ホーム›伝説のドラゴン様に求愛されまして。~甘党ドラゴンと村娘のおかしな日常›6
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 黙りこみ、思案に暮れているセレ様を片手に乗せて、再び家に戻った。もちろんさっきの林檎酒も持ってきた。セレ様を先ほどと同じテーブルに置いて、わたしは急いで空の瓶に林檎酒を注いだ。これは行商に出ている兄が無事に帰ってきたら、飲ませてあげよう。きっと喜ぶはずだ。
 林檎酒を瓶に移し替えてから、今度はお酒じゃなくて、柘榴ざくろのジュースを持ってセレ様のいるテーブルに戻った。セレ様はまだ思案顔だった。
「セレ様、これどうぞ。柘榴のジュースです」
「む、柘榴とな」
「お酒も美味しいけど、ジュースもなかなかいけるんですよ」
 お口に会うとよいのですがと、グラスを差し出した。セレ様はフンフンと鼻を鳴らして、柘榴ジュースのにおいを嗅ぐ。
「うむ。美味そうなにおいじゃな。いただこう」
 両手でグラスを持って、こくこくとジュースを飲む。
 ついでに干し林檎も少しだけ小皿に出した。薄くスライスした林檎を天日干しにし、さらに窯でかりっとするまで焼いたもの。砂糖は使わず、林檎を乾燥させただけのものだけど、セレ様はお気に召したようだった。
「なんとこれは......こんなに薄くて乾燥しておるのに、しっかり林檎の味がするは不思議じゃな」
 セレ様はつぶやいて、時折干し林檎を掲げてみる。林檎を乾燥させて食べるという発想が、セレ様には新鮮だったようだ。
「そういえばセレ様は、人里に降りるのはこれが初めてですか?」
 降りるというか、正しくは落下、もしくは遭難というべきかもしれないけれど、それはあえて言わずにおく。
「いや。二、三度あるぞ。といっても、もうずいぶんと昔のことじゃ。この辺りに降りたことはないが、あの山は知っておった」
「エト山ですか?」
「うむ。あの山は遠くからもよく見えて、空を往ゆくのによい目印になっておる。こうして麓に降りるのは初めてじゃが、近くから眺めるのも良いものじゃな。たしか、あの山には火の竜がおるはずじゃが、久しく話を聞かぬな」
「村ではもう伝説として語られるだけになってますよ? 誰も姿を見たことがありませんから」
「そうさな......長く話を聞かぬから、冬眠しておるのやも」
「冬眠するんですか、ドラゴンって」
 セレ様はこっくりと頷いた。
 意外なような、そうでもないような。
 冬眠自体はそう珍しいことではないらしい。地中や水中で眠り続けることによって、地脈や水脈をチカラとして体内に取り込むのだという。たいていは十年単位、長いと何百年も眠り続けて......そのあげくに地脈に取り込まれて化石になってしまうドラゴンもいるとかいないとか。
 群れを作って活動する種もいるし、単独行動を好む種もいる。エト山にいた火の竜も単独行動を好む性質で、且つ、縄張り意識が強い。それゆえにこの付近には他の竜が居つかないのだ。と、セレ様は教えてくれた。
 火の竜にお会いしたことはあるのかとセレ様に訊くと、話に聞くだけで直接対面したことはなかったとのことだった。
「火の竜は気性が荒い。だが、エト山の火竜は、厳しい一面もあったようだが、ニンゲンとうまく付き合っていたと、聞いたな。ニンゲンと馴れ合うのを嫌う竜もいるが、火の竜はニンゲンとの関りを好んでおったそうじゃ」
「へえ......そうなんですね」
 それは知らなかった。でも、だからこそ「伝説」として語り継がれているのかもしれない。
 エト山には火の竜が眠っている。そのことを、忌避感を持って語られたことはない。エト山に眠る火の竜は、山、ひいては村の守り竜神かみという意識が根底にある。「火の竜を怒らせてはいけない」という戒めは、山と大地を汚してはならないという、ごく「自然」な信仰からくるものなんだろう。
 頬杖をついて、セレ様を見やった。
 セレ様は、見た目はトカゲで、両手で持ち上げられる大きさだ。
 この姿で人里に現れたら、ドラゴンだなんて認識されなかったろうな。ドラゴンだと自己申告したところで、にわかには信じがたい。驚きはするだろうけど。なんといっても、口が利ける時点で、ふつうのトカゲではないんだから。
 にもかかわらず、わたしは、今はもうすっかり信じてしまってる。セレ様は間違いなく「ドラゴン」だ。ちょっと奇妙な「トカゲ」ではない。
「セレ様が人里に降りたのって、何年前のことなんですか?」
「うーむ......そうじゃな、たしか、二百年ほど前じゃな。ここからは離れた土地じゃが......ニンゲンと暮らした時期もあった」
 仰天して、手のひらからがくっと顎が落ちた。
 二百年? ってことは、セレ様、やっぱりけっこうお年寄り竜なの? 話し方からしてそうかとは思っていたけど......――
 セレ様はいったい何歳なんだろう?
