プロローグ:世界を形作る真理
世界の始まり。
そこには深淵なる闇がありました。
天も地も、光すら存在しなかった漆黒の無の中で、古き神々――のちに闇の三大老と呼ばれる彼らは、まるで針と糸で刺繍を施すように、静かに世界を縫いあげていきました。
闇の糸で夜の静寂を織り、光の針で星々を刺繍し、命が巡るための美しい器を創り出します。何ひとつ滞ることなく、何ひとつ欠けることのない、絶対なる循環の『巡り』という法則。古き神々が縫い上げたその仕立てこそが、世界の『理』でした。
そして、その理を最も美しく機能させるために配された糸の交わりが『正道』でした。
天を統べる者は、豊穣なる地を抱く。
天神・玄霄と、地神・翠嶺。
星を紡ぐ者は、静寂なる夜を照らす。
星神・辰星と、先代の力を継ぎし新たなる月神・皓月。
天と地。星と月。
二対の神々が世界の四隅をしっかりと縫い留めている限り、この世界は永遠に平穏であるはずでした。
――世界を縫い上げた古き神々すら、そう、信じていたのです。
けれど、完璧に縫い合わされたはずの世界の端から、静かに糸くずが解れるように。
世界の綻び、滅びを視たものがいました。
未来を視る目。
黄金の眼。
天神の深眸が見据えた未来の果てには、ただ世界を呑み込む、圧倒的な『無』の絶望だけが横たわっていました。
天神は世界の滅びを防ぐため、未来を視るその目で、幾万通りもの可能性を映し出しました。
けれど、どの未来を選ぼうとも――このまま『正道』を歩めば、縫われた世界は解け、滅ぶ。その運命からは逃れられませんでした。
世界を救う術は、ただ一つ。
『古き神々が織り上げた美しき裁縫を、自らの手で切り裂き、歪めること』
――これが、のちに世界を震撼させ、そしてなぜか世界を司る四柱が、互いの妻や夫に蜂蜜がけの砂糖菓子のように甘くなるに至った、すべての始まりです。