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崩壊への道(前編)3

 混乱の最中で、口を開いたのはアイリスだった。

「あたしたちも救助に行こう?」

 振り向いてみると、赤い瞳は揺るぎなくヴィクトを貫いている。しかし、彼女が思うような答えは返ってこなかった。

「いや、災害が全部終わるまで待つんだ。オレらが死んじまったら、もう取り返しがつかなくなる」

「でも、じっとなんてしてられないよ」

「ここで出来ることを探そう。災害の原因は何だったのか、何か探れるかもしれない」

 俺たちに見当がつかなくても、使い魔たちなら何かを掴んでいるかもしれない。なにせ、世界に異変が起きる時には、使い魔が知らせてくれるという伝承が残っているのだ。期待せずにはいられない。
 左隣りに座るカイルを見てみると、口を結んで首を横に振るのだった。意思を汲むかのように、アリアが言葉を繋げる。

「私は何も分からなかったんです。本来なら、何か起こるのであれば察知出来た筈なのですが......」

 カノンの隣に座るアリアは声を詰まらせた。涙まで浮かべている。
 同意を示すように、カイルとロイも口々に話す。

「私も、何も......。すみません」

「私もです。なんて申し上げたら良いのか......」

 声を震わせると、悔しそうにテーブルの上で拳を握る。

「使い魔を責めるヤツはいねーさ。オレらも、何も出来なかったんだ。同罪だ」

 ヴィクトが吐き捨てるように言葉を投げると、サラは小さく首を振った。

「いつまで災害が続くか分かるか?」

「それも......何とも言えなくて......」

「どうなってやがる」

 ヴィクトは短い髪を片手でくしゃりと握る。

「これじゃあ、俺たちも身動きが取れないよ。良いアイデアないかな」

 せめて、天変地異の原因が何なのかさえ分かれば良いのに。収拾がつくのかも判断出来ない状況は脱しないと。焦りばかりが募り、責任が肩に重くのしかかっていく。
 窓の外は、もう日が暮れそうになっていた。ピンクと紫が混じった空は世界の異変など露知らず。草原を風が吹き抜け、海のような波を立たせる。どうか、現状を打破させてくれ。外の景色に願ってみるが、返答は来ない。
 ふと、隣に座るカノンの方から息を呑む音が聞こえた。何かあったのだろうか。小首を傾げ、声を掛けてみる。

「カノン?」

「何、あれ......。人......?」

 その指先は部屋の隅を差している。
 俺たち以外の『人』がこの場に居る筈がない。ダイヤには結界が張られているし、完全なる孤島なのだ。
 カノンの見間違えだろうと、そちらを見てみる。すると、確かに、人らしきものが佇んでいたのだ。黒いフードに、靄のような真っ黒な顔、吊り上がった赤い瞳――それを人間と呼べるのかどうかは、今は置いておこう。
 あまりの不気味さに息を呑んだ。

「『あれ』とは失礼だな」

 地響きのような低い唸り声が部屋を震撼する。何となく、本来は口のある場所が動いたような気がした。

「オマエは何者だ?」

「世界を破壊する者、とでも名乗っておこう」

 つまりは、この天変地異を起こした者、ということだろうか。
 
「どうやってここに?」

「魔法で移動してきただけだが」

 魔法を使える者は、魔導師、使い魔、あとは各国の王しか存在しない。こいつはその全てから除外される。
 あるべき筈のない者が存在している、ということだろうか。

「『魔法』って言ったか?」

「魔法を使えるのは俺たちだけじゃ――」

 否定をする意味も込めて、そいつの額を見た。見てしまった。黒い宝石のようなものが額の中央で小さく光を反射させている。
 まさか、こいつは魔導師――。

「気付いたか。その答えは『イエス』だ」

「お前がこの災害を?」

「そうだ。いずれは、この世界全てを呑み込むだろう。質問はもう良いだろう?」

 その『魔導師』は嬉々として目を細め、マントを翻す。空気を振動させながら、その姿は霧散する。
 この状況はまずい。奴が魔法で天変地異を引き起こしたのだとしたら、俺たちでさえ太刀打ち出来るのか分からない。そんなにも強大な魔法を使ったことがないのだ。
 ヴィクトはテーブルの上に両肘を置いた。そこへ額を乗せ、絶望を滲ませる。

「脅しか? ただオレらを挑発に来たのか?」

「それもあると思う」

 しかし、それだけではない。
 
「他にもあるのか?」

「ただ、自分の存在を誇示したかった。言い換えれば、自己顕示欲の塊。わざわざ俺たちの前に現れるなんてさ、敵に存在を知らせるようなものだし。ホントに世界を破壊したいだけなら、知られないように裏からやるよ。それに......」

「なんだ?」

「あいつは俺たちと同じだよ。『魔法』って言ってたじゃん? おでこの辺りが一瞬光ったんだ」

「はっ?」

 ヴィクトだけではなく、カノンとアイリスも表情を強張らせて固まってしまった。俺だけが事実に気づいていたらしい。今更になって証拠も提示は出来ない。上手く説明が出来ず、俯いてしまった。
 一方で、俺の一言に確信を得たのか、使い魔たちは力強い口調で情報共有をしてくれるのだった。

「あれは魔導師です。奴の微かな気配が、そう言っています」

「私も、確実にそう言えます」

「額の石も確認しました。黒い石――皆様が、火、水、風、地なら、奴は闇、でしょうか。気配を探っていると、私の心も冷え切ってしまいそうな程です」

 アリアは肩を抱き、身震いをする。無口なサラだけは唇を噛むだけに留まった。

「それで、今、奴はどこに?」

「エメラルドの北部です」

 カイルの言葉を肯定するように、他の使い魔三人も深く頷いてみせる。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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崩壊への道(前編)3

