ここから二度目の脱出…
008
「.....................」
ウィリアムが目を覚ますと、前とは別の部屋にいた......
今いる部屋は会議室と呼んでいいだろう。彼はこの世界のものではない電気椅子に鎖で縛りつけられていた。
そして周囲の観客席には五十人を超える魔法使いたちが座り、彼をじっと見つめていた......
今のウィリアムは......いや、ウィリアムの体は、抵抗しようとも逃げようともしていなかった......
「皆様! 偉大なる王国の五人の宮廷魔法使い殿、そして弟子の方々ならびに上級魔法使いの皆様......ご紹介いたします......メディア大陸を救い続けた伝説の聖騎士初代、ウィリアム・クレイ・レイホワイト様です!」
ほぼすべての魔法使いがウィリアムに向けて大きな拍手を送った......ウィリアムの体はただ無表情のまま周りを見渡していた......
「へえ......あの爺さん、本当にやったんだな......」
オレンジ色の髪の少年が頬杖をついて無礼な態度で座りながら言った。その態度に似合わず......彼はレギュラー王国の宮廷魔法使いに与えられた特別席に座っていた。
「まあね......わざわざウィリアム様の棺まで探してきて......おまけに三冊の古代魔法書ゼングラフのうちの一冊まで手に入れたんだから......」
隣に座っていた女性の魔法使いがそう言った......
「そうだよね......あの人、宮廷魔法使いの地位にしがみつくのが思ったより好きそうだし......」
がっしりした体格の若い魔法使いが頭を抱えながら答えた......
「ですよね......三位でも六位でも、あの人の次の二位よりずっとましですから......」
女性魔法使いがうんざりした様子でオレンジ髪の少年を指差した......
「やだなあ、リオちゃん......僕の魔法はどう見ても王国一の魔法に決まってるじゃないか......」
「調子に乗らないでよ、エンジン......未来を見通す魔法があるからって......戦闘には使えないんだから」
「ははは......リオちゃんって本当に可愛いな......嫉妬してるの?」
「嫉妬?......馬鹿を言わないで......」
「もうやめなさい、二人とも......」
マルガム......レギュラー王国の宮廷魔法使い第二位であり、宮廷魔法使いの中では最年長でもある......
彼は両腕を広げ、その場にいる全員の拍手を受け入れた......
「ありがとう......ありがとう......わしは......苦労して......この伝説の戦士を......我が国をもう一度救わせるために蘇らせたのだ......」
「よく言えるよな......あの爺さん......ただ国王に一位の宮廷魔法使いに任命してもらいたいだけのくせに......」
王宮の宮廷魔法使い第一位、エンジンという名の少年はマルガムの言葉を聞いた瞬間に顔をしかめた......
「老人ってこれだから......」
「そして皆様がまだわしを信用されていないなら......これが本当にウィリアム様であるという証明に......この場を用意しました......」
マルガムは両側の鉄格子の扉の方へと手を広げた。その扉は幾重もの鎖と錠前で固く閉じられていた......
「......ご覧に入れましょう......ウィリアム様の真の力を!......」
マルガムは言い終わると急いで上の観客席へと登った......
感電ボタンを最大出力で押した......
「!!」
ウィリアムの体は声一つ出さなかった......電気椅子の上に静かに座ったまま、微動だにしなかった......
「ご覧いただけましたか......わしが用意した雷魔法の電力でさえ効かない......だからこそ......」
彼が合図を送ると、弟子たちがすぐさま走り出して魔法で鉄格子の扉の錠を開けた......
扉の錠が外れると......中にいたものが息を吐き始めた......
毒素を防ぐ魔法がウィリアムを除くその場にいる全員の顔と体を瞬時に覆った......
「.....................」
ウィリアムの体も......両側の檻の中にいるものの気配を感じ取った......
「ガアアアア......」
そのものが歯を鳴らしながらゆっくりとにじり寄ってきた......ウィリアムの体はただそのまま静かに座っていた......
ガン!!!
鉄格子の扉が両側から吹き飛んだ......そして両方の扉がぶつかり合い、ウィリアムに当たった......
しかし電気椅子が壊れただけで、ウィリアムの体にはほとんど傷一つなかった......
「ホォォォォォォ!!!!!!」
そのものが閉じ込められていた部屋から出てきた......現代には存在しない生き物......しかしこの世界では最も危険な生き物のひとつだった......
キメラ......
