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神託2

 そのまま俺は自室に戻ってきてしまった。
 ミユとどう顔を合わせて良いのかが分からない。不自然な笑みを浮かべるより、撤退した方が良いだろう。そう思った。
 ベッドに寝転がり、真っ白な天井を眺める。まるで心の迷いをなくそうとするかのように。
 すると。

“水の魔導師”

 どこか聞き覚えのある、男性の声が聞こえてきたのだ。
 誰の声だっただろう。起き上がり、首を捻ってみる。

“聞いているか?”

 すぐにピンときた。この声は水の塔で聞いた、あの声だ。ミユの話を信じるのなら、こいつも神――。
 姿のない声の主を睨むように、天井に視線を向ける。

「何しに来たのさ。俺たちの意思を否定するだけなら、絶対に聞き入れない」

“そういう訳ではないのだ”

「じゃあ、ミユに言ったのは何? 俺は絶対に許さない」

“あれは地の神が言ったことだ。我が言おうとしているものとは違う”

 では、何が言いたいのだろう。反対側に首を傾げ、尚も天井を睨みつける。

“地の魔導師には聞かせられぬ話なのだ。明日、一人で水の塔に来なさい”

「ミユに聞かせられない話?」

“そうだ。必ず『一人で』来るように”

 水の神は『一人で』という単語を強調するように、一音一音区切って話す。それもミユの存在を否定された俺の心には染み入っていかず、反発しか出てこない。

「明日はミユと羽根を取りに行く約束してるし」

“それは、今、地の神が地の魔導師へ渡しに行っている。心配はない。お前は地の魔導師を助けたくはないのか?”

「えっ?」
 
 地の神は確かに、ミユに呪いを解く方法はない、と言った筈だ。もしや嘘なのだろうか。萎みかけていた光が再び膨らみ始める。

「希望を持っても良いの?」

“危険がつきまとう話だ。心して来るように”

 それだけを言うと、部屋がしんと静まり返った。ただ、俺の心臓が脈打つ音だけが耳に残る。
 ミユの呪いを解く方法があるのだろうか。あるのなら、それに縋りたい。是が非でも、明日は塔に行かなくては。

「......アレク!」

 何故か、アレクには伝えなくては、と思った。唯一の同性の仲間だからなのか、リーダーシップを取れる相手だと認識していたのか。分からないが、無我夢中だった。
 ベッドから飛び降り、床を蹴ってドアを開ける。廊下を走ると、すぐにアレクの部屋へとやって来ていた。
 ノックもせずにドアを思い切り押し開ける。

