第8話 日下部ミオ
約12年前
日下部ミオは小さい頃から気が強いと言われていた。
同年代の子たちと比べても比較的小柄で細身ながら、日本人形のように真っ黒な髪を背中まで伸ばし、ぱっちりとした瞳を持つミオは、一見すると物静かそうに見えるのであるが......。
――なんでご飯を食べる前に手を洗わないの?
――どうして自分で出したものを片づけないの?
――なんでお友達の悪口を言うの?
ミオは自分が疑問に思うこと、間違っていると思うことを躊躇なく口に出す。
「どうして当たり前のことなのに分からないの?」――そう胸の中で繰り返しながら、彼女は今日も誰かを注意していた。世界を正しく保ちたいという純粋な願いは、いつしか周囲との間に目に見えない壁を作り始めていた。
そのため時には言い争いになることもあったが、言っている内容は間違っていなかったので、幼いころは「ミオは真面目だね」と褒められることの方が多かった。
やがて小学校にあがるのだが、そこでもミオは変わらない。
――廊下を走ったらダメなんだよ。
――外に行くときは外履きに履き替えなくちゃだめだよ。
――掃除中はふざけたりしちゃだめなんだよ。
低学年のうちは特に問題はなかった。
正義感が強く、言いたいことをはっきり言う性格はむしろ周囲から好ましく思われ、多くの友人から慕われ、頼られていた。
しかしそれは徐々に変わってくる。
いや、ミオの行動は小さい頃から一貫している。
変わってきたのは周囲の反応だった。
少しずつミオを敬遠するものが現れてきたのだ。
それでもミオは変わらなかった。
やがて高学年の頃になると、口やかましいミオを疎ましく思う女子や、口うるさく色々言われた男子などがミオのことを露骨に避け始めたのだ。
その人のために良かれと思ったことをしていただけなのに、相手から返ってくるのは余計なお世話と言わんばかりの露骨な愛想笑い、あるいは拒絶。中にはそれを言葉にしてはっきりと言うものまで現れた。
自分は間違っていない。
正しいことを言っているだけ。
それは確かにその通りなのだが、こういったことは理屈ではない。
正義の味方が正義でいられるのは悪がいるからである。
明確な悪があるから正義の味方は正義なのだ。
しかしミオに注意された人たちは悪ではない。
ただちょっとルールを守らなかっただけの昨日まで一緒に笑っていたはずの友達なのだ。
廊下を走る、掃除中に少しふざける――。
それらは正すべき「非」ではあっても憎むべき悪ではない。
しかし、ミオの突きつける正論はあまりに鋭く、逃げ場がない。
その正しさがかえって周囲にとっては平穏を乱すトゲのように感じられてしまう。
明確な悪が存在しない場所で一人だけ正義を叫び続けること。
それは周囲から見れば正義ではなく、ただの不寛容な異物でしかなかったのだ。
行き過ぎた正義は時に悪以上に人を追い詰めることさえある。
今のミオがまさにそうだった。
基本的には真面目であり勉強も運動も優等生の部類であったので、先生からの評判はとてもよかったのだが、それすらも周囲から疎ましく思われる要因となる。
親の庇護下にあった幼少期から少しずつ自分たちの世界が出来てくるこの時期は、人間の成長において最も多感な時期であり、将来の性格を決める大切な時期であるともいえる。そのような時期に周囲に疎まれることは、ミオの性格に少なくない影響を及ぼすこととなった。
結果的にミオは学校で孤立した。
相手にとって良かれと思うことでも時にそれは行き過ぎた行為となる。
それならば何も言わなければいい。何も言わなければ、何も思われない。
そう思い自らクラスメートの輪から外れ、ますます孤立していくミオであったが、それを良しとしない者がいた。
