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邂逅(後編)1

 夕食前にアリアは帰宅し、がくりと肩を落とす。私の元へ真っ先に来なかったので、ああ、情報収集は失敗したのだな、と悟った。味気の無い食事を摂り、皆が明日へ向けて足早に布団の中へと入った。
 明日、私はどうなってしまうのだろう。それ以前に、影を倒すことなんて出来るのだろうか。底知れぬ不安がつきまとい、暗闇の中でひっそりと涙を流す。眠ることなんて到底出来そうにない。リエルの手に縋りたかったけれど、間にはアイリスとサラがいるので、実現はしなかった。
 アリアの声が聞こえたのは、誰かの寝息がスウスウと聞こえ始めた頃だった。

「カノン様、起きてらっしゃいますか?」

「うん」

「一緒に、少し夜風に当たりませんか?」

 この状況下で、布団の中で悶々としている程に苦痛なものはない。アリアが隣で上体を起こしたのを感じ、私もむくりと起き上がった。どちらからともなく立ち上がり、テントの窓から差し込む月明かりを頼りに外へと出る。
 空を見上げてみれば、白と水色の月が寄り添うように大地を照らしていた。星々も無数に輝いている。
 星空に見惚れながら、湖畔まで移動した。腰を下ろし、項垂れる。

「私、怖い......」

 死を意識すればする程、身体は震える。肩を抱き締め、口を結ぶ。
 アリアの柔らかな手が、私の頭を何度か撫でる。

「死が怖くない人なんていません。何も出来なくて......申し訳ありません......」

 アリアの声が震えている。
 アリアは私のために希望を捨てず、最後まで尽力してくれた。謝る必要はないのだ。

「ううん、ありがとう」

 首を振り、上手く笑えていないであろう顔をアリアへ向けた。彼女はさめざめと泣き出してしまった。流れ落ちる涙を拭おうともしない。
 その時、後方で何かが破裂する音、それと爆風が襲いかかってきた。爆風に混ざって、小石が私の背中を叩く。
 影に違いない。恐怖で声も出ない。

「カノン! アリア!」

 突如上げられた叫び声に、猛然とした殺気は私たちから逸れたように感じる。理由を考えなくとも分かる。影は声の主――リエルに標的を変えたのだ。

「止めて! 狙うなら私だけにして!」

 ようやく振り返ることが出来た時には、影がこちらに背を向け立ち尽くしていた。その向こうには、リエル、そして他の皆の姿も確認出来る。

「話をするには邪魔者が多過ぎる」

 小さな影の声が聞こえたかと思うと、私の足元に魔方陣が現れたのだ。白く輝き、私の視界を奪う。浮遊感が消え去り、目を開けた先に待ち受けていたのは――。

「嘘でしょ......?」

 昼間に、リエルに連れてきてもらった、あの真っ白な花畑だった。青空の下で穏やかな風が吹き、花を揺らす。

「お前、どうしてここを?」

「少し覗かせてもらったよ」

「最低な奴......!」

 リエルは怒りを露わにする。その横で、ヴィクトとアイリスは首を傾げるばかりだ。
 と、ここで気づく。使い魔たちはどこへ行ってしまったのだろう。同じ疑問を持ったのか、ヴィクトは焦りを滲ませながら口を開いた。

「使い魔はどうした?」

「あ奴らは邪魔にしかならない。エメラルドのついさっきまでいた場所に取り残されているだろう」

 良かったと言って良いのか悪いのか。使い魔の安全は保証されるものの、こちらの戦力は削がれてしまった。
 唇を噛み締め、影を睨み付ける。
 影は曖昧な赤い口でケタケタと笑う。

「使い魔の心配よりも、自分たちの心配をしたらどうだ?」

「それより、約束が違ぇよな。オマエが来るのは明日じゃなかったのか?」

「もう日付けは変わっている。キミたちの言う明日は、今日だ。気を緩めていたキミたちが悪い」

 そんなのこじつけに過ぎない。そもそも夜に奇襲ばかりなんて、相当な野蛮人だ。影が『人』と呼べるかどうかも分からないけれど。
 赤い吊り目は、笑ったまま私の姿を捉える。

「カノン」

「何?」

「まあ良い。魔導師たちよ、かかってこい」

 影は言い終える前に片手をこちらに翳し、真っ黒な球を放ったのだ。眼前で地面に激突し、破裂する。悲鳴と共に身体は吹き飛び、鈍い痛みに顔を歪める。誰かが私に覆い被さったので、それ以上爆風に晒されることはなかったものの、戦意を失わせるには十分だった。
 爆風が収まると、隣にリエルが崩れ落ちる。
 こんな怪物、私たちに倒せるのだろうか。目が眩み、視界が揺らぐ。

「オマエら、起きろ!」

 ヴィクトの叫びが聞こえた時には、影は二発目を放とうとしていた。間に合わないと思ったのか、私たちと影の間に炎の壁が出来上がった。橙色だったそれは一瞬黒く変色し、そのまま消えていった。
 ようやく身体を起こすと、影はニタリと笑う。

「そうでなくてはな。防御ばかりではなく、攻撃したらどうだ」

 まるで煽り立てるように、影はマントを翻す。
 やるしかない。それでなくては、全員殺されてしまう。私たちが倒れれば、世界もろとも終わってしまう。
 リエルとヴィクトが攻撃に転じたのは、ほぼ同時だった。一昨日に見た、水と風の柱が影をすっぽりと覆う――筈だった。影は攻撃を受ける前に前方へとワープし、躱してしまった。
 間を置かずに私とアイリスが岩と炎の魔法を繰り出しても、ワープで躱されるだけだった。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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邂逅(後編)1