 ドラゴンに「年齢」という概念があるかはわからない。けれど、何年前に生まれたのか、と問うと、意外なことにおおよその「年齢」は把握しているようだった。
 セレ様は、三百歳は越えたはずだと教えてくれた。といっても、正確な「年齢」は把握しきれていないようだった。年月を数えることは知っているけれど、かなり大雑把だ。
 そしてドラゴンの寿命もかなり大雑把で、千年生きた竜もいるらしいけれど、「いちいち年月を数えておらぬからわからん」とのことだ。......うん、それは納得だ。千年なんて、気が遠くなる年月だもの。
 セレ様は三百歳前後の「年齢」だと自認していて、そしてその「三百歳」というのは人間でいうところの「青年期」にあたるらしい。つまりご老体ではなってことだ。
「かくいうミルカは、いくつなのじゃ?」
「え、わたしですか? 十八歳です」
「ほう、十八とな......」
 セレ様は小首をかしげた。十八、十八年か......と、何やら呟いている。
「今年の春花祭はるまつりで、成人の祝いをしたばかりなんです」
 春の花祭では、成人を迎えた者を寿ぐ儀式が行われる。十八になる者、十八になった者が祭の「主役」だ。十八になる者がいない年でも花祭はあるけれど、成人を迎える者がいる年の花祭は、より盛大になる。村に成人した「大人」がひとり増えたとみんなして祝ってくれるのだ。ちなみに「秋実祭あきまつり」もあり、こちらは今年生まれた子のためのお祭りだ。今年無事に生まれた赤子に加護を授けるお祭りだから、これもまた盛大で賑やかな祭りだ。そろそろ秋実祭なのだけど、今年生まれの子はいないので、通年通りの祭事になる。
「さようか。ミルカはもう成人の女、ということなのだな?」
「そうですね」
「............ふむ」
 頷いてから、セレ様はわたしをじっと見つめてくる。なにやら考え込んでいるようにも見えた。
「それと、セレ様、もうひとつ訊いてもいいですか?」
「うむ、申してみよ」
「かつて、人里に降りて人間と生活していたことがあるといってましたけど、その時はやっぱり今のそのお姿だったんですか? それと、元はやっぱり大きな姿なんでしょうか? 話に聞くドラゴンってもっと巨大だと聞いていたので」
 もうひとつ、と言いながら続けてふたつ質問してしまった。
 セレ様は詮索されるのを嫌がる様子はなく快く答えてくれた。
「もちろん、元の吾われはもっと大きいぞ。今はチカラが足りのうてこの大きさに萎んでしまっただけのこと」
 萎んじゃったんだ!? いったいぜんたい、ドラゴンの体ってどうなってるの?