ミオの幼馴染、土屋リクである。
二人は保育園のころから互いの家を行き来するほど仲が良かった。リクはミオよりも一つ年下で、当時はミオより背が低かったこともあり、どんな相手でも物怖じせずに立ち向かい、はっきりと言いたいことをいうミオの性格は憧れであり、自分もそんな風になりたいと思っていた。
やがてミオが小学生になる。
保育園と小学校、子供にとって通う場所が違うことは違う世界で生きているに等しい。そのせいか一緒にいる機会はめっきり減ってしまう。
1年遅れでリクも小学生になったが、ミオとは学年が違うため一緒にいられる機会はほとんどなかった。
リクは小学五年生になる。
この時のミオは六年生、二人とも高学年になったのだ。
二人の通う小学校ではしばしば高学年同士の合同授業がある。
そこでは昔のようにミオと一緒にいられるはずだ。
リクはそれを密かに楽しみにしており、ようやくその日がやってきたのである。
しかしそこで見たクラスメートのミオに対する扱いにリクは驚愕する。
クラスのほとんどの子たちは露骨にミオのことを避けていたからだ。
原因はすぐに分かった。
それはミオ自身の行き過ぎた行為のせいだ。
ミオは基本的に真面目であり、言いたいことははっきり言う実直な性格であるが、それは裏を返せば自分自身にも厳しいということだ。
自らの行動がクラスにとって良くないと理解していたミオは、周囲のために自ら孤立することを選んでいたのだ。その様子に心を痛めたリクはその日からミオとクラスを繋ぐために奔走する。
リクはこの時、中学生と間違えられるほど背が伸びていた。
またミオに憧れて、リクなりにミオと同じように誰にでも自分の意見をはっきり言おうと心がけていた行動はミオと違い良い方向となって実を結び、リクを社交的な性格にしていた。
背が高く社交的で誰とでも仲良くできるリクがミオのために奔走する。
その様子にクラスメートの態度は徐々に軟化していく。
教室には再び笑い声が戻ったが、ミオだけがその笑顔の薄さに気づいていた。
それでも掛け違えたボタンを元に戻せば少なくとも表面上の平穏は保たれた。
しかしミオの心の中は違った。
既にこの時、ミオは周囲の人を信用しなくなっていた。
――同じことを言っても、言う人が違うだけでこうも反応が違うのか。
ミオのために奔走したリクだったが、そのリクに対する周囲の反応がかえってミオの胸に痛みを残した。
リクが笑うたび、みんながリクを褒めるたび、ミオは少しずつ息苦しさを覚えていった。リクのおかげで一見すると元のように戻ったミオの周囲であったが、ミオが本当に心を許せるのは愛犬サロンだけであった。
サロンは高学年の進学祝いで両親が買い与えてくれた。
この時はまだ幼犬ではあったが、心を痛めているときに無条件で寄り添ってくれたサロンはミオにとってはかけがえのない家族であり、同時に唯一無二の親友であった。
サロンがいなければ周囲から孤立したときに心が壊れていたかもしれない。
彼女にとってサロンは唯一裏切らない存在であり、他人を信じなくなっていく理由でもあった。
そしてもう一人の心許せる存在。
それはミオのために奔走してくれたリクである。
結果的にはミオの心を頑なにさせてしまうことにはなったが、リクはサロンとはまた違った形でミオに寄り添っていた。
そんなリクにいつしか心を惹かれていたのだが、あれだけ周囲には言いたいことを言えるミオなのに、なぜかリクには何も言えないでいた。それが初恋であることを後から気付くまではサロンに散々悩みを相談していたが、犬であるサロンは顔を一舐めするだけであった。
***
やがてミオは中学生になる。
