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第1話 吸血鬼の噂


第1章 吸血鬼の噂


 朝一番、港に向かう漁師達の声で目が覚める。
 窓の外はまだ薄暗い。

「ふぁぁ......もう朝か......」

 まだ寝ていたい気持ちはあったが、やむなく重い身体をベッドから起こし窓に反射する自身の顔を見た。
 寝癖のついた短い黒髪、少し眠たげな青の瞳。
 そこに映っているのは、かつて見るたびに憂鬱になった自分の顔だった。

「さて、今日も始めるか」

 けれど今は違う。
 私はもう氷宮の姫でもなければ誰かに認められるために生きる必要もない。
 私は水桶で颯爽と顔を洗い寝癖を直すと、私は旅の途中で買ったシャツとズボンに着替え宿を出た。
 空は生憎の曇り模様、潮風に背を押されながら普段よく行く聞き込みスポットへ向かった。

 私、氷宮涼香は、一年前に生まれ育った村を出た。
 そして母国である華都国カイトを離れ大陸へと渡り、現在は貿易国家マエロンに滞在している。
 その中でもマエロン最大の港町、ドルフィネ。
 ここには毎日のように、様々な国から商人や旅人がやって来る。

 人が集まれば、情報も集まる。
 だから私は、この町に来てから毎日欠かさず様々な情報を集めていた。
 何故なら一人で旅をするなら、情報はお金よりも大切だし価値があるからだ。

「よう! 兄ちゃん今日も元気に情報収集かい?」

 聞き込みスポットへ向かう途中、聞き覚えのある声に呼び止められる。
 声のする方を振り向くとそこには開店準備中の商人、アントニーが手を振っていた。

「アントニーさんおはようございます。まあそんな所です」

 そう言うとアントニーは豪快に笑った後商品棚から何かを取り出した。

「話もいいがたまには商品の一つは買って欲しいところだ。......というわけで今日も知人のツテで良い品が手に入ったんだ一つどうだ?」

 そういうアントニーの手には何やら怪しい瓶が握られていた。
 その液体は見た目はとても綺麗な赤色だったが何処かおどろおどろしくとても飲む気にはなれない。

(またよくわからない効能の民間薬でも売りつけるつもりだな)

「遠慮しておきます。今はそんなにお金を持っていないので」

「そうかい、それは残念だ」

 するとアントニーは肩をすくめた。
 彼とは半年程前、この町で開催された大規模なキャラバンで知り合った。
 少々胡散臭い所を除けばあらゆる情報や人脈に長けた凄腕の商人である事は間違いなかった。
 なので私は彼から何度か情報を買っていた。

