第一話 魔導剣士ロイ、旅立つ
(どうして......)
お使いを頼まれただけなんだ。ほんの、数十分の間に、なんで......。
自宅に戻ったら、店の中が血まみれで、父さんも、母さんも、姉さんも動かない。
中の様子は、メチャクチャだ。
野次馬と、おまわりさんがなにか言ってるけど、なにもわからない。
「だめですね、こりゃ。まあ、無理もないが」
「この子は、孤児院行きかなあ」
わけがわからないよ。俺の家族がなにをした? 普通の雑貨屋で、いい商いをしていて、恨みを買うようなことなんてなかったのに!
「店の金が手つかずです。物取りの犯行じゃないようですね」
「すると、怨恨か......。おい、坊主。真っ青だぞ、大丈夫か?」
顎から、なにか垂れた。泣いていたらしい。
急に、これは現実なんだと理解できて、わあわあと泣いてしまう。
「ロイくん。つらいでしょうけど、しっかり」
近所のおばさん。他人事だ。しっかりなんかできるわけないだろう。
差し出された手を、払いのける。
どのぐらいそうしていただろう。泣き止む頃には、おまわりさんも、野次馬もいなくなっていた。
「坊、どうした」
声のした方を見ると、角縁メガネ......これは、かなり珍しい品だ。それと、黒の三角帽子に白いアラビアンパンツ――今よりも小さかった頃、頭を強打してからというもの、頭に異界の知識が流れてくる。それでわかる――の、いかにも魔女然としたお姉さんが、俺を見下ろしていた。
その目は、憐れむでもなく、蔑むでもなく......強いていえば、優しかった。
「久々に街にでてみたら、気分の悪いものを見てしまったね。被害者の生き残りか? よかったら、あたしんちに来るかい?」
そっと手を差し伸べてくる。......今度はその手を、払わなかった。
◆ ◆ ◆
昨今流行りの、ガラス製の鏡で身だしなみを整える。
青い瞳に、金の短髪の若い男が、そこには映っていた。
「では師匠。行ってまいります」
師匠に向かって、深々とお辞儀する。
今から五年前。家族を殺された俺を、救ってくれた人。今では、この世で最も尊敬する人に。
「冒険者か。懐かしいねえ。危険な仕事には、就かせたくなかったけど」
師匠の美しさは、あのときとまったく変わらない。
「俺ももう、十五です。いつまでも、ここで禄を食んでいるわけにもいきませんから。ないない尽くしが身を立てるには、冒険者しかありませんし」
「そうか」
師匠は、それ以上言うことはないようだ。
「では、行ってまいります!」
「行っといで!」
手を振る師匠をあとに、故郷、王都・ルンドンベアへと向かう。今度は小間使いではなく、冒険者として。
師匠からの贈り物、何でも入るベルトポーチと、バインダーに魔導書。それと幾ばくかの金子。それが、今の全財産だ。
冒険者か。どんなパーティーを組もうか。こう、漢らしい、ワイルドなのがいいな。マッチョハゲの武闘家。ヒゲの僧侶。いぶし銀のシーフ......ふふ、夢が膨らむな! 足取りが軽い!
待っていろ、世界! 股にかけて、冒険してやる!
突き上げた手の平で、中空をぐっと掴む。
剣と魔法の世界、このサーズベルラーで、俺は世界一の冒険者になる!
◆ ◆ ◆
門衛に、師匠からの証文を見せると、一発で通してもらえた。今までもこうやって、王都への買い出しに行っていたわけだが、今日は身が引き締まる思いだ。
師匠は、かなり高名な人物らしい。ただ彼女は、あまり過去のことを語りたがらないので、余計な詮索はしていない。
ここ、ルンドンベアは、平地が多く、四方に街道が伸び、大きな川も東を流れており、交通の要衝となっている。したがって、商業も盛んだ。
家族の墓参りを済ませると、市場の露店で、ブレストプレートと片手剣を買う。
どちらも、具合の良い品だ。
魔法を使うと、スタミナを消耗する。文武両道でいくなら、このぐらいの装備がせいぜいだな。世間では、俺のようなスタイルを、魔導剣士と呼ぶそうだ。
ふふ、なんだかかっこいいな。
すると、後方でなにか騒ぐ声が聞こえる。なんだ?