ファーストコンタクト
しばらくして店から出る二人の表情は対照的だった。言うまでもなくライトは上機嫌で、クライスは落ち込んだ様子である。
「はっは、そんなにしょげるなよ。誰だって慣れない店じゃ上手く立ち回れないもんさ」
ライトから励ましの言葉をかけられるのもクライスには屈辱である。特別な失態を演じたわけではない。隣に女性が座った状態で酒を飲むシチュエーションが初めてだったクライスは緊張してしまい、女性からの質問にほとんど答えられなかっただけだ。
そんな彼のことを可愛いと思った女性が面白がってどんどん距離を詰めていき、動揺したクライスがグラスを倒してしまった。大笑いしながらテーブルを掃除する男性スタッフに少し多めのチップを渡し、ライトは恥ずかしさで動けなくなっているクライスの腕を引っ張って店を出てきたというわけだ。
「今度からはライトさん一人で行ってください」
俯き、蚊の鳴くような声で言うクライスの肩を軽く叩いて、ライトは言葉を続ける。
「気にするなって、旅の恥はかき捨てだ。慣れればどうってことないさ」
そうやって話しながら歩く二人に、近づいてくる人物がいた。
「あの、お二人はSTSMAの掃除人の方ですよね?」
若い女性だ。黒い髪を肩で揃え、ボディラインがはっきりとわかるスーツを着ている。困った様子で眉間にしわを寄せているが整った顔立ちが先ほどの店の女性を思い出させて、クライスは思わず目をそらした。
「ああ、そうだよ。掃除の依頼かい?」
ライトは何事もなかったかのように背筋を伸ばして応える。美女が相手だからって格好つけて、と心のなかで悪態をつきつつ、クライスも同じように背筋を伸ばした。一般市民からの依頼には丁寧に応えなくては、掃除人になった意味がないのだから。
「よかった、こんなこと相談できる人がいなくて」
二人の態度に女性は安堵した様子で顔をほころばせた。だがすぐにまた表情を硬くして自己紹介をする。
「私はこのイメバで管制オペレーターをしております、ミュールといいます。実は昨日私の姉が乗った航宙船が、この星の目前で宇宙海賊に捕獲されてしまったのです」
これは大事件だ。だがこのような事件は多くの宙域で頻繁に発生しており、惑星内ならともかく宇宙空間で発生した事件の解決に乗り出す政府機関等は基本的に存在しない。手が回らないのだ。まさにこういう問題に対処するためにSTSMAは掃除人を各地に送り込んでいる。
話を聞いたライトが口角を上げるのが、クライスの目に映った。