「......でもまあ、今日は商品より面白いものを仕入れてるんだ」

「面白いもの......?」

 その一言に私は少しだけ身を乗り出す。
 するとアントニーが口元を手で隠し耳打ちをしてきた。

「とっておきの噂話だ」

「是非聞かせて欲しい、内容によっては報酬弾みましょう」

「ヒューヒュー流石顔も心もイケメン様だ! 器が違うねぇ!」

 そしてアントニーは小さな声で噂を話し始めた。

「今日の話題はこれだ。隣国センチュラルに住まう吸血鬼の噂・・・・・」

「吸血鬼......?」

 その言葉を聞いた瞬間、私はなぜか胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えた。

「ああそうだ、話では丁度今みたいな日の目が隠れる曇りの日や夜中に町を徘徊しては人目のつかない場所にターゲットを連れ込んで血を啜っているらしい」

「随分と物騒な話ですね」

 私は黙ってアントニーを見た。

「けれど本当にそんなものが居るんですか?」

「さあな、俺自身が実際に見たわけじゃないからな」

 するとアントニーはあっさりと答えた。

「ただ、ここ最近マエロンでも妙な噛み跡のある変死体がいくつか見つかって様でな。それでこの辺りでも噂になってるらしい」

 私は黙り込んだ。

「獣に襲われた可能性は?」

「もちろんそう考えてる奴もいる」

 そしてアントニーは苦笑いを浮かべた。

「だが人ってのは面白いもんでな。一度“吸血鬼がいる”って話が広まると、何でもかんでも吸血鬼の仕業にしたがるもんだ」

「......それでその吸血鬼とセンチュラルに何の関係が?」

 私がそう問いかけるとアントニーは再び口元に手を当て囁く様に話を続けた。

「ところがこの噂にはもう一つ妙な話があってな、その吸血鬼がどうやらとある著名人じゃないかって噂が立っているんだ」

「それは誰なんだ?」

 アントニーは周囲を確認してから続けた。

「センチュラルの政治家、ヴァーミリアンだ」

「ヴァーミリアン......?」

「そうだ、センチュラルじゃ知らない奴はいないってレベルのな」

 私は眉を寄せる。

「政治家が吸血鬼、ですか」

「面白いだろ?」

「出鱈目にしか聞こえません」

「まあ、俺もそう思うよ」

 アントニーはそう言い軽く笑った。

「ただな、妙なのはそいつが徹底して人前に姿を見せないことだ」

「姿を?」

「そうだ、公の場にも殆ど姿を現さないうえに顔写真も肖像画もほとんど出回ってない」

「......それは確かに妙ですね」

「だろ?」

 アントニーは口角を上げる。

「だから人々は考えたわけだ......“あいつは人間じゃないかもしれない“ってな」

 私は黙った。
 そしてその言葉が、妙に胸に刺さった。
 異端児、烏カラス、私も昔そう呼ばれていた。
 黒い髪をしているという、ただそれだけの理由で。

「......人は勝手ですね」

「ん?」

「いえ」

 私はアントニーから視線を逸らした。
 彼は不思議そうに私を見る。

「どうしてそんな噂が広まったんでしょうね」

 そう言うとアントニーはあっさり答えた。

「簡単なことさ、人は得体の知れないものを自分たちが理解できる形に押し込めたがる。そう言う生き物なのさ」

「......」

「正体が分からない政治家なら、怪物にしてしまえばいい」

 その言葉が、頭の中で反響した。

『正体が分からないなら、怪物にしてしまえばいい』

 私はアントニーのその言葉に何も返せなかった。
 そして無意識に自身の前髪へ手を伸ばす。

「......ヴァーミリアン」

 よく知らない名前だった。
 勿論会ったことすらない。
 どんな顔をしているのかもわからない。
 それなのに何故かその名前だけが妙に気になった。

「それで?」

「ん?」

「そのヴァーミリアンという政治家について他に何か知っていることは?」

 アントニーがニヤリと笑う。

「随分と興味が湧いたみたいじゃないか!」

「情報は多い方がいいでしょう?」

「そりゃそうだ」

 するとアントニーは指を擦り合わせる。

「ただしここから先は追加料金だ」

「......呆れた」

「あったりめーだろ! 商人舐めるな!」

 私は小さくため息をつき、硬貨を取り出した。
 それから暫く話を聞き、私はアントニーの店を後にした。
 頭の中に残っているのは、三つの言葉。
 センチュラル、吸血鬼、ヴァーミリアン。
 少なくともどれも私には関係のないものだった。

「ヴァーミリアン......どんな人なんだろう」

 少なくともこの時までは――


***

 その日の帰り、宿へ戻る頃には空はすっかり暗くなっていた。
 私は宿舎の部屋へ戻ると窓を開ける。
 すると潮の匂いを含んだ風が、部屋へ流れ込んできた。
 私はふと星空を見上げる。

「センチュラル、か......」

 ここ一年私はいろいろな場所を旅してきた。
 知らない町、知らない人、知らない文化。
 最初はただ、生き延びるために情報を集めていただけだった。
 けれど、いつからだろう。
 知らない場所へ行くことそのものが楽しくなっていた。
 知らない料理を食べ、知らない言葉を覚え、見たこともない種族や知らない人々と交流し言葉を交わす。
 そしてまた自分の知らない世界を知る。
 それは、氷宮家にいた頃には決してできなかったこと。

「やっぱり旅っていいな......」

 思わず笑う。
 そして、再びセンチュラルの名前を思い浮かべる。
 普通ならただの噂話で終わる。

 けれど――

 あの言葉が、どうしても頭から離れなかった。

『人は得体の知れないものを、自分たちが理解できる形に押し込めたがる』

「......もし」

 私は窓の外を見た。

(本当は吸血鬼じゃなかったら? ......仮に本当に吸血鬼だったとして何故そんな噂が立ったんだ?)

