ホーム›神々の奇想四重奏›崩壊への道(前編)2
← 次の話目次前の話 →

崩壊への道(前編)2

 日付も変わり、ソファーで本を読み耽る。これは――そう、『精霊と龍』という、精霊たちと龍が心を通わせる温かいファンタジー小説だ。読んでいるだけで心が洗われるような気持ちになる。
 最終章まではあと二章残っている。最終的に、精霊たちは龍を現代に蘇らせることが出来るのだろうか。ハラハラして仕方がない。
 目も疲れてきたし、一度休憩を挟もう。アゲハ蝶の栞を小説に挟み、「ふぅ......」と息を吐き出す。今日の紅茶は、トパーズの南部のものだ。甘みが強く、香りも高い。砂糖を入れずとも美味しく頂ける。
 ティーカップに口をつけながらも、耳をそばだてた。どこからか聞き覚えのない、水のような音が聞こえる気がする。
 窓の外を見てみれば、窓ガラスが水に濡れている。まさか、そんなことがある筈がない。ここは氷点下の世界なのだ。雨が降るなんて、そんなこと――。
 では、街はどうなっているのだろう。窓へと駆け寄ってみれば、思い思いの色に彩られた屋根が露となっている。降り積もった雪は溶けだし、水害となって人々を襲っているのだろう。
 俺が何とかしなくては。

「リエル様!」

 慌ただしい足音にも気づかない程、俺の心は焦っていたらしい。不意に呼ばれ、振り返る。その勢いのまま、カイルに詰め寄った。

「どうなってるのさ! なんで雨が!」

「それだけじゃ、ないんです!」

「えっ!?」

「津波が......サファイアを襲っています!」
 
 なんてことだろう。何故、もっと早くに気づけなかったのだろう。災害を止めることが出来るのは魔導師だけだというのに。

「津波はどこを襲ってる!?」

「サファイアの東側は壊滅的です。もしかしすると、第二波、第三波で王都にも到達するかもしれません」

「そんな......! みんな逃げられてるの!?」

「あまりに急な津波の襲来だったので、逃げ遅れた方は多数いると思われます」

 俺に救える命があるのなら、少しでも力にならなくては。
 王都は大陸の中央部にある。国土の半分以上が津波に飲まれるというのだろうか。そんなことは絶対に許さない。
 肩幅に足を広げ、意識を集中させる。瞼を閉じ、津波よ去れと念じる。

「リエル様! 駄目です!」

 叫ばれ、集中が途切れてしまった。

「なんで止めるのさ!」

「そんなことをすれば、リエル様の命がありません!」

「国の人たちの命を見捨てて逃げるなんて、そんなことは出来ない!」

「この国の人々のために逃げるんです! 自分の身を守れない者が、他人を守れますか!? 魔導師は民の希望なんです! 貴方が倒れたら、希望もなくなるんです! カノン様にも会えなくなりますよ!?」

 そう言われては、言い返すことなんて出来ないではないか。確かに、自分の身を守れなくては、他人なんて守れない。声にならない声を発し、家族やかつての友の笑顔を思い浮かべる。ごめん、俺に力がないばかりに。恨むなら恨んでくれても構わない。
 振り切れぬ思いを引き摺りながら、ダイヤへとワープする。既にカノンとヴィクト、アリア、それにロイがただならぬ表情で何かを話していた。その場に座り込み、息を荒くしている。
 直後にアイリスとサラも光に包まれながら到着した。その顔は真っ青になり、頭を両手で抱えている。

「いや! いや......!」

「アイリス、大丈夫だ。ここにいれば安心だからな」

 ヴィクトがいち早くアイリスの感情に気づき、そちらへと向かう。彼がアイリスの肩に触れると、彼女は声を上げて泣き出してしまった。
 異変が起きたのは、サファイアだけではないのは明白だ。

「カノンは大丈夫?」

 背中を向けるカノンに尋ねると、彼女はこちらに勢い良く振り返る。左腕の袖を捲りあげていくと、肘には擦り傷が出来ており、僅かに血が滲んでいた。
 俺よりも早くアリアが腰を浮かせる。

「塗り薬を持ってきます」

 言うと、サッと廊下へと走っていく。
 残されたカノンは、揺れる瞳で俺をじっと見詰めるのだった。

「サファイアは何が起きたの?」

「水害だよ。急に雨が降ってきて、積もってた雪も溶け出して。しまいには津波まで」

 あまりの惨劇に、目を背けてしまいたくなる。俯いたところで、事態は改善してくれない。サファイアに残してきた人たちが無事であることを願うばかりだ。
 すぐにアリアは救急箱を手に戻ってきた。軟膏と包帯を取り出すと、丁寧に処置を施していく。
 そこでやっと痛みに気づいた。俺も右手の甲に青痣ができていたのだ。どこにぶつけたのだろう。思い返してみても、思い当たらない。カイルは心配そうな表情で、右手を包み込むように湿布を貼ってくれた。
 傍では余程混乱しているのか、アイリスがヴィクトに縋りついている。

「揺れたと思ったら、灰が降ってきたの。噴石も落ちてくるし――」

 アイリスが話す内容から、ガーネットでは噴火が起きたのだろう。
 後の報告では、エメラルドでは大地震が、トパーズでは巨大竜巻が発生したらしい。世界で同時多発的に天災が襲い来るなんて、前代未聞の事態だ。何がどうなっているのだろう。状況が全く分からない。
 とにかく、今は自分が落ち着かなくては。とりあえず、いつもの席に座り、頭を抱える。天災の原因がある筈だ。それは何なのか。どうやって取り除けば良いのか。頭の中だけで答えを求め、閃けずに溜め息を吐く。
シェア
前の話 →
崩壊への道(前編)1
← 次の話
崩壊への道(前編)3
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

