ホーム›ティーガー最後の戦い›第1話 包囲網に置かれても
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第1話 包囲網に置かれても

ドイツの敗色濃厚は最前線の兵士たちもわかっていた。



「ワーゲンじゃないからな敵に見られてもすぐには撃たれない。アメリカ製は伊達じゃない」



「まるでうちのワーゲンが粗悪品みたいに言いますね。否定しませんが」



「昔はよかったが今はダメだ。いや、言わなくていい」



「はい。何も言いません」



 たった2両の戦車である。かつては10両も率いたが今や戦友の1両が隣にいるだけだ。重戦車大隊に身を置いてソ連軍の戦車を蹴散らす。新型が登場しても常に有利な地形を得て互角以上にわたり合った。俺たちのティーガーは戦える。そう思っていたが戦局は悪化するばかりだ。ついには本土侵攻を許している。名誉の負傷から回復するに伴う配置換えからルール地方に向かった。ルールの民を守るために粉骨砕身である。



 しかし、連合軍はソ連軍以上に厄介だった。圧倒的な物量を以てすり潰してくる。ルフトヴァッフェはどこへ行った。戦闘機が我が物顔で飛びかう。爆撃機や攻撃機も飛び交った。日中の移動は危険なため夜間に細々と移動する。ドイツ機甲部隊の栄光は何処なんだ。悲しむだけでは戦えない。現実を受け入れながらも彼らの戦争は終わらなかった。たった2両でも伝説を築いたティーガーⅠである。ティーガーⅡやパンターが登場した。さらに、対戦車に特化したヤークトパンターにヤークトティーガーまで出現する。彼らのティーガーⅠは廃れなかった。



「オットー・カリウスの戦いは終わっていません」



「あぁ、そうみたいだな」



「報告します! 村の東側から敵戦車多数が接近中です! 連合軍の中戦車ばかり」



「よし...いくか」



「はい。地獄までお供します」



 負傷から回復して直ぐに最前線へ送られる。当初は新編された重駆逐戦車大隊の中隊長を務めるところ、鉄道輸送を完膚なきまで破壊されたことが不幸中の幸いと働き、とても扱いづらい重駆逐戦車の勤務は取りやめとなった。奇跡的に残っていた愛車のティーガーⅠを受領する。相棒も帰ってきて2両でルール地方を守れと命ぜられた。ルール地方の防戦に投入されると獅子奮迅の活躍を見せつける。連合軍の戦車はソ連軍の戦車よりも柔らかいとアハトアハトが唸った。



 しかし、多勢に無勢は否めない。彼らが踏ん張っても他がどうにもならかった。深刻な物資不足から兵器の質は低下するばかり。兵士も未熟な若者が増えて士気は旺盛と見えなかった。開戦初期の質実剛健な軍隊は風前の灯火である。カリウス自身が最も正しく理解していた。もうドイツ敗北は避けられない。東からソ連が迫り、西から連合国が迫り、ベルリンの陥落は時間の問題だ。なんなら、ルール地方も包囲下に置かれて脱出は不可能ときている。



「たとえ履帯が切れても戦い続ける。この村に生きる民を守り抜く。病院もあるんだ。連合軍と雖も下手に手を出せない。戦車を押し立てて脅すことで降伏を強いる。奴らの失敗は入念に調べなかったことだ」



「ジープはどうします?」



「お前が運転してこい。偵察兵だろ」



「ヤー!」



 若いが責任感だけは立派な偵察兵が敵襲を知らせてくれた。戦車は強力な主砲と頑強な装甲を有する代償に索敵は意外と苦手である。ソ連軍も連合軍も車長はキューポラに隠れる傾向を認めた。カリウスは痛烈に批判する。それで周囲の状況を把握できるはずもなかった。まともに偵察もしないで戦車の性能を信じて突き進むだけ。よもやティーガーⅠの2両が待ち伏せているも知らずに悠々とだった。



 相棒のケルシャーと仲良く行動する。東部戦線では重戦車と中戦車を最低でも50両を撃破してきた。ドイツ機甲師団の快進撃を支えた無線機は要らない。お互いに考えることは一致し、かつ即座にやるべきことを理解して行動に移すため、もう言葉すら必要ないところまで達した。敵戦車はご丁寧に農道を通行している。一本の道を真っ直ぐに走ることがいかに危険なのか知らないようだ。これは教育しなければならない。



