第壱話 天手力男神
1971年の日本じゃあ、日本異能人って職業が一番人気で、夢のある仕事じゃった。
日本異能人っていうんは大正からあって、たまに生まれるんじゃ。擬神人っていう、神様みてぇな力を持った人たちがなる仕事なんじゃ。で、その擬神人が、これまたたまに発生する妖怪様,居場所や力を失った神様が怪物に変化したもん,を退治する仕事なんじゃ。
で、俺「田島進清」22歳、岡山育ち岡山生まれの立派な男じゃ。
だけど、高度経済成長期で崩れた。
高度経済成長期で日本は大きく発展した。その分、沢山の土地が売られて、沢山の元々あった場所が破壊された。若者も、神様への感謝を忘れた。
1983年から妖怪様の大量発生が確認されて。ここから日本異能人は廃れていった。大量発生に対応しきれなくなって、守れなくて死ぬ市民もそこそこ......いや、結構で、批判の嵐。そこに拍車のかかるようにカラクリニンギョウって物が作られて、一体だけで中型妖怪様の討伐に成功。そのまま量産決定で、日本異能人は一気に、憧れの的からただの芸者に成り下がりじゃ。
俺は1971年の時、「俺はこれから日本異能人としてビッグスターになるんじゃ」って意気込んで夢を見てたが、高度経済成長期を迎えて、夢は断念。
高度経済成長期前は、俺の擬神人「天手力男神」も、最初は車を持ち上げられます、鉄の壁を殴りで凹ませられます、ってなもんで、ずいぶん持ち上げられてた。......カラクリニンギョウが出るまでは。
田島進清、現在36歳。天手力男神は健在じゃ。だが、妖怪様を退治しようとしても、周りからは「カラクリニンギョウの邪魔すんな!」って批判されている。
その夜も俺は、居酒屋で酒を飲んでいた。揚げ物の湯気と酒の匂いが灯りの周りに溜まって、客の話し声がボウッと炱のように立ちのぼる。店の隅のテレビが、その喧騒の向こうで光っていた。
ニュースを、ふと見る。
『カラクリニンギョウ狩りにより、今月で19体が行方不明』
「カラクリニンギョウ狩り?」
ため息をつき、酒を飲み直す。
すると、隣の客二人が笑いながら言う。
「カラクリニンギョウ狩りだぁ~。妬んだ日本異能人の仕業だろ、どうせ」
「もうあの時代じゃないっつうのに、しがみついて逆に恥ずかしくないんかな」
一人が、こちらに向き直る。
「なぁ、そこの兄ちゃんもそう思うやろ? て、言うか随分デカいな~。なんや、外人さんかいな?」
「本当に恥ずかしくないんかな~。あんなしがみつくみたいに、社会に恥ずかしい事して」
「みっともない」
笑い声が、酒場のざわめきに混じる。
気づけば、俺の膝が貧乏ゆすりをしていて。机が揺れ始める。グラスにも、ヒビが入り始める。
俺は一人の肩を掴み。
「黙れ!!」
「お前になにが分かるんだ!」
掴まれた客が、唾を飛ばしながら言う。
「お前、その体格に、よく見たらその顔。天手力男神じゃねぇか!」
俺は客を机に叩きつけた。机が鈍い音を立て、客は失禁した。周りからは悲鳴や批判の声。
「おやじ、お勘定。」
「へ、へい」
俺は店から出て行く。それを追うように、バーの奥で酒を飲んでいた女が立ち上がり。
「おじさん、アタシもお金だすは。」
女も店から出る。俺の背中を叩く。
「そこの大柄なおにい、アタシとちょいとだけお話しまへんか?」