんですか?」
「いや、雪子さんが、監察局だの研究所だのを、将来設立するんだけど。その資金源の秘密をふと考えていたら、コチラへ来てしまったんだ......やっぱり株式の売買だったんだねえ」
「いいでしょ。私は将来、人類に貢献するのだから」
「おお、もうそこまで見えているんだ」
「もちろん」
「小学三年生にして、もはや化け物だなあ」
「失礼ね。むしろ神と言って欲しいわ」
「はい、はい」
「ところで、こんなに派手に儲けて、この時空に悪い影響はないのかなあ」
「さあ。それは今後の私の行い次第じゃないかしら」
「......そうなんだ」
「それに私、もう一つ努力していることがあるのよ」
「へえ、何かな?」
「念動力の方の訓練」
「......」
「時空移動と念動力。私はこのチカラの二本柱で、将来に向けて、旅に出たり、色々な研究をしたりするのよ......」
「......」
「......ねえ、こう見えても私、自惚れてはいないのよ」
「ほほう?」
「このようなチカラの持ち主が私だけだなんて思ってない」
「なるほど」
「不本意だけど、誰かと争う事になるかもしれない」
「それはまた......」
「その日のために、自分の身は自分で守れるようになっておきたいの」
雪村は色々言いたいことがあったが、黙っておくことにした。
どうせ雪子さんは、何でもお見通しになるんだもんな。
「......まあでも、何事もほどほどにね」
それだけ言って、雪村は去って行った。
「私とした事が、ちょっと意地になって、まくし立て過ぎたかな?」
小学三年生の雪子は、少し反省した。