「アレク!」

「おおっ!?」

 アレクはこちらに背を向け、屈伸をしている所だったようだ。慌てて俺を見遣ると、片手で乱暴に頭を搔く。

「オマエ、ノックくらいしろって言ったよな?」

「それどころじゃないんだ!」

 アレクはポカンと口を開ける。

「何かあったのか?」

「もしかしたら、ミユの呪いが解けるかもしれない」

「はっ?」

 困惑するアレクに、捲し立てるように説明を続けた。

「水の神様が俺の所に来て、ミユを助けたくないのか? って。多分だけど、良い報告が出来ると思う」

 敢えて危険があるかもしれないことは伝えなかった。変に伝わって、アレクが俺を止める事態だけは避けたかったのだ。

「ソレ、信じて良いのか?」

「うん。明日、水の塔に行ってくる。ただし、絶対にミユには知らせないで」

「何でだ?」

「何でも良いじゃん。頼むから」

 この際、頭でも何でも下げてやる。口を結び、勢い良く腰を折った。
 そのせいもあってか、アレクの足音が近付いてくる。

「オマエがそんなにかしこまんのは、良くないことがある時だよな?」

「えっ?」

 俺には身に覚えがない。いや、前世での行動を思い出したくないだけだろうか。
 思わず顔を上げると、アレクはやれやれと言わんばかりに軽く首を横に振っていた。

「危険なのか?」

「それは......」

 言えない。言いたくない。吃ってしまえば、危険だと伝えているのと同じなのに。
 俺には力無く首を横に振る事しか出来なかった。

「......今回は、信じてやる」

「えっ?」

「危険じゃねぇって信じてやるって言ってんだ」

 アレクの中で何が起こったのかは分からない。哀愁を漂わせた笑みが、こちらを向くだけだった。

「ミユには伝えねーからよ、安心しろ」

「......ありがとう」

 とりあえず、好意を受け取って良いのだろうか。
 とにかく、ここでやるべきことは終えた。

「それだけ伝えに来ただけだから」

「あぁ、分かった」

 良し、あとは明日を迎えて水の塔に行くだけだ。片手を小さく振り、身軽になった心で部屋に戻る――筈だった。今は一番、会いたくない人物と出くわしてしまったのだ。

「......ミユ!」

 いつもは天使に見えるのに、今は危険人物に見えてしまう。

「クラウ、あのね? 私、話が......」

 軽はずみに会話をして、水の神との出来事がバレてしまっては一大事だ。慌てて自室へと飛び込み、勢いに任せてドアを閉めた。

「えっ? あっ、あの......」

 声だけでも、ミユが戸惑っているのが分かる。しかし、どうもしてあげられない。ドアに背中を預け、鼓動を速める胸を右手で押さえ付ける。
 少し間を置き、小さな足音は近づいてきた。そのまま、背中を叩かれるように、ドアが三回振動する。
 
「どうしよう......。嫌われた?」

 違う。嫌った訳ではない。嫌う筈がない。言いたいのに、言えない。

「おい、クラウ。ミユに勘違いされても知らねーぞ?」

 追い討ちをかけるかのように、アレクの声がくぐもって聞こえた。

「おい、出てこいよ」

 出ていける訳がないではないか。事情は先程、説明したのに。
 唇を噛み締め、考える。俺はどうしたら良い、と。
 ミユを嫌っていると勘違いされるのは途轍もなく嫌だ。だからと言って、話をしたら――。思考がグルグルと巡る。
 ミユとアレクの話し声も聞こえたが、気にしている余裕は無い。
 ただ、一言だけ俺の心に刺さった。

「いつでも部屋に行って良いって言ってくれたのに......」

 確かに、俺はミユに言った。その言葉を曲げても良いのだろうか。本格的に、ミユに嫌われても良いのだろうか。
 良い筈がない。

「おい、良い加減――」

 アレクの言葉を遮るようにして、押したドアは音を立てた。
 右目で廊下の様子を確認し、アレクを睨んでみる。

「アレクの役立たず」

「はぁ!?」

 そして、その隣にいたミユの左腕に狙いを定め、掴んだ。そのまま力ずくでミユを部屋へと誘い込む。
 ドアを閉めると、完全に廊下と遮断された。それなのに、アレクの殺気は感じ取れる。

「オマエの頼みなんか、ぜってぇ聞いてやらねーからな!」

 今回だって、頼みなんか聞いてくれなかった癖に。不満と怒りを抱えたまま、状況を理解出来ていないであろうミユへと視線を向けた。
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神託2

 そのまま俺は自室に戻ってきてしまった。
 ミユとどう顔を合わせて良いのかが分からない。不自然な笑みを浮かべるより、撤退した方が良いだろう。そう思った。
 ベッドに寝転がり、真っ白な天井を眺める。まるで心の迷いをなくそうとするかのように。
 すると。

“水の魔導師”

 どこか聞き覚えのある、男性の声が聞こえてきたのだ。
 誰の声だっただろう。起き上がり、首を捻ってみる。

“聞いているか?”

 すぐにピンときた。この声は水の塔で聞いた、あの声だ。ミユの話を信じるのなら、こいつも神――。
 姿のない声の主を睨むように、天井に視線を向ける。

「何しに来たのさ。俺たちの意思を否定するだけなら、絶対に聞き入れない」

“そういう訳ではないのだ”

「じゃあ、ミユに言ったのは何? 俺は絶対に許さない」

“あれは地の神が言ったことだ。我が言おうとしているものとは違う”

 では、何が言いたいのだろう。反対側に首を傾げ、尚も天井を睨みつける。

“地の魔導師には聞かせられぬ話なのだ。明日、一人で水の塔に来なさい”

「ミユに聞かせられない話?」

“そうだ。必ず『一人で』来るように”

 水の神は『一人で』という単語を強調するように、一音一音区切って話す。それもミユの存在を否定された俺の心には染み入っていかず、反発しか出てこない。

「明日はミユと羽根を取りに行く約束してるし」

“それは、今、地の神が地の魔導師へ渡しに行っている。心配はない。お前は地の魔導師を助けたくはないのか?”

「えっ?」
 
 地の神は確かに、ミユに呪いを解く方法はない、と言った筈だ。もしや嘘なのだろうか。萎みかけていた光が再び膨らみ始める。

「希望を持っても良いの?」

“危険がつきまとう話だ。心して来るように”

 それだけを言うと、部屋がしんと静まり返った。ただ、俺の心臓が脈打つ音だけが耳に残る。
 ミユの呪いを解く方法があるのだろうか。あるのなら、それに縋りたい。是が非でも、明日は塔に行かなくては。

「......アレク!」

 何故か、アレクには伝えなくては、と思った。唯一の同性の仲間だからなのか、リーダーシップを取れる相手だと認識していたのか。分からないが、無我夢中だった。
 ベッドから飛び降り、床を蹴ってドアを開ける。廊下を走ると、すぐにアレクの部屋へとやって来ていた。
 ノックもせずにドアを思い切り押し開ける。