小学校から進学しても彼女の性格は変わらない。
ここでもミオは周囲を信用できずにいるが、言いたいことや気になることがあっても昔のようにすぐに口に出すことはせずにぐっと堪えるようになっていた。
一年遅れて入学してきたリクのおかげもあり、それなりに楽しい中学生活であったと言えるが、それは自分を押し殺し上辺だけの付き合いに終始した結果である。
感情の起伏を消すほどに他人との摩擦は減っていった。
それは平穏と呼ぶにはあまりに寒々しい、無色透明な日々だった。
***
そして高校入学。
ミオの心にできた壁は年齢を重ねるごとに高くなっていき、それはいつしか言葉や仕草の隅々にまで染みついていた。口数は減り、笑うことも減った。鏡の中の自分が、いつのまにか他人のように感じられた。
長い髪は今では腰ほどまで伸び、幼いころの面影を覆い隠していた。
ぱっちりとした瞳は次第に鋭さを帯び周囲を測るように動く。
いつの間にか身長は165センチを超え、女性としては高い方になっていた。
リクはすでに180センチを超えていたが、ミオは無意識のうちにその背中に追いつこうとしていたのかもしれない。
背が高く、鋭いまなざし。それに加えて腰まで伸びた黒髪に、隠しているとはいえ、滲み出る自他ともに厳しい性格が醸し出す凛とした雰囲気。
小学生の頃とは違う意味で周囲から孤立しているのだが、それはある意味では好意的に受け入れられているということに本人は気付いていない。
後から入学したリクが一つ上の学年に凄い美人がいると聞いて、やってきた先にいたのがミオと知ると思わず吹き出すのだが、それくらい周囲に注目される存在となっていた。
そしてある時、ミオにとっては運命が変わるとも言える出来事が起こる。
***
高校三年生になって迎えたゴールデンウィーク。
この日、日課であるサロンとの散歩で風見川に来ていた。
せっかくの連休なのに雨が続いており、ようやく晴れたこの日。
いつもなら自宅周辺や市民の憩いの場である風見中央公園の広場で散歩を楽しむのだが、ようやく顔を出した太陽を満喫するため、自宅からは距離があるため普段は行くことがない風見川まで行くことにしたのだ。
運搬用のケージにサロンを入れ、自転車を漕ぐこと約20分。
風見川に辿り着き、土手沿いに自転車を停める。
疲れた身体をほぐすために軽く伸びをすると、川から吹いてくる風が汗ばんだ身体を優しくなでていく。
「やっぱり来てよかったわ」
この気持ちの良い風を浴びれただけでここまで足を伸ばした価値があった。
サロンをケージから出しながら周囲を眺める。
郊外にある風見市ではあるが、それでも緑が溢れるほどのどかなわけでもないので、こういう場所は貴重な憩いの場である。
目の前にはちょっとしたお祭りが出来そうなほど広い河川敷が広がり、レジャーシートを引いてのんびりとピクニックを楽しんでいる人がいる。広場の向こうにはサッカーコートや野球のグラウンドが設置されていて、今も賑やかな歓声が聞こえてくる。
土手沿いはサイクリングコースとして整備され、今もミオの横をサイクリングスーツに身を包んだ集団が軽快に走り抜けていったところだ。
風見川を下るとそのまま海に出るので、もしかしたら今の集団はそのまま海まで走り抜けるつもりなのかもしれない。
それも気持ちよさそうだなと思いはするが、身体を動かすのは嫌いではないとしても、さすがにそこまで激しい運動にはちょっと抵抗があるな、と自分の思いつきをすぐさま否定する。
――私はこの広々とした河川敷でサロンと遊べればそれで満足。
そう思いながら河川敷に降り立ち、持参したカバンからボールを取り出す。
