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神託1

 朝食の時間だけで問題解決への案が出る筈もなく、俺たちは解散した。
 自室のテーブルに突っ伏し、今後の計画を練る。
 魔法の特訓をして――いや、その前にミユとフレアの仲直りが先だ。ミユとフレアを、偶然を装って鉢合わせさせてしまおうか。そうすれば、フレアが何か弁解が出来るかもしれない。いや、その前にミユが逃げ出してしまうだろうか。
 何か二人を引き合わせられる方法はないだろうか。

「うーん......」

 考えてみたところで思いつかない。溜め息を吐いたところで、額をテーブルにぶつけてしまった。鈍い音と痛みが同時に駆け抜ける。

「あぁ......」

 眉をひそめながら、右手で額を擦ってみた。なんとなく、痛みが和らいだ気がする。
 と、こんなことをしている場合ではない。平和的な解決へと持っていかなくては。
 今一度、姿勢を正し、晴天の広がる窓の外を睨みつけてみる。
 そこへ何処か遠慮がちなノックの音が三回鳴り響いた。
 
「はい」

 誰だろう。アレクならば、もっと勢いの良い音がした筈だ。
 訝りながら椅子から立ち上がり、振り返った。
 ドアの隙間からこちらを覗いていたのは、緑の瞳――ミユだったのだ。

「ミユ!」

 彼女が俺の部屋に来てくれたのは初めてではないだろうか。嬉しくなってしまい、ドアに向かう足はつい急いでしまう。

「入って」

 ミユに笑顔を向けた。
 一方で、ミユは部屋の中をぐるりと見回している。何か変なものが置いてあったりはしないだろうかと気にはなったが、多分、大丈夫だろう。
 
「それで、どうしたの?」

 わざわざ部屋まで来るなんて、余程の事情があるのだろう。
 聞くと、緑の瞳はようやく俺へと向いてくれた。

「私、魔法の練習がしたくて。外に出ても良いかなぁって」

 芯のある声で、ミユははっきりと口を開いた。
 
「なんだ。それくらいなら、俺が一緒なら大丈夫だよ」

「クラウも来るの?」

「うん。駄目かな」

 まるで、俺がついて行っては迷惑だとでもいうような口振りだ。
 何故、そこまで嫌がるのだろう。小首を傾げてみると、ミユに小さな唸り声を上げられてしまった。

「駄目でもついてくんだけど。ってか、魔法陣作らないとミユも外に出れないんじゃない?」

「あっ......」

 ミユは小さな声を上げると、視線を落とす。又しても唸り声も上げる。

「そんなに嫌がらなくても良いじゃん」

「じゃあ、少しは私の話を信じてよ」

「それは......」

 信じてあげたいのは山々だ。しかし、ミユの証言の全てを信じてしまえば、フレアの立場がなくなってしまう。それだけではない。俺たちの勢力は二分されるだろう。
 素直に信じてあげられなくてごめん。ミユに詫びようとした時だった。

「ごめんなさい」

 ミユの方から謝ってくれた。
 
「ううん、こっちこそごめん」

 それ以上の会話が思いつかず、気まずいまま魔法陣の作成に取りかかる。杖をイメージし、出てきたそれの先を床へと向けた。
 疑問は唐突に投げかけられた。

「カノンがいなくなった後、リエルはどうしてたの?」

「えっ?」

「どうして......死んじゃったの?」

 いつかは聞かれると思っていた。だが、まさかこんなに早いとは。
 言葉に詰まってしまい、声が出てくれない。
 なんとか魔法陣を描き終えると、改めてミユへと向き直った。

「まさか......」

「多分、ミユが考えてるのとは違うよ」

 君の元へ毎日足を運ぶ為に寿命を縮めていました、なんて、口が裂けても言えない。しかし、それ以上でも以下でもないのだ。

「俺は先に行ってるよ」

 なんとか微笑んでみせ、一足早く魔法陣の行く先へと向かった。
 はっきり言ってしまうと、ミユの反応が怖くて、憐れまれるのが嫌で、俺は逃げてしまったのだ。
 白色の秋桜が咲く草原に降り立ち、爽やかな風に撫でられる。俺はなんて答えるべきだったのだろう。先程のミユの言葉を思い返してみる。