 夕食前にアリアは帰宅し、がくりと肩を落とす。私の元へ真っ先に来なかったので、ああ、情報収集は失敗したのだな、と悟った。味気の無い食事を摂り、皆が明日へ向けて足早に布団の中へと入った。
 明日、私はどうなってしまうのだろう。それ以前に、影を倒すことなんて出来るのだろうか。底知れぬ不安がつきまとい、暗闇の中でひっそりと涙を流す。眠ることなんて到底出来そうにない。リエルの手に縋りたかったけれど、間にはアイリスとサラがいるので、実現はしなかった。
 アリアの声が聞こえたのは、誰かの寝息がスウスウと聞こえ始めた頃だった。

「カノン様、起きてらっしゃいますか?」

「うん」

「一緒に、少し夜風に当たりませんか?」

 この状況下で、布団の中で悶々としている程に苦痛なものはない。アリアが隣で上体を起こしたのを感じ、私もむくりと起き上がった。どちらからともなく立ち上がり、テントの窓から差し込む月明かりを頼りに外へと出る。
 空を見上げてみれば、白と水色の月が寄り添うように大地を照らしていた。星々も無数に輝いている。
 星空に見惚れながら、湖畔まで移動した。腰を下ろし、項垂れる。

「私、怖い......」

 死を意識すればする程、身体は震える。肩を抱き締め、口を結ぶ。
 アリアの柔らかな手が、私の頭を何度か撫でる。

「死が怖くない人なんていません。何も出来なくて......申し訳ありません......」

 アリアの声が震えている。
 アリアは私のために希望を捨てず、最後まで尽力してくれた。謝る必要はないのだ。

「ううん、ありがとう」

 首を振り、上手く笑えていないであろう顔をアリアへ向けた。彼女はさめざめと泣き出してしまった。流れ落ちる涙を拭おうともしない。
 その時、後方で何かが破裂する音、それと爆風が襲いかかってきた。爆風に混ざって、小石が私の背中を叩く。
 影に違いない。恐怖で声も出ない。

「カノン! アリア!」

 突如上げられた叫び声に、猛然とした殺気は私たちから逸れたように感じる。理由を考えなくとも分かる。影は声の主――リエルに標的を変えたのだ。

「止めて! 狙うなら私だけにして!」

 ようやく振り返ることが出来た時には、影がこちらに背を向け立ち尽くしていた。その向こうには、リエル、そして他の皆の姿も確認出来る。

「話をするには邪魔者が多過ぎる」

 小さな影の声が聞こえたかと思うと、私の足元に魔方陣が現れたのだ。白く輝き、私の視界を奪う。浮遊感が消え去り、目を開けた先に待ち受けていたのは――。

「嘘でしょ......?」

 昼間に、リエルに連れてきてもらった、あの真っ白な花畑だった。青空の下で穏やかな風が吹き、花を揺らす。

「お前、どうしてここを?」

「少し覗かせてもらったよ」

「最低な奴......!」

 リエルは怒りを露わにする。その横で、ヴィクトとアイリスは首を傾げるばかりだ。
 と、ここで気づく。使い魔たちはどこへ行ってしまったのだろう。同じ疑問を持ったのか、ヴィクトは焦りを滲ませながら口を開いた。

「使い魔はどうした?」

「あ奴らは邪魔にしかならない。エメラルドのついさっきまでいた場所に取り残されているだろう」

 良かったと言って良いのか悪いのか。使い魔の安全は保証されるものの、こちらの戦力は削がれてしまった。
 唇を噛み締め、影を睨み付ける。
 影は曖昧な赤い口でケタケタと笑う。

「使い魔の心配よりも、自分たちの心配をしたらどうだ?」

「それより、約束が違ぇよな。オマエが来るのは明日じゃなかったのか?」

「もう日付けは変わっている。キミたちの言う明日は、今日だ。気を緩めていたキミたちが悪い」

 そんなのこじつけに過ぎない。そもそも夜に奇襲ばかりなんて、相当な野蛮人だ。影が『人』と呼べるかどうかも分からないけれど。
 赤い吊り目は、笑ったまま私の姿を捉える。

「カノン」

「何?」

「まあ良い。魔導師たちよ、かかってこい」

 影は言い終える前に片手をこちらに翳し、真っ黒な球を放ったのだ。眼前で地面に激突し、破裂する。悲鳴と共に身体は吹き飛び、鈍い痛みに顔を歪める。誰かが私に覆い被さったので、それ以上爆風に晒されることはなかったものの、戦意を失わせるには十分だった。
 爆風が収まると、隣にリエルが崩れ落ちる。
 こんな怪物、私たちに倒せるのだろうか。目が眩み、視界が揺らぐ。

「オマエら、起きろ!」

 ヴィクトの叫びが聞こえた時には、影は二発目を放とうとしていた。間に合わないと思ったのか、私たちと影の間に炎の壁が出来上がった。橙色だったそれは一瞬黒く変色し、そのまま消えていった。
 ようやく身体を起こすと、影はニタリと笑う。

「そうでなくてはな。防御ばかりではなく、攻撃したらどうだ」

 まるで煽り立てるように、影はマントを翻す。
 やるしかない。それでなくては、全員殺されてしまう。私たちが倒れれば、世界もろとも終わってしまう。
 リエルとヴィクトが攻撃に転じたのは、ほぼ同時だった。一昨日に見た、水と風の柱が影をすっぽりと覆う――筈だった。影は攻撃を受ける前に前方へとワープし、躱してしまった。
 間を置かずに私とアイリスが岩と炎の魔法を繰り出しても、ワープで躱されるだけだった。
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次の話邂逅(後編)2
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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