 どちらにしても気になる。
 噂だけで誰かを怪物と決めつけることが、本当に正しいのか。
 私は、それを知りたくなった。

「センチュラル......」

 そして、今度は迷わず口にした。

「行ってみよう」

 誰かに命令されたわけでもないし、誰かに必要とされたわけでもない。
 ただ私自身が知りたいと思ったそれだけだった。

「そうと決まれば、明日センチュラルについて調べなくてはいけないな」

 私は宿舎のベッドに寝転がった。
 そして明日の予定を考えながら、私はゆっくりと目を閉じるのだった。


***


 翌日、私は様々な人達から隣国センチュラルについて尋ねて回った。

 ただ今までの経験から調べ事をする上で必ず守っている点がある。
 それは出身を明かさない事だ。
 私の生まれた村は長年人目につかぬ様にひっそりと暮らし繁栄してきた。
 それ故に万が一私の身元を探られた時、私の情報を話してしまう者が居ては折角逃げてきたのに居場所が割れてしまう。
 なのでできるだけこの事は口外しないように努めている。

 そしてここまで様々な人達から隣国センチュラルについて尋ねて回りおおよその概要が明らかになった。

 中央国家センチュラル、この大陸の中央に位置する現在大陸で唯一の永世中立民主主義国家。
 それなのに吸血鬼の噂で揺れ動いている何処か面白そうな国。

「センチュラル......見どころがありそうだ」

 私の母国である華都国カイトとは置かれている立場も状況も全く違う。
 だからこそ持たざる他所の魅力に私はどうしようもなく惹きつけられた。
 そうして私はコツコツと狩ってきた魔物を打った路銀と実家から持ち出してきた僅かな手持ちをはたきセンチュラルへと向かう事にしたのだった。

 だけどこの時の私は知らなかった。


 まさかあんな出来事に巻き込まれてしまうだなんて。







to be continued......
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吸血鬼ユウの御意のままに作者:有機鈴凛(トマチン)
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第1章 吸血鬼の噂


 朝一番、港に向かう漁師達の声で目が覚める。
 窓の外はまだ薄暗い。

「ふぁぁ......もう朝か......」

 まだ寝ていたい気持ちはあったが、やむなく重い身体をベッドから起こし窓に反射する自身の顔を見た。
 寝癖のついた短い黒髪、少し眠たげな青の瞳。
 そこに映っているのは、かつて見るたびに憂鬱になった自分の顔だった。

「さて、今日も始めるか」

 けれど今は違う。
 私はもう氷宮の姫でもなければ誰かに認められるために生きる必要もない。
 私は水桶で颯爽と顔を洗い寝癖を直すと、私は旅の途中で買ったシャツとズボンに着替え宿を出た。
 空は生憎の曇り模様、潮風に背を押されながら普段よく行く聞き込みスポットへ向かった。

 私、氷宮涼香は、一年前に生まれ育った村を出た。
 そして母国である華都国カイトを離れ大陸へと渡り、現在は貿易国家マエロンに滞在している。
 その中でもマエロン最大の港町、ドルフィネ。
 ここには毎日のように、様々な国から商人や旅人がやって来る。

 人が集まれば、情報も集まる。
 だから私は、この町に来てから毎日欠かさず様々な情報を集めていた。
 何故なら一人で旅をするなら、情報はお金よりも大切だし価値があるからだ。

「よう! 兄ちゃん今日も元気に情報収集かい?」

 聞き込みスポットへ向かう途中、聞き覚えのある声に呼び止められる。
 声のする方を振り向くとそこには開店準備中の商人、アントニーが手を振っていた。

「アントニーさんおはようございます。まあそんな所です」

 そう言うとアントニーは豪快に笑った後商品棚から何かを取り出した。

「話もいいがたまには商品の一つは買って欲しいところだ。......というわけで今日も知人のツテで良い品が手に入ったんだ一つどうだ?」

 そういうアントニーの手には何やら怪しい瓶が握られていた。
 その液体は見た目はとても綺麗な赤色だったが何処かおどろおどろしくとても飲む気にはなれない。

(またよくわからない効能の民間薬でも売りつけるつもりだな)

