第16話 井尾玲〜美濃田虚洲の迷宮④
「大体、そのあたりから書道準備室に上がるはずだけど...。
そうだ!空玲須くん、今何階?」
出井亜寧羅は、位置情報では階がわからないことに気がつきました。
「階段は見当たらなかった。
だから、一階だと思う。
...あれは!?」
スマホから何か聞こえますが、それどころではありません。向こうに動くものが見えたのです。スマホの光を向けると、白い服と輝く髪が、光に反射しました。
「キミが、井尾玲?」
空玲須が近づくと、少し不安そうな声が返ってきました。
「よかった。やっと誰かに会えました。
突然、誰もいなくなって、不安でした。」
暗くて全身はよく見えませんが、制服と銀の長い髪。多分間違いありません。
「初めまして。私は井尾玲。あなたは?」
爽やかな高原の風のような声。
「三組の空玲須だ。他に人はいなかったのか?」
空玲須の問いに、井尾玲は答えます。
「ええ、書道準備室まで来たのですけど、突然黒いものが広がって、気がついたら真っ暗になっていました。何人かの方々も、私についてきてくれていたはずなのですが、いなくなってしまいました。」
「空玲須。空玲須!無事なの!?」
スマホから女鹿蘭の叫びが聞こえます。空玲須はスマホに話しました。
「ごめん、今、井尾玲に会えた。
...井尾玲は準備室にいたと言っている。ということは、この迷宮には階がないと思う。」
スマホは必歩流帝の声に変わります。
「よし。井尾玲は確保。
他の者もいるかもしれないけど、今は井尾玲だけでも連れて出てこい。何より無事が先決だ。」
「よろしくお願いします。」
井尾玲はスマホに礼をして言った。
「私だけではきっと、ここから出られません。一緒にがんばりましょ。」
井尾玲は首を傾げ、笑顔で言いました。
空玲須は、不思議と元気が出たような気がしました。
「じゃあ、さっき来た方に戻って。あたしの位置を目指してね。
...ちょっと急いで。バッテリーが心配。」
出井亜寧羅の声通り、元来た道をたどる二人。しばらく行くと、
「何か、大きな音が。」
「ああ、デカい何かがいるな。」
井尾玲と空玲須は、何かが近づく後に気がつきました。警戒しながら、スマホの光をそちらに向けます。
ドドドッ!
轟音と地響き。空玲須はとっさにスマホを井尾玲に渡した。
ドガッ!
巨大な黒い牛の頭。角を空玲須に突き立て...。
空玲須は、その二本の角をしっかりと脇に挟み、押さえ込んでいた。
グ、グググ...。押し込もうとする牛。耐える空玲須。メキメキ...角が軋む音。それでも牛は、体重で劣る空玲須を天井へと投げ上げた。
ガシャーン。
派手な音と共に空玲須は天井に叩きつけられ、瓦礫と共に床に落下した。
「大丈夫ですか!?」
井尾玲がスマホの画面を空玲須に向ける。
...空玲須は何とか瓦礫の中から立ち上がった。
「いてて...。
井尾玲、すまん。相手の姿を見たい。」
井尾玲は光を牛に向けた。暗い闇の中に敵の姿がうっすらと浮かび上がる。
巨大な人の身体。だが、その頭部は牛のそれだった。さっきの一撃は頭に生える角によるものだろう。
井尾玲は、角がおかしいことに気づく。牛の角は二本のはず。でもこの牛は一本...。
「井尾玲、ありがとう。」
空玲須が牛頭と井尾玲の間に立ち、その手に持っていた牛の角を投げ捨てた。
牛頭は、鼻と口から黒い影を吐きながら、再び空玲須に突進。今度は両手で掴みかかった。