ホーム望郷のエルフ
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 ミカエルシュナの存在は、当然ながら非常に目立った。ただでさえ単体で目立つというのに、ユリウスの後ろに控えているのだから、もはや約束された目立ちっぷりである。

 だが、そこでこそこそするような素振りを見せることは本意ではないと、ミカエルシュナはあえて堂々と振る舞うことにした。なんら恥じ入るようなことはしていないのだから。

 そんな彼女が案内されたのは、街を管理する代官の屋敷である。そこの応接室を借りて、ユリウスとミカエルシュナは向き合った。

 無論、ふたりきりではない。ユリウスの後ろにはふたりの騎士が控えているし、応接室の扉も開いたままだ。

「──さて、そろそろ貴女のことを教えてもらおうか」

 重々しく言うユリウスに、ミカエルシュナはしばし黙り込んだ。そして、自分でもまだ混乱しているのですが、と前置きして、自身の身に起きた出来事を語った。

 自分が千年前の人間であること、かつてアヴァロン王国の辺境伯令嬢だったこと、突然王国の公爵に攻撃され、領地が荒らされたこと、公爵を討った直後に、フローディア女神によって千年間眠らされていたことなど──

 アルトゥールに求婚されていたことは、さすがに黙っていた。話がややこしくなるし、この場では関係無い話である。

 全て聞き終えたユリウスは、眉をひそめて額をもんだ。

「つまり貴女は⋯⋯かつて存在していたアヴァロン王国の貴族令嬢だと」

「そうなります」

「アヴァロン⋯⋯八百年前、突然途絶えた王国だ。魔物の大規模スタンピードによって、一夜にして滅んだとされる。貴女の話が本当なら、ミカエルシュナ嬢は王国後期の貴族ということになるな」

「そう、なりますわね」



 ──スタンピード? そんなことが起きていたの?

 ──そもそも、そんなものに蹂躙されるほど弱い国ではなかったのに。



 ミカエルシュナは頷きながら、内心首を傾げた。

 アヴァロンは多くの魔術師を抱え、精強な軍を備えた国だった。その強さたるや、大国だった龍帝国でさえ手出しできないほどだったのである。

 何より王であるアルトゥールが至上と称されるほどの強力無比な魔術師であり、少なくとも彼が寿命以外で死ぬことは無いのではと言われていたほどだった。

 そもそも純粋なエルフなので、その寿命も長大だ。何しろ彼は、強大なその力で一代でアヴァロン王国を作り、三千年もの間治め続けていたのだから。

 加えて言うなら、純粋なエルフの寿命は、魔力量に依存する。アルトゥールの具体的な魔力量は知らないが、三千年問題無く王を務められていたのなら、相当長いはずだ。あと数百年は余裕だったろう。

 それなのにアヴァロン王国は今は存在しない。その事実が信じられなかった。

 だが、現実として現在アヴァロンはかつて滅びたものとして扱われている以上、信じないわけにはいかなかった。おそらく、二百年の間に何か不測の事態が起きたのだろう。

 ミカエルシュナはひとつ息をつくと、ユリウスに向き直った。

「わたくしからも、質問をよろしいでしょうか」

「勿論」

「今回この街を襲った魔物はワイバーンだと思うのですが、現代のワイバーンは毒を吐き、あのように瘴気をまとっているのですか?」

「いや、そんなことはない」

 ユリウスは首を振った。

「我々の知るワイバーンは、ブレスを吐くことも無ければ、あのように瘴気をまとうことも無い。おそらくは変異種なのだろうが、群れ全てが変異種なのは異常事態だ」

 どうやら千年の間に異常進化したわけではないらしい。ミカエルシュナは少しだけ安心した。だが、事態が好転したわけではない。

「では、あのワイバーン達はどこから来たのでしょうか。ニーベル公国という国が攻撃されていると、契約している精霊から聞きましたが」

「貴女は精霊魔法が使えるのか? そう、現在、ニーベル公国と連絡が取れなくなっている。おそらくは、あのワイバーンの攻撃を受けたのだろう。これより我らは、ニーベル公国に向かうつもりだ」

