ワームホールジャンプ航法
「この辺の掃除は終わりみたいだな」
レーダーに表示される、宇宙ゴミを示すゴミ箱マークが全て無くなり船が停止すると、ライトはクライスにワープ移動の操作を指示した。
「ベイリーフ第三惑星に跳んで、一泊したら周辺のゴミ掃除だ」
ベイリーフは地球から何万光年も離れた場所にある恒星だ。地球発の一般的な航宙ルートではまずここに跳んだあと幾つかの航路へと分かれていく。その先にはベイリーフよりもずっと地球に近い場所にある星々も含まれている。
なぜ一度遥か遠くの星にワープするのかというと、現在採用されているワープ航法の仕組みによるものだ。どこの航宙船も『ワームホールジャンプ航法』というワープ方式を使う。これが最も安定している方式で、簡単に言えば宇宙の決まった二つのポイント間を跳ぶ方式だ。
宇宙の各地にこうした入口と出口の決まったジャンプポイントがあって、そこを利用することでワープに使うエネルギーを極めて少なく抑えられるのだ。
このワームホールは遥か昔にアインシュタインの一般相対性理論から存在を予想されていたが、実物が観測されたのはそれよりずっと後のことだった。
ワームホールは当時ブラックホールとホワイトホールという二つの天体を繋ぐものと考えられていたが、それは実際のワームホールの発見と共に否定された。実際には単純な時空座標の変移点であり、双方向移動が可能な時空のトンネルでもある。
発見時は安定性が疑問視されたが、STSMAの開発した安定化装置によってこれらのジャンプポイントは常に安定した状態で宇宙空間に存在し続けることができるようになった。
「ルートの入力が終わりました。移動開始しますよ」
「おう、ベイリーフについたら一杯やろうか。いい店を知ってるんだ」
「そこってライトさんが暴れた店じゃないですか?」
「はっは、あの星は旅の玄関口なだけあってサービス抜群だ。俺を暴れさせるようなつまらん店はどこにもないぜ」
どこかで暴れたことがあるのは否定しないライトに、やはり噂は本当だったのかと内心ため息をつきながらモニターに映る宇宙の景色を眺めるクライスだった。
しばらくすると彼等の前方に惑星が丸ごと一つ入るほどに大きな円形の構造物が現れた。STSMAの設置したジャンプポイントの安定化装置だ。これの中をくぐるともう何万光年も先にあるベイリーフの宙域に入っているという寸法である。輪の中に見えるのは跳んだ先の景色のはずだが、宇宙空間同士なので変わり映えのしない、というより違いが分からない景色が見えている。
なるほど発見に何世紀もかかったわけだ、と宇宙開拓の歴史を振り返りながら、ワームホールへと入っていく船の操縦席で感慨にふけるクライスだった。