「ガアアアア......」
二頭......
「.....................」
ウィリアムの体は二頭を静かに見つめていた......今すぐ彼を殺したそうにしているキメラとは対照的に......
体はライオンほどの大きさで三階建ての建物と同じくらい大きく、尻尾は蛇、三つの頭を持つ......ドラゴンの頭、山羊の頭、ライオンの頭......
そして吐き出す息は......毒だった......
「.....................」
「さあ! これよりウィリアム様が素手でキメラ二頭を倒すところをご覧いただきます!!!」
会場の全員が歓声を上げた......しかし凶暴な獣に囲まれているウィリアムの体は一緒に喜ばなかった......
キメラが毒の息をウィリアムの体にどれだけ吹きかけても、まったく効かなかった......
ウィリアムの体は左右を見渡した......そして何かに気づいた......
ペガサスの翼が......切り取られていた......そしてその傷口はぞんざいに縫い合わされていた......
「.....................」
戦おうとするのではなく......ウィリアムはゆっくりとキメラに歩み寄っていった......
「ガアアアア......」
そして......ライオンの頭を両頭とも、優しく撫でた......
「はあ?......」
マルガムが呆気にとられた......会場の人々も呆気にとられた......
「へえ......キメラが穏やかになれるとは知らなかったよ......」
エンジンが茶化した。
「確かに......珍しい光景だな......」
その様子を見たマルガムはゆっくりと拳を握り締めた......
[ふざけるな......これだけ苦労してきたというのに......宮廷魔法使い一位の座を逃すわけにはいかんのだ......]
[しかし......なぜ......こいつ(ウィリアム)はわしの制御魔法から抜け出せているんだ......]
[あの司書の装置が効かなくなったのか?......いや、まだ効いているはず......でも時々、壊れることがあるかもしれない......]
取り出して確認しなければ......しかしそうすれば......洗脳魔法が弱くなる......そしてあいつが制御を離れてしまう......
マルガムの制御魔法は決して粗末なものではなかった......しかしいま制御しているのは、メディア大陸の伝説の戦士と謳われる聖騎士初代なのだ......
だからこそ......マルガムの魔法がウィリアムを完全に制御できないのは当然のことで、装置を使って補わなければならなかった......
[ふざけるなよ!!!!!!]
彼は急いでキメラ二頭を制御してウィリアムを攻撃させた......
「ホォォォォ!!!!」
「!!」
キメラは前脚でウィリアムを叩き、壁まで吹き飛ばした......
「.....................」
ウィリアムの体は走って逃げ続けた......キメラに一切手を出そうとしなかった......
[何やってるんだ!......早くあいつらを倒せ......わしの顔を潰すなよ!!!]
マルガムは汗をかき始めた......ウィリアムに注ぐ制御魔法の量をどんどん増やした......しかしウィリアムが言う通りに動く気配はまったくなかった......
しまった......完全にしくじった......
ウィリアムの体はプロの曲芸師も顔負けの軽快さでキメラをかわし続けた......
ジジジ......ジジ......
「?」
右のこめかみのあたりで音が鳴った......ウィリアムの体は何の音かわからず、指でつついてみた......
[ちょっと待て......何をするつもりだ......]
「.....................」
[燃やせ!! 燃やすんだ!!!]
ドラゴンの頭を持つキメラが大きく口を開けた......業火がキメラの口から解き放たれた......
ボワッ!!!......
炎が競技場一面に広がった......煙が立ち込め始めた......しかし魔法使いたちにとってそれは何の問題もなかった......
煙で視界が遮られても、見通す魔法がある......
しかしその魔法の発動には二秒かかる。
そしてその間に......ある装置がマルガムの目の前に落ちてきた......
ウィリアムを蘇らせる前に頭蓋骨に打ち込んだ釘に似た装置だった......
「制御が外れた!! 早く捕まえろ!!!!!」
彼は叫んだ。周りの全員がびくりと驚いた......地位と名誉のために積み重ねてきた努力が無残に崩れ落ちていく中で......
長い間溜め込んできた怒りが、五十人もの人間の前で一気に爆発した。
「マルガム様......」
「さっき......制御していた、とおっしゃいましたね......?」
マルガムは歯を食いしばった......そのとき......今まで燃え盛っていた炎が消えた。そしてキメラたちは切り取られた翼を取り戻していた。
「お前たちは......わしを制御しようとは......随分と大胆なことをしてくれたな......」
そして今や......ウィリアムの体とウィリアムの心は、ひとつに戻っていた。
「捕まえろ!!!!!!!」
内側に配置されていた兵士たちとマルガムの弟子たちがウィリアムを捕まえようと一斉に走り出した......
