⑤ 予言
"照和"46年7月某日。
雪子はパチンコ店に居た。
もちろん、小学一年生が一人で来て良い場所ではない。
子守がてら、父親に連れて来られたのであった。
さっきから、父の出玉が良くない。
雪子は暇つぶしに、その辺に落ちているパチンコ玉を拾っていた。
でも正直、内心ウズウズして、もうがまんできなくなっていた。
「ねえ、お父さん」
「何だい、雪子。今、ちょっと忙しいんだけどな」
パチンコ台に向かいながら返事をする父。
「大きな声では言えないんだけど......」
「何だって?聞こえないよ」
当然店内は、あんな音やこんな音でやかましい。
しかたなく隣の席に乗って、雪子は父の耳元で内緒話の姿勢をとる。
「たぶん、コッチの席の方が玉がたくさん出るよ」
囁くように伝える雪子。
「ええ?」
いぶかしげにコッチを見る父。
「何で?」
「なんとなく......」
ばつが悪そうに半笑いの雪子。
「ホントかなあ」
とか言いながら、席を移動する父。
「......まあ、やってみてよ」
できるだけ、素知らぬ顔を決め込む雪子。
数分後、事態は急転する。
大量の出玉をゲットした父は、早々に遊びを切り上げ、早速それを換金しに行ったのだった。
パチンコ玉は、現金3万円と少しばかりのお菓子に化けた。
おかげで雪子は、ようやく騒音から解放され、お菓子を得たのだった。
先ほど雪子は、ちょっとだけ未来の店内をのぞき見したのだった。
内心、このチカラの使い方は良くないことだと自覚している。
でもあの店内の騒音には、とても耐えられなかった。
それに彼女の父は、こういう遊びの引き際をよく心得た人物であった。
以前、こんなこともあった。
テレビで競馬を見ていた時のことである。
「4番の馬が一等賞だね」
パドックの様子を見ながら、うっかり雪子がつぶやいたのである。
彼女の父は聞き逃さなかった。
すぐ電話をとると、相手側となにやらボソボソと交渉していた。
雪子は後で知ったのだけれど、競馬の馬券は直前まで電話で買えるらしい。
さらに後で知ったのだが、電話の相手は「ノミ屋」で違法らしい。
そのレースは「皐月賞」といって、その業界では有名らしかった。
彼女の父はだいぶ儲かったようである。
そんなことを思い出しながら、雪子は父に手を引かれて店の外を歩きだす。
ふと自分を見ている視線に気づくと、向かいの床屋の前で、学生服の青年がこちらを見ていた。
それは雪村君だった。
雪子は思わず小さく手を振った。
しかし彼は苦笑しながら、右手の人差し指を左右に振った。
そして口パクで「ダメだよ」と言っているようだった。
「わかってる」
雪子も口パクで返して、ウインクして舌をペロリと出して見せた。
ちなみに、日笠陽子氏による「てへぺろ」普及は、これから38年後のことである。
......筆者は「けいおん!」の秋山澪が大好きです。