「それと、人里におりる時は、人の姿に変ずるようにしておる。吾等われらドラゴンはニンゲンの姿に変ずることのできる種族なのじゃ。もちろんそれには強いチカラが必要じゃが、吾には......」
「えっ!? セレ様、人間になれるんですかっ!?」
 思わず前のめりになり、セレ様の語尾に声を被せてしまった。
「う、うむ」
 わたしの声に驚いて、セレ様はちょっと身をのけ反らせた。大きな黒眼をぱちくりとさせる。驚かせてしまったようだ。
 セレ様は気を取り直して、自慢げにふふんと鼻を鳴らして言った。
「ニンゲンだけではない。他にトカゲや魚、鳥にも変身できるぞ」
「それは、すごいです!」
 まあ、いまそのまま「トカゲ」なんですけれど。
 それは変身してその姿なのか、という質問は口の中で止めておくことにした。

 それにしても、やはりドラゴンって神獣なんだなと、改めて感心した。いろんな姿に変身できるって、想像もつかない。水陸両用ドラゴン、それに空も飛べるんだ。空を飛ぶって、どんな気持ちだろう。
 すごいですねぇと感嘆すると、セレ様はさらに上機嫌になっていく。
「鳥に変ずるのが一番楽なのじゃが、やはり人里に降りる時はニンゲンの姿に変身するのが都合がよい。――そうじゃ、せっかくだから人間に変じてみせよう。その方がミルカも話しやすかろう?」
「え、今? できるんですか?」
「うむ。変身は一瞬じゃ。チカラもだいぶん戻ってきておるし、問題ない」
 そう言うなりセレ様はたたんでいた翼をばさっと広げた。一度、二度、翼を動かして具合を確かめているようだった。そして三度目。翼が大きくひらいて、ふわりと青みがかった光が放たれた。その光は頭にある二つの角から発せられたように見えた。木の枝のような双角つのの表面が淡い光に覆われている。やがてその光が波のように動いて、セレ様の全身を包みはじめた。光はあまり眩しくなく、直視できるほど光り具合。光を含んだ靄のようでもある。
 セレ様の姿が光の靄につつまれて、見えにくくなった。
 セレ様の「人間の姿」って、どんなだろう?
 口ぶりからして男(雄)かな、とは思うんだけど。
 わくわくしながら、セレ様の変身を待った。
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伝説のドラゴン様に求愛されまして。~甘党ドラゴンと村娘のおかしな日常作者:あるく
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 黙りこみ、思案に暮れているセレ様を片手に乗せて、再び家に戻った。もちろんさっきの林檎酒も持ってきた。セレ様を先ほどと同じテーブルに置いて、わたしは急いで空の瓶に林檎酒を注いだ。これは行商に出ている兄が無事に帰ってきたら、飲ませてあげよう。きっと喜ぶはずだ。
 林檎酒を瓶に移し替えてから、今度はお酒じゃなくて、柘榴ざくろのジュースを持ってセレ様のいるテーブルに戻った。セレ様はまだ思案顔だった。
「セレ様、これどうぞ。柘榴のジュースです」
「む、柘榴とな」
「お酒も美味しいけど、ジュースもなかなかいけるんですよ」
 お口に会うとよいのですがと、グラスを差し出した。セレ様はフンフンと鼻を鳴らして、柘榴ジュースのにおいを嗅ぐ。
「うむ。美味そうなにおいじゃな。いただこう」
 両手でグラスを持って、こくこくとジュースを飲む。
 ついでに干し林檎も少しだけ小皿に出した。薄くスライスした林檎を天日干しにし、さらに窯でかりっとするまで焼いたもの。砂糖は使わず、林檎を乾燥させただけのものだけど、セレ様はお気に召したようだった。