「戦車前へ!」



「カリウスさんに続け!」



 彼らが守る村は規模としてはちっぽけだ。特にこれといった物もない。しかし、村に三本の道が集約した。古来から道の集約するところは戦略的に重要と見積もられる。ルール地方の包囲網は確実に狭まった。その進軍に際して道から外れることは避けたい。したがって、この村は早めに掌握して部隊を効率的に振り分ける拠点に使おうとした。まさかティーガーⅠが守っているとは思わない。



 M4戦車の一群が真っ直ぐに進んできた。ドイツ軍は雑兵とでも思っているのかゆっくりとした足取り。それは警戒しているのではなくピクニック気分を帯びた。随伴歩兵すら連れていない。ドイツ軍に碌な対戦車火器が無いと思うとは何事だ。国民突撃兵はパンツァーファウストを装備する。ゲリラ的な歩兵の対戦車戦による被害は無視できなかった。たかだか農村に民兵もいるはずもなし。いてもブローニングが蜂の巣にかえた。



「徹甲弾だ。ケルシャーは先頭を仕留めろ」



「了解しました」



「敵戦車の車列が崩れたら一気に突っ込む。止まっている方が危険だ。最近はアメリカの中戦車も長砲身に変えている。それに妙に太っているぞ。あれは突撃型だな」



「狙いどころは...」



「砲塔と車体の隙間と言いたいが、どうやら車体に機銃口がある。あの方がいいだろう」



「任せてください。俺は徹甲弾で襲撃機を落としたことがあります」



「あぁ、全幅の信頼を置いている」



 カリウスをティーガー伝説たらしめる所以は分析力の高さにある。ソ連軍の新型戦車と交戦した際も即座に弱点を見抜く眼力を誇った。敵戦車は見慣れたM4中戦車ことシャーマンである。今まで何両も仕留めてきたお得意様と見えたが主砲は長砲身で車体も太っていた。素人目には差異に気づかない。オットー・カリウスの慧眼は全てを見透かした。



 まさにご名答である。その正体はM4突撃型というM4A3E2だ。ドイツ軍の対戦車砲を悉く弾き返しながら突き進むために防御力を最大にまで引き上げる。最大装甲厚はティーガーⅠに匹敵した。主砲は75mm砲ではなく76.2mm砲に現地で換装する。従来の75mm戦車砲は威力こそ立派だが貫徹力に劣った。76.2mm砲への換装作業は容易なため現地改造はスムーズに進む。重厚な肉体に磨かれた牙が揃った。これで撃破されることがあろうか。



「今だ!」



 アハトアハトが火を噴いた。熟練の砲手は弾道特性を感覚に染み込ませる。弱点を正確に撃ち抜くどころか徹甲弾でソ連空軍のIL-2を撃墜する技量を誇った。最初は砲塔と車体の隙間という普遍的な弱点を狙う。アメリカ製もソ連製もイギリス製も共通した。しかし、カリウスはすぐに車体正面に機銃口があることに気づくと狙いを変えさせる。車体と砲塔の隙間はシビアだが機銃口は狙いやすかった。そして、機銃口はどうしても装甲を張りづらい。所詮は中戦車の装甲強化型なのだ。アハトアハトの前に紙切れとなろう。88mm徹甲弾は真っ直ぐな弾道を描いて突き刺さった。内部に炸薬を潜ませる故に貫徹後に致命的な破壊活動を実施する。



「良い狙いだ。一撃で仕留めている」



「最後尾もやりました」



「エンジンを回せ! このまま突っ込む!」



「いけぇ!」



 ティーガーⅠの威力を最大に発揮する戦い方が突撃なのだ。高火力と重装甲を信じてアウトレンジから仕留めようとする戦車兵は新人と笑う。ソ連軍から連合軍まで恐怖に陥れた。ティーガーⅠの重装甲というが旧態依然とした垂直は76.2mm砲にも貫かれる。88mm砲も当たらなければ意味をなさず距離が縮まれば直撃は必至だった。さらに、敵兵に極限の緊張を押し付けることで判断ミスや操作ミスに期待できる。ただいたずらに戦っているのではなく計算された戦法と強調した。



「ソ連戦車よりも弱い」



 一方的な蹂躙が繰り広げられる。



続く
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ティーガー最後の戦い作者:竹本田重郎
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第1話 包囲網に置かれても

