第14話 井尾玲〜美濃田虚洲の迷宮②
転校生は教室に戻り、お弁当タイムです。
追っかけたるもの、プリンセスの邪魔をしてはいけません。皆それぞれ、プリンセスのお弁当を横目に、自らのクラスに戻ります。可愛らしい「ハートケチャップのオムライス」でした。
書道準備室。初老の男が一人、全紙を前に立ち尽くしていました。黒い影が男を包み、大きく広がっていきます。やがて部屋中を覆い尽くすと壁に、柱に侵食していきました。
「おう、空玲須。いたな。」
二組のクイーンの登場です。美しい金髪を靡かせてつかつかと空玲須に歩みより、頬を寄せます。
女鹿蘭の血管からは、ピキッ、と音がした気がしました。
「何か、気配が怪しくないか?」
必歩流帝は、小声で空玲須に言いました。空玲須は窓の外を眺めました。
対面の校舎別棟の窓に黒い影が見えます。あれは『怪化』?影は別棟の壁を広がっていきます。
「必歩流帝、みんなを外へ。」
「おう!ウチは一組二組行くぜ!」
必歩流帝は突風のように教室から去ります。空玲須は、窓の外を指さして叫びました。
「みんな、あれ、ヤバそう!」
ヤバそう、という言葉、初めて使いました。使い方合ってる?
みんな、窓から見て、
「ヤバっ、何あれ!」
「黒くなってく...。」
ヤバそうの使い方は合っていたようですが、安心してはいられない。
「逃げよう!」
空玲須の言葉で、みんな教室から出ます。
一組、二組からも生徒が出てきます。騒ぎに気づいた四組、五組からも。廊下は大渋滞ですが、それなりに早くみんな階段を降りていくことができました。
「空玲須くんも逃げなきゃ!」
出井亜寧羅が空玲須の腕を引きます。女鹿蘭はキュッと唇を噛みました。
「あれは『怪化』だ。今回は、校舎を侵食してる。」
空玲須は出井亜寧羅に腕を引かれながら、反対の手で女鹿蘭の手を握りました。
「あ...!」
女鹿蘭はうつむきながら空玲須の手を握り返します。そのまま三人は、無事校舎から脱出することができました。
全体が黒い影に包まれた校舎。空玲須は、駅土奈先生を探しましたが、見つけることができません。
「駅土奈先生は、今日は休みですよ〜。」
保健委員が教えてくれました。
「大変だ!井尾玲がまだ出てきてない!」
五組から声があがりました。
「書道準備室の美濃田先生のところに行くって言ってた!」
「ついて行った奴らも出てきてないぞ!」
空玲須は、風のように校舎へと舞い戻りました。
「空玲須。」
「空玲須くん。」
必歩流帝と出井亜寧羅が声をかけます。
女鹿蘭も息を切らせながらやってきました。
「ウチも行く。中はどうなってるかわからないし、もし取り巻き共が『怪化』してるなら、殴れるやつが多い方がいい。」
空玲須は首を振りました。
「いや。
外だって安全とは限らない。
三人は、外のみんなを守ってほしい。
『怪化』を見たことがある三人なら、動きも予想できるはずだ。」
出井亜寧羅は、いい顔でうなずきました。必歩流帝も、少々不満そうでしたがうなずきました。