男性は小学生は男子校に通います。ですが、中学校は自由に選択できます。
「最悪、本当に最悪、3カ月はやり過ぎだろうがよ」
僕はなぜか愚痴を聞いていた。
いつもように学校に登校して、いつものように第三男子専用教室に入ったら、御形がいた。
いつも、授業を受けている御形にしては、珍しいなとは思っていたら、御形の彼女達の愚痴につき合わされた。さっさと、逃げれば良かった。
「最近かまってやれなかったのは俺が悪いけどさ。14人で結託して、俺を嵌めるのは違うじゃん?」
「知らないよ。でも、彼女の増やしすぎは良くないと思うよ」
「お前、そっち派?正論が聞きたくて愚痴ってるわけじゃねぇよ。」
「それならAIにでも聞いてもらえば?きっと共感してくれるよ」
「当たり強くない?なんかした?」
「別に。仲良くもないのに愚痴られたら、ねぇ」
理由は、他にもあるのだけれど。
「はいはい、悪かったって。今度、なんか奢るから」
「いいよ。君と出かけたくないし」
「だから、当たり強くない?」
そんな風に話してたら、教室の扉が音をたてて開いた。
「あれ、御形じゃん。めずらし」
「太郎か。いちゃ悪いか俺が」
太郎はいつもどおりの女装した姿で扉の前に立っていた。
「悪くはないけど、名前で呼ばないでね。いつも言ってるでしょ。苗字とか、まぁ、お前とかでもいいって」
少し顔を歪めて、御形に言った。
あいつは名前で呼ばれることを嫌っている。なんでも、男と知られる機会を極力減らしたいらしい。だから、僕はあいつを名前で、なんなら苗字ですら呼ばない。
「はいはい、お前。これでいい?」
「まぁそれでいいよ。それと、なんかあったの?御形、ここにいるのめずらしいし」
「あぁ、そうだ聞いてくれ。実は、彼女達に嵌められたんだ」
「嵌められた?」
「そうだ。どうやら優里、最近できた彼女とイチャイチャしすぎたみたいでな。あまり、他の彼女達をかまってやれてなかった」
「うん、今のところ君が悪いね」
「落ち着け、太郎。これからだ」
御形が名前で呼んだ。
たぶん、これはわざとだ。顔が笑っている。なんなら、最初のやつもわざとだろう。
「名前!」
「お前、少し落ち着けって」
そうやって、彼をなだめる。
「だって」
「はいはい」
「いいか、続けるぞ」
御形が呆れたように話す。お前のせいだ、お前の。
「その結果、彼女達が暴走してな。昨日、食堂のことだ」
「食堂?あー、なんか縮こまってたね」
そう言いつつ、昨日の様子を思い出す。
「⋯⋯見ていたのか。それなら、話が早い」
「話が早いって、ボク何も知らないけど」
「まぁ、一人だけ席遠いから仕方ないよ」
「⋯⋯続けるぞ。その日は、いつものように彼女達に囲まれた席に向かっていた。顔は笑っている。それなのに、どこか恐ろしい気配が隠れていた」
へー彼女達、ちゃんと席取れてたんだ。
「正直、逃げたかった。だが、逃げたら逃げたで後が怖い。覚悟を決めて、俺は席に座った」
「それで?」
「給食は何もなかった。怖かったが何もなかった。問題は給食の後だ。給食が終わった途端、彼女達に拘束されて、そのまま学校を抜け出して家まで運ばれた」
御形の顔には恐怖が浮かんでいた。
「そこからは、口に出すのも憚れるようなお仕置きを、な」
「ふぅん。あっ、首元にキスマーク」
「ツッ!」
バッと首元を確認する。
「嘘だよ」
「⋯⋯謀ったな」
「名前で呼んだ罰だよ。バツ」
「はぁ。まぁ要するに、彼女達にお仕置きされてな。それと、3カ月先までデートの予定も埋められた」
「「ドンマイ」」
「⋯⋯お前達、少しは愚痴らせろよ。俺が悪いで終わらせるな」
「といっても、御形が悪いしな」
「ねー」
「⋯⋯お前達に話した俺がバカだったよ」
はぁ、と御形がため息をつく。
「まぁ、あんなことがあったからな、しばらくはここに授業サボりに来るからよろしくな」
「えっ、嫌」
「他の教室行きなよ」
「いいや。決めたからな。絶対ここに来る、いや来てやる」
御形が若干怒りながら、そう言い切った。
「というか君、皆勤だったんじゃないの?よかったの?」
「んーまぁ、皆勤目指して、授業受けてたわけじゃないしな」
「じゃあなんで?」
「そりゃあ、女の子にモテるため。それ以外あるか」
人を小馬鹿にするようなそんな目をしていた。
「モテるためには、まず関わりがなければ始まらない。その点、授業を受けるのは、女の子達と関わりができて、他の男のライバルもいない、最高の環境だ」
「それ、授業受けるのダルくない?そんなに、女の子に囲まれたいものなの?」
「お前も純愛派⋯いや、そうだったな。授業を受ける価値はたくさんある。だいたい、無知な男より、賢い男の方がかっこいいだろ」
「ふぅん、じゃあこれなんて読む?」
彼がスマホを取り出し、ササッと文字を打ち込む。
「『強』いに平仮名の『か』、初めて見たな」
悩んでる、悩んでる。
ちなみに、僕は読める。案外、あてずっぽうでも正解しそうな、そんな読み。
「⋯⋯か、か⋯⋯わかった」
御形が余裕そうに笑う。
これで間違えたら、恥ずかしいやつだ。
「答えは、存在しない」
さも正解かのように、意味のわからないことを言う。
「俺を嵌めるために、わざと答えのない問題を出したのだろ。バカが、俺がそんな引っ掛けにはまる訳ないだろ」
「うん。バカな答えだね」
本当に何言ってんだ。
「不正解。はい、授業意味ないー」
「えっ、嘘」
「嘘じゃない。正解は『したたか』でした。ちゃんと勉強しましょうね」
「ぐぐぐ、もう一問だ」
御形は納得がいっていないようで、もう一問と要求する。
「えー、仕方ないなぁ」
彼はまた、ササッとスマホに入力する。今度は小学生でも読める簡単な単語だった。それを見て、もうオチがわかってしまった。
「『悪夢』?あくむ以外に読み方なんてあるのか?」
頭にハテナが浮かんでいる。この答えは御形には絶対にわからないであろう。
「ええい、『あくむ』それが答えだ」
御形がやけになって答える。
まぁ、この答えでもしかたないな。
「ファイナルアンサー?」
「あぁ」
正解発表の前に彼がニチャリと笑うのが目に入った。少し性格が悪い。
「正解は『ナイトメア』でした」
「ヨコモジのルビなんてわかるわけないだろうがッ!」
この日一番の怒声が教室中に響いた。