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水1

 頭痛で寝込んで四日目の朝、嫌々瞼を開けた。

「フレアになんて謝ったら良いんだろう」

 真っ白の天井を見ながら、ぼんやりと呟く。
 溜め息を吐き、昨日に続いて思考を巡らせる。
 いつも会いに来てくれていたのが、ぱたりと無くなるなんて。それだけのことをしたのだ。
 治まりかけていた頭痛が、また顔を覗かせそうになる。
 何度、寝返りを打ったか分からない。もう一度、身体を左側へ向けようとした時だ。

「ミユ、朝飯持ってきたぞ。食えそうか?」

 顔を出しに来てくれたのは、アレクとクラウ、それにフレア――見た瞬間に跳ね起きたのは良いものの、どういう顔をすれば良いのか分からない。咄嗟に顔を下へ向けた。
 間が開き、聞こえたのはフレアの声だった。

「あたし、ミユに謝りたくて。ずっと部屋に来れなかったから」

 謝らなくてはいけないのは私なのに。
 はっと顔を上げると、フレアはアレクとクラウに挟まれて、今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「私の方こそごめんなさい」

 言いながら、思い切り頭を下げる。

「二人とも、んな顔すんな! これで仲直りな」

 アレクの声に小さく頷く。
 大きな手が何度か頭をわしゃわしゃと撫でる。それが不快で、膨れっ面をしてしまった。
 フレアとクラウが小さく笑う。
 良かった。これで今まで通り、仲良く出来るだろう。髪を整えながら、ほっと一息吐く。
 その時、どこからともなく三輪の白い花がはらはらと舞い降りたのだ。音も立てずに床に落ちると、かたりと傾く。

「ラナンキュラス......」

 小さく呟くと、クラウは足元に落ちた花をそっと摘まむ。

「ラナンキュラス?」

「うん。この花の名前だよ」

 どことなく悲しそうに微笑むクラウに、それ以上言葉が出てきてくれなかった。

「誰が用意したんだ? この花」

「またクラウ?」

「えっ?」

 あからさまにわざとらしいアレクとフレアに、クラウが固まってしまった。
 何だか怪しい。更に首を傾げる。

「それより、スープが冷めちゃうよ。ミユ、こっちに来れる?」

「えっ? うん......」

 何か隠し事でもしているのだろうか。誤魔化すように笑うアレクとフレアの顔をじっと見てみる。
 そうしたところで、三人には何も変化がなかった。仕方がなくベッドから抜け出し、食事の席に着いた。

 結局、ラナンキュラスがどこからやって来たのか、さっぱり分からなかった。

  * * *

 火の塔へ行ってから七日後、やはり今日も過去を見に行くらしい。もう着替えは終わっているけれど、正直言って、もう止めてしまいたい程に過去を見るのが嫌になっていた。
 二回行って二回とも頭痛が起こるのなら、三回目だって頭が痛くなるに決まっている。

「う~......」

 今はただドアに背を向け、三人が迎えに来るのをベッドの中で待っている。
 行きたくないと言えばいいのだろう。しかし、心のどこかにやり遂げてしまいたいという思いや、好奇心が残っている。私はどうしたいのだろう。頭の中のモヤモヤが止まらない。

「ミユ、準備は出来た?」

 ああ、フレアの声だ。準備など出来ていない。心がまとまらない。
 
「ミユ?」

 返事をしなかったのが悪かったのか、慌ただしい三人の足音が聞こえてきた。

「ミユ! 何かあった?」

 叫び声に近いクラウの声に驚き、肩がびくりと震える。
 次に、背中に何か温かなものが触れた。

「ごめんね、影が現れてないか心配なだけなの。こっち向いて?」

 ふわりとフレアが優しく囁く。
 緊張感が少し解れ、自然と声の方へと向いていた。フレアを筆頭に、アレクとクラウの心配そうな顔が並んでいた。
 小さく頷いてみせる。

「良かった......」

 三人とも、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
 ここまで心配してくれるのなら、魔法が使えるようになった方が良いのだろうか。でも、やはり異世界人に押し付けるのは間違っているとも思う。
 二つの問題が心でせめぎ合っている。

