第三十一話 魔導剣士ロイ、女将さんを助ける ①
いつものように依頼票を見に行ったが、今日は芳しいものがない。こんな日もあるものだな。
幸い蓄えはまだ十分なので、皆でタマゴときゅうりのサンドイッチと、牛乳をゆったり楽しんでいると、突如、店の入口が勢いよく開け放たれ、からんからんと呼び鈴が鳴る。
何ごとかと注視してみれば、歳のほど十五と伺える街娘姿の女の子が、すごい形相で入り口に立っている。髪型は、一本に伸ばした黒髪のおさげを、二重に結ぶという、変わったリボンの結び方で束ねていた。あどけなさが残る童顔と、鬼気迫る様子が実にミスマッチだ。
「たのもー!!」
声を張り上げる少女。おいおい、殴り込みかよ。朝っぱらから勘弁して欲しいなあ。まあ、何かあれば店の外につまみ出そう。
「いらっしゃいませ。お食事ですか? ご宿泊ですか?」
平常運転で接客する、女将さん。肝が座ってるな。
「で......」
「で?」
言い淀む少女、首を傾げる女将さん。
「弟子にしてください!!」
両手をびしっと伸ばし、九十度に折れた見事なお辞儀をしてくる。なんと、弟子入り志願だったのか。
◆ ◆ ◆
「私、バーシムレ・ストルバックといいます! 昔、ここで頂いた女将さんの料理に感動して、弟子入りをしたいと、ルンドンベアにやって来ました!」
少女はとりあえず手近なテーブルに通されたので、女将さんと一緒に事情を聞く。背筋をピンと伸ばしてハキハキと答える、少女改めバーシムレさん。耳が痛くなるぐらい、声がでかい。何で我々が同席しているかというと、まあ成り行きというやつだ。
「気持ちはありがたいのだけれど、弟子も従業員も採らないことにしているの。ごめんなさいね」
申し訳無さそうに、頭を下げる女将さん。
「横から口出しすいません。前々から思ってたんですけど、どうして従業員を雇わないんです? お一人で大変でしょう?」
せっかくの機会なので、ずっと抱いていた疑問をぶつけてみる。
「それは、常にすべて責任を持って、お客様にサービスを提供するためなんです。誰かが間に入ると、責任を負いきれませんから......」
うーむ、仕事ぶりから真面目な人だとは思っていたが、ここまで徹底していたとは。
「そこを何とか! お願いしますッ!」
それでも食い下がる、バーシムレさん。テーブルに、額を擦り付けんばかりだ。放っといたら、土下座までしかねない。
「ごめんなさい。これは、どうしても譲れないことなの」
女将さんも、頭を下げてお断りをする。言ったら何だけど、どっちも頭が固いなあ。
頭を下げ合うことしばし、両者動かないようなので、バーシムレさんに声をかける。
「バーシムレさん。女将さんの意志は固いようだ。諦めたほうがいい。ほら、仕事の邪魔になってしまうしさ」
「......わかりました。今日のところは失礼します。ですけど、女将さんの気が変わるまで、何度でも伺います」
仕事の邪魔というのが効いたようで、起立ののちに深々と一礼して、台風娘は去っていった。やれやれだな。
「お騒がせしました、皆さん。仕事に戻りますね」
女将さんも、俺らを含めた客に謝罪して、厨房へと戻っていく。彼女も彼女だよなあ。気持ちはわからないでもないけど、ちょっと頑固過ぎる。以前より、痩せて疲れているように見えるし、人手を増やして欲しいところだが。
まあ、俺らが度を過ぎて口出しをするのも良くないと思うので、そっと見守るほかないな。
◆ ◆ ◆
翌日。今日も依頼が空振りだったので、朝食をとろうと宿に帰ったが、女将さんの姿がない。いつもはドアの呼び鈴が鳴ると、すぐ応対に出てくれるのだが。
「ロイさん、何か焦げ臭くないですか?」
鼻をすんすん鳴らし、眉をひそめるナンシア。確かに、言われてみれば何か焦げ臭いぞ......? 火元候補といえば、厨房だ。行ってみよう!
厨房へ入ると、竈の前で倒れている女将さんと、その竈の上で白煙を立ち上げている、黒焦げの元料理が乗っているフライパンが目に映った。何ごとだ!?