ホーム›伝説のドラゴン様に求愛されまして。~甘党ドラゴン村娘のおかしな日常›2
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 閉めきっていた窓いう窓をすべて開け放ち、朝の爽やかな空気を家中に取り込んだ。ちょっと肌寒いけど、朝の風が気持ちいい。朝日の明るさに心も晴れやかになってくる。
 昨夜の嵐はひどかったけれど、風雨は一夜のうちに過ぎ去って、現在はすっきりと晴れ、青空が広がっている。
「さーてと!」
 早朝の空気を吸って、気持ちもしゃっきりしてきた。
 まずは、外の果樹園の様子を確かめてこなくちゃ。
 動きやすい作業用の服に着替えて、準備を整える。嵐が過ぎ去った後だから、土もぬかるんでるだろう。丈夫な長靴に履き替えて、手袋やら麻袋やらをポケットに詰め込んで、気合をいれる。
 腕まくりをし、竹箒と木桶を持って家を出た。


 十年前に両親と死別してから、兄とわたしの兄妹二人で果樹園を営んでいる。両親の、さらに両親から受け継いだ土地だ。見晴らしのいい丘にわたし達の家と果樹園はある。生まれも育ちもずっと変わらない。
 両親を早くに亡くしたものの、兄妹二人で生活していける程度の稼ぎ高はなんとかあるし、村の人達も親切で、何事かあれば協力してくれる。少々干渉的過ぎるところもあるけれど、わたし達のような親無し児は、村人達の善意があってこそやっていけるのだ。
 両親が遺してくれた果樹園は、村人たちの協力なしでは存続できなかった。狭い規模の小さな果樹園だけど、わたしと兄にとってはとても大切な果樹園だ。
 果樹園では、おもに林檎を栽培している。他には、スグリ、スモモ、柘榴など。野菜も数種類......芋やニンジンを中心に育ててるし、山羊ヤギや驢馬ロバなどの家畜も飼っている。
 ああ、そうだ。果樹園を見回る前に、家畜小屋の様子も確認してこなくちゃ。
 山羊や驢馬、鶏。全員、無事でいるといいけれど。
 家畜小屋は先日屋根や壁を補強したから、壊れてはいないはず。駆け足で家畜小屋に向かった。
 幸い、小屋は屋根の板一枚外れることなく、戸もしっかりと閉まっていて、全員無事で安心した。不安がってる様子も見られず、山羊ヤギも驢馬ロバも、のんびりもしゃもしゃ牧草を食べている。湿気ってるので、あとで取り換えなくちゃ。雄鶏はいつもの通り騒がしく、牝鶏もちゃんと卵を産んでた。卵も収穫しておかなくちゃ。
 それから果樹園へと改めて足を向ける。
「やること多いなぁ」
 ついぼやいてしまうけど、やることが多いのは、むしろありがたかった。
 たった一人きりの身内の兄は、行商に出て留守にしている。本当なら昨日帰ってくる予定だったのだけど、嵐の影響で足止めを食ったに違いない。買えるのは、早くて明日か、明後日か。
 それまではわたしひとりで果樹園を守らなきゃいけない。

 昨夜の嵐は、雨の降り方はそれほど強くなかったけれど、風が強かった。思いの外被害は出ていないようだけど、折れてる枝も多かったし、葉も散り、実も落ちていた。
 早成り林檎と柘榴の収穫時だったのだけど、収穫前に落下してしまったものは、売りには出せない。未熟な実も、けっこう落ちてしまってる。枝ごと落ちちゃってるものも少なくなかった。
 こうしてみると、けっこう損害出てるなぁ。
 けど、家や家畜小屋が倒壊せずに済んだから、「この程度で済んで良かった」と言える。
 晩秋のこの季節には珍しい嵐だった。丘をくだった所にある村にも、もしかしたら多少の被害が出てるかもしれない。

 それにしても昨夜の嵐は、まるでドラゴンの咆哮を聴いているようだった。ふと、そんなことを思った。ドラゴンの鳴き声なんて聴いたことないけれど。

 そういえば、村の長老様が言ってたっけ。昔は、翼竜ドラゴンの往く姿を見ることも稀にあったって。群れなして飛んでいく姿を見ることもあったらしい。

 この国一番の高山、エト山はきれいな三角形をしている。頂上付近は万年雪で白く、それが空を往くドラゴンの良い目印になっているのだという。
 エト山から清水の恩恵を得ている麓の村......つまりわたし達が住んでるボーダ村は、ドラゴンの通り道の真下にあるのだと、長老様は語った。
 エト山には、かつてドラゴンが棲んでいたこともあるとか。