「......じゃ、魔方陣作ってくれ」

「分かった」

 私の意志に反し、アレクとクラウは先を行ってしまう。
 まだ過去を見るなんて一言も言っていないのに。

「待って。私、行くなんて一言も――」

「ん? 止めるか?」

 止めるなんて言うな。そう物語っているようなアレクの力強い黄色の瞳に、声が出なくなってしまった。
 嫌々首を横に振る。

「そーか」

 杖を握るクラウを顧みるアレクに、不満が爆発しそうになる。抑えるために、両手で拳を作り、握り締めた。

「もうちょっと言い方があるでしょ?」

 フレアは大袈裟に溜め息を吐く。
 ところが、アレクは無言で白々しくあしらう。これにも彼女は小さな唸り声を上げた。

「ミユ、ごめんね。アレク、たまにこういうことあるから」

 フレアに謝られると、怒りがどこかに消え去ってしまう。
 首を横に振り、その謝罪を受け入れた。

「ミユ、これはただの独り言だと思ってくれ」

「えっ?」

 アレクの意味深な言葉に、僅かに眉をひそめる。

「過去を見ても見なくても、オマエが魔法を使えるようにならなくちゃいけねーのに変わりはねぇ。ただな。ただ、これは他でもねぇ、自分のためだ。オレら全員が自分のために、オマエに過去を見せようとしてる。済まねぇ」

「アレク......」

 フレアはアレクへと伸ばしかけた右手を引っ込める。
 彼の話が抽象的で、よく分からない。意味を理解出来ない。

「クラウ、出来たか?」

「うん、今出来たとこ」

 またしても私を置いてきぼりで事態は進んでいく。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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水1

 頭痛で寝込んで四日目の朝、嫌々瞼を開けた。

「フレアになんて謝ったら良いんだろう」

 真っ白の天井を見ながら、ぼんやりと呟く。
 溜め息を吐き、昨日に続いて思考を巡らせる。
 いつも会いに来てくれていたのが、ぱたりと無くなるなんて。それだけのことをしたのだ。
 治まりかけていた頭痛が、また顔を覗かせそうになる。
 何度、寝返りを打ったか分からない。もう一度、身体を左側へ向けようとした時だ。

「ミユ、朝飯持ってきたぞ。食えそうか?」

 顔を出しに来てくれたのは、アレクとクラウ、それにフレア――見た瞬間に跳ね起きたのは良いものの、どういう顔をすれば良いのか分からない。咄嗟に顔を下へ向けた。
 間が開き、聞こえたのはフレアの声だった。

「あたし、ミユに謝りたくて。ずっと部屋に来れなかったから」

 謝らなくてはいけないのは私なのに。
 はっと顔を上げると、フレアはアレクとクラウに挟まれて、今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「私の方こそごめんなさい」

 言いながら、思い切り頭を下げる。

「二人とも、んな顔すんな! これで仲直りな」

 アレクの声に小さく頷く。
 大きな手が何度か頭をわしゃわしゃと撫でる。それが不快で、膨れっ面をしてしまった。
 フレアとクラウが小さく笑う。
 良かった。これで今まで通り、仲良く出来るだろう。髪を整えながら、ほっと一息吐く。
 その時、どこからともなく三輪の白い花がはらはらと舞い降りたのだ。音も立てずに床に落ちると、かたりと傾く。

