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「......チカラが、出ぬ......」
トカゲはくったりと頭を垂れた。見るからに弱っている風で、憐憫を誘う。
どうしよう......お水をあげたらいいのかな? でも、全身濡れてしっとりしてそうだし......
ふと、持っていた籠に目をやった。拾い集めた林檎がいくつか入っている。
「............えっと、林檎、食べる? 疵はついてるけど、食べられるから......」
なるべく疵の少ない小さめの林檎を籠から取り出し表面を拭ってから、トカゲっぽい生き物にそっと差し出した。
「む、う?」
トカゲ似の生き物は再び目をぱっちりと開け、差し出された林檎を見やって、そろそろと手を差し出した。そして上半身を起こして林檎を両手で掴んで、持ち上げた。その様子はちょっと可愛かった。栗鼠っぽくもある。林檎の方が大きいけれど。ともかく林檎をひと齧り。
一口齧って、つぶらな黒い目がキラキラと輝いた。そして、どうやら林檎を気に入ったらしいトカゲ(もどき)は、しゃりしゃりといい音を立てて林檎を食べ始めた。
小気味のいい食べっぷりで、あっという間に林檎は芯だけになった。
「美味いっ! なんと美味なる林檎か!」
黒くて大きな瞳を輝かせて、トカゲは感嘆の声をあげた。
改めて「聞く」と、その声は頭の中に直接響いてくるような声だった。低い声だけど、高くもある。不思議な声だった。
丹精込めて育てた林檎を、美味しいと言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。それがたとえ、得体のしれない生き物であったとしても。
「まだあるけど......食べる?」
「うむ。あれがたい。空腹で参っておったのだ」
「そっか。えぇっと、待ってね。なるべくきれいなのを......」
籠の中を探り、つぶれていない林檎を取り出してトカゲの前においてあげた。
嬉々として林檎を食べ始めたトカゲは、みるみるうちに生気を取り戻していった。体色......鱗の色つやが格段に良くなって、心なしか一回り大きくなったような......?
「甘くて美味いのぅ。このような甘くて美味い林檎は初めてじゃ!」
「そう言ってもらえると嬉しいな。甘いの、好きなんだ?」
「うむ。もとより林檎は好きじゃが、このように甘みの勝ったものは初めてじゃ」
「そっか。喜んでもらえて嬉しいよ」
トカゲはご満悦だ。落ちてしまった林檎なのが申し訳ないくらい。
美味しそうに食べてくれるのがうれしくて、トカゲと会話しているという奇妙な事実も気にならなくなっていた。
何度も「美味しい」と褒めそやしてくれるものだから、わたしもすっかりいい気分になっていたのだ。
「うちに行けば、ちゃんと綺麗な林檎もあるし、他に甘いものもあるから、来る?」
「ふむ? 甘いものとは?」
「林檎と柘榴の加工食品とかだけど、お菓子とかは、食べられないかな?」
「いや、ニンゲンの食すものはたいてい食べられるぞ」
「そっか、よかった」
わたしは片手を差し出して、そこにトカゲを乗せた。林檎を何個も食べたはずだけど、それほどは重くなかった。トカゲというより、体型は栗鼠っぽいかもしれない。鱗のある栗鼠、みたいな。尻尾はしゅっとして長く、綺麗でつやつやした青緑だけれど。
「改めて礼を言う」
わたしの片手の上で、トカゲはぺこりと頭を下げた。そして、トカゲはようやく「自己紹介」をしてくれた。
「吾は西海に棲む水竜の一族じゃ。外遊から、帰途についておったのじゃが、昨夜の嵐に巻き込まれ、不覚にもチカラを奪われてこのような姿になってしまったのじゃ。娘よ、感謝いたすぞ」
「......っ?!」
えっ、今、「水竜」って言った?
わたしは愕然、唖然、ぽかんと間抜けに口を開けた。
「まさか、ドラゴン......様、なんですか?」
嘘でしょう? だって、小さいし! どうみてもトカゲだし! いやでも、喋ってる時点で普通のトカゲではないだろうけど。でも、ほんとに?
「うむ」
ドラゴンじゃが、何か? とでも言うように、トカゲもといドラゴン様は大まじめに頷いてみせる。
信じがたいけれど、そもそも「喋るトカゲ」自体が信じがたいわけで。
嘘か真実か。ともあれ、わたしの片手に乗っているのは、伝説の「ドラゴン」であるらしい。
ドラゴンは、神獣だ。
片手に乗せているのは、もしかしたら礼を失する行為かも? そう思って、一応両手で抱えるようドラゴン様を乗せ、我が家へお連れすることにした。