「遠慮しておきます。今はそんなにお金を持っていないので」

「そうかい、それは残念だ」

 するとアントニーは肩をすくめた。
 彼とは半年程前、この町で開催された大規模なキャラバンで知り合った。
 少々胡散臭い所を除けばあらゆる情報や人脈に長けた凄腕の商人である事は間違いなかった。
 なので私は彼から何度か情報を買っていた。

「......でもまあ、今日は商品より面白いものを仕入れてるんだ」

「面白いもの......?」

 その一言に私は少しだけ身を乗り出す。
 するとアントニーが口元を手で隠し耳打ちをしてきた。

「とっておきの噂話だ」

「是非聞かせて欲しい、内容によっては報酬弾みましょう」

「ヒューヒュー流石顔も心もイケメン様だ! 器が違うねぇ!」

 そしてアントニーは小さな声で噂を話し始めた。

「今日の話題はこれだ。隣国センチュラルに住まう吸血鬼の噂・・・・・」

「吸血鬼......?」

 その言葉を聞いた瞬間、私はなぜか胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えた。

「ああそうだ、話では丁度今みたいな日の目が隠れる曇りの日や夜中に町を徘徊しては人目のつかない場所にターゲットを連れ込んで血を啜っているらしい」

「随分と物騒な話ですね」

 私は黙ってアントニーを見た。

「けれど本当にそんなものが居るんですか?」

「さあな、俺自身が実際に見たわけじゃないからな」

 するとアントニーはあっさりと答えた。

「ただ、ここ最近マエロンでも妙な噛み跡のある変死体がいくつか見つかって様でな。それでこの辺りでも噂になってるらしい」

 私は黙り込んだ。

「獣に襲われた可能性は?」

「もちろんそう考えてる奴もいる」

 そしてアントニーは苦笑いを浮かべた。

「だが人ってのは面白いもんでな。一度“吸血鬼がいる”って話が広まると、何でもかんでも吸血鬼の仕業にしたがるもんだ」

「......それでその吸血鬼とセンチュラルに何の関係が?」

 私がそう問いかけるとアントニーは再び口元に手を当て囁く様に話を続けた。

「ところがこの噂にはもう一つ妙な話があってな、その吸血鬼がどうやらとある著名人じゃないかって噂が立っているんだ」

「それは誰なんだ?」

 アントニーは周囲を確認してから続けた。

「センチュラルの政治家、ヴァーミリアンだ」

「ヴァーミリアン......?」

「そうだ、センチュラルじゃ知らない奴はいないってレベルのな」

 私は眉を寄せる。

「政治家が吸血鬼、ですか」

「面白いだろ?」

「出鱈目にしか聞こえません」

「まあ、俺もそう思うよ」

 アントニーはそう言い軽く笑った。

「ただな、妙なのはそいつが徹底して人前に姿を見せないことだ」

「姿を?」

「そうだ、公の場にも殆ど姿を現さないうえに顔写真も肖像画もほとんど出回ってない」

「......それは確かに妙ですね」

「だろ?」

 アントニーは口角を上げる。

「だから人々は考えたわけだ......“あいつは人間じゃないかもしれない“ってな」

 私は黙った。
 そしてその言葉が、妙に胸に刺さった。
 異端児、烏カラス、私も昔そう呼ばれていた。
 黒い髪をしているという、ただそれだけの理由で。

「......人は勝手ですね」

「ん?」

「いえ」

 私はアントニーから視線を逸らした。
 彼は不思議そうに私を見る。

「どうしてそんな噂が広まったんでしょうね」

 そう言うとアントニーはあっさり答えた。

「簡単なことさ、人は得体の知れないものを自分たちが理解できる形に押し込めたがる。そう言う生き物なのさ」

「......」

「正体が分からない政治家なら、怪物にしてしまえばいい」

 その言葉が、頭の中で反響した。

『正体が分からないなら、怪物にしてしまえばいい』

 私はアントニーのその言葉に何も返せなかった。
 そして無意識に自身の前髪へ手を伸ばす。

「......ヴァーミリアン」

 よく知らない名前だった。
 勿論会ったことすらない。
 どんな顔をしているのかもわからない。
 それなのに何故かその名前だけが妙に気になった。

「それで?」

「ん?」

「そのヴァーミリアンという政治家について他に何か知っていることは?」

 アントニーがニヤリと笑う。

「随分と興味が湧いたみたいじゃないか!」

「情報は多い方がいいでしょう?」

「そりゃそうだ」

 するとアントニーは指を擦り合わせる。

「ただしここから先は追加料金だ」

「......呆れた」

「あったりめーだろ! 商人舐めるな!」

 私は小さくため息をつき、硬貨を取り出した。
 それから暫く話を聞き、私はアントニーの店を後にした。
 頭の中に残っているのは、三つの言葉。
 センチュラル、吸血鬼、ヴァーミリアン。
 少なくともどれも私には関係のないものだった。

「ヴァーミリアン......どんな人なんだろう」

 少なくともこの時までは――


***

 その日の帰り、宿へ戻る頃には空はすっかり暗くなっていた。
 私は宿舎の部屋へ戻ると窓を開ける。
 すると潮の匂いを含んだ風が、部屋へ流れ込んできた。
 私はふと星空を見上げる。

「センチュラル、か......」

 ここ一年私はいろいろな場所を旅してきた。
 知らない町、知らない人、知らない文化。
 最初はただ、生き延びるために情報を集めていただけだった。
 けれど、いつからだろう。
 知らない場所へ行くことそのものが楽しくなっていた。
 知らない料理を食べ、知らない言葉を覚え、見たこともない種族や知らない人々と交流し言葉を交わす。
 そしてまた自分の知らない世界を知る。
 それは、氷宮家にいた頃には決してできなかったこと。

「やっぱり旅っていいな......」

 思わず笑う。
 そして、再びセンチュラルの名前を思い浮かべる。
 普通ならただの噂話で終わる。

 けれど――

 あの言葉が、どうしても頭から離れなかった。

『人は得体の知れないものを、自分たちが理解できる形に押し込めたがる』

「......もし」

 私は窓の外を見た。

(本当は吸血鬼じゃなかったら? ......仮に本当に吸血鬼だったとして何故そんな噂が立ったんだ?)

 どちらにしても気になる。
 噂だけで誰かを怪物と決めつけることが、本当に正しいのか。
 私は、それを知りたくなった。

「センチュラル......」

 そして、今度は迷わず口にした。

「行ってみよう」

 誰かに命令されたわけでもないし、誰かに必要とされたわけでもない。
 ただ私自身が知りたいと思ったそれだけだった。

「そうと決まれば、明日センチュラルについて調べなくてはいけないな」

 私は宿舎のベッドに寝転がった。
 そして明日の予定を考えながら、私はゆっくりと目を閉じるのだった。


***


 翌日、私は様々な人達から隣国センチュラルについて尋ねて回った。

 ただ今までの経験から調べ事をする上で必ず守っている点がある。
 それは出身を明かさない事だ。
 私の生まれた村は長年人目につかぬ様にひっそりと暮らし繁栄してきた。
 それ故に万が一私の身元を探られた時、私の情報を話してしまう者が居ては折角逃げてきたのに居場所が割れてしまう。
 なのでできるだけこの事は口外しないように努めている。

 そしてここまで様々な人達から隣国センチュラルについて尋ねて回りおおよその概要が明らかになった。

 中央国家センチュラル、この大陸の中央に位置する現在大陸で唯一の永世中立民主主義国家。
 それなのに吸血鬼の噂で揺れ動いている何処か面白そうな国。

「センチュラル......見どころがありそうだ」

 私の母国である華都国カイトとは置かれている立場も状況も全く違う。
 だからこそ持たざる他所の魅力に私はどうしようもなく惹きつけられた。
 そうして私はコツコツと狩ってきた魔物を打った路銀と実家から持ち出してきた僅かな手持ちをはたきセンチュラルへと向かう事にしたのだった。

 だけどこの時の私は知らなかった。


 まさかあんな出来事に巻き込まれてしまうだなんて。







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吸血鬼ユウの御意のままに作者:有機鈴凛(トマチン)
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