「ラナンキュラス......」

 小さく呟くと、クラウは足元に落ちた花をそっと摘まむ。

「ラナンキュラス?」

「うん。この花の名前だよ」

 どことなく悲しそうに微笑むクラウに、それ以上言葉が出てきてくれなかった。

「誰が用意したんだ? この花」

「またクラウ?」

「えっ?」

 あからさまにわざとらしいアレクとフレアに、クラウが固まってしまった。
 何だか怪しい。更に首を傾げる。

「それより、スープが冷めちゃうよ。ミユ、こっちに来れる?」

「えっ? うん......」

 何か隠し事でもしているのだろうか。誤魔化すように笑うアレクとフレアの顔をじっと見てみる。
 そうしたところで、三人には何も変化がなかった。仕方がなくベッドから抜け出し、食事の席に着いた。

 結局、ラナンキュラスがどこからやって来たのか、さっぱり分からなかった。

  * * *

 火の塔へ行ってから七日後、やはり今日も過去を見に行くらしい。もう着替えは終わっているけれど、正直言って、もう止めてしまいたい程に過去を見るのが嫌になっていた。
 二回行って二回とも頭痛が起こるのなら、三回目だって頭が痛くなるに決まっている。

「う~......」

 今はただドアに背を向け、三人が迎えに来るのをベッドの中で待っている。
 行きたくないと言えばいいのだろう。しかし、心のどこかにやり遂げてしまいたいという思いや、好奇心が残っている。私はどうしたいのだろう。頭の中のモヤモヤが止まらない。

「ミユ、準備は出来た?」

 ああ、フレアの声だ。準備など出来ていない。心がまとまらない。
 
「ミユ?」

 返事をしなかったのが悪かったのか、慌ただしい三人の足音が聞こえてきた。

「ミユ! 何かあった?」

 叫び声に近いクラウの声に驚き、肩がびくりと震える。
 次に、背中に何か温かなものが触れた。

「ごめんね、影が現れてないか心配なだけなの。こっち向いて?」

 ふわりとフレアが優しく囁く。
 緊張感が少し解れ、自然と声の方へと向いていた。フレアを筆頭に、アレクとクラウの心配そうな顔が並んでいた。
 小さく頷いてみせる。

「良かった......」

 三人とも、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
 ここまで心配してくれるのなら、魔法が使えるようになった方が良いのだろうか。でも、やはり異世界人に押し付けるのは間違っているとも思う。
 二つの問題が心でせめぎ合っている。

「......じゃ、魔方陣作ってくれ」

「分かった」

 私の意志に反し、アレクとクラウは先を行ってしまう。
 まだ過去を見るなんて一言も言っていないのに。

「待って。私、行くなんて一言も――」

「ん? 止めるか?」

 止めるなんて言うな。そう物語っているようなアレクの力強い黄色の瞳に、声が出なくなってしまった。
 嫌々首を横に振る。

「そーか」

 杖を握るクラウを顧みるアレクに、不満が爆発しそうになる。抑えるために、両手で拳を作り、握り締めた。

「もうちょっと言い方があるでしょ?」

 フレアは大袈裟に溜め息を吐く。
 ところが、アレクは無言で白々しくあしらう。これにも彼女は小さな唸り声を上げた。

「ミユ、ごめんね。アレク、たまにこういうことあるから」

 フレアに謝られると、怒りがどこかに消え去ってしまう。
 首を横に振り、その謝罪を受け入れた。

「ミユ、これはただの独り言だと思ってくれ」

「えっ?」

 アレクの意味深な言葉に、僅かに眉をひそめる。

「過去を見ても見なくても、オマエが魔法を使えるようにならなくちゃいけねーのに変わりはねぇ。ただな。ただ、これは他でもねぇ、自分のためだ。オレら全員が自分のために、オマエに過去を見せようとしてる。済まねぇ」

「アレク......」

 フレアはアレクへと伸ばしかけた右手を引っ込める。
 彼の話が抽象的で、よく分からない。意味を理解出来ない。

「クラウ、出来たか?」

「うん、今出来たとこ」

 またしても私を置いてきぼりで事態は進んでいく。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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