 ――どうして......死んじゃったの?――

 理由ではなく、死因を聞いている、とも取れる。それなら、答えられなくもない。
 思い至ってから数秒でミユも到着した。振り返ると、頬を桃色に染める。

「自分の意思で魔法を使ったことはある?」

「うん。花とか蔦なら出せたの。でも、岩は流石に部屋の中では出せないから」

「そうだよね」

 うんうんと頷き、ミユの横へとついた。しゃがみ込み、草の生い茂る大地に右手をかざす。

「岩を出したいなら、こんな風に地面に手をかざして」

 言いながら、五本ほどの堆い氷柱が大地からそそり立つところをイメージし、すうっと息を吸い込む。
 『出ろ!』と念じると、轟音を立てながら想像通りの氷柱が姿を現した。
 ミユは感嘆の吐息を漏らす。

「魔法を使った後の光景をイメージしたら、こんな風になる。ミユも出来るよ」

「大丈夫かなぁ」

「心配なら、やってみること」

 挑戦してみないことには、次に進まない。
 微笑んでみせると、ミユも真面目な表情でしゃがみ込んだ。両手を大地に向け、息を吸い込む。
 次の瞬間には、俺が出した氷柱の形と似通った岩の柱が姿を現し、雲を貫くか、に見えた。途中で岩は動きを止めると、中間地点から真っ二つに折れ、虚しい音を立てながら崩れ落ちてしまった。

「ええぇ......」

 がくりと肩を落とすミユに、思わず小さな笑いが漏れる。

「やっぱり練習が必要だね」

「う〜ん、もう一回――」

「駄目だ」

 キョトンとするミユに、左腕が伸びる。

「何回もこんなに巨大な物出してたら、身体が持たないよ。次は明日、ね」

「え〜っ?」

 やる気を削いでしまっただろうか。ミユは残念そうにペタンと座り込んでしまった。可愛らしくて、彼女の頭を撫でてみる。

「さっきのミユの質問」

「へっ?」

 もう忘れてしまっているのなら、それで良かった。でも、いずれまた聞かれるのなら――今、伝えてしまっても構わない。

「リエルの死因は......ただの心臓発作だよ」

 そう、『ただの』心臓発作だ。

「俺は先に戻ってるよ。ミユも直ぐに来てね」

 これ以上、何も聞かないで欲しい。自分の意思を伝えるかのように瞼を閉じ、この場を後にした。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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神託1

 朝食の時間だけで問題解決への案が出る筈もなく、俺たちは解散した。
 自室のテーブルに突っ伏し、今後の計画を練る。
 魔法の特訓をして――いや、その前にミユとフレアの仲直りが先だ。ミユとフレアを、偶然を装って鉢合わせさせてしまおうか。そうすれば、フレアが何か弁解が出来るかもしれない。いや、その前にミユが逃げ出してしまうだろうか。
 何か二人を引き合わせられる方法はないだろうか。

「うーん......」

 考えてみたところで思いつかない。溜め息を吐いたところで、額をテーブルにぶつけてしまった。鈍い音と痛みが同時に駆け抜ける。

「あぁ......」

 眉をひそめながら、右手で額を擦ってみた。なんとなく、痛みが和らいだ気がする。
 と、こんなことをしている場合ではない。平和的な解決へと持っていかなくては。
 今一度、姿勢を正し、晴天の広がる窓の外を睨みつけてみる。
 そこへ何処か遠慮がちなノックの音が三回鳴り響いた。
 
「はい」

 誰だろう。アレクならば、もっと勢いの良い音がした筈だ。
 訝りながら椅子から立ち上がり、振り返った。
 ドアの隙間からこちらを覗いていたのは、緑の瞳――ミユだったのだ。