「なんとこれは......こんなに薄くて乾燥しておるのに、しっかり林檎の味がするは不思議じゃな」
 セレ様はつぶやいて、時折干し林檎を掲げてみる。林檎を乾燥させて食べるという発想が、セレ様には新鮮だったようだ。
「そういえばセレ様は、人里に降りるのはこれが初めてですか?」
 降りるというか、正しくは落下、もしくは遭難というべきかもしれないけれど、それはあえて言わずにおく。
「いや。二、三度あるぞ。といっても、もうずいぶんと昔のことじゃ。この辺りに降りたことはないが、あの山は知っておった」
「エト山ですか?」
「うむ。あの山は遠くからもよく見えて、空を往ゆくのによい目印になっておる。こうして麓に降りるのは初めてじゃが、近くから眺めるのも良いものじゃな。たしか、あの山には火の竜がおるはずじゃが、久しく話を聞かぬな」
「村ではもう伝説として語られるだけになってますよ? 誰も姿を見たことがありませんから」
「そうさな......長く話を聞かぬから、冬眠しておるのやも」
「冬眠するんですか、ドラゴンって」
 セレ様はこっくりと頷いた。
 意外なような、そうでもないような。
 冬眠自体はそう珍しいことではないらしい。地中や水中で眠り続けることによって、地脈や水脈をチカラとして体内に取り込むのだという。たいていは十年単位、長いと何百年も眠り続けて......そのあげくに地脈に取り込まれて化石になってしまうドラゴンもいるとかいないとか。
 群れを作って活動する種もいるし、単独行動を好む種もいる。エト山にいた火の竜も単独行動を好む性質で、且つ、縄張り意識が強い。それゆえにこの付近には他の竜が居つかないのだ。と、セレ様は教えてくれた。
 火の竜にお会いしたことはあるのかとセレ様に訊くと、話に聞くだけで直接対面したことはなかったとのことだった。
「火の竜は気性が荒い。だが、エト山の火竜は、厳しい一面もあったようだが、ニンゲンとうまく付き合っていたと、聞いたな。ニンゲンと馴れ合うのを嫌う竜もいるが、火の竜はニンゲンとの関りを好んでおったそうじゃ」
「へえ......そうなんですね」
 それは知らなかった。でも、だからこそ「伝説」として語り継がれているのかもしれない。
 エト山には火の竜が眠っている。そのことを、忌避感を持って語られたことはない。エト山に眠る火の竜は、山、ひいては村の守り竜神かみという意識が根底にある。「火の竜を怒らせてはいけない」という戒めは、山と大地を汚してはならないという、ごく「自然」な信仰からくるものなんだろう。
 頬杖をついて、セレ様を見やった。
 セレ様は、見た目はトカゲで、両手で持ち上げられる大きさだ。
 この姿で人里に現れたら、ドラゴンだなんて認識されなかったろうな。ドラゴンだと自己申告したところで、にわかには信じがたい。驚きはするだろうけど。なんといっても、口が利ける時点で、ふつうのトカゲではないんだから。
 にもかかわらず、わたしは、今はもうすっかり信じてしまってる。セレ様は間違いなく「ドラゴン」だ。ちょっと奇妙な「トカゲ」ではない。
「セレ様が人里に降りたのって、何年前のことなんですか?」
「うーむ......そうじゃな、たしか、二百年ほど前じゃな。ここからは離れた土地じゃが......ニンゲンと暮らした時期もあった」
 仰天して、手のひらからがくっと顎が落ちた。
 二百年? ってことは、セレ様、やっぱりけっこうお年寄り竜なの? 話し方からしてそうかとは思っていたけど......――
 セレ様はいったい何歳なんだろう?
