マッドウルフ
ベイリーフ宙域、とある小惑星にて。この辺りを根城にする宇宙海賊『マッドウルフ』の構成員が噂話をしている。
「ミフネが子守りをしているらしいぞ」
「子守り?」
乱れた赤髪と左目を覆う黒い眼帯が印象的な男が手にしたグラスを口に近づけながら、話を始めたスキンヘッドの男に軽く視線を向けて返事をした。
「STSMAの新人研修さ。あいつが教官をやっているそうだ」
スキンヘッドの男は自分の右頬に刻まれた傷を指先で掻きながら、厭味ったらしい笑みを浮かべた。
「へえ、あの男がねえ......」
眼帯の男はグラスに入った赤い液体を口に流し込むと、軽く息をつく。
「さすがにSTSMAのお偉いさんも奴の首に鈴をつけざるを得なくなったか」
「チャンスが回ってきたんじゃねえか?」
「どうかね、守るものがある人間は弱くもなれば強くもなる。無駄に虎の尾を踏む必要はないが......監視は必要かもね」
スキンヘッドがテーブルに置かれた瓶を手に取り、眼帯のグラスに酒を注ぐ。
「......ククク、様子見には丁度いいか」
二人の間でしか伝わらないサイン。スキンヘッドの提案に、眼帯は喉を鳴らして楽しげに笑うのだった。
◇◆◇
ベイリーフ第三惑星は「イメバ」という名称で知られる炭素系生命体の居住惑星だ。簡単に言えば天の川銀河の太陽系第三惑星「地球」とよく似た惑星である。
なお現代でも「太陽系」や「地球」が公式な名称として使われている。多くの銀河系人類がそれぞれの出身地における呼び名をそのまま使用する態度を示しているためだ。
多くの場合それで問題がないのは、どこの星でも他星系の人類居住惑星に名前をつけていた例がほぼ見られなかったためだ。恒星の名称はたびたび議論の対象になるが、基本的に地球人類が生み出した組織であるSTSMAの使っている名称に準じている。
STSMAの公的な態度としては名称を強制するつもりはないとしているのだが。
「イメバに来たらまずはここだ!」
STSMA提携の宿泊施設に手荷物を置くと、すぐにライトがクライスを食事に誘った。若い女性が各席に一人つく接待店である。女性の人種はとても多く取り揃えられている。
「そういうのはあまり好きではないのですが」
真面目なクライスはその手の店を利用したことがないので難色を示したが、ライトは強引に連れていく。
「なんでも経験だよ。ここは健全な店だから真面目クンでも心配はいらないさ。お触り禁止な」
うんざりしながらも、あまりゴネても仕方ないので渋々ライトに従うクライスだった。
そんな二人を少し離れた建物の陰から見つめる一人の女性がいた。
「あれがSTSMAの掃除人......」