「アレク!」

「おおっ!?」

 アレクはこちらに背を向け、屈伸をしている所だったようだ。慌てて俺を見遣ると、片手で乱暴に頭を搔く。

「オマエ、ノックくらいしろって言ったよな?」

「それどころじゃないんだ!」

 アレクはポカンと口を開ける。

「何かあったのか?」

「もしかしたら、ミユの呪いが解けるかもしれない」

「はっ?」

 困惑するアレクに、捲し立てるように説明を続けた。

「水の神様が俺の所に来て、ミユを助けたくないのか? って。多分だけど、良い報告が出来ると思う」

 敢えて危険があるかもしれないことは伝えなかった。変に伝わって、アレクが俺を止める事態だけは避けたかったのだ。

「ソレ、信じて良いのか?」

「うん。明日、水の塔に行ってくる。ただし、絶対にミユには知らせないで」

「何でだ?」

「何でも良いじゃん。頼むから」

 この際、頭でも何でも下げてやる。口を結び、勢い良く腰を折った。
 そのせいもあってか、アレクの足音が近付いてくる。

「オマエがそんなにかしこまんのは、良くないことがある時だよな?」

「えっ?」

 俺には身に覚えがない。いや、前世での行動を思い出したくないだけだろうか。
 思わず顔を上げると、アレクはやれやれと言わんばかりに軽く首を横に振っていた。

「危険なのか?」

「それは......」

 言えない。言いたくない。吃ってしまえば、危険だと伝えているのと同じなのに。
 俺には力無く首を横に振る事しか出来なかった。

「......今回は、信じてやる」

「えっ?」

「危険じゃねぇって信じてやるって言ってんだ」

 アレクの中で何が起こったのかは分からない。哀愁を漂わせた笑みが、こちらを向くだけだった。

「ミユには伝えねーからよ、安心しろ」

「......ありがとう」

 とりあえず、好意を受け取って良いのだろうか。
 とにかく、ここでやるべきことは終えた。

「それだけ伝えに来ただけだから」

「あぁ、分かった」

 良し、あとは明日を迎えて水の塔に行くだけだ。片手を小さく振り、身軽になった心で部屋に戻る――筈だった。今は一番、会いたくない人物と出くわしてしまったのだ。

「......ミユ!」

 いつもは天使に見えるのに、今は危険人物に見えてしまう。

「クラウ、あのね? 私、話が......」

 軽はずみに会話をして、水の神との出来事がバレてしまっては一大事だ。慌てて自室へと飛び込み、勢いに任せてドアを閉めた。

「えっ? あっ、あの......」

 声だけでも、ミユが戸惑っているのが分かる。しかし、どうもしてあげられない。ドアに背中を預け、鼓動を速める胸を右手で押さえ付ける。
 少し間を置き、小さな足音は近づいてきた。そのまま、背中を叩かれるように、ドアが三回振動する。
 
「どうしよう......。嫌われた?」

 違う。嫌った訳ではない。嫌う筈がない。言いたいのに、言えない。

「おい、クラウ。ミユに勘違いされても知らねーぞ?」

 追い討ちをかけるかのように、アレクの声がくぐもって聞こえた。

「おい、出てこいよ」

 出ていける訳がないではないか。事情は先程、説明したのに。
 唇を噛み締め、考える。俺はどうしたら良い、と。
 ミユを嫌っていると勘違いされるのは途轍もなく嫌だ。だからと言って、話をしたら――。思考がグルグルと巡る。
 ミユとアレクの話し声も聞こえたが、気にしている余裕は無い。
 ただ、一言だけ俺の心に刺さった。

「いつでも部屋に行って良いって言ってくれたのに......」

 確かに、俺はミユに言った。その言葉を曲げても良いのだろうか。本格的に、ミユに嫌われても良いのだろうか。
 良い筈がない。

「おい、良い加減――」

 アレクの言葉を遮るようにして、押したドアは音を立てた。
 右目で廊下の様子を確認し、アレクを睨んでみる。

「アレクの役立たず」

「はぁ!?」

 そして、その隣にいたミユの左腕に狙いを定め、掴んだ。そのまま力ずくでミユを部屋へと誘い込む。
 ドアを閉めると、完全に廊下と遮断された。それなのに、アレクの殺気は感じ取れる。

「オマエの頼みなんか、ぜってぇ聞いてやらねーからな!」

 今回だって、頼みなんか聞いてくれなかった癖に。不満と怒りを抱えたまま、状況を理解出来ていないであろうミユへと視線を向けた。
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