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第06話:いつも通りの任務(下)

 翌朝、合同訓練のために中央棟の地下訓練室に集まった。
 四班分の子どもがいると、訓練室がいつもより少し狭い。東十班、東二班、東十一班、それから南一班。壁際で待っていると、東二班の竜胆りんどうが顔を上げた。

「あ、南一いるじゃん」
「久しぶり」
「なんだよ、じゃあ俺らの出番ないじゃん」

 竜胆はにやっと笑った。青藍はめんどくさそうに返す。

「実戦は東十だろ。お前らも俺らも待機班だ」
「そうなんだけどさあ」

 竜胆の横で、紅唐べにとうが片足でぴょんぴょん高く跳ねていた。常盤ときわが後ろから「動きがうるさい」と短く言った。紅唐は「へーい」と言って、すぐに跳ねるのをやめた。
 東十班の三人は、壁際に立ったまま、あまり喋らなかった。見ているだけで緊張感が伝わってくる。浅縹あさなだが一度だけ深緋の方を見て、すぐに目を戻した。隣の晒柿されがきは、自分の手のひらを見ていた。

「お前ら、東十に上がったんだっけ」

 竜胆が東十班の方へ歩いていきながら言った。

「はい」
「この前まで十一だったろ」
「......はい」
「早かったな」
「いえ」

 浅縹は短く答えた。竜胆は「硬いなー」と笑って、それ以上はからかわなかった。

 東十一班は、壁際に固まって座っていた。三人とも、口数は少なかった。一人が東十班の方をちらりと見て、それからすぐに目を伏せた。まだ任務のプログラムに慣れていないのかもしれない。
 深緋はその様子を、端っこでストレッチしながら見ていた。
 背後には任務の装備がメンバーごとに揃えられている。

 朽葉くつはが入ってきた。今日は作戦指導の褐返かちがえと一緒だった。簡単な合同訓練の説明が始まった。褐返は座学で作戦を担当している先生なので、説明もわかりやすい。実戦部隊と後方待機班の動きの確認、配置の入れ替え、合図。説明は短かった。

「始める」
「はい」
「装備つけろ」

 訓練が始まった。
 任務装備を各々ががちゃがちゃと運ぶ。「重いー」と言っているのは鶸の声だ。
 深緋は導線どうせんグローブと前腕固定ベルトを付け、制動ベルトを締める。防刃ジャケットまで着て、ブーツを履くと結構ずっしりしてくる。そこに耐性外套コートまで着込むと、かなり重くて動きづらい。
 一方で鶸は導線グローブと制動ベルト、ゴーグルと防刃ジャケットだけの軽装だ。ジャケットのボタンも開けっぱなしでふざけているので、補助の黒鳶くろとびに叱られている。

「モニタ端子を確認しろ、実技始めるぞ」

 鶸は最初の合図で跳んだ。少し速かった。アシスタントの鉛白えんぱくが「タイミング」と声をかけた。鶸は「はあい」と言いながら、二回目はもう少し抑えた。東十一班の子が、それを横目で見ていた。
 青藍は東二班の常盤と組んで、配置の入れ替えの確認をしていた。落ち着いた動きで、いつも通りだった。途中、防御壁の揺らぎを保つ場面があった。深緋はその時間を、こっそり数えていた。前のときよりは、少し戻っていた。
 深緋は東十班の浅縹と組んだ。短い炎の線を引いて、浅縹がその線を避けて移動する確認だった。浅縹の動きが、ギクシャクしている。「すみません」と一度言って、もう一度跳び直した。深緋は「平気」と短く言った。浅縹は頷いた。

 訓練は、一時間ほどで終わった。

  *

 翌朝まだ薄暗い時間帯に、車両の前に四つの班が集まった。
 車両は落ち着いた外装で、横腹に出動用の番号が書かれていた。乗込口の後部扉と前方の積載扉が開いていて、中に荷物が積み込まれているところだった。スタッフが何人か、台帳を片手に出入りしていた。
 鶸が積載扉のステップに足をかけた。

「ヒワ、そっちから入るな」
「近いじゃん」
「積み込みの邪魔になるだろ」
「入れるもん」
「入れてもだめだって」

 するりと入った鶸を見て、青藍がため息をつく。スタッフの大人の「こら!」と言う声が車両の中から聞こえた。「怒られてるね」と深緋が笑い含みで言うと「俺もなぜか怒られるんだぞ」と青藍が不機嫌そうに返す。
 二人は後方扉から車内に入った。後方側は、実戦部隊と装備の区画になっている。東十班の二人が、既に装備を身につけていた。
 ネット簡易に仕切られた車両前方側が、待機班用の少し広い区画になっている。中央にテーブルが固定され、厚めの敷物に直接座ることになる。壁際には毛布が積まれていて、棚の飲み物は固定されていた。

「邪魔になるから入口の方に荷物置くなよー」

 竜胆が、待機班側の敷物に座り込みながら言った。紅唐が隣に転がって、常盤が「おい邪魔」と言った。
 車両が動き出した。最初の揺れで、鶸が一度バランスを崩した。

「うわっ」
「掴まれよ」
「掴まってたー」
「掴まってないだろ」

 壁際に手すりがあった。鶸はそれを片手で握りなおした。揺れはすぐに落ち着いて、定速になった。窓は小さく、外の景色はあまり見えなかった。深緋は壁に背を預けて座った。

(了)
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ヒュプノスの魔法使いは繭に眠る作者:小川ハリ
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第06話:いつも通りの任務(下)