 混乱の最中で、口を開いたのはアイリスだった。

「あたしたちも救助に行こう?」

 振り向いてみると、赤い瞳は揺るぎなくヴィクトを貫いている。しかし、彼女が思うような答えは返ってこなかった。

「いや、災害が全部終わるまで待つんだ。オレらが死んじまったら、もう取り返しがつかなくなる」

「でも、じっとなんてしてられないよ」

「ここで出来ることを探そう。災害の原因は何だったのか、何か探れるかもしれない」

 俺たちに見当がつかなくても、使い魔たちなら何かを掴んでいるかもしれない。なにせ、世界に異変が起きる時には、使い魔が知らせてくれるという伝承が残っているのだ。期待せずにはいられない。
 左隣りに座るカイルを見てみると、口を結んで首を横に振るのだった。意思を汲むかのように、アリアが言葉を繋げる。

「私は何も分からなかったんです。本来なら、何か起こるのであれば察知出来た筈なのですが......」

 カノンの隣に座るアリアは声を詰まらせた。涙まで浮かべている。
 同意を示すように、カイルとロイも口々に話す。

「私も、何も......。すみません」

「私もです。なんて申し上げたら良いのか......」

 声を震わせると、悔しそうにテーブルの上で拳を握る。

「使い魔を責めるヤツはいねーさ。オレらも、何も出来なかったんだ。同罪だ」

 ヴィクトが吐き捨てるように言葉を投げると、サラは小さく首を振った。

「いつまで災害が続くか分かるか?」

「それも......何とも言えなくて......」

「どうなってやがる」

 ヴィクトは短い髪を片手でくしゃりと握る。

「これじゃあ、俺たちも身動きが取れないよ。良いアイデアないかな」

 せめて、天変地異の原因が何なのかさえ分かれば良いのに。収拾がつくのかも判断出来ない状況は脱しないと。焦りばかりが募り、責任が肩に重くのしかかっていく。
 窓の外は、もう日が暮れそうになっていた。ピンクと紫が混じった空は世界の異変など露知らず。草原を風が吹き抜け、海のような波を立たせる。どうか、現状を打破させてくれ。外の景色に願ってみるが、返答は来ない。
 ふと、隣に座るカノンの方から息を呑む音が聞こえた。何かあったのだろうか。小首を傾げ、声を掛けてみる。

「カノン?」

「何、あれ......。人......?」

 その指先は部屋の隅を差している。
 俺たち以外の『人』がこの場に居る筈がない。ダイヤには結界が張られているし、完全なる孤島なのだ。
 カノンの見間違えだろうと、そちらを見てみる。すると、確かに、人らしきものが佇んでいたのだ。黒いフードに、靄のような真っ黒な顔、吊り上がった赤い瞳――それを人間と呼べるのかどうかは、今は置いておこう。
 あまりの不気味さに息を呑んだ。

「『あれ』とは失礼だな」

 地響きのような低い唸り声が部屋を震撼する。何となく、本来は口のある場所が動いたような気がした。

「オマエは何者だ?」

「世界を破壊する者、とでも名乗っておこう」

 つまりは、この天変地異を起こした者、ということだろうか。
 
「どうやってここに?」

「魔法で移動してきただけだが」

 魔法を使える者は、魔導師、使い魔、あとは各国の王しか存在しない。こいつはその全てから除外される。
 あるべき筈のない者が存在している、ということだろうか。

「『魔法』って言ったか?」

「魔法を使えるのは俺たちだけじゃ――」

 否定をする意味も込めて、そいつの額を見た。見てしまった。黒い宝石のようなものが額の中央で小さく光を反射させている。
 まさか、こいつは魔導師――。

「気付いたか。その答えは『イエス』だ」

「お前がこの災害を?」

「そうだ。いずれは、この世界全てを呑み込むだろう。質問はもう良いだろう?」

 その『魔導師』は嬉々として目を細め、マントを翻す。空気を振動させながら、その姿は霧散する。
 この状況はまずい。奴が魔法で天変地異を引き起こしたのだとしたら、俺たちでさえ太刀打ち出来るのか分からない。そんなにも強大な魔法を使ったことがないのだ。
 ヴィクトはテーブルの上に両肘を置いた。そこへ額を乗せ、絶望を滲ませる。

「脅しか? ただオレらを挑発に来たのか?」

「それもあると思う」

 しかし、それだけではない。
 
「他にもあるのか?」

「ただ、自分の存在を誇示したかった。言い換えれば、自己顕示欲の塊。わざわざ俺たちの前に現れるなんてさ、敵に存在を知らせるようなものだし。ホントに世界を破壊したいだけなら、知られないように裏からやるよ。それに......」

「なんだ?」

「あいつは俺たちと同じだよ。『魔法』って言ってたじゃん? おでこの辺りが一瞬光ったんだ」

「はっ?」

 ヴィクトだけではなく、カノンとアイリスも表情を強張らせて固まってしまった。俺だけが事実に気づいていたらしい。今更になって証拠も提示は出来ない。上手く説明が出来ず、俯いてしまった。
 一方で、俺の一言に確信を得たのか、使い魔たちは力強い口調で情報共有をしてくれるのだった。

「あれは魔導師です。奴の微かな気配が、そう言っています」

「私も、確実にそう言えます」

「額の石も確認しました。黒い石――皆様が、火、水、風、地なら、奴は闇、でしょうか。気配を探っていると、私の心も冷え切ってしまいそうな程です」

 アリアは肩を抱き、身震いをする。無口なサラだけは唇を噛むだけに留まった。

「それで、今、奴はどこに?」

「エメラルドの北部です」

 カイルの言葉を肯定するように、他の使い魔三人も深く頷いてみせる。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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