ドイツの敗色濃厚は最前線の兵士たちもわかっていた。



「ワーゲンじゃないからな敵に見られてもすぐには撃たれない。アメリカ製は伊達じゃない」



「まるでうちのワーゲンが粗悪品みたいに言いますね。否定しませんが」



「昔はよかったが今はダメだ。いや、言わなくていい」



「はい。何も言いません」



 たった2両の戦車である。かつては10両も率いたが今や戦友の1両が隣にいるだけだ。重戦車大隊に身を置いてソ連軍の戦車を蹴散らす。新型が登場しても常に有利な地形を得て互角以上にわたり合った。俺たちのティーガーは戦える。そう思っていたが戦局は悪化するばかりだ。ついには本土侵攻を許している。名誉の負傷から回復するに伴う配置換えからルール地方に向かった。ルールの民を守るために粉骨砕身である。



 しかし、連合軍はソ連軍以上に厄介だった。圧倒的な物量を以てすり潰してくる。ルフトヴァッフェはどこへ行った。戦闘機が我が物顔で飛びかう。爆撃機や攻撃機も飛び交った。日中の移動は危険なため夜間に細々と移動する。ドイツ機甲部隊の栄光は何処なんだ。悲しむだけでは戦えない。現実を受け入れながらも彼らの戦争は終わらなかった。たった2両でも伝説を築いたティーガーⅠである。ティーガーⅡやパンターが登場した。さらに、対戦車に特化したヤークトパンターにヤークトティーガーまで出現する。彼らのティーガーⅠは廃れなかった。



「オットー・カリウスの戦いは終わっていません」



「あぁ、そうみたいだな」



「報告します! 村の東側から敵戦車多数が接近中です! 連合軍の中戦車ばかり」



「よし...いくか」



「はい。地獄までお供します」



 負傷から回復して直ぐに最前線へ送られる。当初は新編された重駆逐戦車大隊の中隊長を務めるところ、鉄道輸送を完膚なきまで破壊されたことが不幸中の幸いと働き、とても扱いづらい重駆逐戦車の勤務は取りやめとなった。奇跡的に残っていた愛車のティーガーⅠを受領する。相棒も帰ってきて2両でルール地方を守れと命ぜられた。ルール地方の防戦に投入されると獅子奮迅の活躍を見せつける。連合軍の戦車はソ連軍の戦車よりも柔らかいとアハトアハトが唸った。



 しかし、多勢に無勢は否めない。彼らが踏ん張っても他がどうにもならかった。深刻な物資不足から兵器の質は低下するばかり。兵士も未熟な若者が増えて士気は旺盛と見えなかった。開戦初期の質実剛健な軍隊は風前の灯火である。カリウス自身が最も正しく理解していた。もうドイツ敗北は避けられない。東からソ連が迫り、西から連合国が迫り、ベルリンの陥落は時間の問題だ。なんなら、ルール地方も包囲下に置かれて脱出は不可能ときている。



「たとえ履帯が切れても戦い続ける。この村に生きる民を守り抜く。病院もあるんだ。連合軍と雖も下手に手を出せない。戦車を押し立てて脅すことで降伏を強いる。奴らの失敗は入念に調べなかったことだ」



「ジープはどうします?」



「お前が運転してこい。偵察兵だろ」



「ヤー!」



 若いが責任感だけは立派な偵察兵が敵襲を知らせてくれた。戦車は強力な主砲と頑強な装甲を有する代償に索敵は意外と苦手である。ソ連軍も連合軍も車長はキューポラに隠れる傾向を認めた。カリウスは痛烈に批判する。それで周囲の状況を把握できるはずもなかった。まともに偵察もしないで戦車の性能を信じて突き進むだけ。よもやティーガーⅠの2両が待ち伏せているも知らずに悠々とだった。



 相棒のケルシャーと仲良く行動する。東部戦線では重戦車と中戦車を最低でも50両を撃破してきた。ドイツ機甲師団の快進撃を支えた無線機は要らない。お互いに考えることは一致し、かつ即座にやるべきことを理解して行動に移すため、もう言葉すら必要ないところまで達した。敵戦車はご丁寧に農道を通行している。一本の道を真っ直ぐに走ることがいかに危険なのか知らないようだ。これは教育しなければならない。