 翌朝、合同訓練のために中央棟の地下訓練室に集まった。
 四班分の子どもがいると、訓練室がいつもより少し狭い。東十班、東二班、東十一班、それから南一班。壁際で待っていると、東二班の竜胆りんどうが顔を上げた。

「あ、南一いるじゃん」
「久しぶり」
「なんだよ、じゃあ俺らの出番ないじゃん」

 竜胆はにやっと笑った。青藍はめんどくさそうに返す。

「実戦は東十だろ。お前らも俺らも待機班だ」
「そうなんだけどさあ」

 竜胆の横で、紅唐べにとうが片足でぴょんぴょん高く跳ねていた。常盤ときわが後ろから「動きがうるさい」と短く言った。紅唐は「へーい」と言って、すぐに跳ねるのをやめた。
 東十班の三人は、壁際に立ったまま、あまり喋らなかった。見ているだけで緊張感が伝わってくる。浅縹あさなだが一度だけ深緋の方を見て、すぐに目を戻した。隣の晒柿されがきは、自分の手のひらを見ていた。

「お前ら、東十に上がったんだっけ」

 竜胆が東十班の方へ歩いていきながら言った。

「はい」
「この前まで十一だったろ」
「......はい」
「早かったな」
「いえ」

 浅縹は短く答えた。竜胆は「硬いなー」と笑って、それ以上はからかわなかった。

 東十一班は、壁際に固まって座っていた。三人とも、口数は少なかった。一人が東十班の方をちらりと見て、それからすぐに目を伏せた。まだ任務のプログラムに慣れていないのかもしれない。
 深緋はその様子を、端っこでストレッチしながら見ていた。
 背後には任務の装備がメンバーごとに揃えられている。

 朽葉くつはが入ってきた。今日は作戦指導の褐返かちがえと一緒だった。簡単な合同訓練の説明が始まった。褐返は座学で作戦を担当している先生なので、説明もわかりやすい。実戦部隊と後方待機班の動きの確認、配置の入れ替え、合図。説明は短かった。

「始める」
「はい」
「装備つけろ」

 訓練が始まった。
 任務装備を各々ががちゃがちゃと運ぶ。「重いー」と言っているのは鶸の声だ。
 深緋は導線どうせんグローブと前腕固定ベルトを付け、制動ベルトを締める。防刃ジャケットまで着て、ブーツを履くと結構ずっしりしてくる。そこに耐性外套コートまで着込むと、かなり重くて動きづらい。
 一方で鶸は導線グローブと制動ベルト、ゴーグルと防刃ジャケットだけの軽装だ。ジャケットのボタンも開けっぱなしでふざけているので、補助の黒鳶くろとびに叱られている。

「モニタ端子を確認しろ、実技始めるぞ」

 鶸は最初の合図で跳んだ。少し速かった。アシスタントの鉛白えんぱくが「タイミング」と声をかけた。鶸は「はあい」と言いながら、二回目はもう少し抑えた。東十一班の子が、それを横目で見ていた。
 青藍は東二班の常盤と組んで、配置の入れ替えの確認をしていた。落ち着いた動きで、いつも通りだった。途中、防御壁の揺らぎを保つ場面があった。深緋はその時間を、こっそり数えていた。前のときよりは、少し戻っていた。
 深緋は東十班の浅縹と組んだ。短い炎の線を引いて、浅縹がその線を避けて移動する確認だった。浅縹の動きが、ギクシャクしている。「すみません」と一度言って、もう一度跳び直した。深緋は「平気」と短く言った。浅縹は頷いた。

 訓練は、一時間ほどで終わった。

  *

 翌朝まだ薄暗い時間帯に、車両の前に四つの班が集まった。
 車両は落ち着いた外装で、横腹に出動用の番号が書かれていた。乗込口の後部扉と前方の積載扉が開いていて、中に荷物が積み込まれているところだった。スタッフが何人か、台帳を片手に出入りしていた。
 鶸が積載扉のステップに足をかけた。

「ヒワ、そっちから入るな」
「近いじゃん」
「積み込みの邪魔になるだろ」
「入れるもん」
「入れてもだめだって」

 するりと入った鶸を見て、青藍がため息をつく。スタッフの大人の「こら!」と言う声が車両の中から聞こえた。「怒られてるね」と深緋が笑い含みで言うと「俺もなぜか怒られるんだぞ」と青藍が不機嫌そうに返す。
 二人は後方扉から車内に入った。後方側は、実戦部隊と装備の区画になっている。東十班の二人が、既に装備を身につけていた。
 ネット簡易に仕切られた車両前方側が、待機班用の少し広い区画になっている。中央にテーブルが固定され、厚めの敷物に直接座ることになる。壁際には毛布が積まれていて、棚の飲み物は固定されていた。

「邪魔になるから入口の方に荷物置くなよー」

 竜胆が、待機班側の敷物に座り込みながら言った。紅唐が隣に転がって、常盤が「おい邪魔」と言った。
 車両が動き出した。最初の揺れで、鶸が一度バランスを崩した。

「うわっ」
「掴まれよ」
「掴まってたー」
「掴まってないだろ」

 壁際に手すりがあった。鶸はそれを片手で握りなおした。揺れはすぐに落ち着いて、定速になった。窓は小さく、外の景色はあまり見えなかった。深緋は壁に背を預けて座った。

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