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抵抗2

 * * *

 ミユの体力面を考え、魔法の特訓は二日後から行われることとなった。加えて、重要なことがもう一つある。使い魔たちがダイヤにやってきたのだ。影の襲撃を受け、世界の監視よりも俺たちの護衛に力を入れたい、とのことだった。
 食事の準備は全て使い魔たちが整えてくれた。部屋の時計の針を見てみれば、時刻は五時半――こんな時だ、既に三人は会議室にいるのだろう。もしかすると、特訓の作戦でも立てているかもしれない。
 そろそろ俺も会議室に向かおうか。カップに残っていたレモンティーを口に含み、茶葉の風味を楽しんだ所で喉へ流し込んだ。
 そう言えば、ミユとフレアはどうやって和解したのだろう。時間の許す事があるのなら、聞いてみても良いだろう。
 考えことをしながら廊下を進む。会議室の扉を開ける前に、何やら中から話し声が聞こえてきた。

「あんまりからかわないであげて。ミユは必死だよ?」

 ミユがからかわれていると確かに聞こえてきた。それなら助太刀に入らねば。そう思ったのだが、扉を開けると何やら様子が違う。
 困惑するアレクの胸板をミユが拳で叩く。それをフレアが傍から苦笑しながら見ていた。
 
「今の八つ当たりじゃねーか?」

「違うもん」

「三人で何してるの?」

 聞くと、ミユははっと振り返る。
 一方で、アレクは俺を見て冷笑した。

「コイツがな、オレの事を馬鹿にしてただけだ」

「なんだ、もっと言ってやっても良いよ」

「クラウも煽らないの」

 フレアは言い切り、目を吊り上げる。
 どうせ、俺を殴ったことについて話をしていたのだろう。理由はどうあれ、殴ったことには変わりない。思わず肩を竦めた。

「でも、俺を殴ったのは事実だし」

「オレの暴力は正当だろ? 文句があるとは言わせねぇ」

 俺も正当だとは思うが、文句がない訳ではない。
 むっとしてアレクを睨みつけると、ミユが俺とアレクの間に割って入ったのだ。こちらに背を向け、アレクに首を振る。

「ミユに感謝するんだな」

 アレクは深い溜め息を吐くと、長い前髪を掻き上げた。

「全員集まったんだ。これからどーするか話そーぜ」

 目を細めてテーブルを見据える。颯爽と指定席に向かうと、彼はどかりと腰を下ろす。
 俺も素直にアレクの後に続いた。四人全員が腰を落ち着けたのを確認し、彼は口を開く。

「オレ、考えてみたんだけどよー」

 アレクはすっとフレアの瞳を見詰めると、ミユ、俺へと視線を移動させる。

「例えば、だからな。もし、光の矢が駄目になっちまって、魔法で戦わなくちゃならなくなったら、だ。二手に分かれた方が、魔法の相性良くねぇか?」

「誰と誰?」

「オレとフレア、クラウとミユだ。オレらは風で炎の勢いを強められるし、オマエらは水と岩が混ざって威力が増す」

「その手があるね......」

 フレアが呟くので、一緒に頷いてみせる。
 ミユは小首を傾げた。

「威力が増す?」

「うん。自然現象に例えてみれば良いよ。俺たちの魔法が土石流で、アレクたちは火災旋風」

 俺も実際に見たことはないし、魔法で実践したこともない。小説で読んだのみだが、威力は単独の魔法と比べると何倍もあるだろう。
 納得したように、アレクは口角を上げる。

「成功するかは分からねぇ。でも、やってみる価値はあるだろ?」

「うん」

「んで、オレとミユ、クラウとフレアはなるべく離れた方が良い。互いの魔法を打ち消し合うからな」

 それは考えずとも分かる。水と火は互いを消し合うし、風と地も互いを遮ってしまう。
 作戦が崩れる事は――あるだろうか。
 数秒、間が空く。

「オマエらからは何もねぇのか?」

「全部アレクに言われた」

「おい......」

 憶測でこれ以上は何も言うことはない。
 アレクは肩を落とし、大袈裟に溜め息を吐いた。その後、咳払いをし、場を取り繕う。

「とりあえず、明日から分かれて特訓な。他に何かあるか?」

「ない」

 ミユは魔法にまだ馴染めていないだろう。最初に魔法のコントロールの仕方を教えるのが優先だ。そして、徐々に魔力を強化して――。

「ミユ、大丈夫か?」

「へっ? あっ......うん」

 俺が特訓の内容を詰めている間に、ミユは別のことを考えていたらしい。俯くその頬は紅に染まっている。
 特訓で二人きりになることに恥じらいを覚えたのだろうか。可愛らしい仕草に、思わず笑いが漏れる。
 すると、微かに蝶番が軋む音が聞こえてきた。

「皆様、お食事が出来ましたよ」

「今日はカレーにしてみました」

 この声はカイルとアリアだ。
 カレーなんていつ振りだろう。サファイアにそんな料理はないから、サラに調理を担当してもらうしかないのだ。
 切り分けられたバケットとカレールーが運ばれてくる。エスニックな味わいを想像し、自然と口の中に涎が溜まっていく。

