プロローグ
遥かなる昔――有史以前、石造りの巨塔が並ぶ古代都市カリアン。
空を裂くように、光が一筋落ちた。
そして祭礼の最中、ひとりの舞姫が壇上から忽然と姿を消す。
広場は悲鳴と混乱に包まれた。神の怒りだと叫ぶ者、我が身を抱いて震える者――だが、誰もその仕組みを知らなかった。
ただ一人、神殿の奥に残された黒き石板の前で、震える指を伸ばす男がいた。
その石板には、舞姫の名と、この日の刻限が刻まれていた。
***
時は流れ、紀元前の港町アリマ。
香辛料と金貨が飛び交い、異国の言葉が響く桟橋で、荷を積んだ大船とその乗組員が、海霧に飲まれるように忽然と消える。
港は騒然となり、家族が泣き叫び、商人たちは破産を恐れて狼狽した。
やがて、倉庫の壁に打ち付けられた羊皮紙に、消えた船の名と時刻が記されているのを見つける者がいた。
誰が記したのかは、誰にも分からない。
***
さらに時代は下り、中世の石畳の町ルーヴェン。
鐘の音が響く昼下がり、広場を渡る商人と荷馬車が、群衆の目の前で光に呑まれて消えた。
悲鳴が渦巻き、祈祷師は「悪魔の仕業だ」と叫ぶ。
教会の扉に釘打たれた羊皮紙には、商人の名と刻限が刻まれていた。
それを見た者は口を噤み、ただ十字を切るしかなかった。
***
そして現代――とある都市。
雑踏を行き交う人の群れの中で、ひとりの青年が忽然と姿を消す。
ビルの谷間で光が揺れ、監視カメラの映像が一瞬だけ乱れた。
通行人は違和感を覚えたが、すぐに忘れてしまう。
だが、手にしたスマートフォンに通知のように浮かんだ一行を見て、息を呑む者がいた。
そこには、青年の名と刻限が表示されていた。
***
――時代を越えて繰り返される「消滅」
その記録は、今もなお世界のどこかに残されている。
そして――その現象はひとりの高校生の日常にも姿を現そうとしていた。