「! それに、わたくしも同行させてはもらえませんか?」

 ミカエルシュナは身を乗り出した。

 現在何者でもない、何をするべきかも解らないミカエルシュナであるが、何ができるかははっきりしている。

 己の腕を役立てられるなら、これ以上のことはない。

「そうだな⋯⋯」

 ユリウスは顎に手をやり、しばし悩んだ。そんな彼に、控えていた騎士のひとりが声をかける。

「陛下、よろしいのですか? 彼女の素性には非常に怪しいところがありますが⋯⋯」

「問題無い。むしろ、余の傍の方が見張れるだろう」

 騎士の心配をユリウスは一蹴し、ミカエルシュナに向けて手を差し出した。

「こちらこそ、願ってもない助力だ。どうか手を貸してほしい」

「勿論ですわ」

 ミカエルシュナは今度は、その手をためらうことなく取った。



  ───



 街で一晩休んだ騎士団は──この時、金獅子騎士団という名前だということをミカエルシュナは知った──ニーベル公国に向けて進み出した。

 彼らに同行することになったミカエルシュナは、道中で現在の情勢を学ぶことになる。

 アヴァロン王国は完全に消滅、現在は歴史上にその名が残るのみとなっており、その後にユリウスが治めるローディウム帝国ができたのだという。ただ、アヴァロンが滅びてすぐに興ったというわけではなく、建国四百年ほどの、比較的新しい国らしい。

 アヴァロンと双璧を成していた龍帝国は、健在ではあるものの、百八十年ほど前に起きた戦争に敗れて規模を縮小、領土もほとんど失い、引きこもるように存在しているそうだ。大陸の二大国の衰亡に、ミカエルシュナは改めて時の流れを感じずにはいられなかった。

覚えなければならないことは、ほかにもある。火急必要なのは、言葉と文字だった。

 言葉は魔法で何とかなるものの、文字が読めないのはかなりの問題である。とにかく簡単な文字も読めないことには、今後生きていく上でかなり支障になるのは違いない。ミカエルシュナは必死で勉強をした。

 そんな中で、やはりというべきか、あの変異種ワイバーン達が何度も襲ってきた。合間でミカエルシュナがティターニアに聞いたところによると、どうやらこのワイバーンは八百年前にアヴァロン王国に飛来した種類とのことだ。

 そしてその親玉が、ニーベルに封印されているらしい。

「その話は、俺も聞いたことがあるな」

 ティターニアから聞いた情報を共有すると、ユリウスはそう言った。

「ニーベル公国の建国神話だ。八百年前に邪竜が現れ、それを封じたドワーフが、公国を作ったと」

「そういえば、ドワーフが王なのでしたね」

 ミカエルシュナは目を瞬いた。

 ドワーフはエルフほどではないにしろ、長命な種族である。さすがに千年生きる者はいないものの、アヴァロンの詳しい情報を何かしら持っている可能性は高い。俄然、目的が明確になってきた。

 だがニーベル公国の公都に近付くにつれて、その期待は揺らぐことになる。
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望郷のエルフ作者:沙伊
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 ミカエルシュナの存在は、当然ながら非常に目立った。ただでさえ単体で目立つというのに、ユリウスの後ろに控えているのだから、もはや約束された目立ちっぷりである。

 だが、そこでこそこそするような素振りを見せることは本意ではないと、ミカエルシュナはあえて堂々と振る舞うことにした。なんら恥じ入るようなことはしていないのだから。

 そんな彼女が案内されたのは、街を管理する代官の屋敷である。そこの応接室を借りて、ユリウスとミカエルシュナは向き合った。

 無論、ふたりきりではない。ユリウスの後ろにはふたりの騎士が控えているし、応接室の扉も開いたままだ。

「──さて、そろそろ貴女のことを教えてもらおうか」

 重々しく言うユリウスに、ミカエルシュナはしばし黙り込んだ。そして、自分でもまだ混乱しているのですが、と前置きして、自身の身に起きた出来事を語った。

 自分が千年前の人間であること、かつてアヴァロン王国の辺境伯令嬢だったこと、突然王国の公爵に攻撃され、領地が荒らされたこと、公爵を討った直後に、フローディア女神によって千年間眠らされていたことなど──

 アルトゥールに求婚されていたことは、さすがに黙っていた。話がややこしくなるし、この場では関係無い話である。

 全て聞き終えたユリウスは、眉をひそめて額をもんだ。

「つまり貴女は⋯⋯かつて存在していたアヴァロン王国の貴族令嬢だと」

「そうなります」

「アヴァロン⋯⋯八百年前、突然途絶えた王国だ。魔物の大規模スタンピードによって、一夜にして滅んだとされる。貴女の話が本当なら、ミカエルシュナ嬢は王国後期の貴族ということになるな」

「そう、なりますわね」



 ──スタンピード? そんなことが起きていたの?