「冷める前に食べよーぜ」

「いただきます」

 手を合わせるや否や、ミユはバケットにカレーを付け、ぱくりと頬張った。みるみるうちに顔が綻んでいく。

「美味し〜」

「ミユの顔を見てると、作り甲斐があるよな」

「そうなんです。いつも喜んで下さるので、運ぶ私も嬉しくなります」

 料理を用意する者としては、やはり喜んでもらえるのが一番なのだろう。アレクとアリアの感想にも納得だ。

「今日はサラが料理長ですよ」

「カレーだもんな」

 視線を浴びたサラは気まずそうにそっと俯き、フレアに小瓶を渡した。

「これ、唐辛子?」

 フレアの問いに、サラはこくりと頷く。フレアはサラに微笑みかけ、小瓶の中身をカレーへと注いだ。辛過ぎるだろうと思いながらも、いつもの光景だ。驚くこともせずに眺めていた。
 俺もコク深いカレーに舌鼓を打ち、久し振りに食事を楽しむ事が出来た。
 先に満腹感を味わった俺は、ミユが食べ終わるのを待っていた。彼女は皿が空になると、ナプキンで口の周りを丁寧に拭う。

「これからも、こんな日が続けば良いな」

 ぽつりとミユが呟いた。

「ずっと続かせてみせよう?」

「うん......」

 未来を勝ち取って、四人で笑い合うのだ。
 ミユはこちらを見ることはなく、頬に睫毛の長い影を落とす。

「俺たちなら大丈夫だよ」

 堪らずに、ミユの頭にそっと触れる。

「大丈夫」

 必ずミユは守ってみせる。
 その言葉を受け入れてくれたのか、ミユの瞼は閉じていった。
 傍らでは使い魔たちが食事の後片付けをしてくれている。

「もーそろそろオレらは部屋に戻るけど、オマエらはどーすんだ?」

「明日もあるしね。早めに戻るよ」

「そーだな」

 これから過酷な特訓が待っているのだ。無理はさせられない。なにも、今日が終わったら、全てが終わってしまう訳ではないのだから。

「また明日も、明後日も、その先だってあるからさ」

「私がいるのをお忘れですか?」

 声のした方を振り向いてみると、アリアが円らな瞳でこちらを見ていた。隣ではカイルも不服そうに佇んでいる。

「アリアもいるなら大丈夫そう」

 俺たち四人の笑い声が会議室に響く。和やかな空気はしばらくお預けだ。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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抵抗2

 * * *

 ミユの体力面を考え、魔法の特訓は二日後から行われることとなった。加えて、重要なことがもう一つある。使い魔たちがダイヤにやってきたのだ。影の襲撃を受け、世界の監視よりも俺たちの護衛に力を入れたい、とのことだった。
 食事の準備は全て使い魔たちが整えてくれた。部屋の時計の針を見てみれば、時刻は五時半――こんな時だ、既に三人は会議室にいるのだろう。もしかすると、特訓の作戦でも立てているかもしれない。
 そろそろ俺も会議室に向かおうか。カップに残っていたレモンティーを口に含み、茶葉の風味を楽しんだ所で喉へ流し込んだ。
 そう言えば、ミユとフレアはどうやって和解したのだろう。時間の許す事があるのなら、聞いてみても良いだろう。
 考えことをしながら廊下を進む。会議室の扉を開ける前に、何やら中から話し声が聞こえてきた。

「あんまりからかわないであげて。ミユは必死だよ?」

 ミユがからかわれていると確かに聞こえてきた。それなら助太刀に入らねば。そう思ったのだが、扉を開けると何やら様子が違う。
 困惑するアレクの胸板をミユが拳で叩く。それをフレアが傍から苦笑しながら見ていた。
 
「今の八つ当たりじゃねーか?」

「違うもん」

「三人で何してるの?」

 聞くと、ミユははっと振り返る。
 一方で、アレクは俺を見て冷笑した。

「コイツがな、オレの事を馬鹿にしてただけだ」

「なんだ、もっと言ってやっても良いよ」

「クラウも煽らないの」

 フレアは言い切り、目を吊り上げる。
 どうせ、俺を殴ったことについて話をしていたのだろう。理由はどうあれ、殴ったことには変わりない。思わず肩を竦めた。

「でも、俺を殴ったのは事実だし」

「オレの暴力は正当だろ? 文句があるとは言わせねぇ」

 俺も正当だとは思うが、文句がない訳ではない。
 むっとしてアレクを睨みつけると、ミユが俺とアレクの間に割って入ったのだ。こちらに背を向け、アレクに首を振る。

「ミユに感謝するんだな」

 アレクは深い溜め息を吐くと、長い前髪を掻き上げた。

「全員集まったんだ。これからどーするか話そーぜ」

 目を細めてテーブルを見据える。颯爽と指定席に向かうと、彼はどかりと腰を下ろす。
 俺も素直にアレクの後に続いた。四人全員が腰を落ち着けたのを確認し、彼は口を開く。