 ドラゴンに「年齢」という概念があるかはわからない。けれど、何年前に生まれたのか、と問うと、意外なことにおおよその「年齢」は把握しているようだった。
 セレ様は、三百歳は越えたはずだと教えてくれた。といっても、正確な「年齢」は把握しきれていないようだった。年月を数えることは知っているけれど、かなり大雑把だ。
 そしてドラゴンの寿命もかなり大雑把で、千年生きた竜もいるらしいけれど、「いちいち年月を数えておらぬからわからん」とのことだ。......うん、それは納得だ。千年なんて、気が遠くなる年月だもの。
 セレ様は三百歳前後の「年齢」だと自認していて、そしてその「三百歳」というのは人間でいうところの「青年期」にあたるらしい。つまりご老体ではなってことだ。
「かくいうミルカは、いくつなのじゃ?」
「え、わたしですか? 十八歳です」
「ほう、十八とな......」
 セレ様は小首をかしげた。十八、十八年か......と、何やら呟いている。
「今年の春花祭はるまつりで、成人の祝いをしたばかりなんです」
 春の花祭では、成人を迎えた者を寿ぐ儀式が行われる。十八になる者、十八になった者が祭の「主役」だ。十八になる者がいない年でも花祭はあるけれど、成人を迎える者がいる年の花祭は、より盛大になる。村に成人した「大人」がひとり増えたとみんなして祝ってくれるのだ。ちなみに「秋実祭あきまつり」もあり、こちらは今年生まれた子のためのお祭りだ。今年無事に生まれた赤子に加護を授けるお祭りだから、これもまた盛大で賑やかな祭りだ。そろそろ秋実祭なのだけど、今年生まれの子はいないので、通年通りの祭事になる。
「さようか。ミルカはもう成人の女、ということなのだな?」
「そうですね」
「............ふむ」
 頷いてから、セレ様はわたしをじっと見つめてくる。なにやら考え込んでいるようにも見えた。
「それと、セレ様、もうひとつ訊いてもいいですか?」
「うむ、申してみよ」
「かつて、人里に降りて人間と生活していたことがあるといってましたけど、その時はやっぱり今のそのお姿だったんですか? それと、元はやっぱり大きな姿なんでしょうか? 話に聞くドラゴンってもっと巨大だと聞いていたので」
 もうひとつ、と言いながら続けてふたつ質問してしまった。
 セレ様は詮索されるのを嫌がる様子はなく快く答えてくれた。
「もちろん、元の吾われはもっと大きいぞ。今はチカラが足りのうてこの大きさに萎んでしまっただけのこと」
 萎んじゃったんだ!? いったいぜんたい、ドラゴンの体ってどうなってるの?
「それと、人里におりる時は、人の姿に変ずるようにしておる。吾等われらドラゴンはニンゲンの姿に変ずることのできる種族なのじゃ。もちろんそれには強いチカラが必要じゃが、吾には......」
「えっ!? セレ様、人間になれるんですかっ!?」
 思わず前のめりになり、セレ様の語尾に声を被せてしまった。
「う、うむ」
 わたしの声に驚いて、セレ様はちょっと身をのけ反らせた。大きな黒眼をぱちくりとさせる。驚かせてしまったようだ。
 セレ様は気を取り直して、自慢げにふふんと鼻を鳴らして言った。
「ニンゲンだけではない。他にトカゲや魚、鳥にも変身できるぞ」
「それは、すごいです!」
 まあ、いまそのまま「トカゲ」なんですけれど。
 それは変身してその姿なのか、という質問は口の中で止めておくことにした。

 それにしても、やはりドラゴンって神獣なんだなと、改めて感心した。いろんな姿に変身できるって、想像もつかない。水陸両用ドラゴン、それに空も飛べるんだ。空を飛ぶって、どんな気持ちだろう。
 すごいですねぇと感嘆すると、セレ様はさらに上機嫌になっていく。
「鳥に変ずるのが一番楽なのじゃが、やはり人里に降りる時はニンゲンの姿に変身するのが都合がよい。――そうじゃ、せっかくだから人間に変じてみせよう。その方がミルカも話しやすかろう?」
「え、今? できるんですか?」
「うむ。変身は一瞬じゃ。チカラもだいぶん戻ってきておるし、問題ない」
 そう言うなりセレ様はたたんでいた翼をばさっと広げた。一度、二度、翼を動かして具合を確かめているようだった。そして三度目。翼が大きくひらいて、ふわりと青みがかった光が放たれた。その光は頭にある二つの角から発せられたように見えた。木の枝のような双角つのの表面が淡い光に覆われている。やがてその光が波のように動いて、セレ様の全身を包みはじめた。光はあまり眩しくなく、直視できるほど光り具合。光を含んだ靄のようでもある。
 セレ様の姿が光の靄につつまれて、見えにくくなった。
 セレ様の「人間の姿」って、どんなだろう?
 口ぶりからして男(雄)かな、とは思うんだけど。
 わくわくしながら、セレ様の変身を待った。
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