「ミユ!」

 彼女が俺の部屋に来てくれたのは初めてではないだろうか。嬉しくなってしまい、ドアに向かう足はつい急いでしまう。

「入って」

 ミユに笑顔を向けた。
 一方で、ミユは部屋の中をぐるりと見回している。何か変なものが置いてあったりはしないだろうかと気にはなったが、多分、大丈夫だろう。
 
「それで、どうしたの?」

 わざわざ部屋まで来るなんて、余程の事情があるのだろう。
 聞くと、緑の瞳はようやく俺へと向いてくれた。

「私、魔法の練習がしたくて。外に出ても良いかなぁって」

 芯のある声で、ミユははっきりと口を開いた。
 
「なんだ。それくらいなら、俺が一緒なら大丈夫だよ」

「クラウも来るの?」

「うん。駄目かな」

 まるで、俺がついて行っては迷惑だとでもいうような口振りだ。
 何故、そこまで嫌がるのだろう。小首を傾げてみると、ミユに小さな唸り声を上げられてしまった。

「駄目でもついてくんだけど。ってか、魔法陣作らないとミユも外に出れないんじゃない?」

「あっ......」

 ミユは小さな声を上げると、視線を落とす。又しても唸り声も上げる。

「そんなに嫌がらなくても良いじゃん」

「じゃあ、少しは私の話を信じてよ」

「それは......」

 信じてあげたいのは山々だ。しかし、ミユの証言の全てを信じてしまえば、フレアの立場がなくなってしまう。それだけではない。俺たちの勢力は二分されるだろう。
 素直に信じてあげられなくてごめん。ミユに詫びようとした時だった。

「ごめんなさい」

 ミユの方から謝ってくれた。
 
「ううん、こっちこそごめん」

 それ以上の会話が思いつかず、気まずいまま魔法陣の作成に取りかかる。杖をイメージし、出てきたそれの先を床へと向けた。
 疑問は唐突に投げかけられた。

「カノンがいなくなった後、リエルはどうしてたの?」

「えっ?」

「どうして......死んじゃったの?」

 いつかは聞かれると思っていた。だが、まさかこんなに早いとは。
 言葉に詰まってしまい、声が出てくれない。
 なんとか魔法陣を描き終えると、改めてミユへと向き直った。

「まさか......」

「多分、ミユが考えてるのとは違うよ」

 君の元へ毎日足を運ぶ為に寿命を縮めていました、なんて、口が裂けても言えない。しかし、それ以上でも以下でもないのだ。

「俺は先に行ってるよ」

 なんとか微笑んでみせ、一足早く魔法陣の行く先へと向かった。
 はっきり言ってしまうと、ミユの反応が怖くて、憐れまれるのが嫌で、俺は逃げてしまったのだ。
 白色の秋桜が咲く草原に降り立ち、爽やかな風に撫でられる。俺はなんて答えるべきだったのだろう。先程のミユの言葉を思い返してみる。

 ――どうして......死んじゃったの?――

 理由ではなく、死因を聞いている、とも取れる。それなら、答えられなくもない。
 思い至ってから数秒でミユも到着した。振り返ると、頬を桃色に染める。

「自分の意思で魔法を使ったことはある?」

「うん。花とか蔦なら出せたの。でも、岩は流石に部屋の中では出せないから」

「そうだよね」

 うんうんと頷き、ミユの横へとついた。しゃがみ込み、草の生い茂る大地に右手をかざす。

「岩を出したいなら、こんな風に地面に手をかざして」

 言いながら、五本ほどの堆い氷柱が大地からそそり立つところをイメージし、すうっと息を吸い込む。
 『出ろ!』と念じると、轟音を立てながら想像通りの氷柱が姿を現した。
 ミユは感嘆の吐息を漏らす。

「魔法を使った後の光景をイメージしたら、こんな風になる。ミユも出来るよ」

「大丈夫かなぁ」

「心配なら、やってみること」

 挑戦してみないことには、次に進まない。
 微笑んでみせると、ミユも真面目な表情でしゃがみ込んだ。両手を大地に向け、息を吸い込む。
 次の瞬間には、俺が出した氷柱の形と似通った岩の柱が姿を現し、雲を貫くか、に見えた。途中で岩は動きを止めると、中間地点から真っ二つに折れ、虚しい音を立てながら崩れ落ちてしまった。

「ええぇ......」

 がくりと肩を落とすミユに、思わず小さな笑いが漏れる。

「やっぱり練習が必要だね」

「う〜ん、もう一回――」

「駄目だ」

 キョトンとするミユに、左腕が伸びる。

「何回もこんなに巨大な物出してたら、身体が持たないよ。次は明日、ね」

「え〜っ?」

 やる気を削いでしまっただろうか。ミユは残念そうにペタンと座り込んでしまった。可愛らしくて、彼女の頭を撫でてみる。

「さっきのミユの質問」

「へっ?」

 もう忘れてしまっているのなら、それで良かった。でも、いずれまた聞かれるのなら――今、伝えてしまっても構わない。

「リエルの死因は......ただの心臓発作だよ」

 そう、『ただの』心臓発作だ。

「俺は先に戻ってるよ。ミユも直ぐに来てね」

 これ以上、何も聞かないで欲しい。自分の意思を伝えるかのように瞼を閉じ、この場を後にした。
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