「オレ、考えてみたんだけどよー」

 アレクはすっとフレアの瞳を見詰めると、ミユ、俺へと視線を移動させる。

「例えば、だからな。もし、光の矢が駄目になっちまって、魔法で戦わなくちゃならなくなったら、だ。二手に分かれた方が、魔法の相性良くねぇか?」

「誰と誰?」

「オレとフレア、クラウとミユだ。オレらは風で炎の勢いを強められるし、オマエらは水と岩が混ざって威力が増す」

「その手があるね......」

 フレアが呟くので、一緒に頷いてみせる。
 ミユは小首を傾げた。

「威力が増す?」

「うん。自然現象に例えてみれば良いよ。俺たちの魔法が土石流で、アレクたちは火災旋風」

 俺も実際に見たことはないし、魔法で実践したこともない。小説で読んだのみだが、威力は単独の魔法と比べると何倍もあるだろう。
 納得したように、アレクは口角を上げる。

「成功するかは分からねぇ。でも、やってみる価値はあるだろ?」

「うん」

「んで、オレとミユ、クラウとフレアはなるべく離れた方が良い。互いの魔法を打ち消し合うからな」

 それは考えずとも分かる。水と火は互いを消し合うし、風と地も互いを遮ってしまう。
 作戦が崩れる事は――あるだろうか。
 数秒、間が空く。

「オマエらからは何もねぇのか?」

「全部アレクに言われた」

「おい......」

 憶測でこれ以上は何も言うことはない。
 アレクは肩を落とし、大袈裟に溜め息を吐いた。その後、咳払いをし、場を取り繕う。

「とりあえず、明日から分かれて特訓な。他に何かあるか?」

「ない」

 ミユは魔法にまだ馴染めていないだろう。最初に魔法のコントロールの仕方を教えるのが優先だ。そして、徐々に魔力を強化して――。

「ミユ、大丈夫か?」

「へっ? あっ......うん」

 俺が特訓の内容を詰めている間に、ミユは別のことを考えていたらしい。俯くその頬は紅に染まっている。
 特訓で二人きりになることに恥じらいを覚えたのだろうか。可愛らしい仕草に、思わず笑いが漏れる。
 すると、微かに蝶番が軋む音が聞こえてきた。

「皆様、お食事が出来ましたよ」

「今日はカレーにしてみました」

 この声はカイルとアリアだ。
 カレーなんていつ振りだろう。サファイアにそんな料理はないから、サラに調理を担当してもらうしかないのだ。
 切り分けられたバケットとカレールーが運ばれてくる。エスニックな味わいを想像し、自然と口の中に涎が溜まっていく。

「冷める前に食べよーぜ」

「いただきます」

 手を合わせるや否や、ミユはバケットにカレーを付け、ぱくりと頬張った。みるみるうちに顔が綻んでいく。

「美味し〜」

「ミユの顔を見てると、作り甲斐があるよな」

「そうなんです。いつも喜んで下さるので、運ぶ私も嬉しくなります」

 料理を用意する者としては、やはり喜んでもらえるのが一番なのだろう。アレクとアリアの感想にも納得だ。

「今日はサラが料理長ですよ」

「カレーだもんな」

 視線を浴びたサラは気まずそうにそっと俯き、フレアに小瓶を渡した。

「これ、唐辛子?」

 フレアの問いに、サラはこくりと頷く。フレアはサラに微笑みかけ、小瓶の中身をカレーへと注いだ。辛過ぎるだろうと思いながらも、いつもの光景だ。驚くこともせずに眺めていた。
 俺もコク深いカレーに舌鼓を打ち、久し振りに食事を楽しむ事が出来た。
 先に満腹感を味わった俺は、ミユが食べ終わるのを待っていた。彼女は皿が空になると、ナプキンで口の周りを丁寧に拭う。

「これからも、こんな日が続けば良いな」

 ぽつりとミユが呟いた。

「ずっと続かせてみせよう?」

「うん......」

 未来を勝ち取って、四人で笑い合うのだ。
 ミユはこちらを見ることはなく、頬に睫毛の長い影を落とす。

「俺たちなら大丈夫だよ」

 堪らずに、ミユの頭にそっと触れる。

「大丈夫」

 必ずミユは守ってみせる。
 その言葉を受け入れてくれたのか、ミユの瞼は閉じていった。
 傍らでは使い魔たちが食事の後片付けをしてくれている。

「もーそろそろオレらは部屋に戻るけど、オマエらはどーすんだ?」

「明日もあるしね。早めに戻るよ」

「そーだな」

 これから過酷な特訓が待っているのだ。無理はさせられない。なにも、今日が終わったら、全てが終わってしまう訳ではないのだから。

「また明日も、明後日も、その先だってあるからさ」

「私がいるのをお忘れですか?」

 声のした方を振り向いてみると、アリアが円らな瞳でこちらを見ていた。隣ではカイルも不服そうに佇んでいる。

「アリアもいるなら大丈夫そう」

 俺たち四人の笑い声が会議室に響く。和やかな空気はしばらくお預けだ。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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