 ──そもそも、そんなものに蹂躙されるほど弱い国ではなかったのに。



 ミカエルシュナは頷きながら、内心首を傾げた。

 アヴァロンは多くの魔術師を抱え、精強な軍を備えた国だった。その強さたるや、大国だった龍帝国でさえ手出しできないほどだったのである。

 何より王であるアルトゥールが至上と称されるほどの強力無比な魔術師であり、少なくとも彼が寿命以外で死ぬことは無いのではと言われていたほどだった。

 そもそも純粋なエルフなので、その寿命も長大だ。何しろ彼は、強大なその力で一代でアヴァロン王国を作り、三千年もの間治め続けていたのだから。

 加えて言うなら、純粋なエルフの寿命は、魔力量に依存する。アルトゥールの具体的な魔力量は知らないが、三千年問題無く王を務められていたのなら、相当長いはずだ。あと数百年は余裕だったろう。

 それなのにアヴァロン王国は今は存在しない。その事実が信じられなかった。

 だが、現実として現在アヴァロンはかつて滅びたものとして扱われている以上、信じないわけにはいかなかった。おそらく、二百年の間に何か不測の事態が起きたのだろう。

 ミカエルシュナはひとつ息をつくと、ユリウスに向き直った。

「わたくしからも、質問をよろしいでしょうか」

「勿論」

「今回この街を襲った魔物はワイバーンだと思うのですが、現代のワイバーンは毒を吐き、あのように瘴気をまとっているのですか?」

「いや、そんなことはない」

 ユリウスは首を振った。

「我々の知るワイバーンは、ブレスを吐くことも無ければ、あのように瘴気をまとうことも無い。おそらくは変異種なのだろうが、群れ全てが変異種なのは異常事態だ」

 どうやら千年の間に異常進化したわけではないらしい。ミカエルシュナは少しだけ安心した。だが、事態が好転したわけではない。

「では、あのワイバーン達はどこから来たのでしょうか。ニーベル公国という国が攻撃されていると、契約している精霊から聞きましたが」

「貴女は精霊魔法が使えるのか? そう、現在、ニーベル公国と連絡が取れなくなっている。おそらくは、あのワイバーンの攻撃を受けたのだろう。これより我らは、ニーベル公国に向かうつもりだ」

「! それに、わたくしも同行させてはもらえませんか?」

 ミカエルシュナは身を乗り出した。

 現在何者でもない、何をするべきかも解らないミカエルシュナであるが、何ができるかははっきりしている。

 己の腕を役立てられるなら、これ以上のことはない。

「そうだな⋯⋯」

 ユリウスは顎に手をやり、しばし悩んだ。そんな彼に、控えていた騎士のひとりが声をかける。

「陛下、よろしいのですか? 彼女の素性には非常に怪しいところがありますが⋯⋯」

「問題無い。むしろ、余の傍の方が見張れるだろう」

 騎士の心配をユリウスは一蹴し、ミカエルシュナに向けて手を差し出した。

「こちらこそ、願ってもない助力だ。どうか手を貸してほしい」

「勿論ですわ」

 ミカエルシュナは今度は、その手をためらうことなく取った。



  ───



 街で一晩休んだ騎士団は──この時、金獅子騎士団という名前だということをミカエルシュナは知った──ニーベル公国に向けて進み出した。

 彼らに同行することになったミカエルシュナは、道中で現在の情勢を学ぶことになる。

 アヴァロン王国は完全に消滅、現在は歴史上にその名が残るのみとなっており、その後にユリウスが治めるローディウム帝国ができたのだという。ただ、アヴァロンが滅びてすぐに興ったというわけではなく、建国四百年ほどの、比較的新しい国らしい。

 アヴァロンと双璧を成していた龍帝国は、健在ではあるものの、百八十年ほど前に起きた戦争に敗れて規模を縮小、領土もほとんど失い、引きこもるように存在しているそうだ。大陸の二大国の衰亡に、ミカエルシュナは改めて時の流れを感じずにはいられなかった。

覚えなければならないことは、ほかにもある。火急必要なのは、言葉と文字だった。

 言葉は魔法で何とかなるものの、文字が読めないのはかなりの問題である。とにかく簡単な文字も読めないことには、今後生きていく上でかなり支障になるのは違いない。ミカエルシュナは必死で勉強をした。

 そんな中で、やはりというべきか、あの変異種ワイバーン達が何度も襲ってきた。合間でミカエルシュナがティターニアに聞いたところによると、どうやらこのワイバーンは八百年前にアヴァロン王国に飛来した種類とのことだ。

 そしてその親玉が、ニーベルに封印されているらしい。

「その話は、俺も聞いたことがあるな」

 ティターニアから聞いた情報を共有すると、ユリウスはそう言った。

「ニーベル公国の建国神話だ。八百年前に邪竜が現れ、それを封じたドワーフが、公国を作ったと」

「そういえば、ドワーフが王なのでしたね」

 ミカエルシュナは目を瞬いた。

 ドワーフはエルフほどではないにしろ、長命な種族である。さすがに千年生きる者はいないものの、アヴァロンの詳しい情報を何かしら持っている可能性は高い。俄然、目的が明確になってきた。

 だがニーベル公国の公都に近付くにつれて、その期待は揺らぐことになる。
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望郷のエルフ作者:沙伊
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