それを目ざとく見つけると、サロンは何かを期待するようにその場でクルクルと回りだす。
その目は期待に輝いている。
ミオは思わず顔を綻ばせる。
ボールを投げる姿勢をとるとサロンは回るのをやめ、ボールが投げられるであろう方向に向かって全身を収縮させ次の瞬間に備える。
「えいっ!」
という掛け声と共にボールを投げるのと、サロンが走り出すのは同時であった。
その姿はあっという間に小さくなり、ずいぶん遠くまで投げたつもりのボールは10数秒後にはサロンによって再びミオの手元に戻る。
たっぷり30分以上は遊んでいただろうか。
さすがのサロンも明らかに走る速度が遅くなり、ついにはミオの足元に座り込んだ。
小さな身体は恐らく酸素と休息、そして水分を欲しているのだろう。
持ってきた皿に水を注ぐと、むさぼるようにその水に飛びつく。
サロンの背中を優しく撫でるその表情を高校の同級生が見たら、とても普段のミオと同一人物には見えないだろう。
顔をびしゃびしゃにしながら水を飲み干すと、またボールを加えてミオに催促の視線を送る。
一体この小さい身体のどこにそんな体力があるのだろう。
ちょっと呆れながらもボールを受け取ると、再び遠くにボールを投げる。
瞬く間にボールを咥えると、そのままミオの元に駆けてくるサロン。
その小さな身体が今まさに足元に辿り着こうとしたとき――。
その姿はかき消すようにふっと消えた。
駆け寄る足音も、風の音さえも、その瞬間だけ世界から剥がれ落ちた。
ただ、サロンが咥えていたはずのボールが、意志を失ったように乾いた音を立てて転がってくる。その虚無を埋めるような音だけが、ミオの鼓膜を冷たく叩いた。
「......えっ......?」
ボールはそのまま転がり続けミオの足にこつんと当たると、そのまま動きを止めた。
何が起きたのか分からない。
脳が「あり得ない」と答えを出すより先に、理解の範疇を超えた事象を前に思考が真っ白に塗り潰され、胸の奥で何かが砕ける音がした。
どれくらい立ち尽くしていたのだろうか?
やがて真っ白になっていた頭が少しずつ動き出す。
「......サロン?」
足元のボールを拾うと、サロンの唾液が残っている。
後ろを見ると、さっきまで水を飲んでいた皿にわずかに残った水が光って見える。
そして手には先ほどサロンの背中を撫でたぬくもりがはっきりと残っている。
ミオは非常に理性的でもある。
それはここまでの経験で周囲とぶつからないようにと自己を律し続けてきた賜物だ。
頭の中で現実的には考えられないことが目の前で起きたということを理性的に受け止めようとするのだが、感情がそれに追いつかなかった。
「サロン!!」
気付けばミオはその場から駆けだしていた。
―――サロンが消えた。
通常ではあり得ない。
きっと気のせいだ。
サロンは今も草むらでボールを探しているのだ。
急いで探しに行ってあげないと。
――サロンが消えた。
ちょっと遠くに投げすぎたかもしれない。
次はもう少し近くに投げてあげよう。
サロンも疲れただろう。
帰りはケージの中で眠ってしまうかもしれない。
――サロンが消えた。
今日は久しぶりにしっかりと身体を洗ってあげよう。
嫌がるかもしれないけど、その嫌がるそぶりも可愛いのだ。
しっかり身体を拭いてブラッシングもしてあげよう。
――サロンが消えた。
気付けばミオは泣いていた。
草むらを出てグラウンドの方まで走る。
土手で犬を散歩している人に声をかけ、河川敷の端から端まで探し回る。
必死の形相で声をかけたことにより何人かの人を驚かせてしまった。
それは申し訳なかったけども、それでもサロンが見つからない。
サロンを探し始めてどれくらいたっただろうか?