「さあ......行くぞ!!」
ウィリアムはキメラの首元へと飛び乗り、翼を広げるよう命じた......翼が起こした風で兵士と魔法使いの一部が吹き飛んだ......
ドラゴンの頭を持つキメラ二頭が火を吐いて屋根を燃やし、炎が建物中に広がり始めた......
キメラはすぐさまその建物から飛び去った......
「まったく......悪事の計画が見事に失敗したね......」
「お前は知っていたのか......こうなることを......エンジン......」
「知ってたよ......それからもう一つ......」
マルガムはエンジンを最大限の怒りと恨みを込めた目で見た......
「これから数日のうちに......レギュラーで面白いことが起きるよ......」
川沿い......ルイスの兵士たちの野営地で......
「ゆっくりと......」
ルイスが手を差し伸べてくれたので、私はその手を掴んで馬車からゆっくりと降りた......彼の私兵たちが列を作って並んでいた......
「よく聞け......これから話すことは、お前たちが聞いたら彼女を殺したくなるかもしれない......そう感じたなら......剣を抜いてわしを殺しにこい......」
兵士たちは顔を見合わせ始めた......私もある程度は覚悟していたので、怖い光景を見ることにはなるだろうと思っていたが......まったく心配していなかった。
「アンダーソン嬢の証言によれば......アンダーソン嬢がヘレン王子を裏切ったというのは事実ではない......国王陛下が彼女を陥れているのだ......」
他の人なら......誰も信じないだろう......しかしルイスが言うなら......話は別だった......
「では......なぜそのようなことをされるのでしょうか?」
一人の将校が落ち着いた様子で尋ねた......
「今はまだその背景はわかっていないが......」
ルイスが言い終わる前に、私が口を開いた......
「国王陛下が、魔法使いと一部の兵士に秘密任務を与え、自国の力を増やそうとしているからです......」
全員が顔を見合わせた......
「私は......別の世界から来ました......本物のクロエではありません......あなたたちのことを本の中から見ていた世界から来たんです......」
みんな私の言葉に呆気にとられていた......
「あなたたちのことはすべて知っています......この軍の中に裏切り者は一人もいないことも......そしてこの計画の黒幕が誰なのかも......」
それを聞いて、ルイスが頷いた......私が本当のことを言っていると認めるように......
「それは大規模な捜査が必要になるな......」
あなたたちがいる世界で私が見ていたこと......私は一般市民の少女として生きていて、ヘレン王子と出会い、婚約した......しかしある日、彼らが禁断の魔法書三冊を探し出し、国力を増強しようとしていることを知ってしまった......
ゼングラフ、グリモワール、そしてグレムリン......
そして最終的にこの計画は、一握りの軍隊と第七代聖騎士ルイス・シルバーウィングストンによって食い止められる......
「.....................」
「つまり今、国王陛下はその三冊の書物を手に入れ、軍隊を強化しようとしているということか......」
私は頷いた......
「それだけではありません......三冊の魔法書は様々なことができますが......魔法を最大限に発揮するためには、ある宝石を媒介にする必要があるんです......」
「宝石......名前は?」
ルイスがすぐに聞いた......私は答えた......
「世界で最も希少な宝石......ロイヤルリボンです......」
全員が顔を見合わせ、頷き合った......
「なるほど......では今、あの密売人から宝石を買い取ろうとしている者が誰なのかも、だいたい想像がつく......」
思い出せる限りでは......ロイヤルリボンはシルバーウィングストン家に代々伝わる宝石だった......しかしマンガでは今回のようにルイスが紛失するのではなく......宮廷魔法使い第二位の弟子に盗まれることになっていた......
今は、これから二週間以内に密売人を見つけ出さなければならない......
「黒幕はマルガムとその弟子たちで間違いないわね?」
ルイスがもう一度確認した。
「はい......間違いありません......」
全員が互いに頷き合った......
「よし......今夜はここで一泊する......そのあとでこの方を私の屋敷に匿うことにしよう......」
え......彼の家に住むってこと?......これは都合がいいじゃない......