 ドラゴンには二つの種族がある。火の種族と水の種族で、生態も若干違うらしい。空を往くのは大抵水の種族のドラゴンなんだそうな。
 ちなみにエト山に棲んでいたドラゴンは火の種族。今は活動を止めているけれど、エト山は火山なのだ。火を噴く山にはやはり火のドラゴンが棲む、というわけだ。今ではドラゴンの姿を見たという話は聞かなくなり、昔話の中にしかいない存在となってしまった。
 別のどこかへ移住してしまったか、それとも寿命がきてしまったのか。火の山もすっかり鎮まって穏やかな山容を見せている。
 ドラゴンの話を聞かせてくれた長老様は、ドラゴンの姿を拝したことがあると、自慢げに語った。ずいぶん昔の話で、長老様がまだほんの小さな子どもの頃だったという。
 悠然と空を翔かける神々しい姿は今でも目に焼き付いて離れない。そう語る長老様の目は、無邪気な子供そのものだった。
 長老様が見たのは、大きな翼の生えた巨大なドラゴンだったという。
「あれはおそらく、水のドラゴンだったろうなぁ。鱗を虹色に輝かせて空を往ゆく姿はなんとも美しく、神々しかったのぅ......」
 歳を重ねるうち、思い出に多少の脚色は加わっているかもしれないけれど、強烈な体験だったのには違いない。
 いいなぁ。わたしも一度ドラゴンを見てみたいなぁ。
 そう言ったわたしの頭を撫でて、長老様は微笑んだ。
「きっといつか、ミルカも出逢えるよ」
 信じておれば叶う事もある、と。
 長老様は子どもの夢を打ち砕くようなことを言わない、優しい方なのだ。
 ただし、「ドラゴンは気紛れじゃからの」と話を曖昧にぼかすことも忘れない。
 おかげでドラゴン遭遇願望は、未だわたしの胸から消えずに残っている。
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伝説のドラゴン様に求愛されまして。~甘党ドラゴン村娘のおかしな日常作者:あるく
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 閉めきっていた窓いう窓をすべて開け放ち、朝の爽やかな空気を家中に取り込んだ。ちょっと肌寒いけど、朝の風が気持ちいい。朝日の明るさに心も晴れやかになってくる。
 昨夜の嵐はひどかったけれど、風雨は一夜のうちに過ぎ去って、現在はすっきりと晴れ、青空が広がっている。
「さーてと!」
 早朝の空気を吸って、気持ちもしゃっきりしてきた。
 まずは、外の果樹園の様子を確かめてこなくちゃ。
 動きやすい作業用の服に着替えて、準備を整える。嵐が過ぎ去った後だから、土もぬかるんでるだろう。丈夫な長靴に履き替えて、手袋やら麻袋やらをポケットに詰め込んで、気合をいれる。
 腕まくりをし、竹箒と木桶を持って家を出た。


 十年前に両親と死別してから、兄とわたしの兄妹二人で果樹園を営んでいる。両親の、さらに両親から受け継いだ土地だ。見晴らしのいい丘にわたし達の家と果樹園はある。生まれも育ちもずっと変わらない。
 両親を早くに亡くしたものの、兄妹二人で生活していける程度の稼ぎ高はなんとかあるし、村の人達も親切で、何事かあれば協力してくれる。少々干渉的過ぎるところもあるけれど、わたし達のような親無し児は、村人達の善意があってこそやっていけるのだ。
 両親が遺してくれた果樹園は、村人たちの協力なしでは存続できなかった。狭い規模の小さな果樹園だけど、わたしと兄にとってはとても大切な果樹園だ。
 果樹園では、おもに林檎を栽培している。他には、スグリ、スモモ、柘榴など。野菜も数種類......芋やニンジンを中心に育ててるし、山羊ヤギや驢馬ロバなどの家畜も飼っている。
 ああ、そうだ。果樹園を見回る前に、家畜小屋の様子も確認してこなくちゃ。
 山羊や驢馬、鶏。全員、無事でいるといいけれど。
 家畜小屋は先日屋根や壁を補強したから、壊れてはいないはず。駆け足で家畜小屋に向かった。
 幸い、小屋は屋根の板一枚外れることなく、戸もしっかりと閉まっていて、全員無事で安心した。不安がってる様子も見られず、山羊ヤギも驢馬ロバも、のんびりもしゃもしゃ牧草を食べている。湿気ってるので、あとで取り換えなくちゃ。雄鶏はいつもの通り騒がしく、牝鶏もちゃんと卵を産んでた。卵も収穫しておかなくちゃ。
 それから果樹園へと改めて足を向ける。
「やること多いなぁ」
 ついぼやいてしまうけど、やることが多いのは、むしろありがたかった。
 たった一人きりの身内の兄は、行商に出て留守にしている。本当なら昨日帰ってくる予定だったのだけど、嵐の影響で足止めを食ったに違いない。買えるのは、早くて明日か、明後日か。
 それまではわたしひとりで果樹園を守らなきゃいけない。

 昨夜の嵐は、雨の降り方はそれほど強くなかったけれど、風が強かった。思いの外被害は出ていないようだけど、折れてる枝も多かったし、葉も散り、実も落ちていた。
 早成り林檎と柘榴の収穫時だったのだけど、収穫前に落下してしまったものは、売りには出せない。未熟な実も、けっこう落ちてしまってる。枝ごと落ちちゃってるものも少なくなかった。
 こうしてみると、けっこう損害出てるなぁ。
 けど、家や家畜小屋が倒壊せずに済んだから、「この程度で済んで良かった」と言える。
 晩秋のこの季節には珍しい嵐だった。丘をくだった所にある村にも、もしかしたら多少の被害が出てるかもしれない。

 それにしても昨夜の嵐は、まるでドラゴンの咆哮を聴いているようだった。ふと、そんなことを思った。ドラゴンの鳴き声なんて聴いたことないけれど。

 そういえば、村の長老様が言ってたっけ。昔は、翼竜ドラゴンの往く姿を見ることも稀にあったって。群れなして飛んでいく姿を見ることもあったらしい。

 この国一番の高山、エト山はきれいな三角形をしている。頂上付近は万年雪で白く、それが空を往くドラゴンの良い目印になっているのだという。
 エト山から清水の恩恵を得ている麓の村......つまりわたし達が住んでるボーダ村は、ドラゴンの通り道の真下にあるのだと、長老様は語った。
 エト山には、かつてドラゴンが棲んでいたこともあるとか。

 ドラゴンには二つの種族がある。火の種族と水の種族で、生態も若干違うらしい。空を往くのは大抵水の種族のドラゴンなんだそうな。
 ちなみにエト山に棲んでいたドラゴンは火の種族。今は活動を止めているけれど、エト山は火山なのだ。火を噴く山にはやはり火のドラゴンが棲む、というわけだ。今ではドラゴンの姿を見たという話は聞かなくなり、昔話の中にしかいない存在となってしまった。
 別のどこかへ移住してしまったか、それとも寿命がきてしまったのか。火の山もすっかり鎮まって穏やかな山容を見せている。
 ドラゴンの話を聞かせてくれた長老様は、ドラゴンの姿を拝したことがあると、自慢げに語った。ずいぶん昔の話で、長老様がまだほんの小さな子どもの頃だったという。
 悠然と空を翔かける神々しい姿は今でも目に焼き付いて離れない。そう語る長老様の目は、無邪気な子供そのものだった。
 長老様が見たのは、大きな翼の生えた巨大なドラゴンだったという。
「あれはおそらく、水のドラゴンだったろうなぁ。鱗を虹色に輝かせて空を往ゆく姿はなんとも美しく、神々しかったのぅ......」
 歳を重ねるうち、思い出に多少の脚色は加わっているかもしれないけれど、強烈な体験だったのには違いない。
 いいなぁ。わたしも一度ドラゴンを見てみたいなぁ。
 そう言ったわたしの頭を撫でて、長老様は微笑んだ。
「きっといつか、ミルカも出逢えるよ」
 信じておれば叶う事もある、と。
 長老様は子どもの夢を打ち砕くようなことを言わない、優しい方なのだ。
 ただし、「ドラゴンは気紛れじゃからの」と話を曖昧にぼかすことも忘れない。
 おかげでドラゴン遭遇願望は、未だわたしの胸から消えずに残っている。
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