第四話 魔導剣士ロイ、パーティを結成する ―後編―
「さて、どんな徽章にするかだが」
仕立て屋で、徽章のデザイン発注のために、皆と相談する。ちなみに、先ほど改めて交わした自己紹介によると、フランは俺と同い年の十五、パティは一つ上の十六とのことだ。
「我が神、オルナウの聖印などいかがでしょう」
あかんだろ。俺は、その宗教に帰依した覚えはないぞ。
「ネコ......とか可愛いと思いません? にゃーって」
招き猫ポーズを取るパティ。猫は可愛いかも知らんが、そのごつい格好で真似されてもなあ。
ちなみに、パティがデザインを起こした猫の絵は、可愛すぎるということで、申し訳ないがボツにさせてもらった。
「やっぱ、オレら的には蜂じゃね?」
「俺も、それに賛成したい。構わないだろうか」
パティとフランは少し逡巡した末に、承諾してくれた。
一番絵が上手いパティが描くと、先ほどのように異様にファンシーになってしまうので、不肖俺がデザインを描き起こす。あまり上手ではないが、仕立て屋がブラッシュアップしてくれることだろう。
「次に、リーダーとパーティー名だが」
「オレは、兄貴を推すぜ!」
おおう、実に義兄想いの義妹よ。
「いいんじゃないでしょうか。ボク、あまり人を引っ張るタイプじゃないですし......」
ごついアーマー姿で、人差し指同士を突かせ合って、もじもじするパティ。すごい絵面だ。
「私も、特に異存はありませんわ。では、リーダーはロイさんということで」
「では、俺がリーダーを務めよう。パーティー名だが、『スティング・ホーネット』というのは、どうだろうか」
スズメバチの一刺しのイメージだ。ちょっと、かっこいい気がするだろう?
「可愛くていいと思います!」
いや、可愛くはないだろう。スズメバチだぞ。
「特に、反対する理由もないですわね」
「兄貴、センスかっくいー!」
おう、こちらもスパッと決まったな。どうでもいいが、全肯定マシーンと化してないか、義妹よ。あとは注文して、例の宿屋兼酒場で結成式と洒落込もう。
◆ ◆ ◆
翌日早くから仕事に取り掛かるので、どんちゃん騒ぎとは行かなかったが、美味い食事に美味い酒と、なかなかいい結成式となった。
特に、ティガロア......異界で言うマスのような魚 (以後、異界のものに例えられる存在は、異界の名で呼ぶことにする)のムニエルは、絶品だった。ほどよく乗った脂に、コクのあるバターが合わさり、最強に見えるという感じだ。
例えるなら、そう。淡白と見せかけて、秘めたる情熱! それをヴェールのように包み込む、優しさ!
それにしてもパティ、食事中も鎧兜を外さなかったな。器用な食べ方をするもんだと、変な感心をしてしまう。対するフランは、ザ・お上品。
部屋は、個室と相部屋が一つずつ空いていたので、俺が一人部屋を取り、サンとパティが相部屋という塩梅。まあ、無難な部屋割りだろう。フランは、教会で寝泊まりするとのことだ。
そういえばさっき割り勘にした時、うっかりパティに、一枚余分に銅貨を支払わせてしまったんだった、返さんとな。
「サン、パティ、入るぞ」
二人の部屋を開けると、白いボディスーツを着た、青髪ショートカットのスレンダーな美少女が一人。
誰!?
「キャアアアアアアッ!」
ものすごい悲鳴を上げる彼女。
「すいません、部屋間違えましたァ!」
慌てて外に出るが、何度表札を見ても三号室。二人がいるはずの部屋だ。もしや盗人!?
「貴様、何者だァ!」
改めて、勢いよく扉を開け放つ。
「見ないでくださああああい!」
先程の女が、うずくまり縮こまっている。
いやまて、この声聞き覚えがある......。
「......ひょっとして、パティか?」
「そうですよ! 恥ずかしいので、見ないでくださああい」
泣き出しそうな声で懇願されてしまったので、後ろを向く。あれが、パティの素顔だったのか。
「恥ずかしいって......それ下着じゃないだろう?」
「ボク、男の人に顔とか体見られるの、恥ずかしくて全然ダメなんです......。だから、いつもあんな鎧着てるんですよう」
なんとまあ、そんなシャイな理由で、あんなごつい鎧着てたのか。
「事情はわかった。さっきパティに、一枚余分に銅貨を払わせていたことに気づいてな。返しに来た」
「ありがとうございます」
後ろ手に銅貨を差し出すと、彼女は受け取ったようだ。
「そういえば、サンの姿が見えないようだが?」
「サンちゃんなら、お腹が空いて寝付けないからと、下の方に行ったみたいですよ」
あいつ、あれだけ食って、まだ小腹が空いているのか。
「まあ、それだけだ。明日に備えて、休んでおいてくれ」
手を振りながら、退出する。やれやれ。このパーティーでまともなのは、俺とフランだけか。
......そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。