「あの......何日も離れていて......大丈夫なんですか?」
「心配しなくていい......聖騎士が出陣するのは大きな戦争のときだけだ......あとはデスクワークだからな......」
「へえ......」
デスクワーク......元の世界の仕事みたいね......
ルイス......本当にイケメンね......
同じ頃、秘密の宝庫で......
「さあさあ......早くして......」
リボンがヒメコを押し上げて砂の山を登らせた......三人の盗賊集団が再び秘密の宝庫へとやって来た......
ゴォォォ......
砂嵐が砂漠の砂を舞い上げながら吹き抜けた......
「ふう......顔を覆ってきて良かったわ......」
マベルは砂がくっついた髪を振り払った......
「今日は何を売りに来たの?」
ヒメコがいつものようにリボンに聞いた......しかし今回の目的は違った......
「違うの......今日は自分たちで使うものを取りに来たのよ......」
「珍しいわね......何を取るの?」
リボンは大きなノートを取り出してページを開いた。中には写真と小さな字で書かれた情報が詰まっていた......
表紙には「現代の物品百科事典」と書かれていた......この地の図書館で司書を務める誰かが翻訳してくれたものらしかった......
ページをめくり続けると......白黒の一枚の絵の前で止まった。馬車に似ているが、馬車よりはるかに頑丈そうに見える......
「これは......えっと......く、車......でいいのかな?」
「車?......あの鉄の馬車?」
「そうね......」
ヒメコとマベルは顔を見合わせ......聞いた。
「で、何に使うの?......」
「これ......読んでみたら、馬より速く走れる乗り物だって書いてあったのよ......だから宝石を盗んで逃げるときに使えると思って......役に立ちそうでしょ?」
「確かに......」
リボンは嬉しそうに笑った。
「さあ!......馬四頭より速い鉄の馬を探しに行きましょう!......」
「おーっ!!!」
三人がハイタッチしながら手を突き上げた......その瞬間......
ドシン!!!!!!
「きゃああああ!!!!!」
何かが空から落ちてきた......それはこの時代のものでは到底ありえないものだった......凶暴な生き物が二頭......
キメラだった......
「うわっ!!」
三人はそのまま地面に転がり、お互いにしがみつきながら体を震わせていた......
「止まれ!!」
ある若い男の声が、一頭のキメラが三人の方へ近づくのを制止した......
「ごめんよ......こいつらはまだ誰かが自分たちを傷つけようとしているか疑ってるんだ......」
「.....................」
三人は顔を見合わせた......キメラの背から飛び降りた若い男が三人の方へ手を伸ばした。彼女たちはその手を掴んで立ち上がった......
「あなたは......さっき......空から降りてきたの?......しかもあいつらに乗って......」
「さっき牢獄から逃げてきたんだ......こいつらも一緒に逃げてきた......さあ、行くぞ......」
ウィリアムが手を振ると、キメラたちが交互にウィリアムの顔を舐め始めた......
「うわ......」
「ありがとう......気をつけてな......」
「ホォォォォ!!!!」
二頭は飛び去っていった。
「さて......わしは街に入るための乗り物が必要だ......それから妻を探し出して、妻の宝石も取り戻さなければならない......」
三人は顔を見合わせた......
「あの......実はちょうど良かったんです......私たちも宝石を探しているんですよ......」
リボンはわざと「盗む」という言葉を避けた......この人が自分たちを捕まえにきた魔法使いか兵士かどうかわからなかったから......
「そうか......お前たちも宝石をなくしたのか?」
「い、いえ......その......宝石をなくした人のために探しに行こうと思って......持ち主に返そうと......」
「ふむ......わかった......」
四人は廃品の山を歩き回った......そしてちょうど探していた鉄の馬と出くわした......
「ああ、あれだ......」
四人が近づいていくと、それは1930年代頃の古い車だった......しかし外観はまだ新しそうに見えた......
「すごい......」
マベルはゆっくりと車体を撫でた......そして取っ手に手をかけ、引いた......
扉が開いた......
「.....................」
四人は顔を見合わせた......そして一緒に乗り込んだ......
「ちょっと待って......百科事典にはこの車にはガソリンと呼ばれるものが必要だって書いてあったけど......」
彼女は本を開いて車の詳細説明のページを全員に見せた。青いガロンタンクの絵が描かれていた......
「じゃあこれをたくさん持ってきたら街まで行けるわね......」
四人は燃料を探しに行き、それから街へと車を走らせた......