第十話 魔導剣士ロイ、愛を歌う ―後編―
「話を聞け、侵入者たちよ。お屋形様の命により、一つ提案がある。我らを笑わせてみせよ。さすれば、秘蔵の宝物を与えよう」
意気込む俺たちをアーが制し、提案を持ちかける。......って、ゴーレムを笑わすですと?
「笑わせればいいの? あんたたちを?」
鷹揚に頷くアーとウーン。どうやらマジのようだ。この二人の主は、何だってそんなトンチキな命令を与えたのか。古代人の考えることはよくわからん。ともかく、円陣を組んで相談タイム。
「どうします、ロイさん。ボクお笑いとか自信ないですよ?」
「いやー、でもやるだけやってみようの世界だろ、これ。だめならそのときゃ、覚悟決めて戦う感じで」
「吾輩に任せてくだされ。人を笑わせることにかけては、自信がありますぞ」
何だか知らないが、すごい自信だ。ベイシック卿、あなたに決めた!
「こほん。では、不肖ベイシック、行かせていきますぞ。スケルトンが透けとるん!」
広場を冷風が駆け抜けた気がした。......は? 卿、本気っすか? いやむしろ正気っすか!?
「むむむ。これならどうですかな? スライムが悪夢を見た、辛い夢!」
「えーと、あっはっはっ。うっふっふ! ベイシックさん、とても面白いですよ!」
パティが頑張って笑う。君は優しいなあ。でも声が本当に笑っていないし、兜で見えないが、表情もきっとこわばった笑顔だろう。
しかし、彼女の盛り上げも虚しく、アーさんとウーンさんブチ切れそうである。ベイシック卿の口を塞いで二度目の作戦会議!
「どうしましょう。何か怒気を感じませんか?」
「ひしひしと感じるな! ならば......」
耳を垂れて、ぐるぐる目になっているクコ。皆、大ピンチであることを自覚しているようだ。上手くいくかわからないが、フランとパティに急遽思いついたネタを授ける。
「二番、フランシスカとパトリシア、行きますわ! 隣の家に、囲いができたんですってね!」
「へえ~かっこいー!」
「君とはやっとれんですわ!」
鎚鉾でパティを、思いっきりストライクするフラン。小気味良い金属音が鳴り響く。異界名物どつき漫才。どうよ!
「............」
無言で腕組みして、二の腕を指で叩くゴーレム兄貴たち。あ、だめだこれ。キレる一秒前っすわ。すんません、あんまベイシック卿のこと、どうこう言えないです。だってさ、ネタの打ち合わせの時間もろくにないのに、お笑いとかできるわけないじゃん! こうなれば、これだけはやりたくなかったが、仕方ない!
「うおおおおおお! 三番、ロイ・ホーネット! 九歳のとき、お隣のスーちゃんに捧げた歌を歌いますッ!!」
眼前で、くっそ寒い演芸モドキをしている二人の声をかき消すように、エアギターをかき鳴らしながら、異界のロックンロールな脳内音程に乗せて、大声を張り上げる。
「イェイ! オー・ユー! ププププププ デーンデレー デデデ デンデデーン デーンデレー デデデ デデデデ!
おーれはー きーみのー瞳ーを見ーたとーきからー きーみに誘惑さーれたぜー! イェイ!
デーンデレー デデデ デンデデーン デーンデレー デデデ デデデデ! イェイ! オー・ユー! ププププププ!
おーれはー きーみのー たーめに生ーまーれてきたー あーいと言う名の 楽えーんへー!」
もう、自分でも何やってんのかわかんねえ。ポカーンとする一同。サンだけはきらきらとした瞳で見つめてくるが、その純真な視線がむしろ痛い。
ちなみに、プププだのデンデレだのは間奏だ。楽器なんか持ってないし弾けないから、全部へったくそなボイパだよ! ちなみにこの歌を捧げられたスーちゃんは、この後二度と目を合わせてくれませんでした! 今はどこで何してんだろうなとか、どうでもいい郷愁が去来します。あまりの力技に、ゴーレム兄貴たちも苦笑い。
「って今笑ったよな!? 確かに笑った! 勝った! 俺は勝ったんだーッ!!」
面食らって、頷く兄貴たち。何か、とても大切なものをかなぐり捨てたような気もするが、俺たちは成し遂げたんだ!!
「......まあ、思わず笑ってしまったのは確かだ。持っていくがいい」
ウーンが、台座の上の箱を俺たちに手渡す。開けてみると、中には十巻ほどの巻物が収められていた。
「侵入者たちよ、我らずいぶん永い時を過ごしてきたが、我らの作られた時代からどのぐらい経った?」
「この遺跡は記録によれば、五百年以上前のものですな」
「五百年......そんなに経ったのか」
卿の言葉を受け、感慨深げに目をつぶる兄貴たち。
「あんたらは、これからどうするんだ?」
「もはや守る宝も使命もないが、我らが人里に降りても混乱を起こすだけだろう。ここで再び、眠りにつこうと思う」
何だか可哀想ではあるが、確かに人里に来られたら大騒ぎになるよな。王都の衛兵など勧めてみたいが、権限もコネもないしなあ。
アーとウーンに別れを告げ、王都へと凱旋する。
◆ ◆ ◆
「兄貴ー、オレにもあの歌、歌ってくださいよー」
「アーアーキコエナーイ」
サンはあの歌がいたく気に入ったようで、帰路からずっと、自分に歌ってくれとせがんでくる。耳を塞いで、アンコールを聞こえないふり。ほんとに勘弁してください。
って、俺今回ろくに活躍してなくね? あの恥晒しな、黒歴史ソングを歌っただけで終わり!? そんなー、とほほ。
ちゃんちゃん。