第三十六話 魔導剣士ロイ、プロデュースする ―後編―
後日、モロオさんとバーシは正式に契約書を交わし、我々はバーブルから米を持って帰ってきた。前回の失敗を考慮してか消極的な量だが、それはまあ仕方ない。
バーシの注文で、醤油と海苔、大豆に米酢にみりんに干し昆布に鰹節、その他細々した物も、同時に輸入している。これらは、バーブル料理に欠かせないものらしい。
むろん、商取引はこれだけではなく、様々な交易品を、向こうとこちらで売買している。
「で、バーシ。どんな料理を作るんだい?」
青い三日月亭の厨房で、彼女の発案を皆と待つ。責任者であるモロオさんにも、ご足労願っている。
「バーブル料理でも特に人気がある、寿司というものにしようかと思っています」
寿司とな? そういや向こうに滞在しているとき、そんな名前を耳にした気もする。
「内陸ですから、川魚の寄生虫を避けるために、スケロクと呼ばれる、魚を使わない寿司にします」
「へえ、こっちでもスケロクっていうんだねえ。懐かしいな」
郷愁に、目を細めるモロオさん。早速、バーシの指導で試作品を作り上げる。スポンサーであるモロオさんは観戦。
「できました。実食してみましょう」
出来上がったのは、海苔を巻いた円形の寿司と、バーブルで見た米俵のような形をした、イナリと呼ばれる寿司の二種。早速頂いてみよう。
まずは円形の方から。バーシとモロオさんによると、手づかみで食べるのが粋らしい。
一口齧ってみる。パリッとした海苔の歯ごたえに続き、酢を和えた米がパラパラと解ける。この酸味と米の甘味に、具の卵焼きの甘味椎茸の滋味、きゅうりの爽やかな歯ごたえが合わさる。
あとは、干瓢といったか、これも歯ごたえがあって良い味わいだ。いやはや、これは面白いな。卵と野菜だけでこれだけ美味いんだから、現地の魚の寿司なんて食ったら、昇天してしまうぞきっと。
続いて、稲荷の方に手を付けようとすると、こちらは手づかみ非推奨だと止められる。
では、フォークで頂こう。そのうち箸の使い方も覚えないとなあ。
一口齧ると、甘辛いタレの味が、まず第一弾として舌に来る。これに、確か油揚げといったか、大豆と油の旨味が第二弾。そして、いい具合にタレの染みた酢飯の甘さが第三弾として口腔を満たす。
これを、バーブル名産・緑茶ですっきりさせる。素朴でほっとする味だなあ。イナリというのは、バーブルに伝わる民間伝承の狐神の好物らしいが、その神様がおやつとして頬張っているのを想像すると、ほっこりする。
皆も、美味しそうに食べているので、ひとまず上手く作れたようだ。
「いやあ、美味しいね。こっちでも、こんな美味しいお寿司が食べられるもんなんだね」
モロオさんも、感心することしきり。
「問題は、ルンドンベア人の舌に合うかどうかかなあ」
「俺らも美味しいと思うので、大丈夫じゃないかと思います。弁当として、青い三日月亭の店先で試験販売してみませんか?」
モロオさんに、プッシュする。
「それでいってみよう。稲荷は、木製の使い捨てフォークを付ければいいかな。あとで、弁当箱と一緒に買い付けてくるよ。女将さん、お願いできるかな?」
「わかりました。やってみましょう」
モロオさんの言葉を受け、女将さんも快諾してくれた。かくして、明日の昼に十食を試験販売することになった。バーシはあくまで監修という約束なので、実際握るのは俺たちだ。売上は青い三日月亭の収入となる。緊張するなあ。