崩壊への道(前編)2

 日付も変わり、ソファーで本を読み耽る。これは――そう、『精霊と龍』という、精霊たちと龍が心を通わせる温かいファンタジー小説だ。読んでいるだけで心が洗われるような気持ちになる。
 最終章まではあと二章残っている。最終的に、精霊たちは龍を現代に蘇らせることが出来るのだろうか。ハラハラして仕方がない。
 目も疲れてきたし、一度休憩を挟もう。アゲハ蝶の栞を小説に挟み、「ふぅ......」と息を吐き出す。今日の紅茶は、トパーズの南部のものだ。甘みが強く、香りも高い。砂糖を入れずとも美味しく頂ける。
 ティーカップに口をつけながらも、耳をそばだてた。どこからか聞き覚えのない、水のような音が聞こえる気がする。
 窓の外を見てみれば、窓ガラスが水に濡れている。まさか、そんなことがある筈がない。ここは氷点下の世界なのだ。雨が降るなんて、そんなこと――。
 では、街はどうなっているのだろう。窓へと駆け寄ってみれば、思い思いの色に彩られた屋根が露となっている。降り積もった雪は溶けだし、水害となって人々を襲っているのだろう。
 俺が何とかしなくては。

「リエル様!」

 慌ただしい足音にも気づかない程、俺の心は焦っていたらしい。不意に呼ばれ、振り返る。その勢いのまま、カイルに詰め寄った。

「どうなってるのさ! なんで雨が!」

「それだけじゃ、ないんです!」

「えっ!?」

「津波が......サファイアを襲っています!」
 
 なんてことだろう。何故、もっと早くに気づけなかったのだろう。災害を止めることが出来るのは魔導師だけだというのに。

「津波はどこを襲ってる!?」

「サファイアの東側は壊滅的です。もしかしすると、第二波、第三波で王都にも到達するかもしれません」

「そんな......! みんな逃げられてるの!?」

「あまりに急な津波の襲来だったので、逃げ遅れた方は多数いると思われます」

 俺に救える命があるのなら、少しでも力にならなくては。
 王都は大陸の中央部にある。国土の半分以上が津波に飲まれるというのだろうか。そんなことは絶対に許さない。
 肩幅に足を広げ、意識を集中させる。瞼を閉じ、津波よ去れと念じる。

「リエル様! 駄目です!」

 叫ばれ、集中が途切れてしまった。

「なんで止めるのさ!」

「そんなことをすれば、リエル様の命がありません!」

「国の人たちの命を見捨てて逃げるなんて、そんなことは出来ない!」

「この国の人々のために逃げるんです! 自分の身を守れない者が、他人を守れますか!? 魔導師は民の希望なんです! 貴方が倒れたら、希望もなくなるんです! カノン様にも会えなくなりますよ!?」

 そう言われては、言い返すことなんて出来ないではないか。確かに、自分の身を守れなくては、他人なんて守れない。声にならない声を発し、家族やかつての友の笑顔を思い浮かべる。ごめん、俺に力がないばかりに。恨むなら恨んでくれても構わない。
 振り切れぬ思いを引き摺りながら、ダイヤへとワープする。既にカノンとヴィクト、アリア、それにロイがただならぬ表情で何かを話していた。その場に座り込み、息を荒くしている。
 直後にアイリスとサラも光に包まれながら到着した。その顔は真っ青になり、頭を両手で抱えている。

「いや! いや......!」

「アイリス、大丈夫だ。ここにいれば安心だからな」

 ヴィクトがいち早くアイリスの感情に気づき、そちらへと向かう。彼がアイリスの肩に触れると、彼女は声を上げて泣き出してしまった。
 異変が起きたのは、サファイアだけではないのは明白だ。

「カノンは大丈夫?」

 背中を向けるカノンに尋ねると、彼女はこちらに勢い良く振り返る。左腕の袖を捲りあげていくと、肘には擦り傷が出来ており、僅かに血が滲んでいた。
 俺よりも早くアリアが腰を浮かせる。

「塗り薬を持ってきます」

 言うと、サッと廊下へと走っていく。
 残されたカノンは、揺れる瞳で俺をじっと見詰めるのだった。

「サファイアは何が起きたの?」

「水害だよ。急に雨が降ってきて、積もってた雪も溶け出して。しまいには津波まで」

 あまりの惨劇に、目を背けてしまいたくなる。俯いたところで、事態は改善してくれない。サファイアに残してきた人たちが無事であることを願うばかりだ。
 すぐにアリアは救急箱を手に戻ってきた。軟膏と包帯を取り出すと、丁寧に処置を施していく。
 そこでやっと痛みに気づいた。俺も右手の甲に青痣ができていたのだ。どこにぶつけたのだろう。思い返してみても、思い当たらない。カイルは心配そうな表情で、右手を包み込むように湿布を貼ってくれた。
 傍では余程混乱しているのか、アイリスがヴィクトに縋りついている。

「揺れたと思ったら、灰が降ってきたの。噴石も落ちてくるし――」

 アイリスが話す内容から、ガーネットでは噴火が起きたのだろう。
 後の報告では、エメラルドでは大地震が、トパーズでは巨大竜巻が発生したらしい。世界で同時多発的に天災が襲い来るなんて、前代未聞の事態だ。何がどうなっているのだろう。状況が全く分からない。
 とにかく、今は自分が落ち着かなくては。とりあえず、いつもの席に座り、頭を抱える。天災の原因がある筈だ。それは何なのか。どうやって取り除けば良いのか。頭の中だけで答えを求め、閃けずに溜め息を吐く。
シェア
次の話崩壊への道(前編)3
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません