㉕ 攻防の果てに
先に動いたのは、四次元人だった。
周りに少しだけ居た、朝のジョギングをしていた人々が、走るのを中断して、二人を取り囲むように、近づいて来たのである。
「この期に及んで、まだそんな、リモートコントロールを使うのね?」
軽蔑の眼差しで、四次元人を見ながら、雪子が呟く。
「罪も無い、通りすがりの、普通のニンゲンから繰り出される攻撃には、オマエも抵抗できまい?」
すると、その場に時間凍結が起こった。
動けるのは、四次元人と雪子だけである。
「私にだって、これくらいの芸当、簡単に再現できるのよ」
ニヤリと笑って見せる雪子。
「くそっ、こうなったら、直接このカラダを使って、お前を叩きのめすまでだ」
四次元人は、その言葉通り、突然、雪子に跳びかかろうとした。しかし......。
「ああ、ダメ、ダメ」
雪子が笑いながらそう言うと、彼はその場から、一歩も動けなくなった。
「コレは凍結よ......しかもホンモノのね?」
背後の木の影から、黄色いワンピースの女が現れて、そう言った。
ソレは雪女の末裔の、村田京子だった。
「血液を始めとする、アナタの体内の全ての水分を、凍らせたのよ。下手に、ニンゲンの肉体を再構築したのが、運のツキね?」
(バカな。真田雪子は、常に単独行動を、好んでしている筈......)
もう既に、唇まで凍りついた四次元人は、テレパシーで呟く。
「アナタも四次元人のクセに、一体何時の話をしているのかしら?データは常にアップデートしておかなくっちゃダメよ?最近は不本意ながら、専らツーマンセルでヤッているのよ。そんな私たちを、"セーラー服と雪女"なんて呼ぶヤツらも居るわ」
少し忌々しげな感じで、京子がそう言った。
その様子を見届けた雪子は、おもむろに、背中に隠し持っていたオリハルコンの剣を抜き、一気にソレを振り下ろした。
渡辺正人の死体を、再構築したその肉体から、首が斬り落とされ、間髪入れずに、雪子の出した炎で焼き尽くされた。
同時に、残った肉体も分子の結びつきのチカラを失い、チリと化した。
「......コレで良かったのよね?」と京子。
「仕方ないでしょ?双方納得出来る解決策は、無かったんだから......」
雪子は、少し残念そうに呟いた。
「彼女たちの記憶は......やっぱり消すのよね?」
「ソレは言うまでも無く......いつもの事よ」
そんな感じに、すっかり一件落着したかのように、話す二人を尻目に、木陰から木陰へと、コッソリ動きまわる黒い塊が有った。
何と、首が切られた瞬間に、四次元人が精神体の形を取り戻し、逃げ出していたのだ!コイツは特別に、逃げ足の早い個体だった。
(フフフ、ここまで来れば一安心だろう。後は、その辺でジョギングしている、ニンゲンのカラダに潜り込めば......)
そんな事を、四次元人が考えていた時だった。
その彼......つまり黒い塊を、木陰の中から見つけて、ヒョイと、摘み上げた者が居たのだ!
無論、そんな馬鹿げた事が出来るニンゲンなど、この三次元空間に居る筈は無い......ただ一人を除いては......。