ふとリクのことを思い出す。
昔はサロンみたいにいつも自分の後ろをついてきていたのに、気付けば自分よりもずっと背が高くなっていたリク。自分よりも周囲に好かれ、誰とでもすぐに仲良くなれる幼馴染。サロンの次に心許せる存在。
気付けば電話をかけていた。
「もしもし、ミオか。どうした?」
電話に出たリクの声に、ここまで堪えていた感情が一気に爆発した。
自分ではしっかり喋っているつもりが声が震えて上手く説明できない。
そのただならぬ様子に今いる場所を確認すると、「今から行くから待ってろ」とだけ伝えて電話を切る。
それから10分後。
息を切らし、全身を汗で濡らしながらやってきたリクに、ミオは何も言わず飛びつき子供のように泣きじゃくる。
たっぷり10分くらいはそのままだったろうか。
リクは周囲の視線に困惑しながらもそのままミオを泣かせていた。
ようやく落ち着きを取り戻したミオは「ごめん」と言いながら自ら身体を離す。
「気にするなよ。で、どうした?何があったんだ?」
少し気持ちが落ち着いたミオは、汗とは違うものでびしょびしょになっていたリクの服を申し訳ないような、ちょっと嬉しいような気持ちで見つめながら、サロンがいなくなったことを事細かに説明する。
「......というわけなの」
「それってミオの見間違いじゃないのか?」
「サロンのことに限ってそんなことは絶対にないわよ」
「だよな。でも目の前でふっと消えるなんて普通はあり得ないと思うんだよな」
今もミオの悲しみは消えない。
それどころか油断しているとまた涙腺が緩んでくる。
しかし事実は事実として受け止めなくては、サロンを探すことなどままならない。
気付けばミオは唇を噛みしめていた。
「そういえば、サロンの首輪は迷子対策とかでGPS内蔵のやつにしていたよな?それで場所を探せないのか?」
「......!!」
なんていうことだろう。
あまりの出来事に気が動転してそのことを忘れていた。
自分らしからぬ失態に思いきり自分を殴り飛ばしたい気持ちに駆られるが、そんなことは後からいくらでもできる。
ミオは慌ててスマホを開くと、アプリを立ち上げて居場所を確認するのだが......
「いない......」
「え?」
「いないのよ、どこにもいない」
「そんなことないだろ?バッテリーはちゃんと充電してあるのか?」
「もちろんよ。散歩に行く前には必ずフル充電してから出かけるもの」
ミオがそういうのならそうなのだろう。
検索範囲を広げながらサロンの位置を特定しようとするが、まるで首輪ごと消失してしまったかのように、どこにもその反応はなかった。
「なんで......」
わずかな希望が生まれた後、それが叶わないと知ったときの落胆は計り知れない。
今度こそ心が折れそうになり、スマホの待ち受けにしているサロンを見ようと画面を開いたら――そこには見知らぬアプリがあった。
――【予定表】
「何よ、これ?」
「どうした?」
「なんか変なアプリがあるのよ、ほら」
誰かと話すと気が紛れるというのは本当だ。
リクが目の前にいる。
それだけで少しだけ冷静になれる。
見慣れないアプリを指さしながらスマホの画面をリクに見せる。
「ん?どこだ?」
「ほら、ここよ」
ミオは【予定表】とだけ書かれたアプリをトントンと指で指し示す。
「いや、俺には何も見えないぞ」
「そんなことない」
【予定表】を立ち上げてみると、そこには日付や名前、場所などがまるで何かの一覧表のように理路整然と並んでいた。
何度見せてもリクには【予定表】を見ることができないようで、傍から見るとただスマホの画面をなぞっているだけのように見えるとのことだった。
ミオは【予定表】のスクロールを続けるが、突然その手を止める。
「何よこれ......」
そこにはミオがよく知る名前が記されていた。
思わずスマホを落とし、全身が膝から崩れ落ちそうになるが、目の前のリクに支えられる。
「おい!大丈夫か!?」
リクは取り落としたスマホを拾いミオに手渡すが、ミオはそれを受け取らず、ただ遠くを見つめていた。リクが持つミオのスマホにはこう記されていた。
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5月3日11時頃
ミオの飼い犬サロン
風見川沿いの河川敷
ボールを加えて走っている
=====
「サロン......」
ミオは何となく理解してしまった。
もう二度とサロンには会えないことを。
その眼から大粒の涙がとめどなく溢れ続けるが、それを拭おうともせず、ただ唇をかみしめながら泣き続けていた。