「戦車前へ!」



「カリウスさんに続け!」



 彼らが守る村は規模としてはちっぽけだ。特にこれといった物もない。しかし、村に三本の道が集約した。古来から道の集約するところは戦略的に重要と見積もられる。ルール地方の包囲網は確実に狭まった。その進軍に際して道から外れることは避けたい。したがって、この村は早めに掌握して部隊を効率的に振り分ける拠点に使おうとした。まさかティーガーⅠが守っているとは思わない。



 M4戦車の一群が真っ直ぐに進んできた。ドイツ軍は雑兵とでも思っているのかゆっくりとした足取り。それは警戒しているのではなくピクニック気分を帯びた。随伴歩兵すら連れていない。ドイツ軍に碌な対戦車火器が無いと思うとは何事だ。国民突撃兵はパンツァーファウストを装備する。ゲリラ的な歩兵の対戦車戦による被害は無視できなかった。たかだか農村に民兵もいるはずもなし。いてもブローニングが蜂の巣にかえた。



「徹甲弾だ。ケルシャーは先頭を仕留めろ」



「了解しました」



「敵戦車の車列が崩れたら一気に突っ込む。止まっている方が危険だ。最近はアメリカの中戦車も長砲身に変えている。それに妙に太っているぞ。あれは突撃型だな」



「狙いどころは...」



「砲塔と車体の隙間と言いたいが、どうやら車体に機銃口がある。あの方がいいだろう」



「任せてください。俺は徹甲弾で襲撃機を落としたことがあります」



「あぁ、全幅の信頼を置いている」



 カリウスをティーガー伝説たらしめる所以は分析力の高さにある。ソ連軍の新型戦車と交戦した際も即座に弱点を見抜く眼力を誇った。敵戦車は見慣れたM4中戦車ことシャーマンである。今まで何両も仕留めてきたお得意様と見えたが主砲は長砲身で車体も太っていた。素人目には差異に気づかない。オットー・カリウスの慧眼は全てを見透かした。



 まさにご名答である。その正体はM4突撃型というM4A3E2だ。ドイツ軍の対戦車砲を悉く弾き返しながら突き進むために防御力を最大にまで引き上げる。最大装甲厚はティーガーⅠに匹敵した。主砲は75mm砲ではなく76.2mm砲に現地で換装する。従来の75mm戦車砲は威力こそ立派だが貫徹力に劣った。76.2mm砲への換装作業は容易なため現地改造はスムーズに進む。重厚な肉体に磨かれた牙が揃った。これで撃破されることがあろうか。



「今だ!」



 アハトアハトが火を噴いた。熟練の砲手は弾道特性を感覚に染み込ませる。弱点を正確に撃ち抜くどころか徹甲弾でソ連空軍のIL-2を撃墜する技量を誇った。最初は砲塔と車体の隙間という普遍的な弱点を狙う。アメリカ製もソ連製もイギリス製も共通した。しかし、カリウスはすぐに車体正面に機銃口があることに気づくと狙いを変えさせる。車体と砲塔の隙間はシビアだが機銃口は狙いやすかった。そして、機銃口はどうしても装甲を張りづらい。所詮は中戦車の装甲強化型なのだ。アハトアハトの前に紙切れとなろう。88mm徹甲弾は真っ直ぐな弾道を描いて突き刺さった。内部に炸薬を潜ませる故に貫徹後に致命的な破壊活動を実施する。



「良い狙いだ。一撃で仕留めている」



「最後尾もやりました」



「エンジンを回せ! このまま突っ込む!」



「いけぇ!」



 ティーガーⅠの威力を最大に発揮する戦い方が突撃なのだ。高火力と重装甲を信じてアウトレンジから仕留めようとする戦車兵は新人と笑う。ソ連軍から連合軍まで恐怖に陥れた。ティーガーⅠの重装甲というが旧態依然とした垂直は76.2mm砲にも貫かれる。88mm砲も当たらなければ意味をなさず距離が縮まれば直撃は必至だった。さらに、敵兵に極限の緊張を押し付けることで判断ミスや操作ミスに期待できる。ただいたずらに戦っているのではなく計算された戦法と強調した。



「ソ連戦車よりも弱い」



 一方的な蹂躙が繰り広げられる。



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ティーガー最後の戦い作者:竹本田重郎
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