第四十三話 魔導剣士ロイ、作戦を立案する ―後編―
獣人形態になって、はしごを昇っていく。人形態じゃないから、恥ずかしくないもん! ちなみに、変身するときの咆哮は、かっこいいからやってるだけで、不要だったりする。
昇りきると、頭上がふさがっている。でも、ちょっと押してみると、光がうっすら差し込んでくるので、蓋のようなものなのかもしれない。蓋を開けた瞬間、人の匂いと詠唱が流れ込んでくる。これは、ひょっとするとひょっとして!
隙間から視線が通る程度に蓋を持ち上げて様子を見てみると、木造の部屋の中みたい。明かり取りの窓から光が差し込んでいて、久しぶりの太陽の光がちょっと眩しい。
人の気配はないようなので、完全に昇りきって室内に入る。八個の大きめのかごが収められた棚と、扉があるだけの簡素な部屋。
そっとかごの中を見てみると、何やら黒い布が。取り出して広げてみると、それはあの、悪魔教徒が着ていたフード付きローブじゃあないですか! これ、すごく使えるんじゃない!?
とりあえず六着入手したものの、さらにこの先に進むべきか悩む。聞き耳を立ててみると、特に足音とかは聞こえないけど......。これで見つかったら元も子もないよね。
よし、変装用アイテムをゲットしたことで、よしとしよう! これがあれば事態が進展するはず。
見つからないように、来たとき以上に遠回りして帰らないと。
◆ ◆ ◆
視点は、ロイに戻る。
「遅いな、ナンシア......」
偵察に出てから、小一時間ほど経った気がする。しかし、焦って突入するなどという愚は犯せない。彼女を信じて待とう。
焦燥を抑えつつ、岩陰からロッジを注視していると、ぎゅっと雪を踏みしめる何かの音が、背後から聞こえた。
振り返ると、そこには黒い布を口に咥えている、一匹の狼。ナンシア、無事だったか!
「ありましたよ、黒いローブが!」
「でかした!」
口から離された黒い布を広げてみると、確かに連中の着ているアレだ。
「で、あのロイさん。後ろを向いてもらえると......」
「ああ、着替えるんだな。終わったら声をかけてくれ」
彼女は着替え終わると、ロッジに通じる隠し通路の情報を我々に告げる。
「ふむ、値千金とはこのことだな。素晴らしいよ、ナンシア!」
ローブと隠し通路、この追加要素で、新たな策が立ち上がってくるじゃないか。
「みんな、こういう作戦はどうだろうか」
皆と顔を寄せ合う。内容はこうだ。
まず隠し通路から潜入し、ローブを着用。人の気配を感じなければそのまま屋内に上がって聞き耳を立てながら奥に進む。幻覚魔法の類は可能な限り使用せず、戦闘に備えて体力を温存する。
「正面から変装で紛れ込むよりは、演技の難易度が低いと思うのだが、どうだろうか」
「その後は、どうするんです?」
「相手の人数と、誘拐された被害者次第だな。四パターンに分かれるが......」
クコの疑問に、パターン別の作戦を提示していく。
相手が少なく、被害者がいないパターン。これは、そのまま殲滅で問題ない。
相手が少なく、被害者がいるパターン。被害者の安全が確保できるようなら、殲滅。無理そうならば、救出を第一に考える。
相手が多く、被害者がいないパターン。これは外に一度出てから点け火をして、逃げようとする者を出口付近で各個撃破。この場合、当然裏口と、隠し通路は使えないようにしておく。
相手が多く、被害者がいるパターン。被害者の救出を優先しつつ、点け火。あとは同上。
「ずいぶん、ざっくりした作戦ですね」
肩をすくめるクコ。
「これでもかなりの収穫だが、さすがに情報が少なすぎてな。かといって、さすがにナンシアに、もう一度行って敵の陣容まで調べてきてくれというのは、要求し過ぎというものだろう」
「あの、横からひとつよろしくて? 拉致被害者がすでに亡くなっていた場合、どうするんですの?」
「その場合は、いないものとして考える。......嫌そうな顔をするなよ。俺だって気が進まないが、厳しい相手なんだ。仇討ちをすれば、浮かばれようってものと考えよう」
いないものとして考える。すなわち、遺体ごと焼き払うという提案である前半部を聞き、眉をひそめる一同に、覚悟を決めてもらう。ドライなようだが、なにしろエーデルガルド一の冒険者が返り討ちに会い、後続も手をこまねくような相手だ。こちらにも余裕がない。
「それ以外に、この作戦に異論は?」
一同を見回すが、反対意見はない模様。
「では、陽が沈む前に片をつけるぞ!」
意思伝達用のハンドサインも決めておき、悪魔教団アジト殲滅作戦開始だ!!