第八話 魔導剣士ロイ、新たな仲間と出会う ―後編―
「うう......もう我慢できない! ロイさん!」
徽章の発注を済ませて宿に向かう帰路、いきなり後ろから襟首を引っ張られた。痛え! むち打ちになるかと思ったじゃないか。振り返れば、やたら興奮したクコの姿。
「猫ですよ猫!」
クコの指差す方を見れば、雑貨屋の横の路地の入り口で白と黒のにゃんこが二匹、愛の営みに励んでいた。ほほう、エルフにゃ猫は珍しいのかね? 猫の可愛さに興奮するとか、微笑ましいじゃないの。まあ、場面がアレだけど。
「知ってますか!? 猫はですね、交尾するときオスがメスの首を噛むんですよ!」
頬に両手を当て、大興奮の彼女。は? ごめん、何言いたいのかわかんない。
「あとですね、あとですね。あそこに花があるでしょう。花ってエッチだと思いませんか? だってですね、いわば性器を露出させてるんですよ! これはもうエロスです、エロス!」
あーはい、理解しました。こいつやべーやつだ。今まで猫かぶってたのね。こういう話がしたくて、ずっとうずうずしてたのね......。
サンはクコの博識 (?)に感心しているが、フランとパティは、この場からすげえ逃げたそうだ。特に後者。
「聞いてますか、ロイさん!?」
「アーアーキコエナーイ」
耳を塞ぎ、すっとぼけながらさくさく宿に向かう。俺って、人を見る目がないのかなあ......。
◆ ◆ ◆
なんだか、見なかったことにしたい光景があった気がするが、明日に備えていつもの店で歓迎会だ。クコもいい宿を探していたとのことで、丁度良かった。
「今日はよく育ったマスの白子が手に入ったので、ソテーにしてみました」
食前酒のエールを楽しんでいると、女将さんが料理の皿を運んできた。
「ロイさん! 白子って......」
「それ以上何か言ったら、口を縫い合わせるぞー、クコー」
めっちゃいい笑顔で下ネタを披露しようとする彼女を、負けじといい笑顔で牽制する。食えなくなるわ、アホの子め。
気を取り直して、まず一口。むう、これは......とろりととろけて、こってりとした味わい。やもするとくどい味わいになるが、柑橘類の酸味がそれを打ち消し絶妙なバランスで味がまとまっている。
香り付けにニンニクが使われており、食欲をそそる。いやはや、これは実に酒が進む。
白子を堪能し終わった頃合いに、二品目が運ばれてきた。おなじみのマスだが、シンプルに切り身の塩焼きという漢仕様だ。
これは、さっきの白子の持ち主だろうか。あれほど美味な白子の持ち主なら、本体の味も期待できようというもの。シンプル極まる調理法に、自信が伺える。
ぷりぷりの身を、ナイフとフォークでひと欠片口に入れる。これは! ほどよく乗った脂と身の旨味が口を満たす。
こってりしていて、それでいてしつこくない......という表現は、誰言いが始めたものだったか。まさにそれだ。
噛みしめる。広がる旨味。噛みしめる。広がる旨味! これはもう、咀嚼という行為自体が、楽しくなってくるじゃないか!
ああ、ついに最後の一切れを飲み込んでしまった。しかし、ここで満を持してメインディッシュの出番。艷やかなチキンの丸焼きが、テーブルに降臨だ!
さすがに切り分けはセルフサービスなので、リーダーであるところの俺がナイフを入れる。鶏の腹を割くと、複雑かつ爽やかな食欲を唆る香りが立ち上る。
「この香り、タイムとローリエとオレガノとクコを入れてますね。あ、最後のはわたしの名前じゃないですよ」
クコが、感心した顔で説明する。ハーブの名前だな。俺、ちょっとハーブには詳しいよ?
「ちなみにですね! クコは摂取すると、性よ」
「黙って食べなさい。はっはっはっ」
いい笑顔で威圧しつつ、ささっとクコの皿にチキンを置く。最後まで言わせるものか!
皆のぶんを取り分けたところで、早速自分も頂く。一口噛みしめると、肉汁がじゅわっと溢れる。美味! おお、美味! 思わず腕を振り回して、はしゃぎそうになるほどの美味!
良質な肉と脂の旨味が、これでもかと舌を飽和攻撃してくる。幸とはこういうことか、と感じさせる味だ。
クコの説明したハーブがまた、刺激的で爽やかな香りを振りまく。例えるなら、肉と脂という縦糸をしっかりと支える香りの横糸。
色糸の一本一本が複雑に組み合わさり織りなす、壮大な味のタペストリーだ! 肉、ワイン、肉、ワインと交互に楽しむのが、実に病みつきになる。
やがて皆も鶏を食べ終わり、宴もお開きとなった。流石にこれ以上は、何も飲み食いできないな。明日も一日頑張ろう。